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それは恐ろしい傭兵ギルド

まだ日も落ちず。

人通りは変わらない。賑わいで溢れ、道の中央を何台も馬車が駆け抜けていく。

初めのうちは現実味のなさに騒然としていた風十も、今では多少慣れたのかおとなしい。

街中を歩く二人は、街のあちこちに目を向けながら会話をしていた。


「ごめんなさい。本当ならすぐにでも仕事くらい見つけてあげたいのだけれど・・・・・・生憎、私はこことはあまり縁が深いわけでもないから・・・・・とりあえず探すだけ探しましょ?」


今しているのは風十の仕事探し。

ワープがこの街でしか出来ない可能性があるので、此処から離れるのはまずい。でも日本人として野宿もしたくない。ということでも決断だった。

もっとも、風十ならその気になれば草でも、『これはご馳走』とか自分を騙せば生きていけそうな気もする。


「・・・・・・料理以外なら、多少家事も出来るんだけど・・・・・・」


物覚えの良くない風十は、レシピがないとまず料理は作れない。それに、ここで何分茹でます、とか言われたら途中で忘れてゲームにでも興じてしまう。

しかし、洗濯や掃除にはある程度の自信もあった。風十でもわかる単純作業。むしろ単純ゆえに、凡人の域も超えてしまうかも。

一時期はル〇バに負けないようにと這いつくばって舐めるように掃除をしていた記憶すらある。


「それならまあ・・・・・・宿屋、かしらね。あなた人当たりも・・・・・・・・・・・・悪くなくなくない、見たい?だし」


「もし悪くないって言いたかったとしても、否定したも同然だよね、それ」


小さい子供相手には仲良くなれそうではある。でも大人だとそうはいかないだろう。

それでも一応エル側として弁明させてもらうと、風十が無垢で優しい少年だというのはもう十分に理解している。しかし、無知過ぎて時折イラッとさせるのがたまにキズ。


「ま、まあとにかく!その辺は面接でもして判断してもらいましょう!もし受かったらそれは相手方の責任・・・・・・」


「最後!まるで普通は採用されないでしょうけど、みたいな言葉!おっと、血潮は鉄でも心は硝子だぞ!」


アニメや漫画の造詣は深い風十。勉強はしてこなかったが、その分余計なことに力を注ぎ込んできた。


「最悪、傭兵ギルドなんてものもあるし、あんなのでも仕事を選べばあなただって生きていけるわ」


不穏である。仕事を選ばなかったら死ぬのでしょうか?なんて質問はこの際スルーする。

世の中には知らないほうがいいことだってある。シュレなんとかの猫?みたいな?あれ、ちょっと違うかも、色々と。


「ぎるど?」


「・・・・・・同じ仕事をする人を集めて、その人たちに依頼を斡旋するの。仲介料で運営する代わりに、ギルドに名を刻んでおけば仕事に困らない。お互いに利のある関係ね。特に傭兵ギルドは近年人手不足だから、武器を持ったことの無い人でも登録出来るわ。ちなみにギルドって本来は組合みたいな意味合いなんだけど、ここだけその限りではないわね」


一瞬の間を置いて、風十の無知を弁えた上で教えてくれる。

だがまたしても不穏な言葉。現代日本を生きていた風十に『武器』なんて画面の向こうでしか知らない。


「でも、傭兵・・・・・・」


「そう。だから最悪の最悪。仕事は主に護衛とか、畑を荒らす害獣や、危険な猛獣の排除とか。あと戦争時には強制的な参加ね。つまり荒事。噂じゃ暗殺も請け負ってるとかなんとか。あくまで噂だけどね」


「・・・・・・・・・・・・」


エルはこの風十にそんなことが出来ると思ってるのだろうか。畑を荒らす害獣の討伐なんかは、その害獣と一緒になって畑を荒らす姿が目に浮かぶようだ。

そしてそれよりも聞き捨てならない言葉があった。


「せ、戦争・・・・・・」


「ああ、それは多分大丈夫だと思うわ?ここ数百年、ラングレストは戦争なんてしていないから。帝国と仲が良いせいだと思うけど、それ以前にラングレスト自体もかなり強力な兵隊や魔法使いを抱えてるし」


それはあくまで予想だろう。可能性としては明日にでも戦争が起こることもありえるのだ。風十としてもそんな危険に巻き込まれたくはない。平和に生きた風十は、死地に飛び込むなんて馬鹿な真似はしないのだ。


「ま、とにかく、何度も言うようだけどそれは最終雇用先!傭兵なんて、登録してから引退まで生き残れるのはほんの一握りとも言われてるくらい劣悪な職場だから」


あ、保険は下りるけどね?と可愛らしくウインクしてくるエルだったが、風十は横で震え上がっているだけだった。

魔法も覚えていないレベル一相当の村人ではハードルが高すぎる。せめてイ〇、いやメ〇でいいから覚えなくては!ちなみに接近しなければいけない剣を振るう予定はない。


「猛獣はたまにありえないくらい強い個体がいるし、整備されているとはいえ、ただ街道を歩くだけの護衛でも油断はできないわ。だから傭兵はまずチームで行動するのが基本だし、そのチームでも半分以上は魔法が使えないと命を落とす確率は格段に高くなるの」


やっぱり魔法のほうが偉大らしい。剣を振って一刀両断!なんてものも格好いいけど、風十としては、ガンガン行こうぜ!みたいなノリより命大事に、と震えているほうが似合うと確信している。


「さっき言った仕事を選べばというのも、最高品質の情報収集をして、依頼主、場所、天候、時期まで正確に把握しなきゃダメなのよ。猛獣が出てくる時の判断のためにね」


「・・・・・・やっぱり僕には向いてなさそうだね」


「その分報酬は多いのよ?(あなた馬鹿だから誰かに言われたら簡単に登録しそう)」


「ほ、本心が、僕に突き刺さる!」


 さっきからたまにエルの心が読める。でもただ単にエルからそんな雰囲気が嫌というほど滲み出ていたせい。

 風十に読心スキルは与えられていないのだ。


「・・・・・・?とにかく、オススメはしないわ?あなたがここから離れてもいいというなら、他にも考えはあるのだけど・・・・・・」


「それはダメ、なのかなあ?ごめんね。僕にもよくわからないや」


 別に誰かが教えてくれたわけでもないのだ。目に見えないだけで、さっきの路地に地球行の扉があるのか、それとも一方通行だったのか。それによっては風十も帰り方に支障が出る。


「・・・・・・前から思っていたけれど、あなた、おかしいわ?記憶に障害でもあるみたい。まるで突然ここに飛び出てきたようでもある。出会った時だって「僕を家に帰せ」とか何とか言っていたし」


「うん。確かに突然飛び出てきたよ。理由は僕にも全然わからないけど。あ、宇宙人って言ったら信じる?」


「―――は?・・・・・・って、そういえばギルドに用があるんだったわ」


 スルーされた。いや本当はただ純粋に思い出しただけなのかもしれないけれど、風十からしたら普通に話を変換されたようにしか聞こえなかっただろう。


「とにかく、見学もかねて傭兵ギルド、行ってくれないかしら?もしかしたらあなたも気に入るかもしれないし」


「・・・・・・行くのはいいけど」


「そう、じゃあ早く行きましょう。大したことでもないしすぐに終わるわ」


 言うや否やさっさと歩き出すエル。道はわかっているのだろうか?迷いなく街の中心部へと進んでいく。

 風十に否やはない。そもそもここまでついてきてくれたのだ。ここでエルとはぐれるのは男としてどうなのか。

それに風十としても、鋭い武器や奇妙な杖、立派な鎧で武装した傭兵たちを見てみたいとは思う。街中でも武装しているのかは知らないが。

ここでは傭兵という扱いのようだが、冒険者というのは、何時だって男子の憧憬の的だ。気にならない方がおかしい。

荒れ狂う山脈に潜むドラゴン!渦を巻き雷を降らす大海に君臨する魔物!

なんとまあ夢の溢れることだろう。ちなみに参加はしたくない。

とまあ期待を胸に抱きながら、風十はエルに遅れないように、必死にその後ろ姿を追いかけた。










「こんにちは。いらっしゃいませ」


と、業務的な挨拶で迎えられたのは、目的のギルドでのことだ。

あの後エルが進んで行った道は、確かに正解だったようで無事にここまでたどり着くことが出来た。

この街は高い建造物が特徴なだけあって、中心部へ近づけば近づくほど首が痛くなって行くのだが、それを差し引いてもこのファンタジー感は楽しくもある。

このギルドも中心よりで、かなりの高さを誇っている。上にはどうやら現代でいうデパートのようなものが詰まっているらしく、買い物目当ての一般客も多かった。

どちらかというとギルドが主体ではなく、ビルの中の一角にギルドコーナーがある、そんな感じだった。


物珍しげに辺りを見回しながら、カウンターへと二人は足を進める。

残念なことに、他には誰もいなかった。人手不足と聞いていたが、人気が無い、というのもあるのかもしれない。

お目当ての武器防具をこの目で見ることが能わず、風十は落胆した様子だ。

ギルドの内装もあまり無骨な感じではなく、サービスカウンターみたいな、風十の夢を全力で壊しにいくような、そんなものだった。


と、後ろで落胆している風十には目もくれず、エルはとことこと受付へ進む。

そこには先ほどの挨拶をした一人の女性が制服を来て座っているだけだ。

エルは躊躇いなくそこへ足を運ぶと、何やら受付嬢に囁きかけた。次いで、言葉を受けた受付が驚いたように反応してから、何やら紙に書き留めていく。

風十はそれを脇にあったベンチに座って眺めるだけだった。


つ、つまらなぁ・・・・・・


なんてこった。こうもつまらないことがこの世界にはあるというのか!まるで子供の頃親に連れられて行った市役所とか郵便局とか、そんな感じではないか!


何かで見たように依頼の書かれた羊皮紙が掲示板に貼られているわけでもなく、酒場のようになっているわけでもない。

もはや見学もクソもないレベルだ。それでもエルはまだ話が終わりそうにないし。

仕方なく足をぶらぶらさせる。何も考えずにそんなことをやっていると、何故か段々と楽しくなってくる。そんな幼稚園児の思考を風十がしていると、カウンター奥から新たに出てきた、これまた同じ制服を着た女性が風十に近づいてきた。

風十も気づいて、足を止める。何の用かと思っていると、女性は風十の目の前にしゃがみこんで、何やら書類を取り出した。


「こんにちは。何でも傭兵について聞きたいんでしょう?どうか説明だけでも受けてみない?」


どうやらエルが手を回してくれたらしい。正直興味がない話だが、暇よりはマシである。


「あ、それはどうも、よろしくお願いします」


小さく頭を下げて、風十は姿勢を正す。

ギルド員の女性は、それじゃあまずは・・・・・・と言いながら紙をめくった。


「どんなことをするかくらいは知ってると思うし、その内容について、話していくね」


笑顔が眩しい。目の前にいるものだからなおのことだ。

まだ若い彼女だが、風十よりは年上っぽいせいもあって、いつもの調子が出せない。


「まずは猛獣、怪物の類に関して。これらを討伐するのが最も傭兵ギルドらしいといっても間違いじゃない、可能かどうかはともかく、ね」


名前からして明らかに人より強そうだ。それに傭兵たちは何人も死んでいくと聞いている。夢を見るのもわかるが、現実として、勝てるわけでもないのもまた理解しているつもりである。


「ギルドとしてもあまりこれは推奨してないのよね。だからまずはこれらがどれだけ脅威なのか、大した心得のない人間が挑めばどれだけ危険なのか、そこら辺からかな?君みたいな子供だと夢見がちだから・・・・・・それを壊すのも申し訳ないとは思うけれどね」


開いたページを風十にも見えるように動かす。

そこに書かれているのは、やはり読解不可の謎文字だ。これを見せられてもなんの参考にはなりはしないのだが、もとより風十に戦闘など興味がない。

しかし一つだけ、意識を向かせるものもあった。

紙の片隅に描かれた、恐らくはその猛獣、怪物の形を描いただろう絵である。


「牙鋭すぎぃ、顔怖すぎぃ。間違いないね、僕なら二秒で殺されて見せるよ・・・・・・」


ただの絵のくせに生意気だ。なんでこんな殺意に満ち満ちているのか、甚だ疑問である。大丈夫?いきなり飛び出してきて切られたりしない?


「これは猛獣の中でも、イビルビーストと呼ばれる類のもの。猛獣も怪物も、変異が著しいから、あんまり個別に名前は持っていないの。あくまで大雑把」


そんな適当でいいのだろうか?少なくとも風十には判別できない。流石に犬やら猫やらと間違えることはないと思うが。

・・・・・・いや、やっぱり心配である。もっと細かく名前やら特徴やら決めてほしい。


「この辺は基本これ。イビルビースト。凶暴で、動物と見れば襲いかかってくる。街のすぐ近くにいるわけでもないけど、出会おうと思えば可能なところに住処がある。気を付けてね」


「ひえー」


「だいたいイビルビーストは、ネコ科、イヌ科の姿に近い形で、それよりも恐ろしく攻撃性に特化してる。活動時間は様々だけど、基本人間のつくった街道に出没はしない」


あ、安心しできねぇ・・・・・・なんだこの星、怖すぎるんですけど。


「あとは・・・・・・これは流石に知ってるかな、獣王」


「知ら・・・・・・・・・・・・し、知ってる、いやもちろん知ってますよそりゃもう。まさか、まさか知らないなんて。そんなことあるわけでも一応最初から説明してください!」


そんな目で見ないでください。僕は何も知りません。

なんだよ獣王って、獣の王って。

汗すら流す風十を不審に思いもしないで、ギルド員の彼女は書類を再びめくり始める。

紙の乾いた音。それが何回か続いて、ようやく止まった。風十も目を向ける。


「馬鹿げた話よね。最強の生物、なんて。風を超え、影を隠し、音を殺し、闇に溶け、息の根を止めに来る。『目が合えばもう生きてはいまい』なんて台詞が残ってるくらいだし」


「なにそれ怖い」


描かれているのは黒い影。詳細が判明していないのだから仕方ないが、一見すれば、いや何度見ても先程の獣よりも凶暴そうには見えない。

P〇MAのアレみたいな感じだ。滑らかに動きそうな、躍動感のある絵。

しかしその実、さながら暗殺者の如く闇夜に紛れて獲物を狩るという。

明確に、『お前が人なら逃げろ』と示されている固有名のある猛獣で、過去どれほど世に名を馳せた傭兵、英雄でさえも獣王だけは討伐できないと言わせたほどの、正しく王様。


チートか。チートだ。それとも運営のミス?バグの類でしょうか。


「生態系は不明。生息地は広すぎる、または移動するのか、未だに不解明。死体は残らず食べられるのか、連れ帰るのか、証拠もない。一説には幽玄幽城の国、カルタナに巣があると言われ、また別の一説には遥か昔に東の隠された秘海、霊域に住んでいた猛獣が、食料に困り泳いで渡って来たとも言われてる。まあどちらにせよ、会ったら逃げてね。その時には死んでるかもだけど」


どこだよ。

そもそも場所がまるでわからない。カルタナとかいうのはどったかで聞いた気もするが、詳しい話は一切知らない。

なんか口調的に、幻の土地みたいな感じだったけども。


「あ、フウト。私はもう終わったけど、どうするの?」


と、そこにようやく話を終えたエルが近づいてきた。随分と長かったようだが、一体なんの話をしていたのだろうか。


「じゃあ僕も。あ、お話ありがとうございました。参考になったから多分二度とここに用事は出来ません」


「ギルドっぽい話ほとんどしてないけど・・・・・・まあ、どれだけ怖いのかわかったならいいかな。用事で街を出る時はくれぐれも気を付けてね?」


彼女はいい人なのだろう。普通、何がなんでも登録させようとするものではないだろうか。

結局、猛獣の話しか聞けてないけども、ためになったから充分だろう。


そのままエルと風十は、再び仕事探しのためにギルドを後にするのだった。

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