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ここはどこ

続き。一時間後にもう1話投稿予定。

それ以降は未定。


「って、ひどい怪我......!早く治療しなきゃ大変よ!?」


ほんの数瞬、間を置いてしまった風十だったが、すぐに気を取り直した。

ガシッと、少女が驚くほどの力強さでその細い両肩を掴むと、血で真っ赤に染まった顔面のままググッと迫った。


「ひゃっ!」


「見つけたぁ!神の使いだな!?さあ僕を我が家へ!......ってあれぇ?」


「え......大丈夫!?」


だがその馬鹿力も、すぐに底をつく。流石に血を流しすぎたのだ。

少女に支えられそうになりながらも、フラフラとして後ろにたたらを踏む身体を必死に制御し、風十は今か今かとワープの時を待った。

家に帰ったらまずは救急車かな、なんて考えならが待機していると、何を思ったのか少女はそっと手のひらを風十の額の傷口へと翳した。

途端に光る少女の腕。優しい白光が額を覆い、そのまましばらくすると血はすっかり止まり、傷も塞がっていた。


「へ?........あれ?痛くない......痛くない!?」


「ふぅ......無償で治癒魔法を受けられたんだから、感謝した方が良いわ。他の魔法ならともかく、本当だったら平民じゃなかなかお目にかかれないんだから」


少女は可愛らしく片目を閉じると、微笑んで見せた。僅かに揺れる美しい金の髪、空より蒼い宝石のような瞳。服装はさっきまでの田舎ではありえないほどに高級そうな純白のローブ。

そんな彼女の笑顔は天使のようだったが、風十はすでにそれどころではなかった。


「ま、魔法?......何もないところから炎とか氷とか出すあの......?」


「え、ええ。魔力があればできるわね。もちろん、込めた魔力が尽きてしまえばまた消えてしまうけれど」


風十は本気で首を傾げた。九十度近い角度だ。首がバキバキ言っているが、それが気にならないほどに現状が把握できなかった。

もしかしたら、ただのコスプレパーティーみたいな可能性もある。わざわざ金髪のウィッグを買って、ローブを買って、カラーコンタクトを買って、口調までそれっぽくして、魔法まで習得した、と。

やはりありえない。魔法以外はなんとかなる。現代日本、それくらい余裕で集められる。だがしかーし、魔法ってなに?なんで怪我が治るの?


「あなた、魔法も見たことないの?何処の田舎から来たのかしら......?服はそれなりに高そうなんだけど」


日本は夏だったため、風十の服装は黒のハーフパンツに白のポロシャツだ。ここがどこの国なのかは知らないが、あまり気温に変化はなさそうだったため、今でも快適に過ごせている。いや気候が同じということは、ますます地球の反対側の可能性が低くなったわけだけども。

しかしそれでも、風十の服は少し場違いだった。通りをゆく人たちも、誰も彼ももっと簡素で無地なものだ。


「......ごめん。此処って何処か教えてくれないかな?」


流石の風十も、少し真剣に考えた。でも分からなかった。だから答えを聞くことにした。

少なくとも、言葉は通じているみたいだった。なぜかはまるでわからない。ここが、海外ではないのか、それとも彼女が日本語を知っていただけか。

しかし彼女の答えは、風十をさらなる謎に突き落とすばかりだった。


「何処って、ラングレスト王国のイレ・サムハイルでしょ。あなた、何も分からないでこんなところにいたの?」


「聞いた事もない!聞いた事もなぁい!?」


お、王国?なにそれ、大奥の間違いなんじゃない?とは言えなかった。自分の耳がそこまで腐敗しているはずないと信じているからである。いや大奥でも変だけど。一応念のため触って確かめる。


「あ、やっぱり耳は変じゃない.......」


「?何やってるの?」


突然耳を触りだした風十に、少女が訝しむ。

少女からしてみれば、いきなり叫んだり、肩を掴まれたり、死にかけたり、かなりの変人狂人の類のはずだが、目を背けず話しかけてくる。根っからの善人なのだろう。それともただの天然なのか。再び奇行をする風十を、純粋に不思議がるだけだった。


「え、えーと......つ、次は何を聞けばいいんだろう?く、こんな時に僕のスペックの低さが......!」


「本当、おかしな人ね、あなた。でもとにかく、まずは自己紹介じゃないかしら?それにあなたからお礼も聞いてないわよ?」


風十のペースに飲まれない。それだけでかなり稀有である。

そんな珍しい少女は一歩下がると、優雅にローブの裾を持ち上げて頭を下げた。随分と慣れた動きだ。


「初めまして。私はお隣オルサナ帝国の貴族、エルメアネル・フォン・ステライト。こうみえてもステライト家当主よ。まあ、今日はお忍びでこっそり街に来ただけだからあまり硬くなる必要もないけれど」


「あ、これはどうもご丁寧に。僕は朱生風十、でございますですわ?」


 貴族。だからこんな感じなのかなと他人事のように思いながら、風十もならって服の裾を両手でつまんで持ち上げ、足を引きながら頭を下げた。細かい作法どころかそんな挨拶の仕方自体知らなかったので動きはぎこちないを通り越して気味が悪かった。

 さすがのエルメアネルも半歩引いて顔を引きつらせる。


「あ、あのね?それは淑女の礼なのだけれど......紳士の方々はこうじゃないかしら」


 とはいえ彼女はすぐに気を取り直すと、片手を胸に当てて綺麗にお辞儀をした。女性だというのになかなかに様になった動きだ。


「こう?」


「まあ、及第点、かな......?」


 あれほど気持ち悪い動作をしたにもかかわらず、風十は一切気負わずに今度はエルメアネルの真似をしてみせた。全然紳士には見えないが、まあ先ほどに比べれば何倍もマシというものだった。


「でも不思議な挨拶だね。僕のいたところじゃこんなめんどくさい動きなんてしたことなかったなあ.............じゃなくて!なぜかもう日本じゃないことを許容しつつある僕自身に戦慄したよ......」


「お、恐ろしい子ね..............」


 肩を落として風十が自分に慄いていた。あまりつっこむと大変そうだと本能で察したエルメアネルも軽くつぶやくだけに留めおく。

 それだけでなく、話を変えようと気丈に笑って見せた。若干引きつっていたのは当然であるが。


「そ、それにしても聞いたこともない名前ね。どこから来たのかしら......?アケイ?」


「それをいうなら僕だって、そんなカタカナっぽい名前は初めて聞いたよ。えるめあねる、が名前でいいんだよね?」


「ええ。長いと思ったら好きに略してくれても構わないわよ?」


 既に風十の頭の中に日本の文字はなかった。目の前の少女がからかって遊んでいるわけでもなさそうだし、そもそも知力ステータスが下限に限界突破している風十ではそこまで回る頭脳を持っていなかった。

 常に目の前のことに全力。それが風十のモットーである。


「略すって......あだ名かなあ?じゃあ『エ』って呼ぶよ」


「よりにもよって一文字って何!?」


 どうやらあまり気に入らなかったらしい。今までにない食いつきで拒否されてしまった。

 そんなに嫌だろうか?『エ』。他に誰もそんな呼び方しないだろうという点では他の追随を許さないと思うのだけれど。

 とはいえ、他ならない本人が嫌がっているのだから風十も別の呼び名を考えることにした。女の子の嫌がることはするな。馬鹿な風十だからこそ、その点は頑なに守っていた。血塗れで近づいたのは棚上げであるが。


「うーん......じゃあ『ル』のほうがいい?」


「私が何を否定したのか分かってない!?それとも馬鹿にされてるの!?」


 それでも一文字呼びにこだわる風十。ていうかむしろ、何が嫌なのかすら気付いていない。

 彼の考えとしては、どこにでもいるような普通な名前よりも珍しい感じのほうがいいのでは、と思っての行動だ。いや、もちろん。エルメアネルという名前すら日本人ではありえない、珍しいものではあるが。


「いやだなあ。馬鹿になんてしてるわけないじゃないか。僕より馬鹿な人は多分生まれたての赤ん坊くらいじゃないかなあ......?」


「もっと恥じなさい!あなたが今語ったのは明らかに自分の汚点よ!?」


さっきから騒がしいなぁ。

場違いにもそんなことを考えた風十は、どこまでも突き抜けていた。



「............はあ。まあ、もういいわ。私を呼ぶときは今の二つを合わせて『エル』とでもしなさい」


 片手で頭の後ろを掻いて、首を傾げる風十に、結局エルメアネルはあきらめることにした。どうしようもないというか、話が進まないというか。

しかし、話が進まなかろうがどうだろうが、マイペースとは風十の代名詞、ここで引き下がる訳が無い。


「ええ、そんなあ。君が好きに呼んでいいって言ったんじゃないか」


「『エ ル』 と 呼 ぶ の。い・い・わ・ね?」


「サー!!」


 ピシッと背筋を伸ばして敬礼する風十。目の前の彼女は自分よりも上だと本能で理解した。

彼女の迫力、それ即ち超強制会話断ち切り機能。さすがの風十も動けない。

 そんな風十を見てひとまず安堵すると、エルはまず、この頭のおかしな少年に何故あんな頭のおかしな行動をしていたのか問うことにした。


「あなた、こんなところでなにしてたの?言っておくけどさっきの怪我、本当ならそう簡単に治るような軽いものではなかったのよ?」


「あ、その節はどうもありがとうございました。ちなみに目的は、僕に隠された真の力をもう一度呼び起こすためだったのです」


 ぺこりというお礼とともに、簡単に事情を説明する。したつもりだった。風十としては。


「全然まるで分らない。全く一切合切遍くすべて。もう一度詳細にお願いするわ」


 もちろんそれで伝わるのはごく一部だ。いやごく一部もいないかもしれない。あ、多分いないね。今の説明でワープするためだと分かった人間がいたら、絶対にその人はテレパシー能力を持つ超人に他ならないだろう。


「ええ......うーん。どういえばいいのかなあ......?実はついさっき瞬間移動、時空間歪曲的なワープ現象が起こったんだけどね、その時土下座をしてたから、きっと元の場所に戻るにはもう一度土下座をするしかないって思ったんだ。でもやっぱり謝る相手がいないとできないのかも」


「..................」


 一瞬何か難しいことを言った気がする。でも多分気のせい。この子が時空間とか歪曲とかそんな概念を知っているはずがない。なにせエルもわからなかったのだから。その後に続く言葉は馬鹿丸出しであったのだが。

 

「あ、そうだ!ねえエル、日本ってどっちかわかる?」


 風十にしては賢い選択であっただろう。なにせ相手が日本語を話すと理解して、人に尋ねたのだがら。少なくとも先の儀式を繰り返すよりは成長したのかもしれない。

 もっとも、あまり効果はなかったようだった。エルは可愛らしく小首をかしげるだけだ。


「二ホン?......聞いたこともない。それはどこの国の地域の名前?」


「いやいや、国の名前だよ!海に囲まれてて、他の国と比べたら小さい方だって聞いたのを覚えてるよ。覚えてるよ!」


 なぜか自分が記憶していることを強調する。自分の国のことなのだから、それくらい当然のように知っていてほしいのだが。


「......ますます分からない。少なくともこの大陸ではなさそうね。でもそうなるとおかしな話よね......あなたはどこからどうみても長旅ができそうには見えないわ」


 ほとんどが偏見であるが、見事に的中である。風十が旅をしたら常人の予想もつかない死を遂げるのは間違いない。

 しかし一応の根拠もあった。その荷物の少なさ、服装の薄さ。にもかかわらずの肌の白さである。


「大陸が違うって、相当な気が......あ、じゃあ近くにある国で有名なところとかない?フランスとかイタリアとか」


「ふ、ふらんす?いたりあ?それが有名な国名?......このあたりではここラングレスト王国もかなり大きな国なんだけど......それ以外となると、私の住むオルサナ帝国、南にあるアルファースライン王国......あとはちょっと特殊だけど、カルタナとかかしら?」


「.......うえ。そうか......僕のワープは......星すら飛び越えたのか............」


 馬鹿な風十だからこそ、もうそれで納得することにした。どんな教科書、ネットでも、先に見える街並みは見たことがなかったし、一瞬で傷を治す治療技術なんて聞いたこともない。

 通りに見えるのはレンガ造りの建造物ばかりだ。それだけならまだ地球のどこかにもあったかもしれないが、そう単純な話でもない。なにせあまりにも背が高いのだ。見上げると首が痛くなるほど。もっと遠くに見える塔のようなものなんか、雲を突き破っての向こう側だ。

 人の住む建物としてここまでの高さだととてもレンガの家なんかでは耐えれる気がしない。倒壊、ドミノ倒し一直線だ。少なくとも普通なら。


「ねえ、この街......えーとレム肉、だっけ?まあとにかくこの街はなんでこんな大きな建物ばかりなの?」


「イレ・サムハイル、よ。面影が『レ』しかないのは不思議ね......ちなみに建造物がこうも巨大なのは偏に魔法のおかげね。馬鹿は高いところが好き、なんて言われているけど、確かにこの国の高さへの執着は異常かも。全部魔法の恩恵だから、もし何か災害があっても魔力があれば倒れないというのはいいことだと思うけれど」


 逆に言えば、魔力が尽きれば災害がなくても倒壊するということでもある。常にこれだけの建物に魔力を送り続けるのがどれだけの苦労なのかは風十の知る由もなかったが、大変なんだろうなと漠然とは感じていた。


「ふーん......」


「聞いてきたくせにどうでもよさげね」


 実際、風十としては全くどうでもいいことではある。もちろん興味深くはあるが、それよりも帰る方法を探す方が先決だ。

 しかし帰るといっても土下座ワープは使えそうにない。自身に眠っていた莫大なエネルギーは、ここに来るために使い切ってしまったらしい。本人の意思に関係なく、目的地指定もできず、移動姿勢は土下座でなくてはならない能力なんて欠陥以外のなにものでもないけれど。


「あ、その魔法ってさあ、どこか遠くに一瞬で移動できたりするものもあるの?」


 ふと、思い立った。なにせ原理不明の神秘の力だ。瞬間移動くらいお手の物といってほしい。


「無理ね。転移はまだ誰も開発できていないわ。せいぜいが速く走る程度じゃないかしら?空だって飛べやしないわ」


「へぇ、そうなんだ......」


「それが?どうかしたの?」


「ううん、なんでもないんだ。なんでも、ないのさ............ふぅ......この街も、なかなか素敵だよね.......安い空き家とかアパートとか、あるかなぁ......」


「見上げた前向きさ加減ね。なにがあったのか全然わからないんだけど、私ももうあなたはここに住むべきだと思うわ。ちなみにスラム街はここから西よ」


「なんでそこに住むことが前提なのさ!?」


 そんな馬鹿なやり取りをしていたが、実は風十もまんざらではなかった。いやスラムじゃなくて。

 そう、この街に住み着くことを、である。

 ここが地球でないかもしれないというのなら、風十の頭ではその魔法とやらと、行きと同じワープしか当てが思いつかないのだ。そしてそのどちらもあまり期待はできない。このままここで祈りをささげていても、風十が死ぬのが先だろう。少なくとも神は、祈りをワープの発動条件と設定していないのだ。

 もちろん魔法とやらに関してもエルが知らないだけ、または風十をだまそうとしている可能性もある。しかし相手が風十となれば、だまそうとしなくてもだませるだろうからそこまで疑う必要はないかもしれない。

 まあとにかく、今すぐにはどうしようもないことだけは確かだ。もう少し情報を集める必要がある。そしてそれをするにはある程度この地で生きていかなければならない。

 つまり、


いっそ旅行気分で、この地を過ごすべきなのだろう!

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