国を抜けて、国へ
「王国と帝国は、条約からいききはきほんてきに自由。身分のしょうめいも必要ない。もちろん、かんたんなもちもの検査はするけれど、そう時間もとられないわ」
大きな壁。延々と続くそれに、風十は驚き固まっていた。どこまで見ても、端が見えない。
そんな風十にお構いなく、エルが説明をする。
エルはとことこと進んでいき、馬車出入り用の大きな両開きの扉の隣にある、徒歩の旅人用の扉の前まで到着した。遅れて風十も着く。
「帝国に入りたいのだけれど・・・・・・」
扉の前に立つ二人の兵士に、許可を貰おうとする。だが失念していた。今の彼女達は、かなり怪しい風体だ。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
そんな姿を見て、兵士達はひそひそと話し始めた。風十とエルからしてみれば、何をしているのか検討もつかなかったが、他の通行人からしてみれば当たり前の如き反応だ。
「どこからか盗んできたかのように身体にあっていない服を着た子供と、一昔前の盗賊に捕まっていた奴隷みたいな服を着た子供・・・・・・こんな状態にも関わらず、歩いてこの長い街道を・・・・・・?」
「明らかに何かあったんだろ・・・・・・いやだが年齢を考えろ。加害者じゃなく、被害者しか考えられん・・・・・・」
「まだ子供だぞ?こんなに若いのに、一体どれだけ辛い人生だったんだ・・・・・・」
「娘がいる身としちゃあ、こうも可哀想な姿みたらほっとけねーよ・・・・・・だれかマトモな服持ってないか休憩室行って聞いてきてくれないか。あとはお菓子とか、風呂の用意も頼む」
「ああ、任せろ。食事の方も準備しとく」
「いやに長いわね」
「エルがちっさいからじゃない?」
「あなたがボロボロだからよ」
三分もしない内に、兵士の一人が振り返り、なんとも優しげな笑顔で、エルたちに話しかけてきた。そちらの話がようやく終わったらしい。
「これまで、辛かっただろう・・・・・・。だがもう安心なさい。私たちが守ってあげるとも」
「「???」」
そういうなりなんなり、兵士は急に二人の腕を掴むと、そのまま関所の中に連れ込んでいった。
何故かまったくわからない様子で呆然と、意外と広い通路を歩く。抗議の意味で何か喋ろうとも「もう君たちが嘘をつく必要は無いのだよ・・・・・・」と取り合われない。
途中ですれ違った、恐らく交代要員だろう別の兵士には「ああ、この子たちが・・・・・・」みたいな目を向けられた。
何が何だか一切が依然として理解できないまま、風十とエルは、そのまま善意百パーセントの慈愛の笑みを浮かべる兵士に連れ添われ、関所の兵士詰め所まで引きずられるように連れていかれたのだった。
☆
「どうすればいいのかしら」
「どうしてもいいから早く出てくれると助かりますかしら」
あのあと散々もてなされ、何やら色々と誤解されたまま、今はお風呂場だ。
兵士たちいわく、子供同士なのだから一緒に入っても問題ないだろ、らしい。それほど童顔なのだろうかと風十は隠れてショックを受けていた。
とはいえ、流石に一緒にお風呂に入るわけにはいかない。見た目は子供だが精神は大人だ。風十は精神も子供っぽいが、ロリコン認定は避けなければならないというくらいはわかっていたのでお互い了承し、エルは現在入浴中、風十は脱衣所で待機中だ。
「はいはい。もうでるわよー。あ、タオルとって」
「はい」
扉を少しだけ開けてそこから突き出された手に風十がタオルをのせる。
ちなみにエルが先に入浴したのは、風十が汚すぎるからだ。食器と同じ。まずは汚れが少ない方から入ったほうがいい。
「次はふくをおねがいー。・・・・・・変なことはしないでね」
「吐瀉物をぶちまけるとか?」
「どんな変態!?においを嗅ぐぐらいにしときなさいよ!」
「嗅いでいいの?」
「良くないわ!!」
服はすべて、あの兵士たちがこの関所を通った商人から買ってきてくれたものだ。なので新品なのだが、これはそういう問題ではない。
「どうでもいいけど、そこで着替えると服濡れない?こっち来たらどう?僕目を瞑っておくよ?」
「なっ!?じかでわたしの肌のにおいを嗅ごうっていうの!?」
「・・・・・・僕にはね、ロリコン王ムラタっていう友達がいたんだ」
「いいわ!しゃべらなくていいの!もうあだ名からして察したわ!」
「彼はいつもこう言っていたよ・・・・・・『幼女ぺろぺろしたい』」
「ひぃぃいいいいッ!!!」
「・・・・・・刑務所のご飯は美味しくないらしいね」
「いるの!?そこにいるの!?」
エルをからかうのだ楽しくなってきた今日この頃。
ムラタが元気にしているかはもはやどうやっても知ることが能わないが、今の風十のこの状況を彼が知ったら、激しく嫉妬するのは間違いない。
それにしても、今この状態なら、エルをどれだけからかっても暴力を振るわれないというは素晴らしい。
彼女は裸を見られたくないので姿を現すことはないし、言うなればここは無敵空間。ゲームでいえば敵がポップしない安全地帯だ。
どこぞの黄色い顔のついた星を食べたのか取り込んだかの如く、今の風十にとって恐るるに足る存在はいないのだ。栗なのかキノコなのかよく分からん奴らでさえ、今ならば触れるだけで吹き飛ばせるに違いない。
___いや待てよ?無敵?今の僕が?・・・・・・つまりエルより強い・・・・・・?
風十は何かを悟った。前提条件すら忘れて。
「なるほど・・・・・・ってことで突貫だァ!!大した恨みもないけど、日頃の恨みを思い知れぇいい!!」
風十は迷うのことなく、風呂場の扉を開けて、そのまま中に突入して行った。この場にいないムラタのためにも、やらねばならないことがある。
「な、なに・・・・・・ってキャアアアア!!!!」
見れば、パンツ一枚だけ履いて、まだ肌色の多い姿の幼女エルがいる。
成長の兆しもないような真っ平らな胸を片手で覆い、顔を真っ赤にして目をぐるぐるさせていた。
エルは何を思ったか、そのまま空いた片手を思い切り振り上げると、風十に走り寄って、そのまま振り下ろしてきた。
そこで風十はようやく冷静になる。頭が働く。
____いや待てよ・・・・・・確かにさっきまでは無敵だったかもしれないけれど、これ、接近したら意味ないんじゃ?
そのまま風十の顔面は、さながら金属バットで何発も殴られたかのように腫れ上がることになった。




