哀れで無残ないちにちめ
とりあえず3話書き上げた。
人気がなくても続けるつもりではあるけれど、更新は遅め。
酷評でもなんでもいいので感想、下さい。
暗い夜道。照らす明かりは僅かばかりの街灯と、月のみ。
遠くに見えるコンビニを除けば、周りには田んぼしかない、そんな田舎町。
一歩間違えれば側溝一直線な狭い白線の外側を、一人でポツンと少年が歩いていた。
「あれ?そういえば僕何しにコンビニ行ったんだっけ?いやいや、確かモンボケGOをやるついでにコンビニGOだった気が.........いやでも、そうなるとなんで今僕スマホすら開いてなんだろう.......?その前にまずなんでコンビニ行ったのに何も買わずに帰ってるんだろう......?」
少年の手のひらには何もない。背負っている鞄もあるが、中身はまた別のものだ。
あてもなくコンビニに行くのはある意味珍しいが、この少年に限って言えば、そうでもなかった。
「まあいいや!今からでも遅くないかなあ?クラスのみんなは珍モンボケ、ゲロ注が出たって言ってた気が......いやどうだったっけ......それは隣町だったような?」
標準的な黒髪黒目。年の頃は一七、八程度。身長は百七十前後だろうか。どことなく間抜けっぽい顔が特徴の、平凡な少年だ。
少年、朱生風十はポケットに手を突っ込むと、スマホを取り出した。
慣れた動作で起動をすると、そのまま前も見ずに操作していく。
「......やっぱり何もいないなあ。もう少し都会なら、夢があったんだけど.....」
風十はなかなか首を上げない。ひたすら画面とにらめっこだ。
そのままとぼとぼ道を歩く。暗すぎるせいで、車や自転車が来たらよく分かるが、歩行者だったらそうはいかない。
そんな行為、危なくて当然。彼は道端の側溝よりも厄介な相手に遭遇してしまった。
「............」
「............痛っ。.......あ、ごめんなさいごめんなさい!」
誰かとぶつかった衝撃でスマホが手を離れる。嫌な音と共に地面を転がるスマホ。でもそれを拾う前に、風十は限界まで頭を下げて謝った。
歩きスマホは危ない。テレビなんかで散々言われていたが、風十は今この時までずっと他人事と気にしていなかった。
別に、風十はガタイがいいわけでもない。体重もどちらかと言えば軽い方だし、身長だって普通だ。
でもそれが、相手を傷つけないわけではない。流石にそのくらいは彼も分かっていた。
「......あ゛?てめぇ、誰にぶつかったかわかってんのか?」
「ひぃっ」
ドスの利いた声。加えて体格がどっしりしている。とても、一般人のようには思えなかった。
顔を上げると当然のようにアップされる厳つい顔面。その眼光は鋭く、射抜かれた風十は後ろに下がることもできなかった。
どうやら相手は一人ではないようで、厳つい男の後ろにはもう三人のチャラい兄ちゃんたち。ヘラヘラ笑っていて怖かった。
当たり前のような金髪。ピアス。だらしない服装。その目は獲物を逃すまいとする猛禽類。
ーーーどう見ても不良です。ありがとうございました!
風十は思わず心の中で叫んでいた。どんな状況なのか、分かりたくはなかったが。
しかしこんな時、彼には力があった!彼の地に伝わる秘伝秘奥の奥義。
その一撃は大地を震わし、天を慟哭させ、神すら苦笑いにさせる、そんな究極絶技が。
風十がキリッと目つきを変えると、ほんの一瞬だけ、不良たちも狼狽えた。タイミングはまさに今しかない!
その名もーーー
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさーい!!」
五体投地。DOGEZAである。
謝罪の言葉と共にガンガン首を振り、何度も何度も額を地面にぶつけ、終いには血が流れる。もはや狂気だ。
「.......ふざけてんのか?喧嘩なら買うぜ?」
しかし効果は全く現れなかった。それどころか一種の挑発であった。
風十のぶつかった不良のこめかみに、青筋が浮かび上がる。
「ば、馬鹿な......この僕の土下座が効かない......だと......?免許皆伝の士が放つ土下座は海を割ったって爺ちゃんが言ってたのに......!」
「おい、コイツヤバイぞ。何がヤバイって頭の中がヤバイ」
「そりゃ俺も不良とか言われてるからよ。馬鹿だとは思ってるが、コイツはそれ以上だ......!」
土下座よりも効果のあった風十の唖然とした姿。後ろにいた不良も身体を仰け反らせて引いていた。
しかし、唯一風十の目前にいたあの厳つい男だけはそうでもなかった。
変わらぬ眼光のまま、血塗れの風十を見つめる。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!ごぉめんなさぁいぃいい!!リュックの中には昨日ふと思い立って両替した一万円分の一円玉と五円玉と十円玉と百円玉しか入ってないけどどうぞ持ってってくださぁいっ!!」
ゴン!ゴン!ゴン!飛び散る血液。もはや事故現場である。
正確には一円玉千枚、五円玉二百枚、十円玉百枚、後は全て百円玉、六十枚だ。ちなみに千円足りないが、それは手数料で消えていった。
当然、そんな枚数の小銭は財布に入らないので、全てリュックにそのまま入れてある。
わざわざ両替したからといって別に使うわけでもなかったが、『深く考える』を良しとしない、というか出来ない風十にはどうでもいいことだった。
「......はぁ......どんな馬鹿だ、コイツは。まあいい。一万あるなら大したもんだ。重そうだが......リュックごともらってくか...........お?」
言葉途中に、厳つい男ーーー風十は心の中でゴリさんと名付けたーーーは地面に目を向けたかと思うと、風十の転がっているスマホに気づいた。
未だ電源がついたままで、操作している人がいないために停止している画面は、変わらずモンボケを映し出していた。
「おっとー、悪いな足が滑った」
そのスマホを、容赦なくゴリさんが踏みつける。金属とガラスの割れる音とともに、破片が粉々に散らばった。
ガックンガックンしている風十も、その音に反射的に顔を上げ、そして唖然とした。
「ウッソー!!??また......また壊してしまった。うう、父さんになんて言えば......コレで何回目でしたっけ?」
「知るか!俺に聞くんじゃねぇ!」
風十の不注意故、既に両の手の指では数え切れないほどに壊してきた携帯。ある時はアイなフォーンをポケットに入れたままの水泳で壊し。andロイドは友人にノせられ自らで叩き潰し、終にはガラケーですらプロレスごっこと称して真っ二つ。
運がないのではなくて、脳がないのである。
「いいからさっさとリュックよこせ。オラ。お前もこの携帯みたいにゃ、なりたくねえだろう?」
「は、はひっ!」
とはいえ風十の馬鹿さ加減では目の前のゴリさんはどうにもできそうになかった。ちなみに後ろに三人は曖昧な笑みで呆れているばかりだった。いや、別に助けてくれるなんで期待はしていないけれども!
風十は滴る血をそのままに、上半身を上げると、リュックを下ろした。そして確認するかのように最後にひもを開けて中を見て、
「ああ、短い付き合いだったけどありがとう。僕の硬貨たち。最後に一枚一枚別れのキスをーーー」
「するじゃねぇっ!!」
「ごごごめんなさーーい!!」
もはや風十のペースといっても過言ではないが、どうにもできないのも事実。突っ込まれてすぐにふたたび風十はバコバコ額を地面に打ち付ける。
ゴリさんがあんまりな険悪なため、風十もリュックを渡すより先に土下座の姿勢だ。
かなり血が垂れているため、瞼を閉じる。血が染みるのは痛そうだ。
「すいませんごめんなさい謝ります許してえええ.......え?」
全力の謝意を込めた謝罪。この人生最大と言っても過言ではない美しい体勢。これで許さない奴は馬鹿だ。
「へいへい!ごめんな、ごめんなさ!ごーめんなさいっ!!」
もう勝ったも同然だ。この完璧な土下座を見せられて、まさかこれ以上手を出してけるなんてことはないだろう。もう自分に惚れるわ!?みたいな感じでもうしばらくそのまま歌うように謝る。
謝る。謝る。謝る。
あれ........なにこの場違い感.........
ゲシュタルト崩壊みたいなことを起こしながらも、その体勢で謝っていると、ふと、違和感を感じた。
いつまでたっても返事が返ってこないのだ。まだ硬貨いっぱいのリュックを渡していないはずなのに。いやそれだけならまだマシだ。だがまだおかしなところがあった。
ーーー地面が、硬くなってる?それに、雑踏の音?
打ち付けすぎたせいで既にあまり感覚がないが、それでも、以前より痛くなってる気がした。
なんて言うか......少なくともコンクリートではない。レンガというか、レンガのように石を敷き詰めたというか。とにかく継ぎ目が痛い。
確かに、風十の住む町は田舎だった。だかそうとは言ってもコンビニもあったし、ある程度道も舗装されていた。つまりコンクリートだ。こんな観光名所にあるような舗装では断じてない。
音の方も不自然だ。今は夜中。さらに田舎。出歩くのは馬鹿か仕事ぐらいだろう。
しかしこの多勢の歩く音は、どう考えても本物だ。ラジカセで流しているにしてもその意味が全くわからない。
「......うーん。あれ?あの、不良方の皆さん......?」
ひょっとして知らぬ間にいつもと違う道を歩いていたのだろうか。それともいつの間にか気絶していて、その間にどこかに連れ去られたのか。はたまた土下座しているうちにワープ能力が目覚めたのか。
とにかく、それらを確認するするつもりで、目前にいるはずの不良たちに話しかけた。
血のせいで目は瞑っているので見えない。
「.............ねえ、返事してくださいよーやだなーもう。あ、かくれんぼですか?それなら負けませんよ、僕。同級生に「まだそんなことやってるの......?」なんてドン引きされるくらい見つけるのも隠れるのも神がかってますからね!」
ちなみに風十にふざけているつもりはない。
「こんな道端でどこに隠れるのかなんて聞くのは無粋ですよね!ええ、ええ。安心してください!たとえ地面の中に埋まってても見つけ出して見せますよ!この神隠し風十。神に隠されたこと数十回。もはやどこに隠れようとも死角はなぁい!!」
返事がない。ただの屍のようだ...........
「では数えますよー。一分でいいですかね?いーち、にーい、さーん、しーい、ごーお、ろーく、しーち、はーち、きゅーう、じゅーう..........ねえ、やっぱりおかしいよねこれぇ!?」
流石に気付く。、だって返事がないもの。声もしないもの。いや声はするのだが、明らかに先の不良とは違った。さらにそれだけでなく、瞼の向こう側が若干明るいような?しかも懐中電灯のようなものを向けられているのではなくて、お日様に近いような............いやいやいや..............やっぱり気絶でもしてしまっていたのかもしれない。
これではまるで真昼間の混雑する都会の、そのすこし薄暗い路地裏にでも放り出されたみたいではないか。
とりあえず状況の確認とばかりに、垂れていた血を袖で拭う。
額の傷に障るといけないので、そっと優しくだ。
「うーん........」
なぜか異様に明るくて、目を細める。しばらくして少しずつ慣れてきた目で、まず前方を見る。
ーーー人がいっぱいいるなぁ......
続いて下を見る。現実逃避に近かったかもしれない。
ーーーあ、やっぱり石なんだ。それにリュックもちゃんとあるみたいだし。不良さんたちはいなくなってたけど、案外いい人たちだったのかも。粉スマホは......ないみたい。
馬鹿みたいなことを思いリュックを背負い直し、さらにさらに続いて後方確認。もはやその表情は阿呆丸出しの間抜け顔だ。
ーーー随分大きな建物だなあ。僕の町にはこんなのなかった気する......あ、よく見てみればここは路地なのかな?
ドアはないが、建物に囲まれている。それに先ほどよりは随分眩しいとはいえ、少しばかり薄暗い。
..................ふぇ?
「あっれええ?おかしくない?ねえおかしいよね!?ここどこ!?ワープ?やっぱり土下座ワープしてたの!?」
何せ血が止まっていなかったし、体勢すら変わっていなかった。時間が経ってないのは確実だ。
となると、地球の裏側までワープしたのだろうか。
「ひょっとして僕超能力者!?やったね!テレビに出れるや!でも土下座しないとワープできないなんて、テレビで映したらかなりシュールな気が......」
現実逃避もここまで行けばもはや現実だ。夢の中もなかなかに楽しいのものである。
風十のいる場所が良いのか悪いのか、誰にも声は届いていないようだった。遠目に道行く人々は、誰も彼もこちらを振り返りはしなかった。
これ幸いとばかりに風十はその後もしばらく、うーんうーんと腕を組んで唸っていたが、やがてどうしようもないと気づいたため、再び土下座の体勢に入った。
「思い出せぇ!思い出すんだ!一体僕はどうやってワープした!?その感覚をもう一度!ああ神様仏様爺ちゃん婆ちゃん!僕にもう一度だけ土下座ワープをおおお!!あ、目的地は僕の家の前でお願い」
とりあえず、できるかはともかく帰ることにしたらしい。アイマイミーマインくらいしか英語がわからない風十では、観光どころではない。
土下座というか、もはや祈りのような感じで、鬼気迫った表情をして天に思いを届かせようとする。最後にちょっぴり欲が出たのは許してほしい。
ゴンゴンゴンゴン!血?知ったものかぁ!とばかりに全力連打。このままじゃ死ぬけどその前にワープできたら良いなあくらいの感覚である。
偶然その姿が目に入った通りを歩く人も、まるで見なかったことにしようと一瞬で首を振り去っていく。助けようとは思わない。思えない。はたから見たら狂人である。
「ぬぅおおおおぉぉ!!なぁぜぇだああ!!僕が何したっていうんだぁあ!!もう田んぼの中でも壁の中でもいいから!なんなら便器の中でもいい!とにかく帰して、僕をお家に!!」
血だけじゃなく、とうとう涙まで混じり始める風十の嘆き。
このままでは神を殺すとか言いそうだった風十だが、とうとう慈悲があてがわれた。
もっとも、ワープという形ではなかったが。
「あのー......?大丈夫、頭?いや二重の意味で」
近くでかけられた声に、すわ神の姿かと思った風十はまさに音速で振り向いた。
しかしそこにいたのは、馬鹿な風十でさえ言葉を失う、天使と見紛うほど美しい少女の姿だった。
1話が一番はっちゃけてる。
主人公は馬鹿です。ええ。