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雨宮千種の災難(前編)

緩やかに、されど確かに物語は動き出す。

 アニメでもドラマでも、何回も同じものをみれば飽きがくる。


 結末を知り、物事の鮮度が落ちていくからだ。


 しかし、鮮烈に心に残った光景というものには、鮮度そのものが存在しない。何度リプレイを繰り返しても、同じ感情を抱かせることができる。


 ちなみにトラウマというものはこうしてできあがる。


 そしてたった今、俺の歴史に新たなるトラウマが刻まれようとしていた。


 雨宮千種、齢28にして寝起きに見ず知らずの地に放り出される。28年生きてきた中で、おそらく最大級の寝起きドッキリといえるだろう。


 夢なら可及的速やかに冷めていただきたい。

 太陽の熱とか風の感触とかめっちゃダイレクトに肌に伝わってくるけどこれは夢、多分夢、絶対夢。


 もしくはアレだ、最近はやりのVR世界だ。最近の科学は進んでるなぁ、あはは。


 こみあげてくる色々な何かを必死で押さえ込んで、努めて冷静に周囲を分析する。


 どうやら今俺が横になっているのは、公園にあるような木組みのベンチの上らしい。


 ベンチは半径数百メートルの円形の広場の端に置かれていて、周りは通路以外低い茂みに囲まれている。


 中央に噴水、また転々と整備された雑木林のようなものが存在することから、ここは自然公園のようなものであると考えていいだろう。


 だが、俺の家の近所に自然公園などあるわけがないし、眠っている間にそんなところに辿り着いてしまったというのなら、そいつは多分致命的に引きこもりに向いてない。


 そしてなにより、異常なことは他にある。


 まず、通行する人間たちの着ている服や装飾品、これはどう考えても俺の知っている世界のものではない。

 鮮やかな色を基調とした中世ヨーロッパを彷彿とさせる服装の人々。

 さらに、空には見たこともない淡い青白の翼が生えた小型の竜のような生物が飛んでおり、通行する男の中には腰に剣を携えている者も見かける。


 “異世界転移”


 ふと、そんな言葉が脳裏に浮かぶ。


 あまりにも短絡的で、馬鹿馬鹿しい結論だとわかっていても、目の前の光景に対してそれ以外の言葉をつけることが出来なかった。


 どうやら俺は、異世界に転移してしまったらしい。



 ーーー



 自然公園を出て、連なる大通りを見渡すように歩く。


 しばらくたって気づいたことがある。


 どうやら俺が眠る際に身につけていたものは大体そのままこの世界に持ち込めたようだ。


 もっとも持ち込めたと言っても、持ち込めたのは腕時計や携帯ぐらいのものだったが。


 そして、この国の使用言語は、音声言語のみ日本語と一致する。

 ぶっちゃけこれが1番救いだった。


 文字言語がわからないため立て看板などに表記されていた文字は理解できなかったが、生涯で培ってきた勇気とコミュニケーション能力とを総動員して街の人間にこの世界、というかこの国のことをある程度聞くことができた。


『エガリタ王国』北西部、首都近郊都市『ピューレ』。


 それが今俺のいる場所の名前らしい。


 それで、この国の王が次の後継者選びを始めるやらで都市近郊に位置するピューレの街はとにかく活気にあふれている…そんな感じの話だ。


 ありがちな王道ファンタジーが繰り広げられそうで非常に結構なことだが、残念ながらこっちはそれどころではない。


 何しろ無一文である。そんなものに首なんぞつっこんだらそのまま首ごと持ってかれかねない。瞬く間に首無し雨宮の完成である。弱そう。


 とりあえずは生活拠点、その後なんとか餓死しない方法を見つけ出す。できれば働かない方針で。


 これだけは最低限今日中にやらなければならないと考えると、あまり悠長に時間を使っていられない。


 急がなければ。

 腕時計の針がちょうど真上を指した時、俺は決意を固めて宿屋に向かい歩き出した。


後編に続く

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