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即興会話劇シリーズ

即興会話劇

作者: 日向陽夏

「兄さん、ゲームをしましょう」

「ゲーム?」

「そうです。二十二歳Fラン大学中退独身ラノベ作家志望実質ニートごく潰しクズ野郎の兄さんに、十七歳Sラン高校現役首席の私が、勝負を挑みます」

「……どんな内容だ?」

「兄さんは作家志望らしいので、今から私が作家の資質を問います。それら全てを論破してみてください。一度でも負けたら、兄さんには今日から就活をしてもらいます。このルールでいきましょう」

「お袋にそうするよう言われたのか?」

「もし兄さんを言い伏せられたら五万の報酬が出ます」

「買収」

「これはビジネスです」

「でもそのゲーム不公平じゃないか?」

「そうですね。私は勝ったら五万、負けてもノーダメージですが兄さんはハイリスクノーリターンです」

「分かってんじゃねえか」

「人間はモチベの生き物ですものね。いいでしょう、もし兄さんが私に勝つことが出来たら……どうしますか?」

「一日だけ敬語をやめ、俺をお兄ちゃんと呼ぶこと。これでどうだ?」

「気持ち悪い男ですね、相変わらず。そんなだからいつまでもクズなんですよ」

「いちいち毒を吐くやつだ。受けるのか、受けないのか?」

「無論受けます。では、始めます」

「来い」

「兄さんは締切を守れない作家はクズだと以前言っていましたが、週に何枚原稿を書いていますか? ここ一週間を軸とし、原稿用紙換算で答えてください」

「……五枚かな」

「お話になりませんね。一冊の本は大体原稿用紙換算で三百枚程度です。一週間で五枚、ということは、執筆だけで三か月以上もかかります。大御所作家でもない使い捨て新人作家に三か月も一冊の本の為に付き合ってくれる編集者も読者もいません。ラノベは原稿以外にもイラストに時間も取られますし」

「最近のペースを基準に計算されても困る。最近は本調子じゃなくて……」

「本調子じゃない。俺は本気ではない。本気の俺はもっと凄い。やればできる。俺は天才だからな。ってところでしょうか」

「速い時は一日に四十枚書けるから!!」

「あと気になってたんですがワープロソフトでやたら一太郎にこだわる理由は何ですか?」

「いや、なんかカッコいいし。オリジナルのフォントとかもあるし」

「生意気なんですよプロでもないのに。お前なんかオープンオフィスで充分です」

「今どさくさに紛れてお前って言った! しかもオープンオフィスを馬鹿にした! オープンオフィスだって出来る子なんだからな!」

「心の声が。失礼」

「謝っているようで実は滅茶苦茶馬鹿にしてる!」

「唐突ですが、憂鬱と漢字で書けますか?」

「書けないかな」

「漢検準一級にも及ばないんですね。作家をナメてる?」

「い、いや漢検は関係ないだろ別に!漢字の知識がザコでも辞書機能でカバーできるし」

「辞書機能(笑)」

「鼻で笑うな……傷つくだろ」

「失礼。自分より劣っている者を嘲るのは楽しくて、つい」

「お前もたいがいクズだからな! スペック的な意味ではなく、性格的な意味で!」

「単刀直入に聞きます。兄さんは人付き合いが苦手ですか?」

「苦手だ。友達はそんなにいない」

「彼女もね」

「付け足すな」

「人付き合いが苦手だからラノベ作家を目標にしている?」

「確かにそれはあるな」

「それしかない」

「いや、それ以外にも理由はあるから! 俺の志を勝手に断言するよ」

「消去法で選んでいやいやその職業に就くとロクなことありませんよ。それに引きこもっていれば価値観は狭くなり、狭い作品しか書けなくなる。視野を広げれば新しい視野、着眼点で面白い作品を描くことだってできます」

「なんかすげーいいこと言ってるけど素直にありがたがることができない!」

「それは兄さんが可愛い妹の忠言すら聞かないどうしようもないクズ野郎だからでは?」

「可愛い妹は兄に対しクズ野郎なんて暴言は絶対に吐かない」

「やんちゃでおてんばという設定なので」

「そういうこと自分で言っちゃう!?」

「で、コミュ力たった3のカスが作家に向いてるんですかどうなんですか」

「俺が今まで読んできた本の作家の中に、家に引きこもって滅多に他人と話さない人もいる。だからその定義は全部に当てはまる訳じゃない。大丈夫さ。それに俺には、お前がいるからな」

「時給もらえれば話してあげてもいいですよ」

「金取んの!? どんだけシビアなの俺たちの家族関係!?」

「千円で」

「えげつねえ! 時給千円のバイトなんてそんなにないからな!」

「これでも負けてやってる方なんですけどね」

「鬼だ。お前……五万もらえるからって本気出し過ぎだろ……」

「では、最後の質問です」

「……」

「何故、作家になりたいのですか?」

「……書くこと。それが俺自身そのものだからだ。書けなくなったら、そんなのもはや俺ではない」

「そうですか。その言葉、忘れないでください」

「え?」

「では、私はこれで。兄さんの覚悟はよく分かりました」

「ど、どういうことでしょうか?」

「負けを認めるよ、お兄ちゃん」

「…………嘘だろ」

「約束でしょ、お兄ちゃん」

「……な、なんでお前が堂々としていて俺が恥ずかしくなるんだ……お前はもうプロだよ」

「お兄ちゃん、ゲーム楽しかったね」

「誰だよお前……」

「じゃ、さっそく遊びにいこっか、お兄ちゃん!」

「就活します! させてください!」

「最初からそう言えばいいのに、バカ」

「くっ……これで五万はお前の物か」

「何言ってんですか? あのケチんぼの母親が兄さんを就活させたところで五万なんて大金私に払う訳ないじゃないですか」

「……えっ? じゃあ、どうしてお前――――」

「それでは、これにて。私にはこれから用事があるので」

「もしかして……し、心配してくれてたのか?」

「……そうだよクソ野郎、悪いか!」

「照れ隠しにキレる癖やめろ!」

「ちっ、今度ステーキを奢ってください。それでチャラにしてあげます」

「あ、ああ。分かった。とびきり美味いステーキを奢ってやるさ。初任給で、な」

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