ルール説明
開戦を待ちきれないアリーナの興奮の中で、場内アナウンスが響き渡る。
「仕合い開始に先立ちまして、『武士道』の理念、ルールについて皆様にお伝えさせていただきたいと思います。
この停滞した日本の格闘技熱を爆発させるには、我々は劇薬が必要と考えています。時代に逆行していると言われようが、真に最も強い男を決められるルールで格闘技を再形成し、もう一度あの日見た夢を見られる舞台をこの『武士道』が作ります。
競技でもスポーツでも無く、武士道を持つ者たちが己の技、生き様をぶつけ合う場として、究極の格闘技を追い求めていきます。
そのために、3つの理念に基づき、『武士道』を開催いたします。
①ノールール
②無差別
③判定無し
以上の3つです。
まず1つ目、ノールールについてですが、世界で一番激しい戦いとなるように、極限まで禁止事項を削ります。もちろん殺し合いをさせるわけではないので、最小限の禁止事項はつくります。禁止されるのは、武器の使用、金的・目潰し・噛みつき、髪を掴む行為、後頭部への打撃、以上です。
肘打ち有り、グラウンドでの膝有り、サッカーボールキック(※1)有り、ヘッドバッド有り。柔道着を着たり、空手着を着たり、それぞれのバックボーンによって着用するものも自由です。
そしてグローブはオープンフィンガーグローブですが、これは手の動きを制限しないよう、また拳本来の強さが出やすいように極力薄くした特製のグローブなので、もはや素手感覚で戦うことが可能です。これによって、様々なジャンルの猛者が自分の長所を活かして戦えます。
次に2つ目、階級は作りません。階級を作ってしまった時点で、それは競技格闘技になってしまうのではないでしょうか。大会直前の軽量に向けてギリギリまで体重を絞り、軽量が終わったら体重を一気に戻す、それらは競技としての格闘技に勝つためのものであり、真の戦いの姿では無いと考えます。
ウェイトに制限を設けず、シンプルに目の前の男を倒すことのみを考える。柔よく剛を制す、スピードやテクニックがパワーを凌駕する。逆もまたしかり、そんな本来の仕合いの姿を『武士道』では追求いたします。
この制限により、軽量級のファイターが参加しにくくなる可能性はもちろんあります、しかし、より世間へアピールしていく意味でも、より迫力のある重量級中心になることはむしろ望ましいことだと考えています。
最後に3つ目、第三者による判定はありません。当然選手の命を守るためにレフリーストップは設けさせていただきます。ただ、基本ルールとしては20分一本勝負、判定無しという形で決めさせていただいています。
20分が経過した時点で、引き分けとなります。この『武士道』では判定を見据えポイントを稼ぐような競技格闘技の作戦は存在し得ません。
また戦っていただく舞台については、オクタゴン(※2)でもリングでもなく、直径10メートルの円形の舞台とさせていただきます。金網を使った戦術や、コーナーを使った戦術を廃止し、純粋にお互いの技のみをぶつけ合っていただくための、「武士道」が出した答えです。円形の舞台を囲うように観客席を設置し、コロッセオのような場内設計としています。
以上が『武士道』が提唱する新しい格闘技のルールです。
そして来る8月23日、『武士道』グランプリ開幕戦を行います!
世界中のまだ見ぬ強者と現在交渉中です、極上の16人を集めますのでどうぞご期待ください!8月にベスト16、10月にベスト8、そして12月31日に準決勝、決勝を行います。
そしてこのグランプリへの出場権を、本日の日本トーナメント優勝者が獲得します。いったい誰が本選へのチケットを獲得するのか、過酷なワンデイトーナメントで、世界最強決定トーナメントへの出場資格がある者か、見させていただきましょう。
それでは皆さま、大変長らくお待たせいたしました!ただいまより、日本格闘技の新しい形、「武士道」を開催いたします!!」
暗転するアリーナ、もう待ちきれない観衆のボルテージが最高潮に達している。
暗闇の中、大きなモニターに光が灯る。
※1 地面に寝ている状態や座っている状態の相手に対して、サッカーボールを蹴るように足の甲でキックを放つ技。
※2 主にアメリカの総合格闘技団体の、金網で囲まれた八角形の試合場。金網に追い詰めたり、金網を利用して立ち上がったりすることができる。