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『武士道』開幕

ただただ、いつか再び日本の格闘技が盛り上がれば、という願いのみで書かせていただきます。奇抜な技、超人的能力などは出さずに、とにかくリアリティを追求し、ぶつかりあう誇りを描きたいと考えています。

超満員に膨れ上がった、桜の花舞う埼玉スーパーアリーナ。


時代が動く瞬間を待ちわびる観衆の熱気で充満した空間、そこにある全ての光が落ちる。暗闇が、どよめき、とびはね、うねる。

スポットライトが舞台の一点に集中する、その瞬間。観衆の全てが、思わず力の限り叫んでいた。各々の中に眠った感情を爆発させる。アリーナが震える。


そこには、かつてカリスマと言われ、日本が世界に誇った総合格闘技界のカリスマ、桜木レイナが立っていた。そのアグレッシブなスタイルで、常にKO、一本勝ちを狙い、圧倒的な支持を得た誰もが憧れる男。

「皆さん、本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます!新格闘技『武士道』のコミッショナーを務めさせていただく、桜木です!」

再び巻き上がる豪雷のような大歓声。興奮の坩堝と化すアリーナ。日本から格闘技の最高峰の舞台が消えてから15年、観衆の15年間の想いが溢れ出している。


「皆さん、仕合いを始める前に少しだけお時間をください」

静かに語り出す桜木レイナ。選手としては引退しているが、まだ30代後半、鍛え上げられた肉体は健在で、短く刈り揃えられた金髪が光輝き、神々しいオーラを放っている。

「日本の格闘技は終わってしまったのか。いつかの格闘技ブームは去り、最強の称号は海を渡りアメリカに移ってしまった。かつてこの国に存在したはずの格闘技の熱は冷め、国民の多くも格闘技への興味を失っている。諦めずに海外へと挑戦していった格闘家たちも敗れ去り、日本最弱説という声まで聞こえてくるようになった。もう、日本は格闘技界の中心には、いない」

悲壮感漂うレイナの言葉が、観衆の心を締めつける。ここにいる、格闘技を愛する者たちにとって非情な現実を、レイナの言葉を通して深く受け止める。


「この日本という島国には、世界にも類を見ないほど、様々なジャンルの猛者が存在する。空手、柔道、柔術、相撲、それにキックボクシングやプロレスだってそう。全てのルーツは、昨日の自分より強く、明日の相手より強く在りたいという、日本人が持つ武士としての心にある。だから日本には古くから格闘技や武道が身近なものとして根付いていて、それぞれの道で発展させることができたのだ。やがて彼らは、それぞれの誇りを込めて、現代の総合格闘技へと挑戦していった。しかし、そのほとんどは競技化され縛られたルールの中で、適応に苦しみ敗れ去ってしまう。日本の武士道は現代格闘技の中では通用しない。それは競技化されたMMA(※1)、総合格闘技の中の定説となっていった」

波が立たない水面のように静まり返ったアリーナ。レイナの言葉を一つも逃すまいと、耳を傾けている。


「でも、もし、もしそれが果たし合いだとするのなら」

そう言うとレイナは、ぐるりと観衆を見渡し、長い間をつくる。静けさに包まれる舞台。観衆の唾を飲む音ですら聞こえてきそうだ。

「もし、ルールに縛られず、お互いのバックボーンを最大限に活かしながら生き様をかけられる、果たし合いだとするのなら。競技ではなく、格闘技として、武道を!武士としての心を!この日本から見つめ直し、最強を我らの元に取り戻す!それが、日本が世界の中心に再びなるために必要なことだと私たちは考える。幸いにも、15年の沈黙の時間で、私たちの国にはそれを実現できる怪物が育っている。彼らは、幼い頃からMMAという存在を肌で感じながら、各々のジャンルを追求してきた。狭い世界だけで鍛錬してきた昔とは状況が変わり、ついに武士道がMMAを理解したのだ。その上で、従来のMMAの枠を取り払った、強さだけを追い求めた異種格闘の舞台で彼らを戦わせてみよう、きっと彼らは輝くだろう。武士の魂、決して死なず。その強者たちが、今日、この『武士道』の舞台に集まってくれた!」

レイナは本物のカリスマだ。彼の言葉は観衆の心を掴んで離さない。待ちに待った日本格闘技復活の狼煙となるレイナの演説を、観衆は食い入るように聞き入っている。目の前の光景がまだ信じられない者、感極まって涙を浮かべている者、それぞれの感情、それぞれの思いでレイナだけを見つめる。


「時代を10年戻すのではない。時代を100年進めてやろう。最先端の、未来の、異種格闘を、『武士道』が見せる!!」

観衆の惜しみない大歓声が、レイナに注がれる。

「もし、それが果たし合いだとするのなら。みんな待たせて悪かった!!よく待っていてくれた!!!『武士道』の開幕だ!!!!」

アリーナが壊れる勢いの大歓声とともに、舞台上の光が落ち、レイナの姿が消える。暗闇の間を歓声が満たされる中、場内アナウンスが響き渡る。


「ただいまより、新しい最強を決める舞台、『武士道』日本代表決定トーナメントを行います!出場全選手の入場です!!!」


一回戦第一試合!

修斗新人王決定トーナメント王者!

修斗の未来!!

来栖未来!!!

VS 

U-FILE CAMPからの刺客!

UWF新時代の旗手!!

長岡亮平!!!


一回戦第二試合!

オリンピック柔道銀メダリスト!

復讐の銀狼!!

牙流尊!!!

VS

琉球空手最年少師範!

琉球の新しき伝説!!

月川天傑!!!


一回戦第三試合!

DEEPフューチャーキングトーナメント王者!

DEEPの赤き太陽!!

赤澤太陽!!!

VS

アブダビコンバット日本大会覇者!

骨折り柔術!!

比留間次郎!!!


一回戦第四試合!

パンクラスネオブラッドトーナメント王者!

流浪の般若!!

絵空誠!!!

VS

極真の破門生!

破壊の申し子!!

竹之内雄心!!!


一回戦リザーブマッチ!

K–1のニューヒーロー!

キックのプリンス!!

RUI!!!

VS

総合合気道創始者!

ミクスドマーシャル合気道!!

近藤達也!!!


「以上10名による、ワンデイトーナメントを開催します!!!」


選手が登場するたびにうねり起こる大歓声。それは、かつて日本に確かに存在した光景だった。15年ぶりに、この熱が日本に戻ってきたのだ。

団体、競技の枠を超えて集まった10人の男たち。それぞれが各ジャンルで名を馳せている、紛れもない新時代の主役ばかり。

絶望の中で、夢にまで見た、不可能だと思った、それでも諦めなかった舞台が、幕を開けようとしている。


※1 ミクスドマーシャルアーツ、総合格闘技のこと。

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