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東京レジスタント  作者: ふわふわGT
第一章:二人の宿命
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第二話:次への一歩

 その後、その女の子は藍川と名乗ったが、なぜか俺の神原和也という名前も知っていた。これが俺には少々気味が悪かった。

 だって、見知らぬ子、しかも家にズカズカ入ってきてウイルスがどうたらアンドロイドがどうたら言うような子が、自分の名前を知っているなんて気持ち悪い。

 しかも俺の住所まで知っているのだから増々怖い。

 「悪いけど、その堕落したなんたらの説明の前に頼み事があるんだけど」

 「何よ?」

 藍川は黒のソファーに座って、俺が出してきたカフェオレを飲んでいる。そして俺の出してきたクッキーを頬張りながら、俺がコンセントを差し直して生き返ったテレビのチャンネルをいじっている。

 別に俺が客を丁重に迎えようとしたわけではない、こいつに指図されただけだ。

 命令するな、と反抗すると、藍川は拳銃のようなものを取り出して「ちょうこがたれーるがん」やら、腕についた機械を見せて「はんじゅうりょくふぃーるど」やら言って俺を脅すのだった。

 もちろん俺には言葉の意味が分からなかったが、さっさとしなさいと藍川の顔に書いてあるようだったので、反抗するのは諦めた。

 ゆったりと座った藍川の姿は、黒いソファーの高級感もあって、やたら優雅に見える。その上、普通のちっちゃい椅子に座る俺はなんだかショボく感じる。

 「お前がここに来た理由だよ。なぜか俺の名前も知っているようだし、わざわざ荒廃地から来るってことはそれなりの理由があるんだろ?」

 「私もその話をしたいと思っていたけど、この格好で話を続けるのもどうかと思うわ」

 そういえば藍川は宅急便の格好をしていたな。色々忙しいことが多すぎてすっかり忘れていた。何か着替えが必要になるが、女の子が着るような服など持っているはずもない。

 「俺もそう思うけど、生憎お前に合いそうな服がないな……」

 「何でもいいわよ。ジャージでも何でも」

 「っていうかお前遠くから来たんだから、着替えとかあるだろう、普通」

 「申し訳ないけど、持ってないわ。荒廃地から来るのは大変なのよ。キャリーバックに旅行気分で来れるものではないわ」

 「まぁ、それもそうか……」

 クローゼットを探ってサイズが合いそうなものを探す。そして、いくつか引き出しを開けた時に、ちょうど良いものが出てきた。

 サイズはちょっと小さいかもしれないが、女の子が着そうな感じの服だ。

 「けどこれ妹のやつじゃん……」

 勝手に使っていいのだろうか。いや、こいつが帰るまでの時間くらいなら大丈夫だろう。洗濯してしまえば問題ない。

 「これでいいか? ちょっとキツいかもしれないけど」

 「ありがとう。妹さんがいるのね。後で挨拶しておかないと」

 「まあ妹はいるけど……って挨拶? なんで?」

 「ホテルを予約していないのよ。この後探すつもりだったけれど、あまり大したお金も持っていないから、泊めてもらえると助かるのだけれど」

 「やめてくれよ。冗談きついぞ。部屋も余ってないし。それにこれ以上お前といると俺の体力がもたないぞ……」

 謎のちょうこがたなんとかと、なになにふぃーるどで人を脅すようなやつと一緒にいるなんてまっぴらゴメンだ。知恵熱で頭がおかしくなる。

 「けれど、もうあんたは普通じゃないのよ? 歩くスパコンを野放しにしておくのは危険だわ。もし私がホテルに泊まるとしても、何らかの形であんたの行動を見れるようにするわ」

 「それって監視するってことか……」

 「堅苦しい言い方をするとね」

 はあ、と大きなため息が漏れる。どうして俺が監視されなければいけないのか。ただの高校生なのに。

 けれどもう戻れないのだろう。俺がこいつのビンタを止めたのは事実だし、盗聴器も仕掛けてあったのも事実だ。

 そして、もしこいつが俺の中のウイルスを除去してくれなかったら、俺は死ぬまでバカだったかもしれない。

 けど今なら、担任に有能だと言われても当然だし、どんな天才気取りも赤子の手をひねるように圧倒できる。

 何より、荒廃地からわざわざやって来た藍川に申し訳ないというのがある。

 ここで匙を投げることもできるが、それでは藍川が骨を折ったのをないがしろにしてしまう。荒廃地から来るのは楽ではないと藍川は言っていた。

 「ここに泊まったら、金が浮くんだろ?」

 「ええ。そうすれば、他のことにお金を回せるかもしれないしね」

 「泊めてやるよ。何日いたっていい」

 「そんな、一週間もいれたら十分だわ。それにあんたに負担がかかってしまうわ」

 「いいんだよ別に。少なくともお前の話聞き終わらないと。そうでないと後味悪すぎる」

 「ありがとう。じゃああんたの言う通りにさせてもらうとするわ」

 藍川は俺の妹の服を持って立ち上がった。

 「けどその前に着替えたいのだけれど」

 「どこか空いてる部屋を使えよ」

 藍川はリビングから離れた。風呂場の脱衣所を使うようだ。色んなことがあったせいで少し疲労が溜まったようだ。少しまぶたが重い。

 気づけばもう夜になっていた。外は暗く、出歩いている人も少ない。今日はゆっくり寝よう。と、家の鍵が開けられる音がした。

 「ただいまー」

 妹の神原彩乃だった。

 「あーもう、なんでこんな時に……」

 ちょっとめまいがしてよろけそうになる。

 確か今日、妹は友達の家に遊びに行くとかでかなり帰りが遅くなると言っていた記憶があるのだが。しかし妹が帰ってきた以上、藍川の存在がバレるのは必至。

 だからといって荒廃地から来た、とかウイルスを除去したとか言ってしまうのはマズいだろう。妹は藍川を追い出したがるだろうし、妹が厄介事に巻き込まれる可能性が高くなる。

 つまりどうにかして誤魔化すしか手段がないのだが、瞬時に名案が浮かぶわけでもない。

 妹が鞄を置き、大きく伸びをする。

 「私もう疲れちゃった。早くお風呂に入って寝ようっと」

 「ちょ、ちょっと待て。お前、今日は帰りが遅くなるとか言ってたよな。それにしてはちょっと早くないか?」

 「そのはずだったけど、友達に用事があったみたいで、あまり長くいられなくて」

 「そ、そうなのか」

 会話しながら、妹はスタスタと風呂場へ歩いて行った。早く引き止めないと面倒なことになる。

 「あーけどまだ風呂はいいんじゃないか? ちょっと一息ついてからでも遅くは……」

 俺が言い終わる前に、妹は風呂場の扉を開けてしまったようだ。「終わった……」と俺は落胆する。

 妹と藍川が何やら話しているようだ。しばらくして、妹が廊下をダッシュで渡ってきた。

 「お兄ちゃん」

 「な、何だよ」

 「お兄ちゃんに彼女さんができるなんて嘘だよね?」

 「はあ!?」

 「けどあの藍川って子が彼女だって言ってるよ?」

 すると、藍川が服を着替えて脱衣所から出てきた。そして、こっちに来てと合図をしている。俺は廊下を渡って藍川のいる方へ向かう。藍川が囁いてくる。

 「仕方なかったじゃない。妹さんが彼女ですか、って聞いてくるから、とっさにそうですって言ってしまったのよ」

 「いや、それ以外にももっといい方法があっただろうに」

 「例えば?」

 「えーっと……」

 「私も他に案なんてないわ」

 「じゃあどうしろって言うんだよ……」

 「今だけでもいいから、それっぽく振る舞っていればいいのよ」

 「そんなの嫌だよ。何でそんなこと」

 「私だって嫌よ。けどもう手段がないのよ?」

 「はあ……、分かったそうしよう」

 俺と藍川はリビングへ戻っていった。妹が怪訝そうな顔をしている。

 「お兄ちゃんに彼女なんてできると信じてないけど、その人は彼女さんなの?」

 「も、もちろんそうに決まってる。こいつは俺の彼女だよ」

 酷く顔が強張って、言葉を噛みそうになった。それは藍川も同じのようだ。

 「そ、そうそう。もうチョー仲がいいからー」

 「すごい……。お兄ちゃんはずっと独り身かと思ってたのに」

 「お前そんな風に思ってたのかよ」

 「だって文系で成績低いってなかなかに酷いよ? それだけで付き合うのは難しくなるのに。今ITのことがちっともできないなんて珍しいよ?」

 「それ言われると俺も弱るわ……」

 このご時世、コンピューター知識が皆無なのは致命的だ。俺は数学なんて出来た試しがないし、化学の元素記号さえろくに覚えていない。

 「あんた文系だったの?」

 「将来性ないだろ? フリーター、もしくはニートまっしぐらなんだよなあ」

 「哀れな身ね」

 「そう言われても仕方ないよな」

 妹は立ち上がって風呂場へと向かった。

 「とにかく今はお風呂に入りたいから。そうしたらすぐ寝るね」


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