第一話:神原和也への突然の通達
設定的にはSFなので、そうジャンルを指定していますが、内容的にはライトノベルっぽくしたつもりです。
是非、楽しんで頂ければ幸いです。
俺の家に宅急便の女の子が押し込んできた。
「宅急便でーす」とインターホンが鳴ってドアを開けたら、俺と同じくらいの背丈(少し俺よりかは低いかもしれない)かつ、俺と同じくらいの年齢の女の子が立っていた。
一瞬、バイトでもやってる子なのかなと思ったが、通販で注文した覚えはないし、なんだか変だと思った。俺が住所間違えてませんか、と聞こうとするが、それよりも先に「ちょっと失礼するから」と言って勝手に部屋に上がっていった。
で、今その少女は俺の部屋を物色している。
はっきり言ってこいつの目的が謎だ。
宅急便になりすまして窃盗するような犯罪でもなさそうだ。刃物も持っていないし、脅すようなことは一切していない。金目の物を探す様子もない。
そしてなぜかコンセントあたりを見ているようだが、増々わけが分からない。
とはいえ、何も聞かないのはすごく気持ち悪かったので、とりあえず何がしたいかだけ聞いてみようとする。
「あのー、何がしたいのか教えてくれる? やってることが俺にはさっぱり意味が分からなくて……」
「シッ!」
なぜか声を出すのを制止させられた。女の子は人差し指を口に当てていて、しかもちょっと怒っているようにも見える。……よく分からないけど黙って静かにする。何やらコンセントを抜こうとしているようだが、
「ちょっそれはパソコンの電源が――」
「だから静かにっ!」
……顔がマジで怒ってるよ。怖い。もう喋らないでおこう。
女の子はドライバーを取り出して、コンセントを分岐するやつを引っこ抜いた。そして俺の愛機のパソコンは鳴りを潜めた。もしかしたらデータが破損したかもしれないがもう諦めた。
そしてコンセントを分岐するやつをドライバーで分解して、電池を取り出した。
「盗聴器ね。まあ気づかなくても当然だけど」
「盗聴器って、なんで俺の部屋なんかに……」
「それは追々説明するから」
背筋に嫌な悪寒が走る。俺は別に悪いことは何一つしていない。文系で、成績低くて、将来性がないと担任に言われるようなやつとしか自覚していない。そんな一介のダメ高校生に盗聴器を設置する意味などあるのだろうか。
その後も女の子はコンセントをどんどん引っこ抜いて、盗聴器を二個くらい見つけた。お陰で家の電化製品は全部ダウンした。できればちゃんと差し直して欲しいのだが。
「もう他には無さそうね。じゃあちょっとこっち来て」
「もう……今度は何するつもりなんだよ」
嫌だと言うと怒られそうなので、言われるままに従う。
ある程度近づいたところで、女の子が俺の頭に何かを付けた。何かシールのようなものだが、電子音がピコピコ鳴っている。
「え、何だよこれ!? ちゃんと説明してくれって!」
「大丈夫だって。もう終わったから」
女の子は俺の頭に付いているピコピコ鳴るシールを剥がした。しかしかなり強引だったので痛い。
「痛えっ!」
「次はあんたに事情を説明しないといけないわね」
あれ、人が痛がってるのに無視かよ。冷徹なやつだ。
女の子はソファーへと向かっていった。途中、放り出した段ボール箱を踏んづけていった。段ボールはひしゃげてしまった。中身は空っぽだったようだ。
女の子はいかにもフカフカそうなソファーに座った。っていうかそれは俺のお気に入りのソファーなんだが。仕方なく俺は普通の椅子に、女の子に向かい合うようにして座った。
「で、事情を説明してくれるんだろ? こっちは頭混乱して困ってるんだ」
「あなたの脳内コンピューターはかなりスペックが低いそうね」
「まあ、そうだけど」
「戦争のことも学校の授業で習ったはずよね」
「あんま覚えてないけどな……」
こういう時にバカが災いする。歴史の授業は……ほとんど寝てた気がする。
「電脳化推進派と反対派の大戦で世界は二分されて、敗れた反対派の土地は荒廃した。勝利した国々は電脳化を進めて、今や全ての国民に脳内コンピューターを埋め込み、ネットワークでつなぐまでに至った。この国もそう」
いまいちはっきり覚えていないが、そんな事を習った気がする。
「私は、その荒廃地の生まれなの」
「え、そんな、どうやってここまで来たんだよ? 入国には許可がいるけど、荒廃地の人がそんな簡単に取れるものでもないだろ」
「まさか」
一息おいて、女の子は背もたれから背中を離し、座りなおして前のめりになった。
「こっそり、来たのよ。不法入国に当たるのだろうけど」
息を飲む。もしこれがバレたらこいつは捕まる。いや、こいつと関わりをもった俺も捕まるかもしれない。
「ごめんね、厄介なことに巻き込んじゃって。けど、あんたはもっと前から、厄介なことに関わっているのよ」
「それって、どういう意味だよ」
女の子は俺の頭を指さした。そして、さっきのピコピコ鳴るシールを取り出して、掌の上で遊ばせ始めた。
「ウイルスが仕込まれていたのよ。あんたの脳内コンピューターに。そしてこのシールがウイルスを除去したの」
「ウイルスって、誰が、何のために?」
「こうしてみればすぐ分かるわ」
突然、女の子が右手で俺の頬をビンタしようとした。速い、速かったが、俺はその手を掴んで止めた。
「今のは私の中でも結構本気の速さだったけど、余裕だったはずよ」
そう、余裕だった。手の速度、角度、軌跡、全てが一瞬にして感じ取れた。そして手の移動予測の情報が伝わって、反射的に腕が動いた。
これは間違いなく、脳内コンピューターの性能のお陰だ。そう実感するには十分だった。今までのスペックでは間違いなく遅れていた。五桁の掛け算にも苦労するようなスペックだったから。
女の子は俺の手をほどいて、ソファーに座ってテーブルに肘をついた。
「あんたが本来持っていたスペックは、そうね、ちょっとしたスーパーコンピュータくらいかしら」
「なっ、俺の脳内にスーパーコンピュータが入ってるのか!? こんな小さいのに?」
「そう。コンピューターをそこまでの小ささに凝縮しているのはそうないわ」
もし普通のスーパーコンピュータサイズで作ってみたら、どうなるのだろう。化け物のようなやつができるのだろうか。
「つまり、あんたはある意味危険なのよ。勝手に暴れられては困るから、ウイルスでスペックを制限されていたってわけ。そして盗聴器はあんたの動きを監視するために」
「けど、誰がそんなことを?」
「堕落した三人のアンドロイド。知らないなら今すぐ教えてあげる」