我が友 スカル君に捧ぐ
鳥が自由だと思っていたのは生前の話だ。死んでしまった俺に比べたら、彼らも存外に不自由なのかもしれない。眼窩から外れかけた目玉で空を見上げてそう思う。
もっとも見上げているのも俺の意思などではなく、岩場の野天にあおむけに寝かされているから仕方なくなのだ。
何しろ俺は死体だ。体の自由など一つもきくわけがなく、全ての感覚はすでに失われている。
ならばなぜ思考するのか……おそらくこれが俗に言う魂という器官の働きなのだろう。
その魂ってやつは未だこの肉体のうちに封じ込められている。生前に聞いた話の通りだとしたら、鳥が来て死肉をついばみ、ここから解き放ってくれるのだと、そういうことらしい。
だから俺はここに寝かされているのだが、さて、肝心の鳥がまだこない。
空は抜けるように蒼く、高く、高く、どこまでも高く広がって俺を呼んでいる。この低い場所から鳥さえも行けぬあの場所に行けるのだと思うと心が躍る。
あそこはどんなところだろう……夜見上げていた星たちのすぐ近くまでいけるのかしら、それとも、人の眼では見ることのできない何か素敵なところがあるのかもしれない……
不意に風が吹くのを感じた。空をすいっと鳥が横切る。
「やあ、来たな! 僕を大空へと導く者!」
もちろん発声する機能など失っているのだから声は出ない。心で叫んだだけだ。
だがそれが聞こえたのか、鳥がボクの真上で旋回を始める。見ているうちに一羽、もう一羽と鳥の数は増えてゆく。
今からあれについばまれるのだ。皮膚を食われ、肉を裂かれ、その奥底に潜んでいた僕が蒼空に生まれるのだ。
……死は鳥よりも自由だ。
旋回していた鳥の一羽が僕を安全な『食餌』だと判断したか、すいっと高度を下げる、それが僕の『目玉』が最後に見たものだった……