第3話「廻り始める歯車」
こんな拙い文章を読んでくださり、有り難う御座います。
ご意見ご感想もお待ちしています。
「…初めまして、久遠寺陽香さん。」
(…………ぇ……………な、なんで……わ、私の…なまえを?)
突然同席を求められた金髪の女性に名前を呼ばれた事に、私はすごく動揺した。
そして動揺した私に追い討ちする様に次に起こる事に、驚愕した。
それは私の肩にもたれ掛かるように倒れてきた愛花の重みを感じ彼女を見たら………
「………う…そ………な…にが…?……………ま、愛花!?」
人形の様な生気のない愛花に驚き、そこで辺りが静か過ぎる事に気付いた…辺りを見回して見ると愛花を含め、あれだけ集まって居た人達が文字通り停止していたのだ。
そう、まるで『時間が停止している』みたいに、瞬きもしていないし呼吸もしているようにも見えなかった、私と…あと二人を除いて。
「フフ……『まるで時間が止まってるみたい』?」
「………………っ!?」
金髪の女性に一言一句違わず言い当てられ、私の恐怖心を鷲掴みされている感覚に囚われた。
(……なんなの、この人達………)
それでも、少しでも落ち着きを取り戻そうと質問を投げ掛ける。
「………あなた達は…誰?……………愛花に、何をしたの!?」
「……そう。まだ弱いわね、良いわ少しだけ答えてあげる。私はノエル=ヴァレンタインよ、ノエルで良いわ。」
「…わたくしはノエル様に仕えさせて頂いているクシナで御座います。」
金髪の女性…ノエルに貴女もよと目線で促され銀髪の女性…クシナも名乗った。
「次に何をしたか、だけど…アナタの思った通りこの辺りの時間をほんの少し止めただけよ?」
(…時間を止めた?………何を言っているの………?)
陽香は確かに時間が止まったみたいと思ったが、それはあくまで『みたい』と思っただけだ、実際に時間を止める事なんて出来るはず無いなのだから。
でも、ノエルはそれを然も出来て当然と言う感じで軽く言ったのだ。
それで陽香は、また少しだけ心が負けそうになったが質問をどうにか続ける。
「…………ど、どうして…私の名前を知ってるの…?」
「ん~…それはまだダメね、答えられない。教えても貴女はまだ理解出来ないわ。…フフ…残念ね?」
「っ……愛花を、この子を!この人達を元に戻して!」
「それはもちろん戻すわよ、でも貴女とのお話が終わってからね? それとも聞きたい事はもう無いの?」
私は徐々に平常心を取り戻し、そしてノエルと名乗ったこの女に怒りを向け始める。
「…あなた達の目的は何?」
「それは貴女に…久遠寺陽香に逢うことよ?」
「……なんで私なの?」
「それもまだ秘密。」
「っ……茶化さないで!」
「茶化してないわ、事実よ。」
「それが…っ」
私が言葉を続けようとしたところで、今までノエルの後ろで静かに立っていたクシナから声が出た。
「…………ノエル様…そろそろ………」
「…あらもう? やっぱりこっちではダメね。」
そう言いノエルが席を立ち始めた。
「ちょっと!話はまだ…!」
「…いえ、終わりよ。貴女も頭に血がのぼり始めて質問どころじゃないようだし?」
「なっ!?」
「…そうね、なら最後に1つだけ……『貴女の世界はここだけじゃないわ』覚えておいて?………それじゃ、また直ぐに逢えるわ」
「……それでは、久遠寺陽香様……失礼致します。」
「!!…待ちなさ…ぃ……」
言い終わる前に二人は忽然と姿を消し、止まっていた時間が動き始めた。
「アレ? はるにゃん、立ち上がってどーしたの?」
「ま、愛花! 大丈夫!?」
愛花の声がして猛然と掴みかかるが
「はにゃ!? え?え?なにが!?」
「……愛花?………覚えて…無いの?」
「………ゴメン…はるにゃん…なにを言ってるの?」
「っ……此処に二人の女性が…居たでしょ?」
「……はるにゃん?……私たちは最初っから私たちだけだよ?」
その言葉に私は息をのんだ、周りに居た人達も一様に"どうしてここに?"といった反応しか無かったから。
(…みんなあの人達の、記憶がなくなってる………?)
「……はるにゃん?…大丈夫?…顔色すごく悪いよ?」
「……ぇ?……ぇえ、だいじょうぶ。」
ここで不意に目に入った時計を見てみると再度驚いた。
(………うそ………)
それもそうだ時間が経っていなさ過ぎたのだから、陽香がノエルと会話していたのは体感でも30分以上はしていたはずが、実際は喫茶店に入ってからの時間が5分位しか経っていなかったのだった。
「は、はるにゃん………今日はもぅ帰ろ?」
「………………ぅ、ん」
愛花に連れられ歩き出した陽香は、ノエルの最後の言葉を思い返した。
(私の世界はここだけじゃない…? どういう事なのよ)
同時刻、ノエル達が消えた後で陽香を見つめる二つの視線があった。
〈……向こうも動き始めか…〉
〈……その様ね…早速接触するなんて、ね〉
〈……奴等には、バレていないだろうな?〉
〈……問題ないわ…この世界では魔法の媒体が無さすぎて…彼女達もアレで精一杯だから〉
〈……なら、良いがの……しかしこの世界は『無さ』過ぎるな…〉
〈……そうね…息苦しくて嫌になるわ…早くやることやって還りましょ…〉
〈……準備も九割がた終わっているからの…今日明日には還れるだろう〉
そのまま二つ影は姿を消した。