青天の霹靂
王立魔術学院の演習場。
今日は、全生徒の魔導練度を測定する実技試験の日だ。観客席には王公貴族が並び、その中にはリーゼを追放したアシュレイ公爵と、勝ち誇った顔の義妹の姿もあった。
「次は……アシュレイ公爵家、元令嬢。リーゼ・フォン・アシュレイ」
試験官の呼び出しに、会場がざわつく。
「魔力ゼロの無能がなぜここに?」
「ノア様の助手として潜り込んだらしい」
と心ない陰口が飛ぶ。
リーゼは、ノアと共に悠然と演習場の中心へ歩み出た。彼女の背後には、ノアが大切そうに抱えた「巨大な金属製の槍」がある。
「ノア様、あのような無能と関わってはいけませんわ!」
観覧席から義妹が叫ぶ。リーゼはそれを無視し、隣のノアに指示を出した。
「ノア、準備はいい? 私の計算通りに、地上300メートルの大気成分を電離させて」
「了解です、先輩。……しかし、これ、本当に魔法陣なしで『アレ』を呼べるんですか?」
「ええ。空はあんなに青いけれど、上空には莫大なエネルギーが溜まってるわ。私たちはただ、その『通り道』を作ってあげるだけ」
ノアがリーゼの数式を元に、上空の一点へ向けて極薄の魔力線を伸ばす。それは攻撃魔法ではなく、ただの「導線」だ。
同時に、リーゼはノアに持たせていた金属槍――「避雷針」を地面に突き立てた。
「何をしているのだ! 魔法を放たんか!」
試験官が苛立って叫んだ、その時だった。
――カッ!!!!!!
空は晴れ渡っているというのに。
雲一つない青天から、巨大な銀色の龍が舞い降りた。
ドォォォォォォォォォォォン!!!!!
轟音と共に、演習場の標的が跡形もなく粉砕される。雷はリーゼの立てた槍に正確に吸い込まれ、地面へと逃げていった。
あまりの衝撃に、観客席の貴族たちは椅子から転げ落ち、義妹は悲鳴を上げて腰を抜かした。
「な……ななな、今のは……第九階梯の『審判の雷』か!? 詠唱もなしに、なぜ!?」
呆然とする試験官に、リーゼは耳を塞いでいた手を離し、平然と言い放った。
「いいえ。ただの『落雷』よ。上空の電荷を、この導体で誘導しただけ。魔法で雷を生み出すなんてコストの無駄。空にあるものを借りれば、魔力消費は1000分の1以下で済むわ」
「……先輩」
ノアが震える声でリーゼを呼ぶ。その瞳には、熱狂的な崇拝の色が浮かんでいた。
「すごすぎます……。僕、今、世界の理に触れた気がします。……もう一生、先輩から離れませんからね」
「ちょっと、重いわよ後輩くん」
リーゼは、真っ青な顔でこちらを見ている元実家の人々を一瞥した。
その目は、かつて自分をゴミのように捨てた人々を、もはや「研究対象」ですらない、ただの「背景」として処理していた。
「さあ、次に行きましょうか。次は……もう少し派手な『気化熱』の実験が必要かしら?」
会場を支配する沈黙の中、リーゼとノアの二人だけが、新しい時代の到来を予感させる足音を響かせて去っていった。




