ピエロ SS-ショートショート-
朝なのに、窓を締め切っているのに、中から結構な音量が聞こえてくる。
高温多湿な廊下からなんとか逃げ切るように教室に入った。
窓側の一番後ろ、日の差し込む机にはいっぱいの紙クズとスズランの生けてある花瓶が置かれていた。
迷わずその机に向かって歩いていく。
イスを引くと上には画鋲が敷かれていた。
私は授業を受けるためにそれらを全て片す。
クスクスと彼女たちの笑い声が聞こえてきた。
3時限目の体育が終わった。
女子更衣室に戻ると私のロッカーに彼女たちが 群がっていた。
帰ってきた私の存在に気がつくと彼女たちは相変わらずクスクス笑いながらこちらを見てきた。
一方で私も相変わらず自分なりの愛想を目一杯こめた笑顔でロッカーへ。
、、、?あれ、、、、、、?、、、、、、、、、ない。
私の制服がない。
時計の針は止まってしまった。
気力で針を動かす。
「え、えっ、、っと、わ、私の制服、知らない?」
「は?なに?どゆこと??」
どうしょうもなくなった私は体操着のまま教室に引き返した。
残りの4時限分、先生たちは私の身なりについて尋ねてきた。
私は俯くことしかできなかった。
しかし俯いていても耳は正常に働いていた。
いつもと同じ。
彼女たちはクスクス笑っていた。
チャイムが7時限目の終わりを告げた。
彼女たちは私を机ごと取り囲んだ。
「制服返してやるから今から更衣室に来い」
中はなぜかさっきよりもジメジメしている気がした。
「おい。下向いてたら顔が見えねえだろうが」
「はいww、上向きましょーねーwwww」
私の髪を彼女たちの誰かが引っ張った。
「『えー、なんだ、どうしてキミは体操服を着ているんだい?』www」
「ねえww、センコーのマネしないでよwwww」
彼女たちの声が響く。
「は?なにその顔」
鋭い痛みを左の頬から感じた。
「ねえww、跡残っちゃうってwwwww」
「うわーwww、もしかして泣いてる?ww」
「だーかーらー、下向くなって言ってんだろー、、、がッッ!!」
右足がお腹に突き刺さった。
必死に笑顔を取り繕う。
「wwww、どんな顔してんだよwwwwそうだww、写真撮ってあげるよwwwww」
「いーじゃんwwwマン凸垢のアイコンにしよーよwwwwwwww」
「おい、顔隠すな」
「笑って笑ってーwwww、はいw、チーズwwwwwww」
「見せてーww、えー?www、もっと可愛く撮ってあげないとーwwww」
「確かにーwwww、じゃーお化粧しましょーねーwwwwww」
「あーあww、アイライナーずれちゃったーwwwww」
「チークはいっぱい使ったほーが可愛くなれるからねーwwww」
「どーが撮るよーwwwwwさーんwww、にーいwww、いーちwww、どーぞ!wwwwww」
「、、、、、、、、、、、、」
「wwwwwwwぜんぜんしゃべんないじゃんwwwww」
「まーいーやwwwこれからもいっしょにあそぼーねwwww」
私は彼女たちを楽しませる、ピエロになっていた。
ご高覧ありがとうございました。
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今作は残酷描写を克明に書くことができました。’彼女たち’は4人グループです。全く笑っていない人物がリーダー格の子なのですが、この子はで単なる加虐嗜好(広義ではサディスト)で主人公をいじめています。他の3人は物珍しさに加わっている、ということですかね。共学のつもりなので男の子を登場させられなかったのが残念でした。しかし苛烈ないじめ描写の中に異性を混ぜると複雑になりすぎてしまう気がしたので見送りました。また’垢’のくだりは彼女たちが主人公を貶めるためになりすましているアカウントのことです。’時計の針’は隠喩で主人公が絶望したこと、それを誤魔化したことを表しているつもりです。’中はなぜかさっきよりもジメジメしている気がした’は梅雨明け特有の湿気にいじめの陰湿度合いを足したことを表現しています。
改めてここまでのご高覧ありがとうございました。




