2024年9月8日
私はボックス席から、外を眺めていた。
景色は灰色の都市から、田園の住宅地へと変わり、今は住居が数件だけまだらにある山村の間を抜ける。
ガタゴトと揺れる車体は、谷合の川を見下ろすように走っている。
私はすこしだけ背筋を伸ばして、谷底の川をじっと見た。
こちらの方は激しい雨が降ったのか、濁った水が激しく流れている。
濁流の音が、こちらまで聞こえてきそうなほどの荒れ具合だ。
谷の中腹には薄っすらと霧が立ち込めており、ケヤキやコナラの輪郭をぼやけさせる。
この川は目指している湖と繋がっているのだろうか。
もし、いきなり車外にほっぽり出されても、川を辿れば湖に辿りつけるだろうか。
くだらない妄想に耽っていると、曇った轟音の後、窓ガラスには私の顔が映った。
表情がないように見える私と、しばらくの間顔を見合わせ続ける。
無機質な雰囲気を思わせるのは、私の精神状況のせいなのか、それとも窓ガラスの屈折率のせいなのか。
感情のつかみどころのない顔は、再びの轟音ともに消えた。
東京から走り通づけている電車は山間部を越えて、片田舎の小さな駅経由して進んでいく。
電車はガタゴトと揺れながら山を越えて湖のある街へ向かう。
湖のある街に行くには、乗り換えが必要だ。
東京からの電車とは別れを告げて、次は私鉄が運行する3両編成のコンパクトな電車に乗り換える。
私鉄は登山鉄道を名乗っており、一部区間では急こう配もあるらしい。
私の目指す湖はこの駅から終点の位置にある。残り1時間弱の行程となった。
時間は16時を過ぎたころだ。
湖には17時30分には着きそうだ。