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ティアナ!~王太子に婚約破棄されたので、もうバカのふりはやめようと思います外伝~  作者: 狭山ひびき
3 勝兵は先ず勝ちて而る後に戦いを求むる

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9/23

1 華麗に情報収集するわ!(モニカが!)

お気に入り登録、評価などありがとうございます!


時系列は引き続き、本編ノベル4巻エピローグ後です。

 お茶会で華麗に勝利するには、事前の情報収集が不可欠よ。

 最初にどれだけの情報を集められるかで勝敗が決まるの。戦う前から勝敗が決まると言っても過言ではないわ。

 わたくしはずんずんと廊下を進むと、大勢いるバーバラ王妃様の侍女の休憩室へ向かった。

 バーバラ様の侍女は、バーバラ様を補佐する侍女たちが複数いるのだけど、それ以外に行儀見習いとして短期間入れられる貴族令嬢たちがいる。この部屋はそんな行儀見習い目的の侍女である貴族令嬢たちが使う部屋だ。


「モニカいる?」


 こんこんと扉を叩いて呼びかけると、扉が開いて、青い瞳に、ふわふわの赤い髪の女の子が顔を出した。


 モニカ・エイヴァリー。

 エイヴァリー子爵令嬢で、年はわたくしと同じ十七歳。

 半年前から行儀見習いで王妃様の侍女をしていて、わたくしが伯爵令嬢だったときに仲良くしていた子でもある。頭がよくてかなりの噂好き。本人は法務官になりたかったらしいんだけど、女性にはかなり狭き門で、しかも父親に反対されて仕方なく王妃様の元に行儀見習いの侍女として入った。目的は、ここでならいろいろ面白い情報が入りそうなのと、バーバラ様にうまく取り入れば、法務官に推薦してもらえるかもしれないという打算から。したたかな子である。だから好きだ。


「あらティアナ、どうしたの? お菓子はあまってないわよ? 最近、王妃様はあまりお菓子は召し上がらないから」


 妊娠中だから味覚に変化があったんですって、とモニカが肩をすくめた。

 もともと甘いものが大好きだったバーバラ様だけど、今は酸っぱいものや辛いものが欲しいらしい。だからお菓子の量が減ったの。

 アラン殿下を妊娠したときはやたらとお肉が食べたくなって、サイラス殿下を妊娠したときは果物が食べたくなったんだって。で、今は酸っぱいものと辛いものらしい。バーバラ様は「いったいお腹の中のこの子はどんな性格なのかしら?」と不思議そうにしている。


「お菓子じゃないのよ、モニカ。ちょっと協力してほしいことがあるの」


 すると、モニカはきらりと青い瞳を輝かせた。


「なに? 何か面白いこと? またなにかしでかすの、ティアナ」

「ちょっと、人を問題児みたいに言わないでくれる?」

「だって、ティアナほどいろいろ問題を起こす侍女……ううん、使用人ひっくるめても、このお城にはいないもの! 宝石泥棒にされかけたと聞いたときは爆笑したわ」

「なんでよ! そこは心配しなさいよ! 本当に薄情な女ねっ」

「だってティアナは落ちても這い上がって来るもの。心配するだけ無駄なのよねえ」


 労役食らって将来の王子妃の侍女に選ばれるとかありえないわ、とモニカが肩をすくめる。


「まあいいわ。ちょうど休憩中で、しかも今はこの部屋にはわたくししかいないの。ほら、妊娠を期に侍女の半分に休暇を与えたじゃない?」


 モニカに部屋に招き入れられながら、そう言えばそうだったわねとわたくしは頷いた。

 バーバラ様は警戒心の強い方だ。

 妊娠したせいでその警戒心が強くなり、侍女はバーバラ様が本当に信用できるもののみを側に残し、他は出産後落ち着くまで休暇を与えたらしい。心から信用できないものに周りをうろうろされたくないんだって。

 だからモニカは信用されている側ってことよ。モニカは裏表がないから、それがよかったのかもしれないし、頭がいいから重用されているのもあると思う。


 ……妊娠中じゃなかったら、わざと探りを入れたい家の人間を侍女にすることもあったってオリヴィア様は言っていたけど。


 監視の意味で側に置いて泳がせる。そんなこともしていたみたい。本当、バーバラ様って怖いわ。その点オリヴィア様の側は平和でいいわね!

 行儀見習いで受け入れている侍女は城に泊まり込みじゃないから、休憩室はいたってシンプルだ。

 ソファにローテーブル、本棚にライティングデスク。あと、各自が私物を置く棚がいくつか。


 ……わたくしはオリヴィア様が結婚してお城住まいになったら部屋を賜るんだけどね!


 わたくしもテイラーも、オリヴィア様が完全にお城暮らしになったら生活拠点がお城になる。

 だから、オリヴィア様のお部屋の近くにそこそこ広いお部屋をいただいているのよ!

 内装も、自費になるけれど変えたければ変えて言いと言われているし、今からどんなお部屋にしようか計画を練るのが楽しみで仕方がないの。そのためには……苦手だけど貯金を頑張るわ。

 モニカが紅茶を入れてくれたから、ミルクとお砂糖をたっぷり入れたミルクティにして飲んでいただく。テイラーの紅茶も美味しいけれど、モニカもなかなかの腕前よ。


「で? 何を企んでいるの?」

「企んでいるって人聞きが悪いわ! わたくしはオリヴィア様の侍女として最高の働きをするために情報を集めることにしたのよ」

「具体的に?」

「フィラルーシュから嫁いでくる予定の侯爵令嬢の情報が欲しいの」


 すると、モニカはぷっと噴き出した。


「懐かしいわね。昔っからティアナはお茶会前の情報収集に余念がなかったわ。伯爵令嬢じゃなくなって、侍女になっても変わらないのねえ」

「失礼ね、変わったわ! わたくしは、オリヴィア様のために情報を集めるんだから!」


 侍女の鑑でしょと言うと、モニカが「どうだか」と肩をすくめる。


「血の気が多いのは変わってないわよ。でもフィラルーシュから嫁いでくる侯爵令嬢ねえ……実はわたくしもあんまり情報を得られていないのよね」

「珍しいわね、ゴシップ好きのモニカのくせに知らないなんて」

「わたくしはゴシップが好きなんじゃなくて、目をつけられないように、危険に近づかないために情報を集めているのよ。危機管理よ危機管理。ティアナと一緒にしないでちょうだい」


 よく言うわ。面白おかしいネタがあったらすぐに食いつく癖に。


 ……でも、オリヴィア様についてはモニカの情報を疑ってわたくし、痛い目を見たのよね。危機管理っていうのは間違いないかもしれないわ。


 モニカはオリヴィア様が馬鹿って言われていた時も一貫して「あの方、とっても賢いわよ」と言っていた数少ない令嬢だ。

 モニカとオリヴィア様に接点はないのだけど、オリヴィア様の行動や発言を観察して導き出した評価は「天才」だったらしい。あの時は鼻で嗤ったけど、モニカの見る目は確かだったわ。

 モニカは一度立ち上がると、自分の私物を納めている棚へ向かった。そして分厚い手帳を持ってくる。久しぶりに見たわね、モニカのネタ帳。前見たものと色が違うから新しくなったのね。


「ええっと、名前はアイリッシュ・ルドマン侯爵令嬢。年は十九。縁談相手は、ファレル公爵家の長男、デイビス様よ」

「デイビス様って言えば二年前に婚約者を亡くしたんだったわね」


 デイビス様は子供のころから婚約していた女性がいたのだけど、その女性は二年前に馬車の事故でなくなっているの。

 デイビス様は「喪に服すから」と言って新たな縁談が持ち上がるたびに断っていたんだけど、とうとう断り切れなくなったのかしら。

 モニカは小さく頷いて、声を落とした。


「ここだけの話、デイビス様はこの縁談に乗り気じゃないみたいなの。だけどルドマン侯爵家はフィラルーシュ国の王家と血縁関係があるでしょ? 両国の関係強化なんて言われたら、断りようがないってわけ」

「ああ、それでお茶会ね。先にこっちの地盤を作っておこうって魂胆なんだわ」

「ご名答。ちなみにこのお茶会、ファレル公爵夫人から王妃様にお願いして、王妃様がお受けしたって形よ。だけどもうお腹が大きいからお茶会はオリヴィア様主催にして、若い人たちだけっていう名目で行うの」

「ってことは、ファレル公爵夫人は乗り気なのね」

「そうよ。というか……あんまり大きい声では言えないけど、デイビス様の亡くなられた婚約者のことが、ファレル公爵夫人はあまり好きでなかったみたいなの。気の弱い方だったから、公爵家に嫁ぐにはそぐわないって言っていたらしいわ」


 嫁姑問題ってやつね。よく聞く問題だわ~。女親ってあれなのよ、結局のところ息子を取られるのが嫌なの。だから嫁のあらを探して攻撃するのよ。お母様が言ってたわ! 中にはブロンシュ様みたいにそういうドロドロしたのがない方もいるけどね。


「で? そのアイリッシュ様ってどんな方なの」

「それがわからないのよ。フィラルーシュ国に親戚がいる子にも聞いてみたんだけど、どうやらあまり社交界に顔を出さない方のようで」

「つまり、気の弱い方なのかしら?」

「どうかしらね?」


 アイリッシュ・ルドマン侯爵令嬢が気の弱い方なら、またしても嫁姑問題が勃発するんじゃないかしら。あら面白そう。

 って、そうじゃないわ。


「気の弱い方ならオリヴィア様にマウントを取ろうなんてしないとは思うけど……」

「いや、普通はしないわよ。将来王妃になるのが決まっているも同然の方じゃないの。リスク管理ができる方なら絶対に喧嘩は売らないわよ」

「わかんないじゃない。レネーン・エバンスみたいな馬鹿がいるかもしれないし」


 ついでに言えば昔のわたくしのような、ね。

 モニカは嫌な顔をした。


「あんな性格破綻者が何人もいてたまるもんですかって言いたいところだけど……」

「結構な比率でいるわよ、お山の大将の座を狙う女」

「ティアナも含めてね」

「わたくしは違うわ! わたくしはオリヴィア様に天下を取ってもらって、その横で美味しい思いをするのよ」


 ふふふんと笑うと、モニカが額を押さえて首を横に振る。


「相変わらず図太いわね、ティアナは」

「わたくしの今の立場は図太くなければやってられないわ」

「そうだろうけど」


 モニカはネタ帳をぱたんと閉じるとカレンダーを確認する。


「お茶会まで十日ってところね。いいわ、調べられるところまで調べてあげる。……その代わり、今度オリヴィア様にわたくしを紹介して」

「なに? 王妃様から鞍替え?」

「ちょっと、人聞きの悪いことを言わないで! わたくしはただ、自分の将来にとってプラスになる人脈は作っておきたいだけよ」


 いまだに法務部で働くことを諦めていないモニカは、どうやらオリヴィア様も味方に付けたいらしい。


 ……ま、モニカは口は悪いけどいい子だし、オリヴィア様を攻撃したりしないからいっか。


 紹介だけなら簡単だし、モニカをオリヴィア様に近づけない方がいいと判断したらテイラーが遠ざけるでしょ。

 今はそれより、アイリッシュ・ルドマン侯爵令嬢の情報がちょっとでもたくさんほしいのよ。

 わたくしが「わかったわ」と頷くと、モニカは満足そうににんまりと笑った。




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