2 宝石選びの大切さがわからないの?
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「ティアナ、宝石一つ選ぶのにいったい何日かかるんですか」
そんなある日のこと。
わたくしが毎日せっせと宝物庫に向かってお勤めを果たしていると、テイラーがこめかみをぴくぴくさせながら言った。
……あら、テイラーってば宝石選びの大切さがわからないの? 侍女失格よ!
わたくしはムッと口をとがらせる。
「何日でもかかるわよ! 宝物庫にどれだけの宝石があると思っているの? じっくり吟味して、最良のものを選ばないといけないんだから!」
「あなたの場合、最良のものを選ぶ前のファッションショーが長いんです! オリヴィア様の侍女は現在わたくしとあなたの二人だけなんですよ! 王妃様ご懐妊の関係で、それでなくともオリヴィア様に仕事が集中しているんです! さっさと選んでください!」
「宝石は実際に身に着けて見ないとわからないのよ! 色とか雰囲気とかデザインとかっ! 適当に選んでオリヴィア様が恥をかいたらどうするの?」
「もっともらしいことを言っているようですが、ただ楽しみを取り上げられたくないというあなたの本心が透けて見えていますよティアナ!」
「いいじゃないちょっとくらい、けちっ!」
「け、けち……⁉」
「まあまあ、二人とも、ちょっと落ち着いて」
テイラーとぎゃーぎゃー言い争いをしていたら、オリヴィア様が困った顔で声を挟んできた。
「テイラー、ティアナに宝石選びを頼んだのはわたくしだし、こうなることはわかっていたでしょ」
「オリヴィア様……」
「ええ。テイラーが言いたいこともわかるわ。あのねティアナ、実は、昨日、フィラルーシュ国から侯爵家のご令嬢がこちらへいらっしゃると連絡があったの。ブリオール国の公爵家との間に縁談が持ち上がってね、顔合わせも兼ねて。縁談はほぼ確定だから、お城にお招きしてお茶会を開くことになってね。急遽、その準備をはじめなくてはならなくなったのよ」
「それって、来月のパーティーより早い日程なんですか」
「ええ、そうなの。二週間後よ」
わたくしは当然、くわっと目を見開いた。
「なんでもっと早く教えてくれなかったんですかっ! 二週間後のお茶会! ドレスや宝石類を急いで選ばなくちゃいけないじゃないですかっ! こうはしていられません! 宝物庫から先にお茶会の宝石を選んできますっ!」
「ティアナ、お茶会に身に着けるアクセサリーはアトワール公爵家にあるもので――」
「ワットール侍従長に宝物庫の宝石の使用許可をもぎ取ってきますっ!」
わたくしは急いで部屋を飛び出した。
オリヴィア様はわかってないわ。うちの国の公爵家に嫁ぐ予定の他国の侯爵令嬢よ? 初対面で舐められないように、完璧に仕上げなくてはいけないのよ! こういうのは最初が肝心なの! 最初にいかにマウントを取るかで決まるのよ!
……この国の女の頂点がオリヴィア様だってことを、きちんと叩き込んでやらなくちゃっ!
そうしないと、あの忌々しいレネーンみたいに、オリヴィア様を下に見るかもしれないじゃない! 侍女として、そんなのは絶対に許せないわっ!
わたくしはモノクルおじさんの部屋に急ぐと、書類仕事をしていたおじさんに向かって宣言した。
「オリヴィア様が参加する二週間後のお茶会に宝物庫の宝石を使う許可くださいっ」
モノクルおじさんはわたくしを見て、それからこめかみをもむと、短く一言。
「そういうのは、口頭ではなく申請書を出しなさいと前も言ったでしょう。はあ……」
と言って嘆息した。
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