アラン様、どうしてわかったのかしら?
あけましておめでとうございます!
2026年もどうぞよろしくお願いいたします。
伯爵夫人と話をした後は、わたくしはすぐにその足で目についた侯爵令嬢の元へ向かった。次は侯爵夫人、伯爵夫人、伯爵令嬢……と、できるだけ顔が広くてお喋りが大好きな方たちの間を蝶のように飛び回りながら「ここだけの話」をしていると、突然、むんずと手首が掴まれた。
驚いて顔を上げると、そこには仏頂面のアラン様がいる。
「何をしているんだそなた」
小声で咎めるアラン様に、わたくしは驚いた。
……アラン様、わたくしだって気づいてる?
モニカ渾身の別人メイクを施して、金髪のウィッグまでつけているのに?
気づいているのか気づいていないのかわからなかったので、わたくしはきょとんとした顔でとぼけて見せた。
「まあ、アラン殿下、ごきげんよう。お恥ずかしいことに、主人とはぐれまして、探しているところですわ」
「何を言っている。主人もなにもそなたは独身――」
確定ね。気づいているわ。
わたくしは肩をすくめると、扇でバルコニーを指す。
アラン様は怪訝そうな顔をしつつも、わたくしをバルコニーまで連れていってくれた。
バルコニーに人がいないことを確認して、わたくしはアラン様に向き直る。
「アラン様、わたくし、重要な任務の途中なんです」
「任務? なんだ、だからそんな変装をしているのか。てっきり私は、変装をしてまでパーティーに遊びに来たかったのかと……」
アラン様ってばわたくしを何だと思っているのかしら。失礼しちゃうわ。
「遊びに来たんならもっと遊んでますよ。わたくしは今、オリヴィア様の侍女としてとーっても大切なお仕事をしているんです」
「それは、オリヴィアがどこぞの伯爵令嬢を陥れたとかいう噂に関係しているのか」
「知っていたんですか?」
「報告が上がったからな。オリヴィアはパーティーの席で波風を立てるべきではないと放置の姿勢だが、サイラスがそろそろ限界に達しそうだ。だから代わりに確認しているんだが……」
ああ、魔王が降臨する前に、お兄様であるアラン様がどうにかしようと頑張っているのかしら。
でも、アラン様って女性の噂話に本当に無頓着だから、頑張ってもどうにもならない気がするわね。むしろ、オリヴィア様が火消しのためにアラン様を使っているって思われるんじゃないかしら。そうなるとマイナスだから、うん、大人しくしていてほしいわ。
「アラン様、確認してどうするつもりだったんですか?」
「そんなもの、決まっている。くだらない話をするなと注意を――」
「はい、ぶー。逆効果です。不正解」
「はあ?」
「アラン様は女性をわかっていません。男性が余計な口を挟むと余計に炎上するんですよ。こういうのは、真っ向から正論をぶち込んで諭すよりも、効果的な方法があるんです。目には目を、歯には歯をってね。自分たちが広めた噂で自分たちの首が締まるってわかったら、すぐに黙り込みますよ。ほほほほほ」
「……そなた、何をした?」
「それはもう少ししたらわかります。まいた種がそろそろ発芽してぐんぐんにょきにょき成長してくる頃ですから」
わたくしがしたことは、ほんの些細な種まきよ。
噂話が大好きで、オリヴィア様にも悪感情を抱いていない令嬢や夫人たちに、先日のお茶会の流れを正しく、事細かに、説明しただけ。
この場にはお茶会に参加していた夫人や令嬢もいるから、嘘なんてついてもすぐにわかるの。
だから、お茶会で何があったのか、ダルシー・ビンガム伯爵令嬢がどうして注意を受けたのか。あとはオリヴィア様がオスマンタスのお茶を提供し、アイリッシュ・ルドマン侯爵令嬢の実家のオスマンタスのお酒の話題に広げで盛り上がったとか、そうい話を、すっごーく詳しく説明してあげたの。
「ダルシー・ビンガム伯爵令嬢が小さな騒ぎを起こす以外には、大成功のお茶会でしたわ。ここだけの話ですけど……オリヴィア様は近いうちにまたお茶会を開催するみたいなんですの。仲のいい方たちだけを集めて。その日にロナウド様の商会の新商品の発表もあるみたいですわ」っておまけをつけて。
……オリヴィア様にはお茶会を開催してもらってロナウド様にはあの送風機を紹介してもらわなくちゃいけなくなったけど、ま、なんとかなるでしょ。ロナウド様はむしろ嬉々として紹介してくれそうだし。
サイラス殿下の婚約者が開くお茶会。そして、ロナウド様の商会の新商品の発表。この二つの餌をぶら下げたら、利に聡い夫人や令嬢なら絶対に飛びつく。
そして「オリヴィア様と仲のいい方たち」と言っておけば、この場でも絶対にオリヴィア様のために動くの。
だから、あの方たちはオリヴィア様に気に入られるべく、お茶会の正しい情報を、お知り合いたちに吹聴して回って根も葉もない噂の火消しに動いてくれるってわけ。
……女には女の使い方があるのよ。オリヴィア様はこういうことはしないけどね。
オリヴィア様に近づきたい方たちがこぞってダルシーの広めた噂を否定し、ついでにお茶会でダルシーがいかに馬鹿なことをしたのかを吹聴して回れば、あっという間に形勢逆転。笑われるのは妙な噂を広めた連中とダルシーってわけ。ほほほほほ!
「そなた、えげつないな」
「オリヴィア様を敵に回した彼女たちが悪いんですわ。ほーら、見てくださいあそこ。青ざめて縮こまっているわ! いい気味~! そのまま塩をかけられたナメクジみたいに小さくなっていてほしいものね」
「……はあ」
アラン様が頭が痛そうにこめかみを押さえて嘆息したけど、これ、わたくし、グッジョブって褒められてもいいと思うんだけど。
「さてと、わたくしの任務も終わったし、ばれないうちに退散します」
「待て、部屋まで送ってやろう。少し疲れたから休憩したい」
王族が会場を抜け出していいのかしら?
ま、アラン様がいいのならいいのかしらね。
わたくしはアラン様にエスコートしてもらって大広間から出ると、そのまま廊下を進んでいく。
廊下の窓の外はすっかり夜だけど、ちょっと曇っているのね。あんまり星が見えないわ。残念。
「……そなた、侍女は楽しいか?」
ゆっくり廊下を歩いていると、アラン様がぽつりと訊ねた。
わたくしは顔を上げ、小さく首を傾げる。
「まあ、それなりに? 労役地にいた時とは比べ物にはならないですし、身分が剥奪されたわたくしが一人で生きていくのは大変ですから、オリヴィア様の侍女はわたくしにとって最高のお仕事だと思いますけど」
「そうか」
わたくしの答えが気に入ったのかどうかはわからないけれど、アラン様が口端を持ち上げて笑う。
「そなたが楽しいのなら、それでいい」
どういう意味なのかしら?
よくわからなかったけれど、着飾ってアラン様にエスコートをしてもらいながら歩いていると、まるで一年前に戻ったような気持ちになる。
……悪く、ないわ。
まるで、ほんの短い間だけ見せられている夢の中のようね。
悔しいかな、わたくしの夢に出て来る王子様は、一年前と変わらずアラン様なのよ。
……ずるいのよねえ。
嫌いになれたらとっても楽なのに、アラン様はわたくしに、嫌いにならせてくれないの。
今日、星が出ていたらよかったのに。
そうしたら揶揄い半分で、「星が綺麗ですね」って、言ってあげたのにね。
※
結論から言えば、ヤギ女はお山の途中から転がり落ちたみたいね。
パーティーでオリヴィア様を悪者にしようとした報いを受けて、現在、ダルシーを中心とした小物たちは社交界で肩身の狭い思いをしているようよ。
わたくしの暗躍と……あと、魔王が裏からちょっと手を回したみたいだけど、魔王の行動は知らないわ。だって怖いもの。
ちなみに、デイビス様とアイリッシュ様の縁談も、まとまったみたいよ。
あの二人がこの先どんな夫婦生活を送るのかどうかはわからないけれど、お互いがお互いの性格を尊重しているみたいだから、悪いようにはならないんじゃないかしら?
でも、あーあ。
せっかくパーティーに潜入できたんだから、一曲くらい踊っておけばよかったわ。ざーんねん!
お読みいただきありがとうございます!
これにて、いったん一区切りです。
続きは、また時間ができた時に書こうと思います(*^^*)
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