んもぅ、仕方ないわね♪
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……あぁ、暇だわ~。
パーティー当日。
わたくしは支度を終えたオリヴィア様を見送って、クッキーをもぐもぐ食べながら、薄暗くなった窓の外を見ていた。
テイラーはお化粧直しなどが必要になった時のために、王族の控室で待機しておく仕事があるからオリヴィア様にくっついて行ったわ。だからこの部屋には今、わたくしだけなのよね。
「そろそろパーティーがはじまった頃かしら? いいなぁ」
華やかに着飾って、踊ったりおしゃべりしたり。
もちろん気に入らない令嬢とかもいるから、楽しいだけじゃないけど、パーティーはとってもキラキラしていて素敵なの。
つい一年前までは、わたくしもあの中にいた。
キラキラに着飾って、華やかなパーティー会場の中を、さも自分が主役みたいな顔で闊歩していたわ。
たった一年前のことなのに、それがひどく懐かしいのは――たぶんだけど、わたくし自身があの頃とだいぶ変化してしまったからなのかもしれないわね。
パーティーは羨ましいけれど、今のわたくしがパーティーに行ったところで、前と同じにはなれないし、前と同じようには楽しめない。
社交界は、一度転がり落ちたものにとても冷淡だもの。
わたくしはクッキーを食べ終わると、新しいお菓子を物色するために棚に向かった。
その時、ついダンスを踊るみたいにくるくると回っちゃったんだけど、誰も見ていないからいいわよね。
一年もまともに踊っていないのに、意外と踊り方を覚えているものだわ。
鼻歌を歌いながらステップを踏んで、くるっとターン。棚からお菓子の箱を取って、またくるっとターン。ふふふ、楽しくなってきた。
一人でそんな遊びをしていると、コンコンと扉が叩かれた。
オリヴィア様不在なのに、いったい誰かしらと思って扉を開けると、そこにいたのはモニカで、わたくしは目をぱちくりとさせちゃったわ。
モニカは子爵家の令嬢だから、今日のパーティーの招待状は届いていないはず。
そして通いの侍女だから、いつもならこの時間には帰宅している。
「通いの侍女に夜勤なんてあるの?」
思わずそんなことを訊いちゃったんだけど、モニカはそれには答えず、わたくしを背中を押して部屋に入って来た。
ぱたんと扉を閉めた後で、モニカが言う。
「今日は王族の控室にいるようにって王妃様から指示をもらっていたのよ。ユージーナ王女がいらっしゃるでしょう? 何かが起きた時にすぐにフォローに入れるようにって」
「ああ、だから着飾っているのね」
何かが起きた時にパーティー会場に入るには、侍女のお仕着せは目立つ。だからだろう、モニカは淡いブルーグレーのドレスを着て、髪を結い上げていた。これならパーティー会場に紛れても目立たない。
「でも、控えているようにって言われたのにこんなところにいて言いわけ?」
「よくはないけど緊急事態よ。ヤギ女がやらかしたわ」
「なんですって?」
ヤギ女ことダルシー・ビンガム伯爵令嬢。伯爵家以上の家に招待状が配られているから、あいつがパーティーに参加していても不思議ではない。
だけど、やらかしたってどういうことかしら。
「詳しく」
モニカは頷いて、パーティー開始早々起こった騒ぎを説明してくれた。
「発端は、ダルシーがグリーン侯爵夫人に先日のオリヴィア様主催のお茶会について愚痴を言ったことだったわ」
グリーン侯爵夫人と聞いて、わたくしは記憶を探った。グリーン侯爵家はダルシーの母方の従兄が当主で、ペネロペ・グリーン侯爵夫人は侯爵の後妻よ。侯爵は前妻を病気で亡くしていて、前妻との間に子供がいなかったから再婚したの。
ペネロペ夫人との再婚は、ビンガム伯爵家が口添えでまとまった話だったと聞くわ。
ペネロペ夫人は前々からグリーン侯爵のことが好きだったんだけど侯爵に相手にされていなかったんですって。だけどペネロペ夫人の実家の子爵家はとっても資産家だから、あんまり裕福ではないグリーン侯爵家への融資とセットで縁談がまとまったのよ。侯爵自身は乗り気じゃなかったみたいなんだけど、ビンガム伯爵家が親族たちを丸めこんだって噂だわ。
つまり、よ。
ペネロペ・グリーン侯爵夫人は、ビンガム伯爵家に恩があるってこと。当然、その娘であるダルシーとも仲良くしているはずよ。
「あのヤギ女、侯爵夫人を捕まえて何を言ったの?」
「お茶会で、オリヴィア様に侮辱されたって言ったそうよ」
「なんですって?」
「ヤギ女考案のヤギの食べ物をお茶会に出せって言ったじゃない? お茶会の会場が地味だったから、オリヴィア様のために気をきかせたのに叱責されて恥をかかされた、ですって」
……はあ~?
あのヤギ女のドレスに飾り付けてある花を残らず毟ってやろうかしら。
「それどころか、オスマンタスのお茶の件を持ち出して、自分が考案した花のお菓子やお茶の手柄を横取りにしたとか、自分はアイリッシュ・ルドマン侯爵令嬢のフォローを頼まれていたのに席を遠ざけたとか、最近アイリッシュ様が会ってくれないのはオリヴィア様が自分の悪口を吹き込んだからだとか、好き勝手なことを言ってね」
ヤギ女、いい度胸ね。というか、オリヴィア様をそんなに侮辱したしりたら、魔王が降臨するわよ。あいつ、命が惜しくないのかしら。
「ダルシーだけならたいした求心力はなかったんだけど、そこにペネロペ・グリーン侯爵夫人が加わったからちょっと面倒くさいことになりそうなのよ。オリヴィア様をよく知る方はもちろんそんな話に耳を貸さないけど、オリヴィア様ってほら、以前から社交に消極的で、こういう言い方をするのはなんだけど……」
「お友達が少ない」
「身もふたもないわね。わたくしは浅いお付き合いしかしていなかったって言おうと思ったのに」
同じことでしょ。わたくしとモニカしかいないこの場でオブラートに包む必要なんてないわよ。
オリヴィア様はそこそこ年上のおじさんやおばさんにはとっても受けがいいんだけど、令嬢とか比較的若い層の夫人たちにはそうでもないのよ。
女は女同士でつるむでしょ?
社交場に顔を出さないオリヴィア様は、どこのグループにも所属していない。
だからいまだにオリヴィア様の人となりをよく知らない令嬢や夫人は多いのよ。
馬鹿って評価は覆されたけれど、その話と一緒にオリヴィア様がどんな方なのかって情報が広まっているのかと言えばそうじゃないのよね。
オリヴィア様も、社交ができないわけじゃないんだけど、あの方はどちらかと言えば聞く側なの。自分からお喋りをするより、相手の話を聞いて相槌打ってフォローするような方だから、自分からお友達の輪に入れて~って行くようなタイプじゃない。人の悪口も苦手だから、そういうのを聞くと困った顔をしちゃうし。
はっきり言うと、同じ年代の同性受けするタイプじゃないのよ、オリヴィア様って。
特にわたくしたちくらいの年代は、意味もなくキャーキャー騒いだり、恋愛話や噂話で盛り上がったり、嫌いな人間に意地悪したりすることで結束力を強めるのよね。
オリヴィア様、そのどれもが苦手だから、さもありなんって感じ。
「で、話をまとめると、今、パーティー会場ではオリヴィア様のアンチが増えていて、そいつらが負け犬の遠吠えよろしくワンワン吠えているってことね」
「そういうことよ」
「で、その状況をほっぽり出して、あんたはここで何をしてんのよ。騒ぎが大きくなって魔王が降臨する前に何とかしてきなさいよ」
「魔王?」
「こっちの話よ」
危ない危ない。サイラス様を陰で「魔王」なんて呼んでいるのがばれたら大変だわ。
モニカは怪訝そうな顔をしたけれど、無駄話をしている暇はないと思いなおしたのか、わたくしの手からお菓子の箱を取り上げて言った。
「わたくしがここで何をしているのかって訊いたわよね。あんたを連れに来たのよ。こうなったら目には目を歯には歯を、悪口には悪口で対抗よ。アンチ・オリヴィア様に対抗するために、アンチ・ダルシーの集団をつくるのよ。ティアナはそういうの得意でしょ」
……こいつ、わたくしを何だと思っているの? まあ、得意か不得意かって聞かれたら、得意だけども。
「テイラーさんからも許可をもらっているわ。ドレスは持っているわよね。支度はわたくしがしてあげるから、急ぐわよ!」
どうやらテイラーも堪忍袋の緒が切れる寸前みたいね。
「ぱっと見、ティアナだってわからないくらい変装しなくちゃいけないんだから、ほら、急いで!」
まさかこんな形でパーティーに参加することになるなんて思わなかったわ。
わたくしは早く早くと急かすモニカに急き立てられてお菓子をやけ食いするのを諦めると、侍女の控室のクローゼットを開けた。さ~って、どれにしようかな~。
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