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ティアナ!~王太子に婚約破棄されたので、もうバカのふりはやめようと思います外伝~  作者: 狭山ひびき
6 荒療治という名の洗脳作戦

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気弱? なにそれおいしいの?

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 次の日の夜――


「本当にうまくいくんですか? 知りませんよ、わたくし」


 わたくしは金髪のウィッグをかぶり、その上から真っ白いシーツをかぶって、アラン様に手を引かれながら庭を歩いていた。

 月と星明かりで足元は何とか見えるけど、こんな夜中にこんな格好で庭を歩くってどうかと思うわ。

 シーツをかぶっているから前が見えにくいため、アラン様に手を引かれていないと進行方向がわからない。きゅっと繋がれた手にちょっぴり懐かしさを覚えながら訊ねると、アラン様が振り返らずに答えた。


「ヨーク爺が言うんだ。やってみるしかないだろう」

「あのおじいちゃん先生の言うことってどこまで信じられるんですか?」

「……わからん」


 わからんってちょっとどうなの?


「ヨーク爺は精神医療の権威ではあるんだが、診断の三分の一くらいは勘なんだ。そして何故かその勘が結構な確率で当たる。今回も勘の一種だとは思うんだが……」


 アラン様がちらっとわたくしを肩越しに振り返る。


「……うまくいくかどうか、私としては何とも言えない」

「ちょっと、夜更かしはお肌の大敵なんですよ」

「しょうがないだろう、そなたが一番パトリスの体格に近かったんだから」


 そういう問題じゃないのよね。

 わたくしはむっと口をへの字に曲げる。

 わたくしは今、デイビス様の亡くなった婚約者「パトリス・ロッキンガム伯爵令嬢」の――幽霊のふりをしている。


 そう、幽霊よ。お化けよお化け!

 あの耳の遠いおじいちゃん先生は、荒療治と称して、パトリス様のお化けのふりをしてデイビス様に会いに行けって言ったの。


 デイビス様がパトリス様の言葉以外受け付けられない状況だから、パトリス様に扮して言葉を届けるしかないだろう、だって。

 本当かしらって思うけど、他に方法がないからとりあえずやってみるかってアラン様が判断したのよ。

 ヨークおじいちゃんが直接会って診断しながら導くことができればよかったんだけど、デイビス様は医者に診せようとしたら気絶するからこの方法しかないって言うのよ。

 風邪とかの病気の場合は気絶していても診断は可能なことがあるけど、さすがに精神的なものは気絶していたらカウンセリングも何もできないもの。


 そして、大勢でデイビス様の元に言ったらデイビス様が怪しがるから、お化け役のわたくしとアラン様だけにしたの。

 デイビス様はアラン様のワンちゃんの離宮で寝泊まりしているでしょ? ワンちゃんたちが騒いだら大変だから、言うことを聞かせられるアラン様が一緒でないと困るのよ。


「ティアナ、いいか? パトリス嬢は優しくて繊細な令嬢だった。くれぐれも、いつもの調子で話すなよ? わかったな?」

「わかってますよ。気弱そうに話せばいいんでしょ?」


 お肌を犠牲にして夜更かししたのよ? わたくしだってやるときはやるわよ。二回目なんてあったら嫌じゃないの。


「そうだ。それからできる限りデイビスに優しく声を掛けてくれ。いいか。心配そうに優しく、だぞ? くれぐれもいつまでも泣くなと怒鳴るなよ」

「わかってますってば」


 もう、アラン様は心配性なのよ!

 口をとがらせると、アラン様が「不安だ……」とつぶやいたけど、わたくしにこの役をさせるって決めたのは最終的にアラン様でしょ!


 離宮に到着すると、扉の前でワンちゃんたちが待っていた。どうやら気配を察知して部屋から出てきたみたい。

 尻尾を振ってご機嫌なワンちゃんたちに、アラン様が「しーっ」と口元に人差し指を立てて見せる。すると賢いワンちゃんたちは、一言も鳴かずにアラン様の足元に整列してぴたっとくっついた。


「よしよし、いい子だ。部屋に帰って寝なさい、夜だからな」


 一匹ずつ頭をなでてやると、ワンちゃんたちはとてとてと自分の寝床へ歩いていく。ご主人様に撫でられて満足したらしい。


「デイビスの部屋は二階の東の端だ。他の世話係にはすでに話をしてある。行くぞ」

「はい」


 わたくしはかぶっているシーツの端を片手できゅっと握り、もう片手をアラン様に引かれながら階段を上る。

 階段を上り切ると、東の廊下に向かい、足音を立てないように慎重に部屋に向かった。


「いいか。枕元に立ったら、起きるまで優しく声をかけ続けるんだぞ」


 わたくしはこくりと頷く。

 部屋の扉をアラン様がゆっくりと開けて中を確認し、扉を大きく開いた。

 ベッドの上ではデイビス様がすぴすぴと寝息を立てている。

 アラン様はデイビス様に気づかれないように棚の影に隠れて待機。

 わたくしはそーっとそーっとベッドの枕元まで歩いていくと、ささやくような小さな声でデイビス様に話しかけた。


「デイビス様……デイビス様……起きてください、デイビス様……」


 だけど、ちっとも起きやしない。


 ……この方、繊細なの? 図太いの? どっちよ!


 繊細な人は眠りが浅いって聞いたけどあれは嘘だったのかしら?


「デイビス様……デイビス様……」


 何度も何度も声をかけるも、デイビス様はむにゃむにゃと幸せそうな寝言を言うだけ。


 ……だんだんイライラしてきたわ。


 わたくしはお肌が荒れるのも我慢して夜中にこうして起きて幽霊になるという任務をまっとうしているのに、この方は熟睡中。いったい誰のせいでわたくしがこんな苦労をしていると思っているのかしら。

 わたくしは「デイビス様……」という呼びかけを三十回ほど繰り返して、とうとう堪忍袋の限界に達したわ。


「起きろっ言ってるのが聞こえないの⁉ さっさと起きろーっ‼」

「ばっ、ばかっ」


 遠くからアラン様の声がしたけれど知らないわ。起きない方が悪いのよ!


 頭に来たわたくしは、デイビス様の枕をひっつかむと、えいやっと力を入れて引き抜いた。





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