「品格というものを大切にしなさい」という言葉の意味がわかったわ!
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お茶会開始十分前になってくると、つぎつぎと招待客が入室してくる。
招待状の確認と席への案内は上級メイドたちがしてくれるので、わたくしたちは部屋の端で問題が起きていないか監視するのが仕事よ。
サロンに入って来た令嬢たちは、部屋の隅に見慣れない機械を見つけて驚いているみたいだけど、さすがにお城のお茶会で騒いだりはしない。さすがは、お城のお茶会に招待される家の令嬢って感じよ。
……ただ一人、場違いなのがいるけど。
わたしはつい先ほどツンとすました顔でサロンに入って来たダルシー・ビンガム伯爵令嬢を見てげんなりした。
さすがに、前にケーキ屋で見た時みたいに全身に造花を飾っているわけじゃあないけど、それでもドレスの上半身にはたくさんの造花が縫い付けられている。
ちなみにドレスはミントグリーンで、縫い付けられている花は黄色だピンクだ白だ青だとカラフルなので、まるで野原よ。よく言って花壇かしら。
テイラーもぽかんとした顔をしているわ。
「なるほど、ティアナが言いたいことはわかりました」
「いっとくけど、前見た時はもっとひどかったわよ」
「あれよりですか。……それはすごい」
別に、ドレスに花を飾るのが悪いとは言わないわ。だけど限度ってものがあるのよ。
ちなみにダルシーは頭にもいくつも造花をぶっ挿している。
「ビンガム伯爵家は、花屋に出資でも?」
「んなわけないでしょ。あいつの趣味よ」
「……オリヴィア様とテーブルを離して正解でした」
そうよね。大事なオリヴィア様に変な女を近づけたくないわよね、テイラーならそう思うと思ったわ。
ヤギ女は扇を広げて(扇も花柄よ! 目がチカチカするわ!)、わたくしの方をちらちら見ながら席に向かう。どうせ「わたくしは招待された側、あんたは使用人」とか思ってんでしょ。転べばいいのに。
この場には伯爵家の中でも地位が上の令嬢や、侯爵家や公爵家のご令嬢や年若いご夫人ばかりだから、面と向かってあのおかしなドレスについて言及する方はいない。
というか、唖然として言葉もないのかもしれない。
モノクルおじさんがよく「品格というものを大切にしなさい」なんて言うけど、わたくし、ようやくわかった気がするわ。確かに品格は大切よ。
バーバラ様からお茶会の様子を見てくるようにと指示を受けていたモニカが、こそこそとわたくしとテイラーの元に近づいてきた。
「ねえ、あれ、あのままにしていいの? ドレスはともかく、あの頭はひどいわ」
「ドレスも大概よ。まあ頭に造花をわんさかとぶっ挿しているのもひどいけど」
わたくしとモニカの会話を聞いて、テイラーがそっと息を吐く。
「王妃様がこちらにいらっしゃれば、理由をつけて退出させるかもしれませんが、本日はオリヴィア様のお茶会ですから……このままで構いません。あとあとビンガム伯爵家とファレル公爵家から苦情が入る可能性を考慮すれば、多少のことは目をつむるべきです」
「ビンガム伯爵家はともかく、ファレル公爵家は事情を説明したらわかってくださるのでは?」
わたくしもモニカと同意見よ。だけどテイラーは首を横に振る。
「アイリッシュ・ルドマン侯爵令嬢はわたくしにとってまだ未知数な方です。そちらの動きを考慮できませんので、今回は流します。何故なら、ビンガム伯爵令嬢は、ファレル公爵夫人のごり押しで参加なさるのですから、問題が起きればファレル公爵家に責任を転嫁できます。こちらが不要な波風を立てる必要はありません」
責任を取ってくださる方がほかにいるのですから、とテイラーは真顔で言った。
モニカが「確かに」と頷いている。
……なるほどね。ヤギ女が問題行動を起こせば、ファレル公爵家に責任転嫁して、ついでにアイリッシュ・ルドマン侯爵令嬢の頭も抑えつけられるって寸法ね。
こういうやり方もあるのかと、わたくし、一つかしこくなった気分よ。さすがはオリヴィア様至上主義のテイラーだわ。
お茶会開始時間五分前になると、テイラーがオリヴィア様を呼びに部屋を出て行く。
扇をパタパタしているお花畑のヤギ女と目が合った。
ヤギ女はわたくしを見てにんまりと笑ったけど、わたくしはむしろそれがおかしくて仕方がなかったわ。
この場ですでにあいつはがけっぷちに立たされたわけだけど、気づいていないんだもの!
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