6 わたくし、これでも義理堅い方なのよ
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「オリヴィア様、お手伝いに来ましたよ~」
サロンに入ると、オリヴィア様のほかにお腹の大きなバーバラ王妃様がいた。
元気よく入室したわたくしにオリヴィア様がふんわりと微笑み、バーバラ様がこめかみを押さえる。
「ティアナ、元気なのは結構ですけれど、節度は大切ですよ」
しまったわ。バーバラ様がいるのなら静かに入ったのに。これ、絶対にモノクルおじさんに話が行くやつじゃない。嫌だわ~マナー教育に追加が入りそう。
「ティアナ、ありがとう。今ちょうどテーブルの配置とクロスの色の確認をしていたの。ティアナの方で気づくことがあったら教えてね」
バーバラ様と違ってオリヴィア様は厳格じゃないからいいわ。モノクルおじさんから追加教育が入ったらオリヴィア様にとりなしてもらおうっと。
そんなことを考えていると、バーバラ様についてきたのか、モニカが部屋の隅の方で業者とやり取りしているのが見えた。これはチャンスだわ。モニカの要望をかなえてあげないとね。
「モニカは何をしているんですか?」
バーバラ様に訊ねると、当日の花の発注だと教えてくれる。ちょうどいいわ。
「モニカ! どんな花を発注するのか教えてくれない? それに合わせて配置とかテーブルクロスとかも変わるかもしれないもの」
わたくしが手を振ると、モニカが業者に断りを告げてこちらに歩いてくる。
オリヴィア様が近づいてきたモニカを見て、それからわたくしににこりと微笑みかけた。
「ティアナはモニカと仲がいいの?」
「はい。昔からの友達なんです。モニカは頭がいいから、たまに言っていることがよくわかんないんですけど、オリヴィア様とは話が合うかもしれません。本が好きなので」
本が好きと言ったら、オリヴィア様がきらきらとエメラルド色の瞳を輝かせはじめる。
「そうなの? おすすめの本があればぜひ教えてほしいわ」
わたくしはオリヴィア様から見えないところで親指を立てた。モニカもバインダーの下で親指を立てる。
……義理は返したわよ。
そんなわたくしたちの様子に気づいたのか、バーバラ様が微苦笑を浮かべていた。だけど何も言わないから許容範囲のようね。
「で、花は?」
「まだ確定はしていませんが、こちらが候補です」
わたくしが訊ねるとモニカがバインダーをオリヴィア様に見せた。もちろん、わたくしも覗き込む。
「オリヴィア様、ダリアはいろんな色がありますから使いやすいんじゃないですか?」
「そうね、華やかな花だし、ダリアをメインに他を決めていきましょうか」
「色はどうします?」
モニカが訊ねる。
オリヴィア様は顎に手を当てて視線を落とした。
「アイリッシュ・ルドマン侯爵令嬢の髪の色か瞳の色を使うのはどうかしら?」
するとモニカが打てば響くように答えた。
「髪は銀色で、瞳が赤ですね」
「銀色のダリアはないから、それなら赤がいいわね。ティアナ、赤いダリアをメインにまとめようと思うんだけど、モニカと花を選んでくれる? わたくしは当日の招待客リストを確認して席を決めないと」
「「わかりました」」
「オリヴィア、あとは任せていいかしら? モニカはそのままオリヴィアを手伝ってちょうだいね」
バーバラ様がふっくらとしたお腹を撫でながら言う。大きなお腹で立ち仕事はつらいものね。
「かしこまりました。また報告書にまとめますね」
「お願いね」
バーバラ様はそう言って、ご自身の侍女頭を連れてサロンを出て行った。大きなお腹で仕事をしなくちゃいけないなんて、王妃様って大変だわ。わたくしだったら一日中ごろごろするわね。
「じゃ、モニカ、花を決めていきましょ」
「赤に合わせるなら淡い花が無難よね、濃い色の花を合わせたらダリアが目立たなくなっちゃう」
「白とピンク、あとはアクセントで水色の小さな花とかがあればいいわね」
「ティアナはこういうのは得意なのよね」
わたくしはモニカと花瓶の大きさや形を確認して、業者のアドバイスももらいながら花の種類と量を決定していく。少し多いくらいがいい。余るのはいいけど足りないのは困るからね。
「そういえば、当日のお菓子はどうするのかしら?」
「お城の料理人たちが候補のお菓子をいくつか作っているみたいよ。この後の休憩で出してくれるらしいわ。だから試食して決めるの」
「いい時に来たわ!」
なんてグッドタイミングかしら。お菓子食べ放題じゃないの。
ふふふんと笑っていると、モニカが口端をわずかに持ち上げて言った。
「候補の中に、ヤギの食べ物も入っていたわよ」
「絶対に不採用にするわ」
城の料理人たちもダルシー・ビンガムに毒されたのね。嘆かわしいったらないわ。
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