5 廊下でスキップしてはいけません(って怒られたことがあったわ~)
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「ティアナ、ビンガム伯爵家から苦情が届いたんですが、あなた、何をしたんですか」
二日後。
わたくしがオリヴィア様のお菓子の棚を整理していると、テイラーが開封済みの手紙を手に近づいてきた。
苦情?
あの女、やっぱり骨の髄までわからせてやる必要があるかしら。
「先に喧嘩を売って来たのはダルシーの方よ、テイラー。あいつ、わたくしを馬鹿にしたの。オリヴィア様の侍女として、馬鹿にされたままでは終われないから言い返してやっただけよ」
「それについては同意しますが、一体どんな煽り方をしたんですか……。オリヴィア様の侍女に娘が侮辱されたと書いてあるんですが」
ダルシーのやつ、自分じゃ勝てないからってパパに泣きついたのね。小物はこれだから。
「最初にわたくしを侮辱したのもダルシーよ。あいつわたくしに平民で元囚人って言ったのよ」
「事実じゃないですか」
「衆人環視の前で、オリヴィア様の侍女であるわたくしに、平民で元囚人って言ったのよ」
言い直してやると、テイラーは真顔で頷いた。
「なるほど、それは許せません。オリヴィア様が侮られる原因になりますからね」
さすがはオリヴィア様至上主義のテイラーだわ。
「そうでしょう?」
「だけど、あなた、ビンガム伯爵令嬢をヤギに例えたそうじゃないですか」
ちっ、あの女、そんなことまでパパにチクったの。
「あと、ドレスを馬鹿にされたと」
「あの女、チカチカするレモンイエローのドレスにわんさかと造花を縫い付けていたのよ」
「……趣味は恐ろしく悪いようですけど、人のドレスにケチをつけるのはどうかと」
「花を食べて自分自身に花を生けている女よ?」
「それだけ聞くとものすごく変人に聞こえますが、問題はそこではなく、この苦情をどう納めるかってところです」
「何よ、謝れって言うの? 喧嘩を売って来たのはあっちなのに?」
「その証明は?」
「バーバラ様のところの侍女のモニカ・エイヴァリー子爵令嬢が一緒だったわ」
「わかりました。それならばまあ……。この件はこちらで対処していいですか?」
「いいわよ。だけどまだ喧嘩を売ってくるようならやり返すけどいい?」
「ダメです」
あらそう、じゃあ仕方がないわ、奥の手よ。
「あの女、昔オリヴィア様を馬鹿な女って言ってたわよ」
「喧嘩を売られたら百倍返しまで許可します。ただし暴力はやめておいてくださいね」
話がわかるわ、テイラー。
ころっと意見を翻したテイラーは「この件に関してもこちらからも苦情を入れておきましょう」と言っている。苦情を入れたら未来の王妃の筆頭侍女から苦情が返ってきたとあったら、あの女、どんな顔をするかしら。ぷぷぷ。
「あ、そんなことよりテイラー、オリヴィア様はどこに行ったの? 新しいお菓子を買ったから見せたかったのに」
「オリヴィア様ならお茶会の会場になるサロンですよ。今日から設営がはじまりますので、室内をどのように整えるか確認していらっしゃいます」
「行ってきていい?」
「そうですね……今は特にすることはありませんし、わたくし一人で仕事は回ります。いいですよ。ただし、ちゃんとお手伝いして来てくださいね」
「わかっているわよ」
お茶会の設営なら多少の役には立つと思うからね。わたくし、そういうのは比較的得意なの。
わたくしはうきうきとオリヴィア様のいるお城のサロンの一つへ向かって――うっかりスキップして、通りかかったメイドにギョッとした目で見られたわ。失敗失敗。











