4 三下はすっこんでいてほしいわ
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あーもう最悪よ。最悪だわ。最悪すぎる。
噂をすれば何とやらってやつなのかしら。
目がチカチカするようなレモンイエローのドレスに身を包んだ女――その名も、ダルシー・ビンガム伯爵令嬢、あのくそまずいフラワーケーキを流行らせた女。ケーキの敵。そいつがお供の侍女を一人連れて店の中に入って来た。
……あの女、頭の中が花畑なのかしら?
レモンイエローのドレスには、これでもかと白い花が縫い付けられている。さすがに生の花じゃないけど、まるで花瓶よ。びっくりだわ。趣味悪っ!
わたくしも伯爵令嬢だった頃は目立ってなんぼって派手で奇抜な格好をしたものだけど、これはないわぁ。ないない。最悪。
ダルシーは畳んだ日傘を侍女に押し付け、わたくしとモニカが座っている席に、しゃなりしゃなりと体を左右に揺らしながら近づいてくる。
それが色っぽいとでも思っているのかしら。転べばいいのに。
「誰かと思えば、平民で元囚人の、ティアナじゃない。あら、頭でっかちなモニカも一緒なのねえ」
明らかな挑発に、モニカはどこ吹く風で紅茶を飲んでいる。完全に無視を決め込むつもりのようね。
だけどわたくしは、売られた喧嘩は買うタイプなの。無視なんてぬるいわ。
「あらぁ、どこの田舎令嬢かと思ったら、ダルシー・ビンガム伯爵令嬢じゃないの。なぁに? 今から花屋に花でも売りに行くの? あらでもその花は作り物のようね。じゃあ売れないわ。残念ね~おほほほほっ」
「なんですって! あなたこそその、その――」
ダルシーがわたくしのドレスに視線を向けて、顔を真っ赤に染める。
それはそうよ、だってわたくしの今日のドレスはオリヴィア様に頂いたものをサイズ直ししたものだもの。
超一流の仕立て屋が作った最高級のものよ。去年のものだから多少の流行おくれだけど、サイズ直しする時に今年の流行に合わせて袖口とかをいじったから、それほどおかしくもないでしょ?
……ふふふん、たいして金持ちでもないあんたの家じゃあ、逆立ちしたって買えないドレスよ!
ちなみに今日身につけている髪飾りもオリヴィア様のおさがりだし、お化粧品もそう。香水だってオリヴィア様が「頂いたんだけど、わたくしには香りが強いから」って、プレゼントしてくださった方への義理で一度だけ使ってわたくしにくれたもの。ちなみにこの香水、超高いやつ。
今のわたくしの格好は、下手な貴族より上等なものなのよ。もしこれにケチをつけるなら、オリヴィア様にケチをつけたも同然。ほーら、言いたいことがあるなら言って見なさいよ、ほほほほほ!
モニカが「ほどほどにね」みたいな視線を向けて来るけど、喧嘩を売って来たのはあっちよ。手加減をしてやる必要はないわ。
これで扇があったら完璧だったんだけど、残念ながら今日は持ってないのよね。王妃様みたいに扇をばさっと開いて高笑いしたかったんだけどそれは次回に持ち越しだわ。
「あーらそれとも、最近あんた、ヤギと同じ味覚になって花を食べるようになったみたいだけど、その花は非常食だったのかしら? でも残念ね。作り物の花なんて食べたらお腹を壊してしまうわ。生の花にしないと。ああ、ちょうどここに花があるわ。わたくしの口には合わなかったから残したんだけど、差し上げてよ? そのドレスにどうぞ?」
「なんですってええっ」
ふふん、この程度で顔を真っ赤に染めて怒る小物が、お山の大将なんて百年早いのよ。
「平民風情でこのわたくしにたてついたこと、後悔させてやるわよっ」
「やれるものならやって見なさいよ。わたくし、今オリヴィア様の侍女よ? 未来の王妃の侍女に喧嘩を売ろうって言うの? いいじゃない、言い値で買ってやるわ。もちろん十倍にして返すけどね!」
「そういうのを虎の威を借る狐っていうのよっ」
「あらあらおつむが弱いのによく知っているわね。だから? それが何? わたくし、オリヴィア様の侍女であることを誇りに思っているもの。何と言われたってかまわないわ。実際に、オリヴィア様にたーっくさん守ってもらっているもの」
だからわたくしに喧嘩を売ってタダですむと思うなよ。
テイラーも、オリヴィア様の評判が下がるのを許すタイプじゃない。わたくしが馬鹿にされたらすなわちオリヴィア様の名前に傷がつく。当然わたくしに味方するわ。あの女、怒らせるとわたくしよりえげつないのよ。道端に生えているぺんぺん草のように、踏みつけられる覚悟はできているかしら?
ちなみに、わたくし、ひいてはオリヴィア様を敵に回すってことはすなわちサイラス様も敵に回すってことよ。あの魔王の怖さを骨に髄までわからせてやろうかしら。
ダルシーは悔しそうに唇を噛んだ。
「覚えてなさいよ‼」
ふん、捨て台詞まで小物ね。
店に入って来たばっかりだというのに、ずんずんと肩を怒らせて店を出て行くダルシーをわたくしは「おほほほほ」と高笑いで見送ってやる。
モニカがはあと嘆息した。
「あんた、前よりもしたたかになったわね」
そりゃそうでしょ。一時は王太子の婚約者になったのに、身分を剥奪されて労役地に送られ、そこから這い上がったわたくしを舐めるんじゃないわよ!
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