3 わたくしが知っているヤギは花を食べるわ!
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モニカのお休みに合わせてお休みをもらったわたくしは、王都のケーキ屋でモニカと作戦会議をすることにした。
事前にオリヴィア様に「お菓子の視察に行く」といったらお給料とは別にお小遣いをくれたのよ。うふふふっ!
わたくしはオリヴィア様のお菓子係である。テイラーは「そんな係ありません!」って言うけど、お菓子の購入の大半をわたくしに任せてくれているんだからお菓子係でいいはずよ。
で、次期王妃ともなれば、お菓子の流行にも敏感でなければならない。お茶会でも話題になるし、なにより国一番の女性が流行に疎いなんて思われたら大変じゃない?
という主張をして、流行のお菓子を研究しに行くと言ったら、仕事の一環だからってオリヴィア様がお小遣いをくれたってわけ。いい人よね、オリヴィア様。わたくし、オリヴィア様以外に仕えられる気がしないわ。
「というわけで、今日はわたくしが奢ってあげるわ!」
「ティアナじゃなくてオリヴィア様のお金でしょ。でも、オリヴィア様っていい方よね、わたくしも仕えたくなってくるわ」
「なに? 法務部で働くのは諦めたの?」
「諦めてないわよ。ただ、第二希望にオリヴィア様の侍女もありかなって思っただけ」
第二希望なんて、モニカはわかっていないわ。オリヴィア様の侍女以上の職場なんてこの世には存在しないのに。
わたくしはさっそく、期間限定のフルーツタルトと、貴族令嬢たちの間で人気になっているフラワーケーキを注文した。
モニカはブルーベリーのカスタードタルトを頼む。ブルーベリーって目にいいんですって。モニカってば本の読みすぎで視力が落ちたから、ブルーベリーを積極的に食べるようにしているそうよ。
……そんなことをしなくても本を読むのを控えたらいいと思うんだけど。
オリヴィア様もそうだけど、本好きの気持ちはよくわからないわ。本なんて開いたら、わたくし、三分で寝る自信があるわよ。
わたくしは運ばれて来た二つのケーキを見比べて、むーっと唸る。
フルーツタルトはとっても美味しそう。
だけど、このフラワーケーキって、流行だって言うから注文したけど、正直趣味じゃない。
だって、生クリームでデコレーションされたケーキの上にわんさかと生の花が飾られているのよ。信じられる? 生の花よ? こんなもの食べて何が美味しいの? せめて砂糖漬けにしなさいよ。
「ねえモニカ、人間はいつヤギになったの?」
「なんで花を食べるイコール、ヤギなのよ」
「労役で働かされていた孤児院でヤギ飼ってたのよ。そいつらがこんな花食べてたわ」
孤児院にいた時、あまりにもヤギが花ばっかり食べるから、美味しいのかしらって花びらをつまみ食いしたことがあるのよね。でも苦いだけで全然美味しくなかったの。
モニカははあ、と息を吐く。
「わかってないわね、ティアナ。最近の貴族令嬢たちの間ではね、味より見た目なのよ」
「そんな馬鹿なことを言い出したのはどこの誰よ」
「わたくしの情報ではビンガム伯爵令嬢がはじめね。ティアナが身分を剥奪された後、子爵家や男爵家の令嬢たちのボス猿をはじめた令嬢よ。ティアナがいなくなったからボス猿が交代したの」
「ちょっと、ビンガム伯爵令嬢はいいけど、わたくしを猿呼ばわりしないでっ」
それにしても、ビンガム伯爵令嬢ね。あの女嫌いだったのね~。
「で、その馬鹿が花を食べる習慣を貴族令嬢の間に広めったってわけ?」
「うーん、何とも言い難いわ。花を食べてるのはビンガム伯爵令嬢の取り巻きが中心で、侯爵家以上にはあまり浸透してないし。ただ、子爵家とか男爵家は分母が多いし子だくさんなところが多いから、どうしても流行るわよね」
ああ、モニカの両親も子だくさんよね。
子爵家とか男爵家だけってわけじゃないけど、下の階級に行くほど、子供が多くなる傾向にあるの。単に子供好きな人もいるでしょうけど、大半はその子供を他家に嫁がせたり婿入りさせたりして縁を広げようって魂胆よ。政略結婚の道具はたくさん必要ってわけ。
そうでもしないと、弱小貴族派生き残れないんでしょうけど、モニカのところもそういうわけだからモニカを嫁がせたがっているのよ。モニカは結婚より仕事に生きたい女なのに、許してもらえないのよね。
わたくしのお父様も、わたくしをいいところに嫁がせようと常に根回しはしていたけど、当時はわたくしの意思を尊重してくれる人だったから、無理矢理どこかに嫁がされるってことはなかったのよ。アラン殿下の婚約者にって話になった時は、顔面にキスの嵐が降るほど喜んでいたし。ちなみに、いくら父親でも、頬や額にぶちゅーってやれるのはものすごく嫌だったわ。あまりにも喜んでいたから我慢してあげたけど。
……そんなお父様は今や処刑待ちで牢の中だけど……たくさん罪を犯した人だけど、わたくしにはそこそこいい父親だったのよ。
ちょっぴり感傷に浸りたくなったのは、きっとあれね。自分で注文して置いてなんだけど、今からこの花を食べないといけないからだわ。わたくし、ヤギになるのよ。
「ねえモニカ、この花、食べられるのよね?」
「見たところ全部食用の花よ」
「食用って言うけど、要するに食べてもお腹は痛くならないわよってレベルの話でしょ。わたくし、食べ物は美味しいか美味しくないかで食用かそうでないかを判断するタイプなの」
「そういう意味では食用じゃないわね」
やっぱりまずいのね。
ビンガム伯爵令嬢ってば余計なものを流行らせてくれたものだわ。見てなさい。オリヴィア様に頼んでこんな流行とっとと廃らせてやるんだから。
わんさかと乗っている花を一つ指先で摘み上げて、わたくしは意を決して口の中に入れる。
……まっず!
何なのこれ? ぱさぱさするし、もしゃもしゃするし、苦いし、飲み込みずらいし、最悪よ。
無理ね、無理無理。一輪食べたんだからもういいでしょ。
わたくしはケーキに載っている花を全部お皿の端によけて中のケーキだけ食べることにした。
中のケーキはスポンジに生クリームが塗られただけのもので、味はいたって普通だったわ。
「で、例の件はどうなのよ」
口直しにフルーツタルトを食べつつ訊ねると、モニカが肩をすくめた。
「どうも何も難航中よ。わざと情報操作がされているんじゃないかって思うくらい情報が手に入らないわ。わたくしの勘だけど、この縁談、訳ありかもしれないわよ」
「ふぅん?」
あらあら、きな臭くなってきたわ、こういうの燃えるのよね。
「本人の情報がないなら、ルドマン侯爵家の情報はどうなの?」
「ああ、そこは持ってるわよ。フィラルーシュ国の先々代王妃様の家系で、フィラルーシュ国王とルドマン侯爵はハトコの関係だそうよ。経済状況も悪くないし、領地には鉱山があるわ。ちなみに、レバノール国の貴族とも血縁関係があるみたい。その関係もあって、当主の息子……アイリッシュ様のお兄様は外交官をしているみたいね」
さすがモニカ。他国の貴族の情報ってなかなか手に入らないのに、よく知っているわ。
「引き続き調べられるところまで調べてくれない?」
「任せてちょうだい。その代わり、オリヴィア様への紹介は頼むわよ」
「わかっているわよ」
わたくし、これでも義理堅い方なんだから。
頷きつつ残ったフルーツタルトに舌鼓を打っていると、カランと店のドアベルが鳴った。
そして――
「あらぁ~」
そんなわざとらしい声を聞いて、わたくしは盛大に顔をしかめる。
……げぇ。
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