2 ところでそのクッキー早くくれない?
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モニカにアイリッシュ・ルドマン侯爵令嬢の情報収集を頼んで三日。
オリヴィア様の元にサイラス様とコリンがやって来た。
コリンは現在唯一のサイラス様の専属護衛官。
王太子だったアラン様には専属護衛官が複数名付けられていたんだけど、サイラス様は未だに一人なのよね。
まあ、ぞろぞろと護衛騎士について回られるのは、それはそれで鬱陶しいみたいで、アラン様はいつも嫌そうにしていたし、隙あらば護衛を撒こうとしていたから、むしろ護衛が一人の方が気が楽なのかもしれないけど。
……それにしても、サイラス様ってば本当にオリヴィア様にぞっこんよね。暇さえあれば会いに来ているもの。オリヴィア様、鬱陶しくないのかしら?
オリヴィア様もサイラス様も忙しいから、お互いの時間がたくさん持てるわけではない。だから貴重なのかもしれないけど……来春には結婚予定なんだし、そうなれば同じ部屋で過ごすようになるんだし、そろそろ落ち着いてもいいんじゃないかしらって思うわ。
オリヴィア様は優しいから、サイラス殿下が来たらいつも微笑んで迎えるけど、正直言ってわたくし、サイラス様は苦手だからあんまり来ないでほしいのよね。
ほら、サイラス様ってなんか魔王っぽいじゃない? わたくしんの中で怒らせてはならない人物筆頭よ。ま、基本温厚だから、オリヴィア様が絡まなければ怒ることも少ないんでしょうけど。
オリヴィア様の隣にサイラス様が座って、コリンが部屋の扉のところに立って護衛任務に当たっている。
そんなコリンにテイラーが紅茶を手渡していた。
お互い仕事が趣味のようなもので、仕えている主を自分よりも優先する二人は、どうやら話が合うらしい。
「聞いたよ、オリヴィア。母上から、ルドマン侯爵令嬢を招いたお茶会の開催を頼まれたんだって? まったく、オリヴィアは結婚準備や仕事で忙しいって言うのに……」
お茶会の開催が決定するまでサイラス様に伏せていたバーバラ様は、さすが彼のお母様って感じよね。サイラス様の性格をよくわかっているわ。
サイラス様はオリヴィア様に仕事が集中するのが嫌みたいだから、お茶会開催決定前に情報が渡れば裏から手を回して中止にさせるくらいしそうだもの。
そしてオリヴィア様も、そんなサイラス様の性格をわかっているから黙っていたんでしょうし。
「お相手がファレル公爵家ですから、王妃様も気を使っておいでなのではないでしょうか。現在公爵家が一席空位ですし、結束を固めておきたいというお気持ちもあるのかと。……個人的に、どのような方かも気になりますし。デイビス様は二年前に婚約者の方を亡くされて、一時は食事も喉を通らないほど気落ちされておりましたから」
デイビス様はとてもお優しく繊細な方なので、彼を支えてくれる優しい女性だと嬉しいです、とオリヴィア様が言う。
わたくしに言わせれば他人の結婚にそこまで気を使わなくてもいいと思うんだけど、オリヴィア様だものね。あっちこっちに心を配って、疲れないのかしらっていつも思うわ。
それにしても、オリヴィア様はさすがアトワール公爵家のご令嬢よね。
わたくし、身分を剥奪される前でも公爵家の子息たちに近づくのはなかなか難しかったもの。
というか、公爵家で開かれるパーティーの招待状を入手するのが難しかったのよ。
わたくしのお父様は大臣だったけど、その権力を持っても、なかなか手に入らないのが公爵家で開かれるパーティーの招待状だったのよね。お茶会の招待状は簡単に手に入ったんだけど。
だから、デイビス様のこともあんまり詳しくないのよね。読書家で物静かな方なのは知っているんだけど、そのせいか口数の多い方じゃなくて、話しているのを見たこともあんまりないのよ。
「デイビスか……。僕は正直、彼はもう結婚しないんじゃないかと思っていたよ」
「そうですね、そのくらい気落ちされていましたから」
「弟がいるから、デイビスの次の跡取りは弟の子にしてもいいだろうし、舞い込んでくる縁談を全部断っていたからね。というか怒っていた」
「ええ……。婚約者を亡くされた直後から方々から縁談が持ち込まれていましたからね。皆様気が急いていたのだとは思いますが、あれはさすがに……」
ま、そうよね。婚約者が死んだ直後に、次の婚約者にうちの娘はどうですか⁉ みたいな話をされたらたとえ優しい人でもキレるわよ。
でも公爵家の跡取り息子ともなれば狙っている家も多いはずで、一分でも早く連絡をしなくてはって思ったのかもしれないけど、非常識だわ。
もしわたくしは同じことをされたら、その家には徹底的に報復するわね。小さな嫌がらせなんかじゃすませないもの。
「そのせいでデイビスは余計に殻に籠っちゃったからね」
「ええ。ブリオール国内の貴族とは結婚しないとまでおっしゃっていましたから」
「それでフィラルーシュ国からってことになったんだろうね。ファレル公爵は息子の意思を尊重すると言っていたけど、奥方の方が結婚させたがっていたから」
オリヴィア様とサイラス様が微苦笑を浮かべている。
ファレル公爵夫人がバーバラ様にお茶会を頼んだのは、あれね。この縁談を絶対に断らせないためなんだわ。
たとえデイビス様が嫌がっても、外堀が埋められていたらどうしようもないものね。
……ファレル公爵夫人も、えげつないわね。
本人の意思を無視して縁談を進めるために、アイリッシュ・ルドマン侯爵令嬢歓迎ムードを作っておこうって魂胆なのよ。
これでアイリッシュ・ルドマン侯爵令嬢が嫌な女なら、デイビス様は本当に可哀想だわ。
オリヴィア様もできればデイビス様の意思を尊重してあげてほしいって思っているんでしょうけど、お茶会の主催を王妃様から頼まれれば断れない。
そしてオリヴィア様の性格上、わざとお茶会をぶち壊すなんてことはできないでしょうから、結局のところ和やかにまとめるしかないってところかしら。
サイラス様が紅茶を一口飲んで、そっと息を吐く。
「まあ、他家の問題だから、僕たちがとやかく口を出す問題ではないんだろうね」
その通りなんだけど、デイビス様が嫌な思いをする形にまとまったらオリヴィア様がずーっと気に病みそうだから、それは困るわ。
……やっぱり情報が必要よ。オリヴィア様ができないのなら、わたくしが、アイリッシュ・ルドマン侯爵令嬢を見極めてやらなくちゃっ!
ところで。
テイラーが紅茶と一緒に出したそのクッキー、食べないのなら早くわたくしにくれないかしら?
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