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ようこそ新天地

期待の新人で才能あふれる青年と、優しく誰からも愛される喫茶店のマスターの物語。

ようこそ、陽だまりへ。


陽だまりのような、その純喫茶に初めて入ったのはいつだっただろう。



転勤が決まって、初めての外出だったのだ。コンビニの場所だとか郵便局の場所だとかを確認してさぁ帰ろうとした時情けないことに俺は迷子になってしまった。


「…あ〜、やっちまった…くっそ、」


スマホの電池は残りわずか。ただでさえマップアプリは電力を使うのに、最悪である。誰かに教えてもらったほうが良いだろうとスマホをしまい、歩き出した。因みに今は夏…スマホのバッテリー同様体力もゴリゴリ削られていく。一刻も早く帰りたいが、赤の他人の家をノックして「道案内してください」なんて言えるわけもないから、適当な店を探すしかない。客としてなら、店側も嫌な顔せず教えてくれるだろうなんて思っていた。しかし、初めての外出だったこともありどんどんと変な場所へと入っていってしまった。あぁ、最悪だ。いざとなったら地面に寝そべってヘルプミー!とでも叫べばいいか…なんて、思っていたら、ふとぽっかりと優しい灯の灯った建物を見つけたのだ。


看板も何もない、けれどドアには“Open”と札が掛けられている。店、なのだろう。ただ濃いコーヒーの香りが静かにその建物から溢れている。静かな静かな、辺鄙な場所にその建物は鎮座していた。


「…すいませーん、」


がちゃり、とそのドアを開ければからんころんと可愛らしい音が鳴る。ドアを開けてみればコーヒーの匂いはより濃く漂い、下向きだった気分がゆるりと上を向く。


不思議な空間だった。


天井に吊るされたシーリングライトがきらきらと輝いている。ふんわりとコーヒーの匂いを漂わせるサイフォンがその光を反射してらてらとその存在を明らかとしている。


照明に目を瞬かせながら店内を見渡す。まるで夢の中にいるようだった。ぐるぐるりと変わる夢の景色のように、物で溢れた店内。木彫りの熊が置かれていたり、精巧に作られたドールだったり、ずっしりとした重量感を示す碇が置かれていたり…物で溢れているのに、不思議と清潔感に溢れた店内をそっと歩く。


中でも、カウンターに置かれた花に止まる蝶を模った美しいランプに視線が釘付けになった。美しい、そのランプにそっと歩み寄って…気が付いた。カウンターの上に一冊の本を置き、ぱらりぱらりと静かに捲っている“彼”に。ミルクを入れすぎたコーヒーのような、ミルクティーのような優しい髪色をした、カウンターの向こうにいるその人。


「…あら!」


ぱちん!と視線があった。瞳をきらきらと輝かせて、彼は笑う。


「やだやだごめんなさいねぇ、気付かなくって。」

「あ、いや、俺こそ…黙って彷徨いてすいません。」

「いえいえ、のほほんと休憩してた私も悪いですから。さぁさぁ、座ってください。」


淡い茶色のエプロンを揺らしながらお冷を用意する姿に、「いや道を聞きたいだけなんです」とは言えなくなってしまった。いや、財布にはある程度現金はあるし…まぁ道を聞くのは帰り際でいいだろう。そう思いながら、進められるがまま俺は座った。


「…すごい店内っすね。」

「あは、すごいでしょ。色々旅に出た時に買ってきたやつとか常連さんが持ってきたお土産で溢れちゃってね。色々見てええよ、珍しく今は君一人だけの店だから。」


ことり、と水が置かれた。あまりに綺麗なグラスに注がれた水だ。照明に照らされたグラスが反射した光がカウンターを水面のように彩る。


「…綺麗、ですね。」

「綺麗やろ、そのグラス。海外で買うたやつでな、お客さん受けもええねん。」

「あの、すいません。休んでたのに、俺一人のために。」

「ええねん、ええねん。ちょうど話し相手がおらんくなって暇やったところやし、お客さんが来てくれて嬉しいですよ。」


そう言ってへらりと優しく微笑む彼以外に店員は見当たらない。彼が店主なのだろう…この物と光で満ち溢れた店は、妙に彼に似合っている気がした。


「どうぞ、メニューです。今なら君一人だからすぐ作れますよ。」

「…あざっす、」


手渡されたメニューは手作り感溢れる物だった。百均でよく売ってるような小さなアルバムの冊子に写真を挟んで、値段が書かれたそれは妙に手に馴染む。紅茶、ジュース、コーヒー…サンドイッチやオムライス、パスタなど…様々なメニューがある。こんなに軽食を扱っているとは…期間限定のデザートまで書かれたメニューの端っこには可愛らしいペンギンらしきイラストまで。


「…コーヒー、ください。」

「はい。お豆はどうします?」

「まめ…」


豆、の種類とか気にしたことがなかった。普段インスタントの安いものを適当に測りもせずばさりとカップに入れてお湯を注ぐだけだったから。ゆるりと視線を迷わせれば店主は苦笑いを一つ。


「…そんなん言われたってわからんよね〜、」

「すいません…俺、こういう場所初めてなんで…わかんないことばっかりなんで、お任せでええですか?」

「んー、お任せだとねぇ…お時間はある?」

「…まぁ、腐るほどには。」

「じゃあ授業しましょうか。」


くすり、と彼は笑うとカウンターの下から瓶を二個、取り出した。中にはコーヒー豆がいっぱいだ。


「まぁコーヒー豆っていえばこの二つが有名かな。他にもいっぱいあるんだけど。これがブルーマウンテン。こっちがキリマンジャロ。」

「あー、その二つなら名前だけはなんとなく聞いたことあるねんな…味とか違うんですか?」

「まぁ、違うね。でもまぁ淹れ方によっても風味は変わる物やし、お客さんがお砂糖とかミルク入れるならまた変わるしね。」


うちでよく飲まれるのはブルーマウンテンかなぁと言いながらかぽりと蓋を開ける。


「キリマンジャロね、これ。」

「…なんか特徴とかあるん?」

「そうね、キリマンジャロはお上品な酸味が特徴やね。あと、コクがある。けど後味はすーっとすっきりしてるから飲みやすいお豆ではあるかな。」

「…へぇ、」

「んで、こっちはブルーマウンテン。コーヒーの王様って言われてる子やね。キリマンジャロと比べるとちょっと苦いけど、その分ちょうど良い酸味もあるからあんま気にならんかな。もし嫌なら砂糖入れればええし。」


つらつら、と響く言葉達が酷く心地良かった。するりと頭に染み込むような落ち着いた響きに緩慢に瞬きした。


「…他にはどんな豆があるんすか?」

「スタンダート、コロンビア、コナ、モカ、マンデリン…とか?その他にもコーヒー専門店さんがブレンドした豆とかあるね。アイスコーヒーに合うようにブレンドした豆とかね。まぁ色々あるけど、いつも気まぐれで仕入れるからいつも揃ってるわけじゃないかな。」


でもキリマンジャロとブルーマウンテンは必ず仕入れてるから安心してね、と言いながら笑う。その笑顔が蕩けるように優しくて思わずこくんと喉が鳴った。誤魔化すようにごくりとお冷を一口飲んだ。ただの水なのに、夏の外を歩いた体には染み渡るように美味しかった。


「…じゃあ、ブルーマウンテンでお願いします。」

「はい。淹れ方はどうしましょ?もしわからへんかったら私が独断と偏見で君に合いそうな淹れ方でやっちゃうけど。」

「あ、じゃあ…おなしゃす、」

「はぁーい。」


のんびりとした返事をして、彼はくるりと背を向ける。カウンターの向こう、壁を埋め尽くす棚の中から一つの筒と測りを取り出すとことりとカウンターに置いた。


「コーヒーはな、重さに気をつけなあかんのですよ。」

「…重さ?」

「そう。こうやって明確にコーヒー豆の分量を測って…ミルで引く。今回は電動ミルを使いますね。手動のやつでも良いんですけど、今日は気分じゃないので。」


へへ、と笑いながら丁寧に豆の重さを測り、それをするりと細長い電動ミルの中へ。そしてこちんとボタンを押すとごりごりと音を立てて…豆が挽かれていく。


「今回はサイフォンを使ってコーヒーを淹れますから、粗すぎず細かすぎず…ってぐらいですね。」

「挽き方にも色々種類あるん?」

「うーん、言うても粗いか細かいかってぐらいやね。ざっくりだと。今のこれは中挽きぐらいかな。」


さらさら…と粉になったコーヒーを一度傍に寄せて、きらきらと輝くサイフォンからフラスコを取り出す。そしてお湯を注ぐとくるりと回して溢し、フラスコを温めてからもう一度お湯を注ぎ、サイフォンへと戻す。そしてエプロンのポケットからライターを取り出すと、アルコールランプに火を灯した。


「サイフォンってなんだかわくわくしますよね。」

「…ちょっとわかる。」

「ふふ、学生時代の理科の授業を思い出すんですよねぇ。」


ぽこ、ぽことフラスコの中身が沸騰し始める。それを確認すると一旦火元から外し、先程挽いたばかりのコーヒー豆をロートに入れてフラスコに差し込み、また火元へと戻す。


「知ってます?サイフォン、ってギリシャ語で“管”って意味なんですよ。」

「ギリシャ語…なんや。」

「このサイフォンの原理は結構昔には発見されていたらしくて、諸説によるんですけど古代ギリシャで発見されたとか…」


押し上がってきたお湯が、ロートへと。コーヒーの豆と混ざったそれを丁寧にヘラで撹拌し…その後アルコールランプの火を吹き消すと再度撹拌。すると、するすると下側のフラスコに真っ黒な艶やかな液体が落ちていく。


「…ほら、見て。」


店主が無邪気に笑い、ロートを指差す。促されるがまま、覗き込めばそこにはぽこんと盛り上がったコーヒーの粉。


「この盛り上がった粉の上のこうやって細かい泡が残っとれば美味しく淹れられた、っていうサインなんですよ。攪拌がうまくいくとこうなるんです。」

「は〜、すごい…おもろいなぁ。」

「ふふ、じゃあお待たせしました。」


ことん、とカウンターに上にコーヒーカップを置きそこに艶やかな液体を注ぐ。ふんわりと漂うコーヒーの香りに思わずほぉと溜息を吐いてしまった。


「召し上がれ。」

「…いただきます、」


そっと、コーヒーを啜った。淹れたてのコーヒーは夏に飲むには熱すぎたが…深いコクととろりとまろやかな口当たりに熱さを忘れる。何処か甘さを感じる酸味は疲れた心と体にはじわりと沁みる。


「…うま、」

「ふふ、よかった。サイフォンで淹れるとな、まろやかな口当たりになるんよ。そう言ってくれて嬉しいです。」


サイフォンをかちゃかちゃと片付けながら店主は笑った。優しい陽だまりのような笑顔だった。ぱちぱちと視界が弾けるような暖かさを含んだ彼は、別世界の住人みたいで。


「あ。そうだ、ちょっと待ってね。」


ほぉ、とコーヒーの旨さに溺れていると彼は早足でカウンターの奥へと引っ込んで…暫くすると小綺麗な小さなカップにつやつやとした赤く丸いものを乗せて戻ってきた。


「スイカシャーベット作ったからサービスです。」

「えっ、そんな、悪い…です。」

「んー、でもお客さんだいぶ疲れてるでしょ?」


…図星だった。よくよく考えれば炎天下の中を迷子になってあちこち歩き回っていたわけだし…今になって漸く自覚したが今の俺の肌はじっとりと汗ばんでいる。自覚したらなんだか急に恥ずかしくなってきてもにょもにょと口を動かせば彼はカラカラと笑う。


「あはは、そんな顔せんでくださいよ。私なんて相当汗っかきで…外に出るのが恥ずかしいぐらいですからね。」

「いやぁ…うわ、恥ずかし…」

「んふふ…」


こく、と恥ずかしさを飲み込むようにコーヒーをまた一口飲んで、勧められるがままシャーベットを一口。しょりしょりとした食感とスイカの甘さが堪らなく美味しい。


「…あ゛〜、沁みる……マジで美味い…」

「外暑いもんねぇ。そのスイカね、常連のお客さんがくれたんですよ。農作物を育てるんが好きな人でね、良いスイカが取れたからって。でも私一人じゃ食べきれないし、一度スイカを凍らせた後に、ミキサーで牛乳と一緒にがーっ!としてシャーベットにしちゃったんです。」

「普通に甘くて美味いわ…です。」

「んはは!敬語なんていらんよ。常連なんてみーんな私に対してタメ口やで。」


そう言って笑う彼は俺よりずっと年上だろう。なのに、妙に馴染みやすい。年上らしい圧迫感もなくて、つい敬語が抜けてしまう。それにこの落ち着いた雰囲気もあって…あぁ、すごい素敵な場所だ。


「…道に迷った甲斐あったかもしれん。」

「あら、迷子やったんですか?」

「あー、いや、最近転勤してこっち来たんやけど…道に迷うてしまって…恥ずかしい…」

「あー、だからそんな疲れとるんですね。こんなクソ暑い中うろうろするのしんどかったでしょうに。」

「いや、俺の自業自得なんで…スマホあればどうにかなると思ったら充電はもうほとんどないし…」

「あー、あるあるやねぇ。私もよぉやらかすからわかります。」


うんうん、と頷きながら彼はエプロンからスマホを取り出す。そしてマップアプリを開くと俺に見せてきた。


「今がね、ここ。このお店出て右手側に行くとクリーニング屋さんが見えてくるから。クリーニング屋さんを左手側にして信号二つ超えた辺りからどうにか駅が見えるから駅の方まで歩いたらええと思います。君の家は何処かは知らんけど駅まで行ったらわかるやろ?」

「駅まで行ったらわかるから大丈夫です…いや、マジで助かりました…此処で熱中症で倒れて死ぬんかと思うて。」

「この天気じゃあ洒落にもならんな。」


私も食ーべよ、なんて言いながら彼はもう一回奥へと引っ込んでスイカシャーベットを持って戻ってきた。ちゃっかり俺のより大きめに掬われたシャーベットに豪快にスプーンを突き刺すと、大きなお口でバクリ。


「んー、美味しい。朝のうちは常連でいっぱいだったからずっと厨房に引き篭もってましたよ。エアコンはついてるけど火ィ使うから暑くて暑くて。」

「あー、それはしんどそう…店は一人でやってるんですか?」

「うん、私一人だね。でもまぁ常連ばっかだし、提供が遅くなっても許されるしのんびりやってますよ。だから今日の君はラッキーやったね。」


普段は常連でいっぱいだから、なんて笑う。…常連、か。


「…俺も常連になってええですか?」

「ん?ええよ。態々私になんかに許可取らんでもええですよぉ。こんな辺鄙な喫茶店嗜んどるおじさんやもん。」

「それ言うたら俺やって新しい職場に狼狽えるぺーぺーの新人やで。もぉ、新しく出来た同僚の中にはやたら煽ってくるやつとかおるし…新しい生活って思うたより大変で。」

「んはは!うちの常連にもよぉ煽ってくる人がおりますよ!同一人物やったりしてな。」


…新しい生活って案外大変やった。慣れない場所に見たことない人。転勤が決まった時には、まぁ独り身だし良いかなんて思ってた。けれど現実は苦くって、今まで自分が恵まれていたんだって嫌でも思い知らされた。俺はこの先大丈夫だろうか。ただの道に迷ってしまうほど、新しい環境に怯えているのに。


「…いつでも来たらええよ。私はのんびり此処で本でも読んで貴方を待ちますよ。」


不安に満ちた俺の心を読み取ったのか、店主は静かに優しく微笑んだ。淡く反射した陽の光と照明の乱反射がちかちかと穏やかな笑みを照らした。


あぁ、本当に、暖かい人だった。


「…ほんま?」

「ええよ、勿論。」

「…やっぱ今日は迷子になった甲斐があったかもしれんなぁ。」

「ふふ、でも今度うちに来る時は迷子にならないようにせんとあかんからね。こんなクソ暑い中また迷子になったら次は倒れてしまうかもしれんから。」


…まろやかなコーヒーをまた一口、口に含んだ。シャーベットで冷えた口にはなんだかちょうど良くてなんだか泣いてしまいそうだった。


「あぁ〜…俺うまくやれっかなぁ、この新しい場所で…」

「んー、悩んどるねぇお客さん。せやったらね、金平糖とコーヒー用意したらええよ。金平糖ボリボリ食べてな、甘さをコーヒーで流し込む。んで苦い口の中にまた金平糖いれて…って繰り返しとったら大抵の悩みは溶けてくれるから。」

「あー…なんか、それ良さそう。」

「新しい場所に緊張するのは不思議なことじゃないし、ええんよそれで。人間やもん。」

「…人間、」


すとん、と心が楽になる音がした。人間、人間、か。今までずっと完璧でいなきゃいけないって思い続けていた。新しい場所に日和ってしまうのは恥ずかしいことだと思っていた。


「…アンタ滅茶苦茶ええ人やな。」

「ふは、そんなこと言われたの初めてかもしれへんな。私は料理と駄弁るのが大好きな何処にでもいるおじさんですよ。」


にへら、とその微笑む姿が暖かい。ぼっと飲んだコーヒーで熱の灯る体にまた一つ熱が生まれる。居心地があまりにもよかった。あまりにも。


「何処にでもおるおじさんでもこうやってのんびり好きに生きてられるんやもん。無責任に大丈夫やなんて言えないけど、それでもちょっとは肩の荷を降ろしてみたらええと思うよ。」

「…それが案外難しいねんなぁ。けど、なんだろう。今はすごい楽な気分やわ。」

「また此処においで。肩の重たい荷物を置いてふらっと此処においでなさいな。私は此処でのんのんと君を待つよ。」


陽だまりの彼はそう言って笑った。












「…え、ほんまにこれだけ?」

「うん。コーヒー代だけでええよ?」

「そ、それにしては安いような気がするんすけど…」


コーヒーとシャーベットを満喫して、お会計。こんなに満たされた気分なのにきっぱり400円というのは安すぎではないだろうか。


「…いややっぱり安くないですか?」

「んー、私はずっとこの値段でやっとるよ?」

「え、えぇ…」

「私はのんびり此処でお客さんと駄弁れたらええし、儲けようとは思うてへんし。」


せめて、と気持ちを込めて綺麗な500円玉を渡せばお釣りの100円とレシートをそっと掌に乗せられた。そして、かさりと何やらもう一つ手に乗せられる。


「はい、塩飴。」

「あ、ありがとぅ…ございます…」

「お外暑いからね〜、気をつけて帰るんだよ。」


あ、また迷ったら此処に来るんだよ!と彼は笑うと外まで見送りに来てくれた。マジで申し訳ねぇ。


「いや、ほんま長居してすいませんした…」

「んふふ、ええよええよ!私の無駄話に付き合ってくれて嬉しかったよ。」

「…また来ます、」


ぺこ、とお辞儀をすれば彼もお辞儀をする。そうして彼はにへらと笑うと手を振って見送ってくれた。





「…あ〜……また行こ…絶対行こう…」


塩飴をカラカラと口の中で転がしながら、俺は教えられた道を歩く。マックスの暑さを過ぎた外は案外歩きやすくて、気分が明るかった。


またあの陽だまりへと行こう。あの心安らぐ喫茶店に行こう。そう、思いながら俺は足を進める。帰り道はなんだか足が軽やかだった。

後々名前とか出す感じです。作者はしっとりゆっくりと書いていくタイプです。

ここまで読んでくださった方、良き日を過ごせますように。

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