触らぬ聖女に祟りなし
1.魔王討伐のために
「なに、これ」
リンは自分の手首を見て呟いた。
「それは魔法を封じる魔導具。リン。あなたの神聖力をも封じているはず」
あっさりと答えてくれたのは公女。
彼女がリンにこれを嵌めた。
リンは信じられないと目を見開いた。
◆
その日は朝から快晴。
聖女リンは仲間たちに誘われ、日の出より早く彼らと箱馬車に乗りこんだ。もっとも、箱馬車に乗っているのは優秀な魔法使いである公爵令嬢とリンの女性陣。男性陣は馭者席に座っている。
馭者席で馬の手綱を引いているのは勇者である王子と、戦士であり王子の護衛役兼従者の若者。
彼らはともに魔王を倒した勇者一行の四名。
そう。
彼らは苦難の末の末に、とうとう魔王を倒すことに成功したのだ!
聖女リンはこのために召喚された、元は日本人の女子高生だった。本名は清瀬 凛。
召喚されたときチート能力を与えられたのか、彼女には瘴気を払ったり癒しを与える神聖力のほかに特別な破魔の力が備わっていた。彼女が祈り破魔の力を物や人に纏わせることで、邪悪な魔王を打倒することができたのだ。
リンにとっては苦難に次ぐ苦難の連続。
もともとはぬくぬくと育った日本の女子高生だった身に突然の召喚。さらに魔王打倒するための旅路(しかも徒歩だ! それに野宿だ!)は苦痛以外の何ものでもなかった。
それでもなんとか適応し自分のなかで折り合いをつけられたのは、一緒に魔王を倒すために旅立った仲間たちのおかげだ。
アイリーン公爵令嬢はリンよりひとつ年上で、同じ女性目線で物事を捉えてくれたおかげで不自由な旅路でも助け合うことができた。
彼女が「なによりもこれがだいじよっ」と教えてくれた【清浄】という生活魔法には感謝しかない。ろくに風呂にも入れない旅路だ。十七歳、多感な年頃にシャワーがなくとも髪の毛サラサラでいられたのは公女のおかげ。生活魔法をはじめとした魔法の使い方を教えてくれた。
そんな公女はこの世界でリンの親友兼お姉さんだなと思っていた。
勇者でもあるライオネル王子は、金髪碧眼の「これぞ王子!」と言いたくなる外見の持ち主。彼は王族として、リンの今後の生活全般の面倒をみると宣言してくれた。
……そう、リンはもう日本へ帰れないのだ。
召喚術は失われた古代魔法だそうで、召喚された者を元の世界へ戻す魔法はすでに失われている。
もう故郷に帰ることはできない。友にも家族にも二度と会えない。
家業を継ぐため大学に進学し資格を取ろうと思っていた。
それらすべて、叶わない。
絶望に涙するリンを慰めてくれたのが王子だった。彼は自分の婚約者に聖女リンを指名し、未来永劫彼女の幸せを誓うと言ってくれたのだ。
王子の護衛役である戦士ジュードは、縦にも横にも大柄で厚みがあり寡黙な男であった。
心やさしく、いつもなにくれとなくリンの心配をしてくれた。彼は王子を守るとともに、リンの盾役でもあった。魔獣たちとの戦いのなかで彼の存在はとても心強かった。
そしてこのパーティー、出発時にはもうひとりいた。
王城を出発したときは五名いたのだ。
魔法騎士であり公女の婚約者だったサイモン。とても優秀で有能な彼は気のいい青年だった。魔法騎士は公女の婚約者であると同時に、王子にとっても幼馴染みだったという。
そんな彼は、魔王城に侵入してすぐトラップにかかり、長槍で串刺しにされた。(まさか魔獣たちが物理的なトラップを仕込んでいるとは思ってもいなかった一行の、完全な手落ちである)すぐに快癒の神聖力魔法を使おうとしたリンを止めたのは、怪我を負った本人だった。
「俺の怪我は致命傷だ。リンの神聖力をここで使ってはいけない。宿敵は目の前なのだから温存してくれ」
掠れた声でとぎれとぎれにことばを紡いだ彼の意思に、リンは公女とともに滂沱の涙を流した。
王子や、婚約者である公女が「魔法騎士を救え」とリンに命じたのなら、すぐにでも快癒の神聖力を使っていただろう。
けれど、公女も王子も魔法騎士と同意見だった。
快癒の力といえど万能ではない。瀕死の重傷を治すことはできても、完全に動けるようになるには時間がかかるのだ。
魔王城に侵入している今、いつ何時魔獣に襲われるのか予測できない。身動き取れない絶対安静の患者を庇って行動するのはパーティー全体の破滅を招くに等しい。
それらを踏まえたうえで、彼らはリンの貴重な神聖力を無駄なところで使うなと言った。涙を流しながら。
魔法騎士は仲間に見守られながら、長く苦しむことなく静かに息を引き取った。
涙を手の甲で拭った王子が、険しい顔のまま魔王を目指し歩を進めた。
一行はそれに続く。
仲間の犠牲があったとしても、彼らは魔王を倒すと決めたのだ。それはこの王国すべての人間の悲願なのだ。
リンは改めて心に誓った。仲間の犠牲を無駄にしない。魔王は絶対滅ぼすのだ、と。
――こうして……苦難の末、宿願は叶った。
長かった。
王都を出立したときリンの肩までしかなかった黒髪も、今や背を覆うまでに伸びている。
リンは十九歳になっていた。
2.わけが分からない
魔王城は魔の山と呼ばれる山の上にあり、そこへ向かう道なんて無かった。
さらに、魔峡谷と呼ばれるほど広く深い谷と険しい崖が立ち塞がり、簡単に行き来できない場所であった。
これを解決したのが、深い峡谷に渡した橋の存在である。
その橋を魔法で作ったのが亡くなった魔法騎士サイモン。
どのような形の橋がいいのか提案したのはリンだった。
リンとしては、修学旅行で訪れたアメリカ西海岸での記憶にも新しいサンフランシスコの金門橋の形状を絵に描いて説明しただけなのだが、魔法騎士はそれを魔法で見事に再現してみせた。彼はとても優秀で有能だった。天才と言ってもいいだろう。
魔獣たちは魔王が滅んだとたん、みな城とともに塵となって消えた。
魔王の波動がないと生きていけないものだったらしい。
魔王城すら魔王の消滅とともに瓦解した。サイモンの遺体もどんなに探しても見つからなかった。
魔の山の頂上には城の礎のみが残り、鬱蒼と繁っていた木々からは瘴気が消えた。
魔の山を登り始めていたときから感じていた息苦しさが消え、やっと安堵のため息をつくことができた。
また何日もかけて魔王の領域である土地を抜け、サイモンが魔法で作った橋まで戻って来たとき。
リンは(おそらく勇者一行のだれもが)感慨深い思いを味わった。
サイモンが死したのちにも橋はちゃんとその雄大で優美な姿を残していたのだ。リンが破魔の祈りをその橋にかけていたせいかもしれないが、彼が仲間たちの帰還のために残してくれたのだと思った。
橋を渡り終えると、人間たちが住む地域に到達した。
魔王を倒した勇者一行は、立ち寄った村で大歓迎を受けた。
歓迎の宴は深夜まで続き、村に一泊した。その夜半過ぎに王子が一行に言った。
「明日、あいつが心血注いで作ってくれた橋で、あいつの追悼をしたい」
王子の発言に皆が賛同した。
こうして村で箱馬車を借り、一行は魔峡谷まで戻ってきたのだ。
◇
公女が橋の全体像が見たいといったので、橋のたもとではなく遠くから橋の全長の姿が眺められるような位置に馬車は停まった。
馬車から降りた一行は、どこか厳かな気分で橋を見渡した。
遠目に眺める橋は相変わらず雄大な姿のまま、魔峡谷にかかっている。
「リン。聖女の祈りを捧げてくれ」
王子の頼みに応じリンは一歩前に出ると、顔の前で両手を組んで目を瞑り祈りの体勢にはいった――その時。
カチャリ
リンの両手首に金属の重みが加わった。
反射的に目を開け、音と感触を確かめると。
リンの両手首に、見慣れぬ魔導具の腕輪が着けられていた。
着けたのはいつのまにか近づいていた公女。
「なに、これ」
両手首にそれほどの重さは感じない。
けれど、なにか言いようのない不自由感があった。
「それは魔法を封じる魔導具。リン。あなたの神聖力をも封じているはず」
「は?」
魔法を封じる魔導具? と、リンは目を見開いた。
なんのためにそんなものを着けられたのだろうか。
「残念だよ。聖女リン」
王子がポツリと呟いた。
戦士が剣を鞘から抜き、刃先をリンへ向け構えた。
ふたりとも、険しい表情をしている。
「残念?」
リンにはわけが分からない。
「聖女は魔王討伐後、自分の国へ還った……と、国王陛下には説明します。あなたの名誉は守られますわ」
公女はそう言いながら、王子の隣に並んでリンを睨んだ。
リンの正面には向けられた剣の刃先。
そして背後には魔峡谷の深い谷底。
この状況はなんなのだ。
わけが分からないリンを前に、王子が言う。
「聖女は裏切り者だ。断罪されなければならない。だがそれは、仲間だった僕らの手でやるのが……せめてもの慈悲だ」
断罪? それに慈悲、と王子は言ったのか?
彼はなにを言っているのだ? とリンは愕然とし……叫んだ。
「裏切り者って、なに? 断罪って、なんで?!」
今まで仲間であった者たちから、魔法を封じる魔導具を着けられ、剣を向けられ、断罪されなければならないなんて!
リンの叫びは魔峡谷にこだました。
冷たい風が吹きすさび、いつの間にか日が陰り青空が見えなくなっていた。
どこか気まずい雰囲気のなか、鎮痛な面持ちをした王子が静かに口を開いた。
「きみは魔王軍四天王のひとり、東の金烏を逃した。よけいな情けをかけて!」
「はぁ?」
四天王のひとりってだれだっけ? とリンは首を傾げた。
よけいな情けをかけて逃がした……などと言われたが、それはもしかして。
「それって、降参してきた魔人のこと? だってあのひと……いや人じゃあないか、あの魔人には完全に殺気がなくて降参してきたんだよ? そんな無抵抗のひと相手にひどいことなんてできないじゃん!
それにあのときみんな『魔王を倒すのがさきだ』って言って、あの魔人を見逃したじゃん!」
◆
サイモンが死んで……しばらくトラップを警戒しながら魔王城の中を進んでいたとき、その魔人が現れた。
いままで四つ足の獣型魔獣しか見たことのなかったリンは、目を皿のようにして彼をジロジロと見てしまった。
これぞ魔人! と言ってもいいようなねじれた角の生えた藍色の髪と、印象的な金色の目をした禍々しくもうつくしい男性ヒト型の魔人だった。
こんな魔族がいるのか……というのがリンの素直な第一印象だった。
とてつもない魔力を秘めているのは一目瞭然。
なのに殺気も戦闘意欲も見受けられず、ただ静かな置き物のような風情で佇んでリンたちを見ていたのだ。
そいつがふぃっと両手を上げ、自己紹介を始めたのだ。
「俺は魔王軍四天王が最弱。東の金烏。
俺に戦意はない。見逃してくれ。
魔王はこの廊下のさき、右の階段を上ったさらに奥の大広間にいる」
無防備に両手を上げているだけの魔人からは、本人の申告どおり戦意も殺気も感じなかった。
リンは先に行こうと提案した。
戦う意思のない“最弱さん”を相手にしたとして、無抵抗でやられるとは思えない。こちらが攻撃したら抵抗してくるだろう。そんな無駄なことに時間や体力を奪われるより、彼をスルーして体力温存しよう、と。
パーティー全員の合意を得て、魔人は見逃された。
彼はさきを急ぐ勇者一行を黙って見送っていた。
リンは一度振り返って魔人を見た。
リンの視線に気がついた彼は、にっこりと笑ってひらひらと手を振った。
魔王は最弱さんが言ったとおりの大広間にいたし、四天王とやらは他に三人もいて、全員とんでもなく強かった。
最弱さんと無益な戦いをしていたら、魔王を倒す余力などなかったかもしれない。
3.心の声が聞こえる
◇
あの最弱魔人を見逃そうと最初に提案したのは、たしかにリンだ。
だがリンの提案を受け入れたのは全員だ。いまさら裏切り者呼ばわりされるなんて、釈然としない。
《いい子ぶって…。だからあなた、目ざわりなのよ》
ふいに、リンの脳内に公女の声が響いた。
公女の口は動いていないのにも関わらず。
(え? テレパシー、的な?)
リンは驚いて公女を見つめた。
なぜ彼女の声が突然聞こえたのか分からない。
公女特製の魔導具によって魔力も神聖力も封じられているはずなのに。
それにそもそも、テレパシー的な能力をリンは持っていない。
《わたくしの幸せのために……始末しなくては》
(なんか怖いこと考えてるーーー!)
慌てて視線を戦士へ向けた。すると、
《俺は王子の命令に従うだけ俺は王子の命令に従うだけ俺は王子の命令に従うだけ》
戦士の声も脳内に響いた。彼は同じことばを延々と繰り返している。これもちょっと怖い。
(ど、どういうこと?)
視線を王子へ向ければ
《すまないリン。僕はきみを野放しにすることはできない。これがきみのためなのだ》
まちがいなく王子は口を動かしていない。にも関わらず、彼の声が脳内に響いてきた。
リンには耳ではなく、脳内に直接みんなの声が聞こえるのだ。
が。
(わたしのため? って、どういうこと?)
リンは脳内に響いた彼らのことばの内容に戸惑うしかない。
王子は相変わらず苦々しいと言わんばかりの表情でリンを睨んでいる。
《きみはあまりにも神々しくうつくしい……僕には手の出せない存在……そんなきみを手放すなど、とうていできないのだ!》
そんな仲間たちの心の声(?)が、なぜ聞こえるのか。
リンにはどうしてそうなったのか、さっぱりわけが分からない。
それに彼らの心の声も、わけが分からない。
だれもかれも勝手なことを言っている!
「きみは魔人に情けをかけた。逃げ延びたあいつは、やがて逆襲の機会を狙うだろう。僕たちはそんな機会を与えたきみを粛清せねばならない!」
王子が厳かな声で宣言したと同時に、曇天の空を稲妻が走った。
ゴロゴロと不快な音を響かせながら、空までもリンを責めているようだった。
リンは反論した。
「冗談じゃない、魔王は死んだ! 消滅した! 王子、あんたの剣でトドメを刺したはずだ! 魔王の死と同時に魔獣たちもほかの四天王も塵になった! 城だって崩れ落ちた! あそこで見逃した四天王最弱のなんたらも、同時に消えているはずじゃん!」
リンは必死になって彼らの考えを変えようと、自分は裏切者なんかじゃないと訴えた。
だが。
《俺は王子の命令に従うだけ、俺は王子の命令に従うだけ、俺は王子の命令に従うだけ……》
《あぁ……リン。愛している。愛しているが……僕には……》
《わたくしのサイモンは死んだのにっ。いまさらあなただけ幸せになんてさせないっ》
三人が三人とも、身勝手なことを言っている。
そんな中でも、ヒステリックな悲鳴のような声で聞こえたのは公女の叫びだった。
リンは公女を見た。
いつもうつくしくキリッとしてて、博識でいろんな魔法を教えてくれて、魔導具作りも得意で……。
リンの親友だと思っていた彼女が……。
《わたくしの幸せのためにあなたの存在が邪魔なのよリン》
なんだかとんでもないことを内心では言っていた!
(え? なんで? わたしの存在がアイリーンの幸せを妨げている?)
公女の心は婚約者の死を悲しんでいると同時に、そのせいで幸せになれないと嘆いている。
そして、幸せになるためにリンを亡き者にしたいと望んでいた……。
それはつまり……自分の婚約者は死んだ → 自分は結婚できない。
リンの婚約者は王子 → このままなら結婚する → 許せない、という理屈なのか?
なんだ、その身勝手な屁理屈は。
腹が立ったリンは公女を指差して言った。
「ねえ、アイリーン。あんた、魔法騎士が悩んでいたの、知ってた?」
「え?」
「彼、悩んでいたよ。アイリーンと王子が仲良すぎるって。本当はアイリーンは王子妃になるはずだったのに、自分が婚約者になっても良かったのだろうかって。自分を卑下してた。
今回の討伐で胸を張ってアイリーンと結婚できるような手柄を立てるんだって、言ってたんだよ」
だから、なのだろう。
魔法騎士はいつもパーティーの先頭に立っていた。
そうして先頭にいたせいで……トラップにかかった。
「もともと三人が幼馴染みとして育ったんだって聞いたよ。
公爵閣下の命令で公女の婚約相手はサイモンになったけど、アイリーン本人は王子と結婚したがっているって、悩んでた」
王子と公女と魔法騎士。
三人とも同じ年の幼馴染み。
(男子ふたりに女子ひとり。トライアングラーになるのは物語でも定石だよね。物語はそれでもいいけど、現実にふたまたかけてるのはマズイよ)
「そのお悩み相談を受けてから、わたしもそれとなくあんたたちふたりを観察してたけど……。イチャイチャし過ぎ。サイモンの心配ももっともだって思った。魔王城からの帰りだって……」
(あ。これは言わないほうがいいのかな)
リンは慌てて口をつぐんだ。
けれど、ちょっと遅かったらしい。
公女の顔色がはっきりと変わった。
「魔王城からの帰りが……なんですって?」
険しい表情を浮かべた公女。
そのとき、いつもの彼女ならしない動作をした。たぶん、無意識に。本能的にといったほうが正しかったかもしれない。
その手が、腹部を庇った。
リンは勘が良い。公女のその動作と、今までの王子とのアレコレが脳裏を過ぎり……。
「アイリーン、妊娠してるんだ」
ポロリと口を滑らせた。
◆
魔王城からの帰途は、魔獣たちが襲ってくる心配がないおかげでとてものどかな旅路となった。
心配することは天気の具合と食料事情くらい。
早めに人のいる土地へ戻ろうと話しながらの野営。
そんなある日の真夜中。
公女は火の番をしていた王子を誘い、こっそりと少しだけ離れた森のほうへ向かった。
その姿を、薄目を開けたリンは無言で見送った。
気配に聡いリンは、自分の隣で寝ていたはずの公女が起き上がる音で浅い眠りから覚めてしまったのだ。
彼らは野営地から少しだけ離れた森のほうへ行って、公女特製の音声遮断魔導具を作動させていた。
(そりゃあね、音は聞こえなかったけどね。真夜中の木の影で堂々と立ちバックで青カンしてる姿は遠目にもばっちり見えたわよ。いくら寝静まっていたからって、なんだかなぁって思ったわよ、こっちは)
婚約者を亡くした公女の情緒が不安定だったのは、リンも認める。
でも彼の葬儀も追悼もしていない状態で、幼馴染みに身体で慰められるのってどうなの? と遠い目になった。
4.迷惑なトライアングラー
◇
とりあえずリンの知るかぎり、王子と公女の仲がそうなったのは魔王討伐後のことで、何回か確認している。
そのせいで、リンの王子へ向ける気持ちが盛り下がったのは確かである。
(あのときのアレが実になったのですねおめでとうございまーす)
なかば白けた気持ちでちらりと王子を見れば、
《あぁ……。やはり、リンには解ってしまうのだな。神聖力を封じたとて、彼女の心眼には効かないわけか》
王子は心の声でなんか気持ち悪いこと言ってた。
《僕は責任をとって公女と結婚しなければならなくなった。
あぁ! あのときアイリーンを慰めるためなどといって中出ししなければよかった! アイリーンのカラダは気持ち良すぎる!》
(うわああぁ……。なんか、サイテーなこと考えてませんかね王子?!)
《僕が真実愛しているのはリンだというのに!》
「……は?」
王子の心の声が気持ち悪いしうるさい。
彼から目を逸らし公女を見れば、こっちはなんだか凶悪な顔になってて怖い。
美人なのに。美人だからか。
「わたくしが妊娠してるだなんて……いい加減なこと言わないで」
《どうして分かるの。わたくしでさえ半信半疑なのに。やはりリンは恐ろしいわ》
「いい加減かどうか、お医者に行けば? 行かなくても、何ヶ月かすれば体型が変わるし。相手は判ってるし?」
チラリと『相手』である王子へうっかり視線を向けてしまった。
《ああ! そんな不安そうな顔で見つめないでくれリン! 僕の心はきみのものなんだ!》
王子はさらに気持ち悪いことを考えているから、リンはうんざりした。
(つまりこれは……ぐだぐだトライアングラーのせいなんだな?!)
公女は婚約者がいるにも関わらず、王子にもちょっかいをかけていた。
その婚約者が死んで身体の関係を持ち、さらに妊娠の事実に気がついたので結婚することにした。
王子も幼馴染みと関係を持ってしまったことの重大さをやっと理解したというところだろうか。
(身勝手にもほどがある!)
王子も王子で、公女と仲良しなんだからそっちと婚約していれば良かったのだ。
最初からリンと婚約なんてしなければ、今揉めることもなかったのに!
もしくは、慰めるにしても貞節を守っていれば……。
(お外でいたすのが好きなひとって……つまりスリルジャンキーってことだよね……相容れないわぁ)
リンはため息をついたあと、公女へ向け口を開いた。
「えっとね、アイリーン。わたしは仲間であるあんたたちが結婚して幸せになるのは大賛成なんだよ。
王子の婚約者だなんて大層な地位はわたしには必要ないの」
そう。
リンはこの世界で生きていくしかないと知ったとき、慰めてくれたライオネル王子をちょっと好きになった。
でも“王子”は次期国王だ。
そんな人間の妻になるのってどうよ? なんて考えてちょっと尻込みしていたから、のめり込むほど好きだったわけではない。
なにより魔王討伐という使命優先で、恋愛を育んでこなかった。
婚約解消してくれと言われれば、はいとすなおに返事ができる。
……慰謝料くらいは貰わねばならないと思うけれど。
「だからその物騒な考えは改めて、この剣は下ろすよう言ってくれないかな」
さきほどから戦士の持つ剣のさきが震えていて、リンはひやひやしている。
危なっかしいから早く下ろしてくれと叫びたい。
「王族の婚約は破棄できないから……なんて理由でわたしを亡き者にしようっていうなら、いっそ、わたしは日本に還ったことにして、ここに置いていってくれればいいから。
邪魔者は消えるにしても、もっと穏便な方法をとってくれないかな」
もともとは日本人で庶民生まれ庶民育ちのリンにとって、王族との結婚なんてたとえ異世界でも(異世界だからこそ!)荷が重すぎる。
王子と公女の幼馴染みの絆とやらも、痛いほど感じた。彼らを引き裂く悪役になんてなりたくない。
なんのかんのと二年間もこの地で生きてきたのだ。野宿にも慣れた。
当面の先立つものをちょっとだけ用意してくれれば、まあなんとかなるだろう。
そう思っての提案だったのだが。
《秘密を知ってしまった以上、これ以上リンを生かしてはおけないわ》
《…………………………》
《リン……きみはうつくしく神聖な聖女……とても僕が欲望のはけ口にしてはいけない存在……だからこそ、野に放ってほかのだれか知らない男に抱かれるなんて許せないし想像もしたくないっっっ》
公女はさらに物騒な考えをし、戦士は思考停止したまま、王子はもっと気持ち悪いことを言っていた。
(うぇええっ?! ちょっと待ってよ、勘弁してよ気持ち悪っっ)
王子の本心を知ったリンは鳥肌が立つ感覚を味わった。
「聖女リン。殊勝なことを言っても無駄よ。あなたはここから落ちて、その魂はあなたの故郷へ還るの。その方があなたのためだもの。――ジュード」
公女のうつくしくも無情な声が響き、戦士へは低い声で命令を下した。
戦士が一歩前に出る。
とうぜん、彼の構える剣の刃先もリンに近づく。
リンは一歩後退する。
リンの足元、峡谷の崖の端から小石が落ちた。
ちょっと待ってくれとリンが言いかけたそのとき。
ゴロゴロという轟音が閃光とともに空一杯に広がった。
いなづまが走り、ドーーーーーンッという凄まじく重い衝撃音が空間をも震わせながら鳴り響いた!
勇者一行が見ている風景の中、魔法騎士が造りあげたあの橋にかみなりが落ちたのだ!
リンも思わず振り返ると橋を見た。
天才魔法騎士サイモンが心血注いで造りあげた橋が。
リンの意見を取り入れ、金門橋のような優美な姿をしていた橋が。
彼の死後も崩れ落ちることなく、その雄姿を誇っていた橋が。
いかづちを受け吊り橋のケーブル部分が切れるのを皮切りに、徐々に崩れ解体し、やがてすべてが瓦解していった。
壊れた橋の残骸は魔峡谷の暗い闇の中へ崩れ落ちていく。
突然の落雷による惨事に、だれもが呆然とその場に立ち竦んでいた。
5.呪うしかない
(ゴールデンゲイトブリッジが……壊れて……落ちた……)
瓦礫と化した橋は、リンたちが見ている前でゆっくりと魔峡谷の暗闇の中へ落ちていった。
深すぎる魔峡谷の底などないと思っていたが、ずいぶんと時間が経ってから谷底面へと到着したのだろう落下音が聞こえてきた。
「……ふっ……ははは……」
リンにとってあの橋は、彼女が地球にいたという記憶の象徴だった。
自分の持っていた記憶が、この異世界でも通用すると魔法騎士が証明してくれた。
魔法で造られたものだけど、デザインや構造は地球の物理。彼女にとっては文字どおり地球と異世界との架け橋だったのだ。
あぁわたしはこの異世界でこれからも生きていくんだと、改めて誓った象徴の橋。
それが、破壊された。
そしてリンは仲間たちから亡き者にされようとしている。
ぜんぶ。……ぜんぶ『おじゃん』。『ぱー』。
「……ははっ……はーっはっはっ、アーッハハッハッハッハ……」
リンは狂ったように笑いだした。
笑うしかない、と思った。
この異世界に突然召喚されて二年。
右も左も分からない、魔法だなんて摩訶不思議なものがある世界。
人類を救うための使命とやらを、勝手に背負わされた。
がむしゃらにがんばってきた。
立ち止まってゆっくり考えていたら泣いてしまいそうだったから、無我夢中で使命とやらを果たすためにがんばってきた。
なんとか魔法を使えるようになって。
恐くて気持ち悪い魔獣と戦う毎日になって。
仲間のひとりを失って。
どうにかこうにか、使命を果たせたと思っていたのに。
その功績は、ぜんぶ、リンから取り上げられようとしている。
仲間だと認識していたひとたちから、邪魔だから死ねと思われている。
そして彼女にとってこの異世界でもちゃんと生きていこうと誓った象徴の橋が落ちた。
こんなひどい話があるだろうか。もう、リンにできることは笑うことくらいではないか。
発作を起こしたようにリンは笑い続けた。
魔峡谷にリンの笑い声がこだまする。
どこか狂ったような……悲鳴のような声が響いた……。
さんざん笑い、その笑いの発作が治まったころ。
リンの中ではふつふつと怒りの感情が湧き始めた。小さかったその怒りは、火山が噴火するかのように、一気に彼女の思考を支配した。
(あぁもう! どうにでもなれ!)
「……ふっ……ふざけるなフザケるな巫山戯るな! 恨んでやる恨んでやる呪ってやる呪ってやる!」
高笑いを止めたリンの口からは、禍々しい呪いのことばがボロボロとこぼれ落ちた。
「話したよな?! わたし、話したはずだよな?!
ツライ旅の道中、百物語とか怖い話とか日本の話を! 日本流の呪い、いまわたしがやってやる!」
なかなか寝付けなかった野宿。
夜の闇の恐ろしさも利用して、怪談話で盛り上がった晩があった。
仲間たちとのちいさな交わり。仲良くなれたと思っていた。
「恐ろしいんだぞ? この国のそれがどうか知らんけど、日本の呪いは本当に効くんだぞ?
古来から触らぬ神に祟りなしって言われるくらい、日本の神は祟るんだぞ?」
王子と魔法騎士はおもしろがってリンの話を聞いていたが、公女は怖い話はやめてと耳を塞いでいた。
少し年上の戦士は、和気あいあいとしたリンたちのようすを微笑みながら見守っていた。
今となっては懐かしい光景がリンの脳裏をよぎる。
(仲良くなったなんて、幻想だったね!)
「わたしは日本では神社の家系に生まれててね。巫女のバイトはさんざんやったんだ。
大学に入って勉強して資格とって神主になろうと思ってたわたしの人生設計はめちゃくちゃにされた。
この国の! おまえらの! 誘拐犯どものせいで!」
リンは王子を指差した。
そうだ。こいつらのせいでリンは苦労するはめになったのだ。
この犯罪者たちのせいで!
「誘拐犯?」
王子が驚愕に目を見開きながら呟いた。
リンはなおも続ける。
「あぁ、なに? もしかして自分が犯罪者だっていう自覚なし?
さっすが! 無自覚犯罪者はおっかないね!
わたしからしたら、おまえらは誘拐犯だ! こっちの意思なんて関係なく親元から引き離して別の場所に拉致する行為を誘拐と言わずなんと言う!? この犯罪者の息子めっ!」
「リン! あなた、なんてこと言うの?!」
リンの言い草に堪りかねたのか公女が口を挟んだが、リンは血走った眼を公女へ向けて叫んだ。
「おまえは犯罪者の親戚だっ! おまえだって犯罪者だ! 国ぐるみでの大規模な誘拐犯ども!
人類のためとか言ってたけど、わたしにはなんの関係もない異世界の人類じゃないか!
そいつらの未来を縁もゆかりもない誘拐してきた小娘に賭けるなんてどうかしてる!
おまえら全員狂ってるんだよっ! おまえらなんて呪われてしまえばいいんだ!」
長い黒髪が乱れ、血走った眼で仲間たちを見やるさまは狂人のそれであった。
「こっちで聖女なんて笑っちゃったけどさ、もとは巫女だったんだよわたし。
神さまへの舞とか舞ってたんだよ?
そんなわたしだからね。たとえこっちで得た能力が封じられたとしても!
ここがわたしから見たら異世界で故郷が遠くとも!
神に祈ることぐらいできるね、できるとも、やってみせるさ!!」
本当に狂ってしまったのではと思わせるほど凄まじい形相でリンは叫び続けた。
王子たちは、あまりにも変わった彼女の雰囲気に呑まれ、目を見開いてただ見守っていた。
リンは崩れ落ちた橋があった方向へ顔を向けた。
両手をあげて声を張り上げる。
「かしこみかしこみ、いと遠きところにおわす第六天魔王よ!
我が声を聞きたまえ! 我が恨み聞き届けたまえ!
この晴らせぬ恨み、異世界の王家への恨み辛み、呪詛にして奴らに倍返ししたまえ!
呪いたまえ、やつらの血が根絶やしになるまで! 末代まで! 延々と続き脈々と呪いたまえ!
あなたさまに倣い、王を民に! 民を王としたまえ!
滅びてしまえ! こんな異世界の人類なぞ!」
喉も潰れろとばかりの大声量での絶叫は、魔峡谷にこだまして消えた。
「リン……、きみは……」
王子は愕然としていた。
いつも困ったような笑顔を見せていた聖女の、こんな激しい一面は初めて見た。
リンはすこし咳きこんだあと、またしても笑った。イヒヒという笑い声は、もしかしたら王子たちを嘲笑ったのかもしれない。
「ざまーみろだ! わたしは呪った! 『ことあげ』してやった! 祟ってみせるとも! 子々孫々に至るまで怯え、震え、今日のこの日を忘れるな!」
リンが王子たちをゆっくりと見まわした。
そして薄笑いを浮かべながら、公女を指差した。
「アイリーン公女! おまえのその腹から生まれる子から呪った!
赤子の肌に、それとわかるアザがあるだろうさ! その子が滅びの象徴!
王家を、おまえたちを破滅に導く幼き使者だ!
わたしの死で、わたしの流した血をもって、この呪いは完成される。
さあ! 今こそわたしを谷底へ突き落とすがいい!
おまえたち自身の手でな!」
公女は怖気づき、一歩下がった。
王子は戦士へ命じた。
「リンを確保しろ! 殺してはならん! 塔に幽閉して──」
リンの死で呪いが完成するというのなら、彼女が死ななければいい。
そうだ。リンは誰にも見せない触れさせない場所で幽閉すればいい。
王子である自分だけが彼女を好きにするのだ。
そうだ、そうしよう。
王子の指示に従い、戦士が手に持っていた剣を下ろした。彼は歩を進め、リンを捕まえようとしたそのとき──。
「はっ! させるかよ!」
リンは戦士の手から逃れるよう地面を蹴って飛び退った。自ら谷底へ向けダイブしたのだ!
「せいぜい良い夢見ろよ、あばよ!」
捨て台詞とともに高笑いしながらリンは深い深い谷底へ落ちていった。
自らダイブしたリンの身体は、吸い込まれるように魔峡谷の暗闇の中へ消えていき──。
しばらくリンの高笑いが聞こえていたが、それが止んだとほぼ同時に、ズシャリという落下物が地面に叩きつけられる音が微かに聞こえた。
崖の上に取り残された王子たちは、かなり長い時間、だれもなにも言えないまま呆然とその場に立ち竦んでいた。
魔峡谷の空には曇天。
冷たい風が吹き、やがてシトシトと静かに雨が降り始めた。
まるで空も泣いているかのように――。
6.公式発表とその裏側
勇者であるライオネル王子が仲間たちとともに人類の宿敵魔王を倒したという朗報は、瞬く間に王国中に知れ渡った。
彼ら勇者一行は王国中を凱旋。王都の民たちも歓声と熱狂とともに彼らを迎え入れた。
魔王を倒した勇者一行であったが、尊い犠牲もあった。
王子を守るためその盾となり犠牲になった魔法騎士の最期の話は、人々の涙を誘った。
我が国の危機を救うため召喚された聖女は、勇者一行をよく守り魔王を倒す一助となった。彼女は自分の役目は終わったと、あり余る魔力と神聖力を使い自分の祖国へ還った。
彼女はこの国を去るまえに、人々のために平和と幸福を祈ったという。
今はもういない魔法騎士と聖女の名は、王国史の誉れとして燦然と輝き続けるだろう。
魔王討伐の旅は終わり、人類は脅威に打ち勝ったのだ!
魔王を討伐し生還した王子と公女は、国中の人々の祝福を受け華燭の典をあげた。
こうして王国に平和が訪れたのだ。
◇ ◆ ◇
ライオネル王子は、毎晩あの日の夢を見るようになった。
彼の婚約者だった聖女が、暗い暗い魔峡谷の谷底へ落ちる瞬間のその顔を。
嘲るような……あるいは泣き出しそうな。
呪詛を紡いだ唇は禍々しく……けれどその顔はひどくうつくしいと感じた。
汗びっしょりになって目覚め、頭を抱えて思い悩む。
あのときの自分の判断は正しかったのだろうか。
何度も何度も思い返しては、自問自答を繰り返している。
聖女が訴えたように、あの村辺りで彼女を解放するべきだっただろうか。
魔王討伐のため、古い魔法を用いて異世界から召喚した聖女。
まさか、あんなにうつくしい少女が現れるとは思ってもいなかった。
艶やかな黒髪はまっすぐで、彼女のこぶりの顔をさらさらと彩っていた。
いつもどこか困ったように笑うその顔を、満面の笑みにしてあげたかった。
召喚魔法は古代人の使用していたもので、今では失われた魔法の一種。
召喚された者をもとの世界へ送り返す魔法はない。
故郷に帰れないと知り、心細いと呟く少女の細い肩を抱きしめて、王子はリンを守ると誓った。
魔王討伐の旅のさなか。
幼馴染みの魔法騎士が死んだ。
彼の死がつらいと公女に泣きつかれた。彼女を慰めているうちに、なぜか彼女を抱いていた。
旅の間中、禁欲を余儀なくされていたからだろう。魔王を討伐後、張りつめていた気持ちが解放されたこともあいまって、公女の誘惑に抗えなかった。
もともと公女アイリーンは血が近すぎるという理由で王子の婚約者候補から外されていた。
だから、公女のことはそういう相手にしてはいけなかったのに。
魔が差した。
「月のモノがこないの。妊娠したみたい」
公女にそう相談されたとき、王子は戸惑った。
公女を妊娠させておいて、彼女を娶らないわけにはいかないではないか!
身分を考えれば正妃に据えなければならない。ほかの貴族どもの手前、公女を愛妾になどしたら王家の信用問題になる。
リンとの婚約は破棄し、公女と結婚する。
これが最善だと解っているが、王子の婚約者は召喚された聖女だと公表済みだった。
その聖女と結婚しないだなんて、国民たちはなんと思うだろうか。
旅から帰還してみれば王子の結婚相手が違うなんて、醜聞以外のなにものでもない。
それに。
リンとの婚約を破棄したら、彼女はきっとすぐにほかの貴族の男が攫っていくだろう。
なんせ、あのうつくしさ。
さらに、この国の人間はだれも持っていない神聖力を扱う稀有な聖女。
性格も穏やかで純粋無垢。人を疑うことをしない清廉さ。
それでいて博識で、異世界の知識はこの国に有益であるに違いない。
男ならだれもが欲しがる要素が聖女リンを彩っている。
王子はどうしてもリンを自分の目の届かない場所においておきたくなかった。
自分のいないところで他の男を夫とし、幸せに笑っているなんて許せなかった。
そうするくらいならば殺してしまおうと思った。
だって、愛していたから。
「あの子は魔峡谷に落としましょう」
公女の提案に戸惑いをみせたのは、ほんの数瞬だった。
まさか彼女があんな呪詛を撒き散らしながら身投げするとは思ってもいなかった。
あのとき彼女はさまざまな呪詛のことばを叫んでいたが、ただのことばを述べていたに過ぎない。
魔導具を着けられた状態の彼女からは、魔力の発動も神聖力の波動すらも感じなかった。
聖女リンの発した呪詛のことばの数々は、ただの悪あがきに過ぎないのだ。
そのはずなのに。
旅の途中でリンがさまざまな話をしてくれた。
その中でも興味深かったのは『ことばが力をもつ』という考え方だ。
なんでも、古代からニホンジンにはコトダマが操れるのだとか。
コトアゲして、言ったことばが本当のことになる力を操れるのだとか。
だから今でも不吉なことや死を連想するようなことを『忌みことば』といって避けるようにしているのだとか。
そんな世界で生きてきた彼女が、狂ったように言い放った『呪い』。
魔力も神聖力も発動していなかったが、彼女は「コトアゲした」と言いきった。
そして自分から谷底へ飛び込んだ。
呪いを完成させるために。
王子の胸には今も、一抹の不安とともになんとも言えぬ薄気味悪さが去来している。
彼の正妃アイリーンの腹の中で、胎児は順調に生育している。
◇ ◆ ◇
王子妃アイリーンは怯えていた。
晴れがましい凱旋を果たし、王子と結婚し念願の王子妃となった。
すぐに懐妊が発表され、王宮は慶事づくしだといまだに祝賀ムードが漂っているにもかかわらず。
理由はわかっている。
あの忌々しい召喚聖女が死の間際、苦し紛れに叫んだことばの数々のせいだ。
あれが気になって仕方がないのだ。
だが、あのとき聖女はアイリーン特製の魔導具を着けていた。
彼女が魔力も神聖力も発動できなかったのは、アイリーン自身がよく分かっている。
だから『呪い』なんてない。
理性ではそう判断を下せても、感情が『薄気味悪い』と訴えているのだ。
聖女リンは不思議な雰囲気を纏った少女だった。
あの子ができると言えば、なんでも叶った。
だからこそ、目ざわりでしかたなかった。
アイリーンが長いこと望んでいた『王子の婚約者』という地位をやすやすと手に入れながらも、家に帰りたいなどと泣くその性根が大嫌いだった。
だから、魔王討伐の旅にむりやり同行した。
王子と聖女の仲が進展しないよう聖女のお世話係に徹した。
接してみれば、聖女リンは平凡な少女だった。
あまりにも平凡で、公女が気にするような者ではないと思えた。
だからこそ、その存在自体が許せなかった。
リンを抹殺すると決めたが、念のために魔力を封じる魔導具を着けさせた。
魔峡谷に落ちて助かった人間などいないとはいえ、運良く一命を取り留めるかもしれない。
リンがそうなったら、あの強力な神聖力をもって自分自身を回復させてしまうだろう。
万が一、億が一にもそのようなことにならないよう、念には念を入れ彼女に魔導具を着けた。
リンは異常に悪運が強いと感じていたから。
そんな聖女リンが身を投げるまえ、苦し紛れに放ったことばにアイリーンは苦しめられている。
自分のお腹の子から呪ったとリンは言っていたが、はたしてそれは成就するのか、否か。
アイリーンの腹は日ごとに膨れていく。
闇雲に怯え、聖女リンの本当の最期を他者に知られるわけにはいかなかった。
表面上は平静を装いつつ、けれど内心ではひどく怯え、苦しみながら日々を過ごした。
十月十日が経ち。
一昼夜苦しんだ末に、王子妃は子を産んだ。
王宮中……いや、国中が待ち望んだ嬰児は男の子だった。
五体満足に生まれたその子は、生まれたばかりにもかかわらず、背中に青いアザが刻まれていた。まるで、ひどく殴打されてできた傷跡のように。
産婆は戸惑った。
自分たちはなにもしていない。
なのに、なぜこの嬰児に打撲痕があるのだろうか。
産湯を使い嬰児の身を清めても、そのアザは消えない。
恐る恐る王子妃へ嬰児の背中を見せた。
アイリーンは驚愕に息を呑んだ。
彼女には、それが谷底へ落ちたリンからのメッセージのように思えたのだ。
脳裏に聖女の声がこだまする。
『赤子の肌に、それとわかるアザがあるだろうさ! その子が滅びの象徴!
王家を、おまえたちを破滅に導く幼き使者だ!』
あの呪いは実現したのだ!
「なんて不吉なっ! その子を殺して! もうわたくしの前に連れてこないで!」
悲鳴のような声を発したアイリーンは、それ以降我が子を見ようともしなかった。
困ったのは嬰児を取り上げた産婆たちである。
すぐさま王子へ報告したのだが、その嬰児の背中にアザがあるという事実を伝えた途端、王子も顔色を変えた。そして人知れずその子を始末するようにと命じた。
こうして。
王家は秘密を抱え、待望の世継ぎの子は死産だったと公表された。
王宮からの正式発表の数ヶ月まえ、ひとりの戦士がひっそりと縊死したが王子がそれを知ることはなかった。
7.新魔王爆誕
かつて魔王城があった山よりも、もっと奥地の緑深い山の上。
造られたばかりのうつくしい城がある。
その壮麗な外観はまるでドイツにあるノイシュバンシュタイン城のよう。
その城の中の一室に置かれたコタツで、リリンは驚愕の声をあげた。
「うわぁ……マジ? マジでアイリーンってば、自分のお腹を痛めて生んだ子を殺してって言った?」
シャンデリアが煌めく豪華な室内のど真ん中には不釣り合いなコタツ。
その天板の上に置かれたとてもおおきな水晶玉。
そこに展開される映像を見ながら、リリンが呆れたような声をだした。
自身の長い黒髪をかきあげ、やれやれとばかりに首筋を撫でる。
「言ってたな。たしかに聞いた。ヒト族、こえぇなぁ」
返答したのは、リリンの隣で一緒に水晶玉を見ていた男性ヒト型の魔人。
ねじれた角の生えた藍色の髪と印象的な金色の目をした禍々しくもうつくしい姿は、リリンのお気に入り。彼が旧ナチス親衛隊の制服っぽい衣装を着ているのは、まちがいなくリリンの趣味である。
遠く離れた人間たちの王宮のようすを監視していたのは、彼の豊富な魔力と卓越した魔術によって作られたドローン型の盗撮専用魔導具。
ヒト族には感知されないそれは、リリンが案を出し、魔人である彼が製作実現化させた。
「ヒト族が怖いのか、アイリーン個人が怖いのか……分かんないね……。
それにしてもずいぶん範囲が広かったけど、あれ蒙古斑だよね? 背中一面にあってびっくりした。蒙古斑って、お尻……っていうか腰にでるもんだとばかり……」
リリンのことばを聞いた魔人はしたり顔で笑った。
「背中全部に打撲痕があったら、谷底に身体を強打して死んだと思われているだれかからのメッセージっぽいし?」
そのことばに「なるほど一理ある」と言ってリリンは感心した。
「つくづく、すごいねルシフェルは。あれって、元はわたしのDNAから解析した奴なんでしょ?」
リリンの賞賛の声に、ルシフェルと呼ばれた魔人はその美貌をほころばせた。
「あぁ。未分化の胎児の遺伝子にチョチョイと手を加えるくらい簡単なことだ」
リリンは顔の前で手を左右に振る。
「いやいや! そんなミクロな作業をチョチョイとやっちゃうってことがスゴイの!
なぁにが“四天王最弱”よ。“最強”の間違いなんじゃないの?」
ルシフェルは苦笑しながら肩をすくめた。
「あのとき言った“最弱”の意味は、当時の魔王に対する忠誠心の量だよ。俺は一番忠誠心が足りなかった。それだけだ」
魔族とは、すべてが魔王の眷属である。
魔王の豊かな魔力と想像力から魔族たちは生まれる。魔族たちの王たる魔王が死ねば、彼の魔力から生み出され親のように慕う魔族たちは消滅してしまう。
魔王に次ぐ(あるいは凌駕する)魔力を宿す者で結成される「四天王」とは、次期魔王候補たちのことを指していた。
魔王に対する忠誠心が高すぎると、魔王が倒された(あるいは寿命で死んだ)とき自動的に殉死し滅んでしまう。
忠誠心の低い、いわゆる“最弱”と呼ばれる者が次代の魔王となる。
次代の魔王とは、先代の束縛から解放された者でないと務まらないのだ。
◆
自暴自棄になっていたリンがあの魔峡谷へ身投げしたとき。
高笑いしながら落下していたが、あまりにも長い時間落ち続けていたので飽きてしまった。
どこまで落ちるんだろうと呑気にも考えたとき。
音もなく現れたおおきな腕に抱きしめられた。
びっくりしすぎたリンが息を呑んだと同時に、ズシャリという音が鳴り落下が止まった。
どうやら彼女を抱きしめた腕の持ち主の足が谷底に着地したようだった。
(え……どーゆーこと? わたし、生きてる、の?)
死を覚悟して谷底へダイブした。
にもかかわらず、だれかに助けられたらしいということと、真っ暗闇の中だれかに抱きしめられているという事実に、リンの心臓は限界まで叫び声をあげていたが、彼女本体は緊張のあまり声すらあげられなかった。
「……震えてる……怖かった?」
そんなリンの耳元でやさしく語りかけた声に聞き覚えがあった。
「ヒト族の仲間たちの声、ちゃんと聞こえてた?」
それって突然公女たちの心の声が聞こえるようになったアレのことだろうか、とリンは首を傾げる。
「……あんた、だれ?」
目の前にちいさなちいさな灯りがぽっと現れた。
リンは自分をお姫さま抱っこしている男の顔を見て息を呑む。
藍色の髪と印象的な金色の目をもつ美形。極めつけは側頭部にねじれた角。
「俺、あんたのこと気に入ったよ聖女。思っていたより度胸あるし、あんたカッコいいのな!」
「……へ?……」
「こんなオモチャ、はずしちゃお?」
カチリと音がして、リンの両手首から魔導具が外れた。
そのとたん、身体中を覆っていた不自由感から解放された。
「そんで、俺の番になってよ」
「……ふぁっ?」
四天王の最弱、東の金烏と自己紹介した魔人が、絶対絶命のリンを救ったのだ。
◆ ◇ ◆
東の金烏が旧魔王城で勇者一行を待ち受け、初めて彼らの姿を見たとき。
彼の金の瞳は聖女という存在に釘付けになってしまった。
あきらかにこの世界の人間とは違うオーラを放つヒト族の子。
好奇心まるだしで魔人である彼を見た瞳は澄みきっていて、殺意も嫌悪も恐怖も感じていなかった。
ただただ興味津々に見つめてくる黒い瞳に惹かれた。
初めて、恋という想いを知った。
彼にとって絶対の存在だった魔王に対する思いより、聖女へ向ける気持ちのほうが凌駕した。
そのおかげで彼は消滅を免れたのだ。
とはいえ、魔王消滅時にそれなりのダメージを受けた。魔力の半分は失われたのだ。回復するための休息を取りつつ、勇者一行の帰路を監視していたら、聖女が仲間たちからの裏切りにあっていた。
ヒト族は嫌いだと、怒りの雷を見慣れぬ建造物へ落とした。
落下する聖女を抱きしめ、二度と辛い顔はさせないと心に誓った。
魔人は聖女を丁重に扱った。
新たに城を作りたいが、聖女はどんな城なら住みたいかと意見を聞いた。
「お城っていえば……ドイツのノイシュヴァン……」
彼女が脳裏で思い浮かべているその額に、己の額を当てて読み取り城を建てた。
城の内部の装飾もすべて彼女が思い描くとおりに作った。
「コタツ」とやらいう物体を見た聖女は狂喜乱舞していた。再現度がスゴイっと喜ぶ彼女を見た魔人も嬉しくなった。
魔人は聖女にお願いした。
名前を与えてくれ、と。
東の金烏という名は、前魔王が彼につけた名である。
その名前のままでいるのは、本当の意味で彼の束縛から脱却したことにはならない。
本来ならば自分で好きな名前を名乗ればよいのだろうが、彼は聖女に名付けてほしかった。
しばらく考えこんだ聖女は、彼の瞳を見て「金星みたいにきれいね」とつぶやいたあとでニヤリと笑った。
彼女は彼に「ルシフェル」という名前を与えてくれた。
嬉しくて嬉しくて堪らなくなった。
彼女の世界では天使なのに悪魔の長の名前なのだとか。あなたにピッタリよと笑った彼女がうつくしくて、彼はうっとりと見つめ続けた。
彼女はやさしく微笑み、自分の名前を教えてくれた。
「わたしの名前は凛。清瀬 凛よ。言いにくいだろうからリンって呼んで」
「り、リン」
ふだんはそんなことないのに、なぜか聖女の名を呼ぶときだけ緊張してどもるようになった。
生活のあれこれを任せるために生みだした魔獣(リンの意見を反映した二足歩行で人語を解する二頭身の愛らしい姿だ)たちがそれを聞いて覚えてしまい、聖女のことを「りりんさま」「りーりんさま」などと呼ぶようになった。
訂正するのも疲れたリンが「もうこれからはリリンでいいわ」と肩をすくめた。
魔族の女王リリン誕生の瞬間である。
ルシフェルは愛しいリリンへ尋ねた。
なにか望みはないか。復讐したくはないか。
リリンを裏切ったヒト族どもを滅ぼそうか、と。
リリンはその問いに対しキョトンとしていたが、やがてにっこりと笑って言った。
「わたしのDNAって解析できる? やってほしいことがあるの」
彼女が希望したことは、自分の遺伝子情報を解析すれば必ずあるはずの「生まれたばかりのアジア人の赤子の背に現れる蒙古斑と呼ばれる痣の再現」であった。
それが血縁でもない王子妃の赤子に現れれば、彼らはパニックを起こすだろうから、と。
そもそも、蒙古斑などという現象はこの世界のヒト族には起こらない。
まちがいなく『聖女の呪い』が実現したと恐怖におののくことになるであろう。
「わたしに呪いをかける力なんてあるわけないし、日本の神さまでもこの異世界は、さすがに管轄外よ。けど、ひとつの偶然が真実味を演出してくれるってもんよ。ヤケクソで言った呪いだったけど、成就するよう手助けしてくれると嬉しいな」
ルシフェルに『リリンのお願い』を拒否する選択肢はない。
一も二もなく了承した。
◆ ◇ ◆
「ついでにあの王子の遺伝子もいじった。やつの子どもの背中には蒙古斑が絶対でるようになったぞ」
コタツでみかんを剥きながらルシフェルが事もなげに言った。
リリンはそれに「へー。それはそれは」と呆れたように笑った。
王子に後継ぎがいないなんて事態は許されない。
けれど、あの王子の子ならば母体がだれであっても蒙古斑持ちの赤子が生まれるということだ。
「赤子殺しの悲劇は続くことになるのかな……。
つくづく、恐ろしいのは呪いじゃなくヒトの心ってね」
ルシフェルはその好意を隠そうともしない。
態度のすべてがリリンへの愛の告白だし、ことばも使って愛してると告げてくれる。
心も行動にも嘘がない。
それがリリンには心地よい。
うつくしい金色の瞳に見つめられ、あっという間に絆されてしまった。
魅了の力でも使ったのか? と問えば、「使ってるのは……り、リンだよ?」と無垢な笑顔を見せた。
ルシフェルに抱かれるようになったからか、自分のDNAを解析されたからなのか。リリンの身体は変化していった。
外見はヒト族のそれと大差ないが、瞳を覗き込むと黒く光る星が見られた。
そして耳のさきが細く尖り、妖艶な雰囲気も醸しだすようになった。常時【魅了】を垂れ流しているらしい。
どうやら寿命も長くなった。
(人を呪わば穴二つっていうもんね。わたしももうヒトではなくなっちゃったのね)
これからこの異世界が彼女の世界になるのだ。
それでいいとリリンは微笑んだ。
◇
リリンは『蒙古斑』のあれこれ以外、なにも望まなかった。
けれどルシフェルは気が収まらなかった(助けだしたときのリンが震えていたのが許せなかった)ので、ヒト族のなかでも貴族と呼ばれる者たちの家を中心に、赤子の肌に痣が出るようチョイチョイいたずらを仕掛けた。
蒙古斑ではない、ただの痣である。
蒙古斑ならば、生後数年もすればその痕跡は跡形もなく消える。
だがその痣は消えなかった。
貴族たちの間では、「痣をもつ赤子は不吉」「家を滅ぼす」という噂がまことしやかに広まっていた頃のことである。
魔王討伐した誉れある勇者の王太子が、率先して痣のある我が子を始末しているという噂が王城から広まっていたからだ。
自分の子どもにそんな不吉な痣があるのを嫌った貴族たちは、生まれたばかりの赤子を闇に葬った。
不憫に思い殺すことには躊躇した者も、家から追放し捨てるようになった。
やがてその行いは一般の民にも広がるようになる。その頃には「痣持ち」の数がかなり多くなっていたため、国民の全体数が減るような事態に陥っていた。
しかたなく、「痣持ち」であろうと殺すことは禁止されたが、その立場は奴隷よりも酷いものになった。
「痣持ち」は不吉の象徴などと呼ばれていたからだ。
そんなある日、ひとりの若者が熱い志をもって立った。
「痣の有無で差別するのはおかしい」
彼は迫害されている痣を持つ人々に対して演説をした。
「俺の祖父にも、生まれたばかりのとき痣があったそうだ。
だが祖父は育ての親からこう聞かされていた。
その痣こそ、神が遣わした勇者の証。民を虐げる王家を打倒する者の証だ、と。
俺こそがその勇者の末裔。この国を蹂躙し好き放題する王侯貴族を滅ぼす者だ!」
人々は彼の許に集い、王制を打倒する運動が起こった。
この運動はやがて国中を覆いつくすおおきな波となり、革命が起こるのだが――。
彼らは知らない。
若者の祖父こそ、数代まえのライオネル廃太子(自分の子を次々と処分した子捨ての狂王子として有名)とその妃アイリーン(精神を病み夫を殺害後処刑された妃として悪名を馳せている)との第一子。
その赤子を殺せと命じられた侍女が秘かに落ちのびて育てあげていた。
侍女はライオネル王子の侍従を務めていた戦士ジュードの許嫁だった。
罪の意識に苛まれたジュードは縊死したが、聖女は帰国したのではなく暗殺されかけ自ら死を選んだという真実の顛末を許嫁にだけこっそりと教えていたのだ。
かくして。
革命が起こり、数多の犠牲のうえに王制は廃止された。聖女の放った呪いの言霊は成就する。
聖女暗殺など企てたりしなければ、このような事態にならなかったものを……。
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