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9話

 


 太陽が燦燦と降り注ぐ魔王城に、ベルが鳴り響いた。


「やば………」


 みたらし団子を口に入れたまま魔王虎丸は呟いた。


「どうしたの?」


 天使の属性を持つ少女こと、セラフィーが目をパチクリしながら聞く。


「自分の部屋に戻りなさい!」


 いつになく厳しい口調で虎丸が言った。


「え!?でもまだオヤツを食べている途中だし」


「それは持って行っていいから」


 紫色の肌をしたいかにも悪魔という姿の魔王虎丸は、立ち上がりリビングの中を片付け始めた。


「急にどうしたの?」


「良いから一緒に行くのよセラフィー」


 マリンが言う。


「ふたりともどうしたのよ」


「今からここにとっても怖い人が来るんだよ」


「怖い人?」


「そうだよ。だから君たちふたりは自分たちの部屋に行きなさい。良いというまで出てきてはいけないよ」


「早く!」


「ちょっとなんで引っ張るのよマリン、そんなにしなくても行くってば、ちょっと力強すぎ!」



 この世界にはこんな言葉がある。


 魔王は日毎に力を増す。


 魔王の中では若手、赤ん坊扱いされるほどの日数しか生きていない魔王虎丸の魔王城へ向け、強大な力を持った古き存在が着々と歩みを進めていた。


 ここは3体の大魔王と100体の魔王が支配している世界だ。





 ◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆




 濃い霧の中、骸骨の馬が引く豪華な馬車が音もなく進む。


 その周囲を囲むのは大量の骸骨たちで、人間だけではなく様々な種類の生き物がいるがきちんと整列して一糸乱れぬ動きを見せている。


 馬車に印されている金色の花は「魔王カジツ」であることを示すものだが、それを見ている人間は誰ひとりとしていない。


 馬車を包み込む白い霧は、体の弱いものであればひと吸いしただけで体調を崩すほどの毒性を持っているからで、賢い人間ならば見かけた瞬間に逃げ始める。


 目指す魔王城の両開きの門が自動的に開いて、赤と金色の馬車を霧と一緒に向かい入れた。


 それからしばらくして、リビングの扉が勢い良く開け放たれた。入ってきたのは人の姿をした存在。しかしその身に纏う赤いオーラを見ればそうでないことが分かる。


 真っ黒いショートカット、陶磁器のように白く艶やかな肌、やや切れ長の赤みがかった眼、薄いピンク色をした唇、メリハリの効いたスタイルに薄いピンク色のドレスを着たその姿は、男ならだれでもむしゃぶりつきたくなるような色気を放っている。


 しかしその視線の先にいる虎丸は、監督を前にした野球部の1年生のような顔をしている。


「久しぶりね虎丸」


 その声は艶やかで甘くとても心地がいい。


「お久しぶりです魔王カジツ」


「敬語は止めてって前に言ったでしょ?」


「そうでした、そうだった、ごめんごめん」


 叱られた犬のような顔で言う。


「私たちは同じ魔王なのだから上下の差は無いのよ」


「そうだよね、同じ魔王だもんね」


 乾いた笑い声。


「魔王カジツは先輩だし今まですごくお世話になってるから、これからもいい関係でいたいなと思ってるんだよね」


「損得勘定っていう事?」


「いやいあ、そういうことじゃないんだけど、損得とかじゃなくて、あの、なかよくというか、うん、なんかいい関係でいたいなと思って」


「そうなの?」


「そうですそうです」


 虎丸の額には汗が噴き出している。


「………」


「どうしましたか?」


 じっと自分を見つめていることに耐えられなくなった虎丸が口を開いた。


「べつに………」


「そうですか、べつにですか、ははは………」


 乾いた笑い声。


「私が今日なんで来たのか分かる?」


「化粧品ですよね?」


 そう言って素早い動きで机の下から大きな箱を取り出して乗せた。


「前に選んでいたやつは全部この中に入れておきましたよ」


「ずいぶんと準備が良いのね?」


「もちろんですよ。ちゃんとお気に入り登録して、いつでも出せるように準備しておいたので。これだけあればしばらくは持つんじゃないですかね」


「帰らそうとしているの?」


「ふぇ?」


 アホみたいな顔をしている。


「最初から用意しておいて選ぶ時間を無くして、少しでも早く帰らそうという作戦なのかと思ってしまったのだけど、そうでは無いわよね?」


「まさか!そんなことは一切ないですよ。なんというか、とにかく、あの、魔王カジツの魔王城が心配なんですよ。ここに来ていることが知られて敵に攻め込まれるかもしれないと、それが心配で………」


「それくらいは私だってちゃんと考えているわ」


 少し怒ったように言う。


「私と虎丸の城はそれほど遠くないから心配いらないわ。何かあればちゃんと連絡が来て戻れるようにしてあるんだから。それに私がいなくても時間稼ぎは出来るくらいの戦力は持っているわ」


「そうですよね、そうだよね。さすがは先輩だな」


 厳しい視線を浴びて、またしてもいつの間にか敬語になってしまったことに気付いて訂正する。


「この世界をずっと生き抜いてきたわけだからやっぱりしっかりしてるなぁ。いやー僕みたいな新人魔王が先輩に対して余計なお世話だったなー」


 乾いた笑い声。


「その先輩っていうのもやめて」


「ふぇ?」


 アホみたいな顔をしている。


「なんか年寄り扱いされているように感じてしまうの。先輩先輩って結局は歳を取ってるっていう事じゃない?」


 目が鋭い。


「いやいや、まさか年寄り扱いなんてそんなつもりは無いですよ。魔王カジツはとても美しくて綺麗で、すごい憧れの女性というか高根の花というか、僕なんか相手にされないだろうな、みたいなそんな気持ちで、美しすぎて緊張しちゃってるんですよね、はい」


「ふーん」


 魔王カジツの目は赤く醸し出す雰囲気はさすがは魔王というだけのものを持っている。並の人間なら近づくことさえできないだろう。


「汗がすごいわね」


「そうですか?そんなことないと思いますけどね」


「ほら汗が流れたわ、いま自分で分かったでしょう?」


「そ、そうですね、なんか厚着しすぎたかもしれないですね」


「Tシャツしか着てないじゃないの。それにもっとまともな服装は無かったの?あなたも魔王なのだから最低限の身だしなみくらいは気を付けた方が良いわ。」


 黒いTシャツには「腹を割って話そう」と書かれている。


「すいません、まさか魔王カジツがいらっしゃるとは思わなかったので」


「私が来る来ないの問題じゃないのよ。そのTシャツが馬鹿みたいだって言ってるの」


「すいませんでした。それにしてもこの部屋暑いですね」


「暑く無いわ」


「そうですか、そうですか。まあけど暑さの感じ方は人それぞれみたいなところもありますからね」


「ねえ知ってる?人間って嘘を付くと汗をかくのよ」


 魔王虎丸は口を開けたまましばらくの間、固まった。


「まさかまさか、私は魔王ですのでね、人間とは違いますよ。なんか昔から汗っかきで困ったもんだよ、本当に」


「ふーん」


「そんなに疑わなくても嘘なんてつかないですよ」


「いま鼻が少し動いたわ」


「ふぇ?」


 アホみたいな顔をしている。


「男は浮気をするとやましさから普段とは違う行動をするから、女はすぐに分かるのよ」


「いやー暑い暑い、とにかく暑いなー」



 汗をぬぐう虎丸は気が付いていなかった。


 廊下には二人の少女が忍び足で近づいてきていることを。





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