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7話

 


 朝の光が降りそそぐ魔王城の中庭に溌溂とした子供たちの声が響く。


「よきかな、よきかな」


 少し湿り気を帯びた美しい青芝で側転、バク転、バク宙するマリンと、歓声を上げながら拍手しているセラフィー。


 その様子を眺めながら、紫色の肌をしたいかにも悪魔という男が紅茶を飲みながら満足そうに頷いている。


「おい虎丸、馬鹿面してないでこれをどうするか考えたらどうだ」


 背中の方へと目を向けてみれば金色の目をした黒猫がいた。


「相変わらず口が悪いなぁクロは」


 ため息をついてから言う。


「俺は思っていることをそのまま言っただけだ」


 丸いテーブルの上には一通の手紙がある。


「わかってるよ。昨日の夜に人間から来た手紙のことだろ?セラフィーを返せと書いてあったね。ちなみにクロだったらどうする?」


「こんな奴らは滅ぼしてしまえばいい」


「さすがにそれはちょっとやり過ぎだな」


「そうやって甘やかすから付け上がるのだ。他の魔王を見てみろ、人間なんか役に立つゴミのように扱っているぞ。お前も少しは見習ったらどうだ」


「分かってないんだよそいつらは、人間だったことが無いからね」


 遠い目をしながら青空へ視線を移す。


「ふん」


 黒猫は鼻を鳴らした。


「魔王に比べれば人間というのは弱い存在ではあるけれどあいつらを舐めちゃいけない。少しずつ少しずつ成長していって、いつか手が付けられなくなる。それが人間という存在なんだよ。恨みを買うことは極力避けないといけない」


「だったらどうする、言われた通りにセラフィーを渡すのか?」


「それは絶対に無い」


 力強く言い切った。


「最悪戦争になったとしてもね」


「ふん。たまには骨のある顔をするじゃないか」


 黒猫は鼻を鳴らした。


「とりあえずはお手紙を書くよ」


「手紙?」


「セラフィーはもう私のものだから引き渡すつもりは無いってね」


「それで引き下がるくらいならわざわざ手紙なんかよこしてこないだろう」


「けどまあ時間稼ぎにはなるよ」


「時間稼ぎなんかして何の意味がある?」


「時間があればマリンがそれだけ成長するからね」


 猫が鼻を鳴らした。けれどそれは馬鹿にするようなものでは無くて少し感心したようなそぶりだった。


「なるほどな。たしかに数字だけで見てもアイツの戦闘力の増加は目を見張るものがあるな。ここ最近は何かだ表情も変わってきた気がするな」


「ああ、それは私も思っていたんだ。きっとセラフィーの存在がマリンの心を成長させているのだと思う。今はまだ頼りないけど時間さえあればかなり強力な戦士になるよ」


「それで時間稼ぎか………姑息だな、さすがは元人間なだけはある」


 虎丸は笑った。


「そうだよ、だから人間を舐めたらいけないんだよ。それともうしばらくしたらマリンをこの城から外に出すことも考えないといけない」


「ほう!」


 意外そうな顔をする黒猫。


「大魔王に目を付けられることをあれほど怖がっていたくせにどういう風の吹き回しだ」


「クロがこの前、いつまでも勇者を引き留めておくのは無理だ、って言っていただろう?この前マリンが勝手に家を抜け出した時、その通りだなって思ったんだよ。やはり人間というのは禁止されるほどやりたくなる生き物なんだ」


「ようやく分かったか」


「けどな………大魔王様には絶対に勝てないから戦いだけは避けないといけないんだよね。自分の城を開けてこんな所まで来るはずがないとは思うけど、親衛隊でも十分すぎるほど強いからな」


「相手がいないところでいちいち「様」なんて付けるな」


「普段から気を付けておかないと肝心な時にミスをするかもしれないから習慣づけようと思っているんだよ」


「そんな習慣は破り捨ててしまえ!」


 猫が牙をむいた。


「大魔王だからといってそれほど恐れる必要は無い」


「あるよ。だって魔王を最低7体は倒さないと大魔王にはなれないんだろ?」


「そうだ」


「魔王の部下ですら山を一瞬で平地にするような化物みたいな奴らと戦うなんて想像もつかないね。出来るだけ目立たないように怒らせない様にするしかないだろ?」


「情けない奴だ、お前だって同じ魔王なのだから戦って勝てばいいだけの話だ」


「そう簡単に言わないで欲しいよな。最近は戦っても戦っても戦闘力が成長してなくて困ってるんだからさ」


「戦闘力なんてそんなものはただの目安に過ぎない。必ずしも数字の高い方勝つとは限らない」


「そうは言っても気になるでしょ」


 ふたりが話している所のドアがいきなり開いた。


「先生!」


「虎丸先生!」


 マリンとセラフィーの二人が満面の笑みをしてやってきた。


「どうしたんだい?」


「先生に見て欲しくてきたの、セラフィーがバク転できるようになったんだよ」


「それはすごいね、見せてよ」


「うん見ててね!」


 朝の澄んだ光の中を、薄い金色の髪をした少女がくるっと回った。


「おー!すごいじゃないか」



 魔王城は今日も穏やかな笑いに包まれていた。





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