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5話

 


 いっぱいいっぱい泣いた後で、私は顔を拭いて鼻水を全部出してから、赤いひじ掛け椅子に座った。


「だいじょうぶ?」


 女の子が優しく頭を撫でてくれる。自分より小さな子に心配されているのはとても恥ずかしい。


「ありがとう、だいじょうぶだよ」


 そういって笑うと女の子も笑ってくれた。さっきまでシャボン玉を吹くおもちゃを取られたと怒ってしまった自分が恥ずかしい。


「リビングに知らない子がいたからびっくりしただろう?」


 虎丸先生が落ち着いた声で言った。


「なのでまずはそれを説明するよ」


 その優しい表情を見ていると先生は私のことを嫌いになったわけではないようだと思って安心する。


「うん」


「この子の名前はセラフィーと言って、いつもこの魔王城に来る商人から預かっている子なんだよ」


「それって昨日襲われてた丸いヒゲの人?」


「そうだよ。モグラという名前で、魔王と取引きをするような命知らずの商人なんだ。いつもなら魔物が活発になる夜に出歩いたりはしないんだけど、あの日はこの子を逃がすために誰も通らないようなルートを選んだところ、魔物に襲われたんだ」


「逃がす?」


「私って天使なの!」


 セラフィーという名の少女が元気よく言った。


「天使?」


「そうだよ、背中にお羽が生えてるの」


 何が何だか分からなくて虎丸の顔を見る。


「この世界には人間や魔物、魔王だけじゃなくて獣人や魔人もいることは知っているね?」


「うん。ちゃんと授業で習ったから知ってる」


「セラフィーは純粋な人間というわけではなくて、この世界で極めて稀な、天使の属性を発現した子なんだ」


 分からない。難しい言葉が多すぎて少しも分からなかった。


「ええと………なんて言えばいいのか、というか本当のところ私もよくわかっていないのだけど、ある日突然背中に羽が生えてきたそうなんだ」


 私の分かってないのを感じ取った先生が説明してくれたけど、それを聞いても私はよくわからなかった。


 だけど多分教えたくないわけじゃなくて、先生も分かっていないのだと思う。先生はもともと違う世界の人間だったから。


「なるほど………」


「白い羽だよ!」


「だいじょうぶなの?」


 少し心配になった。


「その羽は今は服の下に隠れているっていう事だよね。それだと背中が痛かったりとかしないの?」


 今は普通の黒っぽい服を着ていて見た目には分からないので、どんな羽なのかとかいまいちよく分からない。


「全然平気!」


「天使の属性を持った子供というのは普通の人間を遥かに超える魔法の使い手になるのだそうだ」


「へー」


 良く分からないけど天使だったらそうなんだろうなという気がした。


「けれど残念なことにほとんどが大人になる前に死んでしまうそうだ」


「えっ!?」


 薄い金色の髪の毛が朝日を浴びてキラキラしている。こんなにもきれいなだし元気なのに、死んでしまうというのがよく分からない。


「その原因についてはいま、商人のモグラに調べてもらっているのだけど、わかっているのは天使の属性を発現した子供は両親と引き離されて人間の王様の所に行かなくてはならないという事なんだ」


「えええ!?」


「人間の法律で昔からそうなっているというのだ。恐らくは強大な力を持った人間を自分たちのために使いたいからなのだろう」


「ひどいよ」


 こんなに小さくてかわいくて私の頭を撫でてくれたセラフィーが、お父さんお母さんと離れて知らない人の所に行かないといけないなんてひどい。


「モグラもそう思って何とか国に知られる前にセラフィーを連れて街を脱出したんだけど、途中で待ち伏せをされていたらしい。そしてそれを振り切ってここへやって来る途中の森で魔物に襲われたんだ」


「という事はあの時の馬車のなかにセラフィーもいたっていうこと?」


「いたよ。隠れていなさいって言われたから怖いけどずっと隠れていたの」


 その時の事を思い出しているのか少女の顔は暗い。


「セラフィーが今ここにいるのはそう言うわけなんだ。どうやらモグラは人間よりも魔王の方を信用しているらしいね」


 虎丸は笑う。


「というわけでマリンにはしばらくの間、セラフィーの面倒を見てあげて欲しい」


「私が?」


「そうだよ。私にはいろいろとやることがあってかまってあげられないからね。大丈夫、マリンはお姉さんだからきっとできるよ」


 少し不安だ。


「お姉さんお願いします!」


 セラフィーは元気よく頭を下げた。


 お姉さん。


 その言葉を聞いたらなんだか体の中に力が湧いてきて何でもできるような気になった。


「任せておいてセラフィー!私が全部教えてあげるから」


「やったー!お姉さんありがとう」


 ますます力が湧いてくる。


「せっかくだからふたりでお風呂にでも入ってきたらどうだい?マリンはずっと寝ていたから汗をかいているだろう?」


「私がお風呂まで連れて行ってあげる!」


「うん!」


 白銀色の髪を持つマリンと、薄い金色の髪を持つセラフィーは手を繋いで元気よく部屋のドアを開けた。


 マリンは空を飛べそうなくらいワクワクしていた。




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