40話
魔王城の中の豪華な一室。重厚な机と座り心地の良い肘掛け椅子、そしてソファがあるここは、虎丸の書室。
埃ひとつないのは魔法の力だし、静かなのはマリンとセラフィーがいないから。ふたりにはこの部屋には入らないように言っている。
「まいったなぁ………」
机に突っ伏して情けない声をあげているのは紫色の肌をした体格のいいいかにも悪魔と言った様相の男。
「何をまいることがあるんだ、お前はようやく重い腰を上げて魔王を殺した。女と一緒というのが情けないが、相手はお前よりも長く生きた魔王だったから、まあ賢い選択ともいえなくもない」
「そのせいで大魔王に目を付けられた。見てくれこれ」
そう言ってぐしゃぐしゃになった手紙を、机の上にいる黒い猫に向けて差し出す。
「読まなくていい、簡単に説明しろ」
「ずいぶんワガママだな、わかったよ………つまり大魔王の許可なく勝手に魔王同士で戦うなってこと」
「ふん、ずいぶんと傲慢な奴だな。多少力が付いた程度で自分が全ての魔王を支配できるとでも思っているのか。まあいい、それだけか?」
「いや、未確認のA級がお前の領地で現れたから、大至急捕まえて連れてこい。できれば生きている状態で、って内容だ」
「それでお前はそんなにビクビクしているのか」
「そりゃあそうだろう、相手は大魔王なんだぞ大魔王。魔王よりもはるかに強いんだ。魔王の配下が山を消し飛ばすのを俺は見たんだ」
「だったら魔王殺しなんかするな」
「それは、まあ、そうなんだけどさ、色々と事情があって動かざるを得なかった」
虎丸は大きなため息をついた。
「事情?」
「それはちょっと言えないんだけどさ」
虎丸の脳裏に浮かんでいるのは占い師からこのままだと死ぬと脅されたこと。そして魔王カジツからの魔王討伐の誘いを受けたこと。二つの要件が重なって、ようやく虎丸は重い腰を上げたのだ。
「お前は魔王を殺して力を増した。そしてあの女は望み通りに魔王の肉体を手に入れた。十分なほどの成果じゃないか、この上誰の機嫌も損ねないなんて無理な話だ」
「まあな………覚悟はしていたんだけど、手紙の内容が結構過激でさ、もし次に他の魔王を倒してしまったら容赦しないと書いてある。大魔王本人がわざわざ俺を倒すためだけにここまで来るわけは無いだろうから親衛隊を送り込んで殺すってことだよな?」
「そうだろうな。魔王を3体殺せば自分と同じ大魔王になるから、必死になってそれは阻止しに来るだろうな」
「そうだよな………」
「魔王の肉体はあの女が持って行ったのか?」
「そうだ。魔王の肉体は素晴らしいが絶対服従の縛りを与えるには時間も手間も必要だと言っていた」
「わかっているじゃないか」
「そりゃあそうだろう、魔王カジツは死体を操る専門家なんだから」
「それはどうかな?」
「なんだその意味深な言い方は」
「多少気がかりなだけだ、それにしてもお前とあの女の能力はかなり相性がいい。死体を操る女と、魂を操るお前。どうだ?いっそあの女とくっついたら良いんじゃないか?」
「ふぁ!?」
「俺が思うにあいつはお前に気があると思うぞ、どうだ?いっちょ強引に迫ってみたら」
「ばばばばば、馬鹿なことを言うんじゃないよクロ。心臓が飛び出るかと思ったぞ」
「モテないわけだ」
「は?」
「モテる男というものは常に女を狙っているものだ。そして女というものはそういう野性的な男にこそ惹かれる。ぐじぐじと横目で様子をを伺っているような軟弱な男なんかは相手にされないんだ。そんなこともわからないのか?」
「猫に何が分かるっていうんだよ」
魔王は鼻で笑った。
「猫だろうと悪魔だろうと人間だろうと、男と女は同じだ。それも分からないから童貞なのだ」
猫は鼻で笑った。
「ば!馬鹿言ってんじゃねえ!誰が童貞だよ誰が、その言葉だけは許せないんだよ、今すぐ取り消せ!」
「取り消すよ、これで満足か」
「ふぬーーーー!!満足なわけあるか!今すぐお前のことを風呂に入れてやる、それで肉球をぐにゅぐにゅしてやる!覚悟しろこの野郎!」
深い霧に包まれている魔王城は、今日も騒がしかった。




