4話
小鳥のさえずりで目を覚ましたマリンは、暖かな光が差し込むベッドにいた。
「あ………」
朝起きたらベッドにいるのは当たり前のはずなのに、なんでか変な感じがして少しのあいだ戸惑っていたのだけど、昨日の夜に何があったのかを思い出した。
大きなため息をついた。
まだ少し頭は痛いし寒気もするけれど、なんだか体がうずうずしてベッドに寝ているのが嫌になった。
掛布団をのけるとすごく喉が渇いていることに気が付いた。枕元にあるガラスの水差しからコップに水を注いでいく。
「きれい………」
ただの水が朝の光を吸い込んで宝石のように輝いて見えた。
「うん美味しい」
喉を流れていく水の清々しいことだろう。
これほど水がおいしいと思ったことは今までにないかもしれない。一杯だけでは足りずにもう半分コップに注いで飲んだらかなり喉がすっきりした。
少しだけ気合を入れて立ち上がると少し頭痛が強まった。おまけに足の筋肉に頼りなさを感じた。やっぱりまだいつも通りではないけれど、それでも歩くことは出来る。
朝の挨拶をしに行こう。というのは半分だけ本当で、本当に知りたいのは先生が怒っていないかどうか。
部屋を出て廊下を歩いていると、遠くから響く声が聞こえた。今までに聞いたことのない若い女の人の声だ。
「誰かいるのかな」
マリンは知らない人が苦手だ。
城にお客さんが来ているときは、マリンはいつも自分の部屋に避難して出ないようにしている。あいさつなんてどういう風にしたらいいのか分からないし、なにか酷いことを言われるかもしれない。
それなのに今日はなんだか気になって、足音を消してその声の方に近づいてみる。すると声がする場所はリビングで、その扉に耳を近づけて見るとやはり女の人の声だった。
珍しい。
ここにお客さんとしてやって来る人は大抵は男の人なのに。魔王城の中にいるというのに部屋の中の人はかなり楽しそうにしている。気になる。いったい誰だろう。
ドキドキする。
リビングにお客さんが来たことはいままで無かったはずなのに、なんでだろう。ゆっくりとドアノブを回してゆっくりとドアを引いて、隙間から片方の目で眺める。
信じられないものを見た。
「ちょっと何してるの!」
気が付いたらマリンは大声をあげ、部屋の中に突進していた。
視線が集まる。
そこにいたのは虎丸と見たことのない少女。虎丸はシャボン玉を吹くおもちゃを持っていて、薄い金色の髪をした女の子が驚いたような顔をしている。
あのシャボン玉のおもちゃは前に先生が自分と遊んでくれた時のおもちゃなのに、なんでそれで知らない女の子と遊んでいるのか。それが許せなかった
「目が覚めたんだねマリン」
優しく声を掛けてくれたのに言葉が出てこなかったのは、あの夜のことを思い出したから。
禁止されていたのに勝手に家を抜け出して、蜘蛛の魔物と戦ったのに負けそうになってしまった自分。助けてもらった後で目の前がぐるぐるになって倒れてしまった自分。
恥ずかしさとイタズラがばれてしまった時のような気持ちになって、今すぐに逃げだしたかった。
まるでここに居ていいのは先生とこの女の子で、私が邪魔者みたいな気がする、ここには私みたいな悪い子はいらない、みんながそう思っている気がする。
この子はいったい誰なんだろう。なんで私がいらない子みたいになっているんだろう。私が約束を破ったから?けどここは私の家だ。それなのに、それなのに。
ふたりがそろって私のことを見ていることが、たまらないくらい恥ずかしくて、辛くて、悲しくて、涙がこぼれていた。朝の冷たい涙がどんどん溢れてくる。
「だいじょうぶ?」
頭に乗って小さな手の感触に驚いた。涙に歪む世界の中には心配そうな顔をしている綺麗な髪をした女の子。
優しい。
泣いている自分を見られているのが恥ずかしかったし、優しさがうれしかったし、何が何だか分からなかったけど、なんだか心がきゅっとしてもっと泣いた。
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