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25話

 


 清潔な白いシーツに朝の光が当たっている。


「やだやだやだやだ行きたくない!」


 ベッドの上で細い手足をばたつかせているのは白銀色の髪をした少女だった。


「何言ってるのよマリン!今日こそ街に行くって約束したじゃない」


 勇者と表される彼女を引きずり下ろそうとしているのは、薄い金色の髪をした天使の属性を持つ少女セラフィー。


「だって怖くなったんだもん。人間の住む街にったら私は絶対虐められる。ずっと魔王城にいるってことがバレたら石を投げられて、酷い子を言われて泥水の中に顔を沈められるに決まってるよ!」


 泣きそうな顔をしながら暴れているが、涙は一切出ていない。


「そうならないために毎日トレーニングを頑張って来たんでしょ。最初に比べたらマリンは大分強くなったよ」


「先生に比べたら私なんて全然強くないよ、人間に虐められちゃうよ」


「甘くて美味しいクレープを一緒に食べに行くんだって、言ってたじゃないの!」


「クレープなんてもういらない。甘いのなんか先生からチョコを貰えば食べれるんだからそれでいい」


「もー!わがまま言うな!」


 巨大蜘蛛の魔物に見事リベンジを果たした日からもう一月近くの時間が経ったのはマリンが人間の町に行くことをとても怖がっているから。


 今よりも小さい時からずっと魔王城で魔王虎丸と一緒に育ってきたマリンは、人間に対しての仲間意識を今はあまり持っていなかった。


 ちょっと前までは魔王城から出られないことを不満に思っていたが、いざ二人だけで行って来なさいとなると、嫌な想像ばかりが膨らんで、だんだん心が重くなってきて、ついには行きたくないと思うようになった。


 人間というのは禁止されれば反発したくなるけれど、新しいことに対しては臆病になってしまうものなのだ。


 けれどこの日、ついにマリンとセラフィーはふたりだけで人間の町に向かうという行動を起こすことになった。


 多少は無理矢理ではあるけれど。




 ◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆




 ここはグリーンサラダ国のマテンロウという街。ここは商業が盛んで治安が良く住みやすいと言われている、かなり大きな都市。


 魔王虎丸の魔王城からは普通の人間ならば徒歩だと二日は優にかかる距離にある。しかしながら街の門から少し離れたところに立っているマリンとセラフィーにとっては2時間程の旅だった。


 門の前では武装した男の吠える声が聞こえる。


「何度言ったらわかるんだ!とっとと通さんか!」


 それは門の前にいる兵士たちとは明らかに違う装備を身に纏った男たちの集団で、現場には一触即発の雰囲気が流れている。


「何度言ったらわかるんだ、通りたければ許可証を持ってこい。吠えれば我が国に好きなように入れるなどと、舐めたことをほざくな。とっととタケアカ国へ返れ!」


 言われた方の男達の群れがざわつく。


「腰抜けの癖に言うではないか!」


「誰が腰抜けだ!」


「お前たちグリーンサラダ国のことを言っているんだ。百年前の戦争で大負けして以来、牙を失くした臆病者ども」


「舐めやがって許せねえ!」


 言われた側の兵士のひとりが飛び掛かっていった。それを少し離れたところから見ながら、マリンとセラフィーは戸惑っていた。


「ねえマリン、どうしよう。このままだと良くないよね」


 セラフィーの眉毛が下がり気味だ。


「うん。このままじゃ街の中に入れそうもないかも」


 言い争うふたつの兵士の群れを眺めているのはふたりだけでは無い。街の中に入ろうとしているらしい沢山の人達がいて、さきほどからため息をついている。


 兵士たちは本来、ここで出入りする人たちの確認と通行税の徴収をするためにいるはずなのだが、今はそれどころではないと完全に止まってしまっている。


「けどなんか不思議な気持ち」


「なにが?」


「だって前までは怒鳴る男の人が怖かったのに今では全然怖く感じないんだもん」


「あ!私もそうだ。なんかうるさいだけで怖いっていう感じはしない」


「私達トレーニングを頑張ったからそのおかげじゃない?」


「絶対そうだよ」


「それは嬉しいけど困ったね。あの感じだと夜までかかるかもしれないよ」


「それは嫌。夕方の前には宿を取らないといけないのに」


「もしこのままずっと門が開かなかったら、野宿になっちゃうの?」


「野宿!?それだけは絶対に嫌!綺麗なベッドで眠りたいよ」


 マリンが叫ぶ。


「うーん、そうだよね。困ったよねぇ………」


「ねえセラフィー、もし夕方までに入れなかったらお城まで戻れる?」


 それはセラフィーの特殊魔法「ヴィーナス」によって空を飛んで戻ることが出来るかという意味の質問。普通に歩くよりも断然早く進むことが出来るし道に迷うことなく帰れることができるからだ。


「ごめん、それは無理かな。ここに来るまでで、だいぶ疲れちゃったし」


「謝らなくていいよ、がんばってくれたんだから当たり前だと思うし。というかセラフィーの方が私なんかより疲れてるよね、気付かなくてごめん」


「マリンも謝らなくていいよ」


「そうだよね、姉妹だもんね」


「うん!」


 笑顔で手を握り合う少女たち。その光景はミシャに描いてもらいたいと思うほど非常に絵になる光景だった。


 魔法は魔力が無ければ使えない。マリンを連れて2時間も空を飛び続けるのには相当の魔力が必要だったので、いまのセラフィーにはもうあまり魔力が残っていない。


「ねえ、そこのマスクをしたお姉さんたち!」


 振り返るとツンツン頭の少し目の鋭い少年がいた。


「街の中に入れなくて困ってるんでしょ?お駄賃をもらえたら僕が知ってる抜け道を案内するよ」


 マリンとセラフィーは顔を見合わせた。






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