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18話

 


 魔王虎丸の城のトレーニングルームではいま、虎丸と斧を構える鰐とが向かい合っていた。


「いけー!」


「先生がんばれー!」


 虎丸は首の辺りに手を掲げ、ほぼ直立の姿勢で立っている。まるで何も考えずに突っ立ているように見える。虎丸よりも頭二つ分以上は大きい鰐だけが張り詰めた雰囲気を出しながら、じりじりと距離を詰めていく。


 鰐が動いた。


 大きな斧を思い切り振り上げると虎丸の首筋目掛けて振り下ろした。当たる直前、虎丸は一歩だけ距離を詰め重厚な鎧の下腹部目掛けて手の平を当てた。


 それはまるでコップを取るような自然さ。


 力みなく伸ばされ、ほとんど何の威力も無いような行動。しかし鰐は大きく飛んでいき石造りの壁で跳ね返った。映像と言えどもその表情は実に鮮明で驚愕に目を見開いて唾を飛ばしている。


「先生、こいつ変身するよ!」


 マリンが叫ぶ。


「大丈夫、もう終わったよ」


 穏やかにそう言った虎丸は、もうすでに構えていた手を降ろしていた。


「え………」


 分厚い巨体がゆっくりと崩れ床に付くと同時に消え去った。


<YOU WIN ! >


 石造りの円形のトレーニングルームに機械的な音声とマーチングバンドのような音楽が響き渡った。


「ええええぇ………うそでしょ。あんなにあっさり?」


 両手を口元に当てながら驚いているマリン。


「すごい!虎丸先生すごい!」


 無邪気に飛び跳ねているセラフィー。


「私が戦った時は、何回かいい攻撃が入ったら体が大きくなってパワーアップしてたのに、そうなる前に倒しちゃうなんて………それもたったの一発で」


「マリンは私の魔法を知っているかい?」


「人間の魂を魔法の銃を使って撃つ魔法。大蜘蛛と戦った時もそれで一発で倒してたのを見たよ」


「それもあるけどほかにも出来ることがあるんだ。例えば配下の魔物の体に魂を入れて使ったりとかなんだけど、今のは相手の体の中にある魂を直接攻撃したんだ」


 マリンは首をかしげている。


「まあ今は分からないくても良いよ。あの鰐はキレると一度だけ今まで受けた傷が全部回復してパワーアップするという能力があるんだど、その元となる魂が破壊されていては何もできないんだ」


「はぇー」


 分かったような分からないような顔をしている。


「まあ結局言いたいのはあいつを倒すことは出来るっていう事。僕なんか今までこいつに2万回くらいは負けているからマリンの悔しい気持ちは分かるよ」


「2万回!?」


「そうだよ。マリンと出会う前のことだけど、そのときは勝てるまでは最低でも一日十回は闘うって決めて頑張っていたからね。負けるたびにどうすれば良かったのか考えて、ようやく勝てるようになったのは最近なんだ」


「そうなんだ………」


「マリンには才能があるよ」


「え」


「もし僕が誰かに負けてしまったらセラフィーを守っていくのはマリンだ。だから強くなるんだよ」


「なんでそんなこと言うの!」


 今にも泣きだしそうな顔で叫ぶ。


「悲しいけどそれが現実なんだ。魔王と言っても無敵でも何でもないんだよ。魔王同士の戦いで死ぬこともあるし、大魔王に殺されることもある。「いつまでもあると思うな親と金」なんて言葉があるけどその通りで、誰も先の事なんてわからない世界なんだ」


 淡々と語りながら額の汗をぬぐう。


「そんな………」


「今まで言ってなかったけどあの鰐は実は魔王なんだ」


「え!?」


「データを取ることさえできれば、このトレーニングマシンは魔王を再現することも出来るからね。まあ本物と同じかどうかは実際に戦ってみないと分からないけど、それでも今見たように、たった一発攻撃を喰らっただけで死んでしまうのが魔王なんだ」


 マリンは何も言わない。


 セラフィーも何も言わない。


「強くなるんだ」


 魔王虎丸はトレーニングルームを去っていく。


「マリンならできるよ」


 隣にいる薄い金色の髪をしたセラフィーを見つめたまま、マリンは何も言えなかった。


 先生が死ぬかもしれない。そんなことは今まで考えたことも無かった。


 石造りの床には去っていく足音が響いている。


 守る。


 マリンは拳を強く握りしめる。


 私が守る。


 先生のこともセラフィーのこともこの居心地の良いお城も。


 全部私が守る。


 私はもうあの温かい雨の日に地下室で隠れてた時の私じゃない。もう二度と、誰にも、壊させたりはしない。


 強く。


 強く。


 ブルーガーネットのような瞳が深みを増した。






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