14話
魔王城の中、4畳半くらいの真っ白い部屋には丸の中に星印の模様、いわゆる「五芒星」と呼ばれるものが床に大きく描かれている。
「なんかちょっと怖いかも」
天使の属性を授かったとされるセラフィーは少し体を縮めながら言った。
「大丈夫よセラフィー。ここは神様が魔法を授けて下さる所なんだから」
白銀色の髪をしたマリンが胸を張って言う。
「恐れることはありませんよ」
魔法講師を務める人間のシオンは少し微笑みながら言う。
「ここは魔を寄せ付けない特別な塗料を使って室内を白く塗装していますので最初は違和感を感じるのですけど、慣れてくれば眠気を誘われるほどにリラックスして来ますから」
セラフィーはまだ少し不安そうな顔で頷く。
「私が最初にやっているところを見せてあげてもいいですか?」
「分かりましたそうしましょう」
「見ててねセラフィー」
にっこりと余裕の顔をしながらマリンは五芒星の中心まで歩いて行って胡坐をかいた。
シオンは鞄から取り出した壺を開け、その中に入っている粉末状の物をマリンに向かってばらまいていく。
「これはお塩です。お塩には海の力がこもっているので汚れたものを祓う効果があります。さてと、これくらいでいいでしょう」
大きな壺を置いて次に取り出したのは古めかしい本だった。
「ここに書かれた言葉を読み上げていきます。はるか昔に失われたことがですが発音だけは今も残っていて、魔術の修業をするときには最もよく使われる方法です。神に対して新たな力を授けてくれるよう祈りを捧げる言葉です」
まるで歌を歌うかのように分からない言葉を読み上げていく。独特の心地のいい低音の抑揚は、穏やかな沖の黒い波のようだ。緊張感があって心が引き締まる感じがるする
「準備が出来たらあとはひたすらに魔力を放出していくの。運が良ければこれで新しい魔法を授かることが出来るのよ」
手を結び目を瞑ったマリンの体から針山のような銀色のオーラが勢いよく立ち上る。
「………」
セラフィーは息をするのも忘れ、その様子をただただ見つめる。
マリンがオーラを発した途端、強風に押されたような大きすぎる力を感じとりはしたが、怖くは無かった。まるで何百メートルもあるような巨大な体を持つ、よく馴れた犬が傍にいるような感覚だった。
どのくらいの時間をそうして見ていただろう。真剣な表情をしたマリンの逆立つ白銀色の柔らかな髪の毛は清らかな感じがした。
オーラが萎み途切れて消えた。
「ふぅ………」
顔にびっしりと細かな汗をかいたマリンが息を吐いた。
「よく頑張りました。信じられないほど前回よりも成長していますよマリン」
「ありがとうございます」
「自分がどれくらい魔力量が増えているかは床に落ちている塩を見ればわかるんですよ」
満足そうなシオンが言う。
「わあ!」
セラフィーは驚いた。
始める前に撒いた塩が床の上で花の模様を描いていた。向日葵の様な精密な花が咲いていて、その周りにはまた違う花の花びらが囲っている。
「これは塩花と呼ばれていて魔力が大きいほど大きくて精密な花を描くという性質を持っているから、頑張れば頑張った分だけ自分の成長を感じ取れるんですよ」
「すごい!マリンすごいよ」
セラフィーが飛び跳ねる。
「そうでしょ?」
少しかすれた声で微笑む。
「私もこれほど見事な塩花を見たのはこれが初めてです。そしてこれほど成長する人を見たのも初めてです。本当に素晴らしいですよマリン」
「ありがとうございます」
答えるマリンの顔色は青白くて、お礼を言うのもしんどそうだ。
「どう?ちっとも怖くなんかないでしょ?」
セラフィーは黙ってうなずいた。
いつも一緒にいるマリンがまるで別の人になってしまったような気がしたから。
「さあそれでは次はあなたの番ですよ」
言われた途端に心臓が高鳴った。
「私は魔力を出すことが出来ないです」
「最初はみんなそうだから心配しないで」
微笑みながら言うシオンを見て安心した。見ている間ずっと不安だった。出来ないことを正直に言って、もし怒られたらどうしようかと思っていた。
「わかりました。私やってみます」
ドキドキする。
「絶対大丈夫よ」
マリンが親指を立てている
「うん!」
なんだか少し体が軽くなってきた。これだったらたぶん大丈夫、そんな気がする。
セラフィーは五芒星へと歩き出した。
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