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12話

 

 最初は真珠のお礼に櫛をプレゼントするという話だった。


 これが良いあれが良いと女子3人が黄色い声をあげているのを虎丸はただそこに突っ立っていた。


 椅子に座るタイミングを完全に逃したし、お前は参加する気がないのかと怒られる気もして動けなかった。


 永遠に思えるような時間を過ごした後、こんどは髪飾りが出てきた。魔王カジツは転生者という意味では同じだが、時代が違う。


 本人ははっきりとは言わないが多分江戸時代とかそこらの時代の日本人だったのだと思う。だから日本の昔ながらの物を沢山持っているのだ。


 正直言って心の中でで頭を抱えた。櫛であれだけ時間がかかったのに、髪飾りの数はそれよりも多かったからだ。


 大体同じだからどれでもいいじゃないかと思う気持ちを閉じ込めて、ただひたすらに待っていた。たまに先生はどれが良いと思うか、と聞かれるのでボーっとし過ぎるわけにはいかない。参加している感は出さないと。


 そうしたら次には着物が出てきてついにはリビングを追い出されてしまった。そうして結構な時間が経った後で魔王カジツの配下である骸骨が呼びに来た。


 そしてリビングに戻ったら、そこにいたのは時代劇ドラマに出て来るお姫様みたいなマリンとセラフィーだった。


 髪を上げ、花の模様が入った赤く華やかな着物を着て、キラキラした沢山のかんざしを差し、期待に満ちた眼差しで虎丸を見ている。



「どう?」


 聞かれた時、ものすごくドキドキした。これは感想を間違えてはいけない場面だ。変なことを言うのなんか論外で、とにかく褒めないといけない。


 それもできるだけ具体的にだ。前世での経験があるからそれくらいのことは理解している。女子は髪を切ったこととか爪を塗ったこととか、そういう細かい所に気が付いてほしいのだ。


「すごく可愛い。ふたりともお姫様に見えるよ」


 魔王カジツの問いに拍手しながら答える。自分でももう少し上手に褒められないものかとは思ったが、何も思い浮かばなかった。


「うれしい!」


「お姫様だって!」


「ねーすごいよねー!」


 稚拙な褒め言葉でもふたりはすごく喜んでくれていて元気いっぱいで飛び跳ねている。


「本当にすごいよね、カジツ様ありがとうございました」


 頭を下げる。


「ありがとうございます」


 虎丸に続いて頭を下げる二人を見て微笑む魔王カジツ。


「こんな素敵なもの頂いちゃっていいんですか?」


「もちろん。これだけ似合っているんだからプレゼントするしかないでしょう?」


 ふたりは向かい合いながらきゃっきゃして心から嬉しそうな笑顔で笑いながらその場で回ってみたり袖をぱたぱたさせたりしている。その度に光に輝く沢山のかんざしが揺れている。


「それじゃあ二人とも、私は虎丸と話があるからお部屋で大人しくしていてもらっていいかしら?」


「はい!」


「わかりました!」


 元気よく答えた二人は勢いよく扉を開け、笑い声と共に廊下を走って行った。


「さて、と………」


 魔王カジツがその赤い瞳で虎丸を捕らえた。


「あなたは褒め方がとても下手ね」


 静かになったリビングで落ち着いた声での非難が響く。


「そうですかねぇ?」


 へらへらしながら答える。


「下手よ。言葉がぎこちなくて心から思っているという感じがしなかったわ」


「いやでも本当に心の中では、キラキラしていてお姫様みたいだなぁと思ってたんですよ?」


 焦りから早口になっている。


「思っていても伝わらなければ意味がないのよ」


「そうですね、すいません」


 またしても汗がにじみ出てきている。


「いやーそれにしても今日はいろいろとありがとうございました。色々とプレゼントしてもらっちゃって」


「何を終わらそうとしているの?」


「え、」


「私が話したかったことはまだなのよ。途中で終わっていたでしょう?」


「ええと、なんでしたっけ?」


「もう忘れたの?「喜代太君」のことでしょ」


「ああそうでしたね」


「私の聞き間違いでなければ壊れた、って言っていたわよね?」


「そうなんですよ」


 まるで手下のように背中を丸め、言い訳するような口調で話す。


「戦いが終わった後でバラバラになっちゃって、骨も回収してきたんですけど魂だけではどうしようもないので、今は地下室でふわふわ漂っています」


「案内して」


「はい!」


 虎丸は野球部一年くらいの大きさの返事をしながら立ち上った。魔王カジツの赤い眼が光るほど鋭かったので。




 ◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆




「これです………」


 石造りの地下室の中にはふわふわと悲し気に浮いている大きな銀色の魂がひとつと、その足元にはバラバラになった白い骸骨が落ちている。


「骨は拾えるだけ拾ってきたんですが小さくなってしまったのもあるので………」


「それはいいの、もう使い物にならないから」


「そうですか」


「どうしてこんなことになってしまったの?前に見た時は十分に耐えられるくらいの骸骨を用意したというのに」


 しゃがみこみ骨を手のひらに乗せたカジツが、感情の見えない声で静かに言う。


「どうしてと言われましても勝手に壊れたと言いますか………」


 魔王カジツは納得できないという風に息を吐いた。



「肉体が弱すぎたんだ」


 振り返った二人の視線の先には金色の目をした黒い猫がいた。


「魂の強さを見誤ったな。降霊術において魂と肉体は同等のランクものでなければならないというのは、素人でも知っている常識なんだがな」


「ちょっと君、どこの誰だか分からないけどずいぶんと生意気ね。私はアンデットの専門家なのだから、それくらいは分かっているわ」


 魔王カジツの赤い眼が鋭い。


「専門家だというならこの事実をどう説明する?」


 バラバラになった骸骨を一瞥する。


「………」


 薄暗くて寒い地下室の中に、黒猫が鼻を鳴らす音だけが響いた。


「お前たちの実験は見事に失敗した。それが事実だ」


 金色の目をした黒い猫が言い放った「失敗」という言葉にカジツが目を剥き、寒い地下室はより一層寒くなった。





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