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11話

 


 黄色味を帯びた真珠が真っ赤な舌の上に落ちたとき、水温を含んだ少し淫靡な音がした。


 絶世の美女の姿の白く艶やかな喉が隆起する。


 虎丸、マリン、セラフィーは、魔王カジツが真珠のようなものを嚥下する様子を何も言わずただ見ていた。


「ふぅ………」


 艶めかしい息。まるでモナリザのような完璧な滑らかさと柔らかさを持った女性の美の権化のような存在に、マリンとセラフィー羨望の眼差しを向けている。


「美味しかった」


 微笑む。


「ふたりは私の真似をしては駄目よ。お腹が痛くなるからね」


 赤い眼を向けながら言うと、マリンとセラフィーは露骨にがっかりした顔をした。真似をしようとしていたに違いない。


「それにしてもやはりこの城に来て正解だったわ。素晴らしいことが起きるような予感がしていたの。これでまた私は美しくなれるわ」


「それならまだ部屋にあるからあげる?」


 セラフィーが無邪気に言う。


「本当にいいの?」


「うん!」


 元気よく答えるセラフィーを見て、口元に手を当てながら上品に笑った。


「本当にありがとう、気持ちはすごく嬉しいわ。けど申しわけないから自重するわ。このままだといくらあっても歯止めが利かなくなりそうだから」


「本当に沢山あるから気にしなくてもいいよ!今から取って来るから少しだけ待ってて!」


 嬉しそうな顔をしたセラフィーは振り返って扉に向けて走り出した。


「ちょっと待ってよセラフィーひとりでいかないでよ、私も行くってば!」


 マリンもその背中を追いかけて行く。遠のいていく廊下の足音を無言で聞く虎丸とカジツというふたりの魔王。


「魔王カジツをもっと喜ばせてあげたいんだな」


 虎丸がぽつりと言った。


「うん。すごくいい子ね」


 微笑む。


「そうだね」



 リビングの窓からは柔らかい光が降りそそいでいた。




 ◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆




「ほら見てー!」


 手をひらひらさせながら瓶の中に入った真珠の様なものを指し示すセラフィー。


「たくさんあるでしょー?」


「本当ね」


 嬉しそうなセラフィーを見ながら微笑むカジツが答える。


「がさーってもって行っていいよ」


「3つだけ頂こうかしら」


「3つ?もっとたくさんあげるのに」


 セラフィーが残念そうに言う。


「あとは次に来た時に貰おうと思ってるの。欲張るのはあまり美しくないから。私は美しいものが好きだから、私自身も美しくなりたいと思っているのよ」


「そうなんだーやっぱりカジツさんってすごい」


 なぜか拍手しているセラフィー。


「はいどうぞ」


 カジツの白く美しい手の平の上に白い輝きが3つ載せられた。


「ありがとう」


「どういたしまして!」


 セラフィーが笑う。


「貰うばかりでは悪いから、ふたりには私からプレゼントを渡させてちょうだい」


「え!?プレゼント?」


「ふたりが戻ってくるまでの間に何が良いか考えていたのよ」


「たのしみー!」


「いいのかな?」


 マリンが様子を伺う視線を向けて来たので虎丸は頷く。


「先生の許可は貰えたみたいね」


 魔王カジツが人差し指を少し動かした途端、床から浮き上がってきたのは人の骨格をした白い骸骨。


「わー!魔法だ」


「へきゃあ!」


「なぜ君まで驚いているんだい虎丸」


「驚くよ普通は」


「魔王なんだから普通はこれくらいのことでは驚かないと思うけどね私は」


「僕はまだ魔法にあまり慣れていないんだよ」


「そうね、私も最初はそうだったわ」


 そう言いながらカジツは頭蓋骨の上部をぱかりと開いてそこに手を入れて何かを探すようなしぐさを始めた。


「気に入ってくれるといいのだけど」


 そう言いながらテーブルの上に置いたのは櫛だった。


「ほえ?」


「女の子にとって神は命だから綺麗にしておかなければいけないのよ」


 次々に櫛を取り出しながらカジツは微笑んだ。


 最初はぽかんとしていたマリンとセラフィーだったが、少しずつきらきらとした目をし始めた。


「たくさん種類はあるから、この中から好きなのを選んでくれていいのよ」



 テーブルの上に様々な模様の美しい櫛が並べらていくたびに歓声の様な声をあげるマリンとセラフィーだった。




最後まで読んでいただきありがとうございました。


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