壁に耳あり障子に目あり
上映時間15〜20分程度
男3 女1 (女1は台詞少ないので男性が一人兼ね役でやって三人台本としてやるのも可能です)
登場人物
男1
男2
男3
女
男1部屋でくつろいでる
男2窓から音もなく入場
男1スマホ弄ってて気付かない
男2部屋の物色を始める
物音に気付きチラッと強盗をみて視線をスマホに戻し思わず二度見する男1
1「え、誰!?」
2「あ、こんばんは」
1「は? ちょっと待ていつ入った! どこから!?」
2「ついさっき、そこの窓から」
1「窓!? ここ四階だぞ!?」
2「いつもの事ですし」
1「どういうことだよ!? つか結局お前誰だよ!」
2「……強盗です」
1「とんだ前衛的な強盗もいたもんだ!」
2「強盗ですから」
1「それで何もかも伝わると思うなよ!」
2「では私は仕事に戻らせてもらいますね」
男2再び物色をし始める
1「ちょまてまて!」
2「なんですか、うるさいなぁ」
1「なんですかじゃねえよ! 人の家の物勝手に持っていくんじゃねえよ!」
2「それが強盗ってものでしょう?」
1「そうだけど、そうじゃないの! 犯罪! 犯罪だから!」
2「人というものは罪深い生き物です。生まれてから死ぬまで罪を犯し続ける愚かな咎人。この様に些末な出来事は罪ですらありません。アクシデンツ、そうほんの些細なアクシデンツです」
1「おう、あ、おう?」
2「では粗方目当ての物は頂いたので、私はこれで」
1「いや、ちょっと待てお前!」
2「あ、窓の鍵は閉めないで下さいね。後で困るんで」
1「閉めるに決まってんだろ!」
2「それでは」
男2窓から退場
1「あ! 待て!……ちくしょー、逃げられた。なんだよあの動き人間じゃねえだろきもちわる!」
男3ドアから入場
見つめ合う二人
男1おもむろに立ち上がり、自然な動作で窓から出ようとする
男3それに気付き指差しながら
3「あ、待て! 誰だお前!」
1「名乗るほどの者じゃないんだぜ」
3「ふざけてんのかお前!」
1「待って待って! もう行くから! 危ないことはしないから!」
3「危ないとかそういうことじゃねえだろ!」
1「いや、ほんとほんともうでていくから落ち着いて」
3「信用できるか! 大体お前ここ四階だぞ。どうやって出ていくんだ」
1「あ」
3「まじかお前……」
1「いや、家主が帰ってくる前にお暇するつもりだったからなにも考えてなくて……」
3「お前よくそれで空き巣なんてやろうと思ったな……」
1「うるせぇ! 今までは成功してたんだよぉ!」
3「開き直るな!」
1「くっそー! はぁ、ここらが俺の潮時ってやつなのかね。オッケーオッケー観念したよ。警察でも何でも呼んでくれよ」
3「なんか悟っちゃってる所悪いけど別に警察呼ぶつもりなんてないぞ?」
1「え、見逃してくれんの!? ラッキー!」
3「見逃すというか何というか、警察が来たら困るのは俺も一緒だしな」
1「え、なに、どういうこと? もーちょっとわかりやすく喋って?」
3「いや、分かりやすくも何も、俺も空き巣だし」
1「え、ご同業!?」
3「まぁ、そうなるな。先を越されちゃってた訳だが」
1「何だよみずくせーな! 先に言ってくれよー! 俺無駄な覚悟しちゃったじゃーん!」
ドアが叩かれる
2「ちょっとー、今何時だと思ってるんですかー
うるさいですよー」
3「やばい、隣の住人か?」
1「やべぇ怒らせちゃったか! 謝ってくるわ!」
3「待てお前! ばれるだろ!」
男1ドアを開ける
男2が立っている
2「あ、2度目まして」
1「お前さっきのスパイダーマン! なんでいるんだよ!」
2「家、隣ですから」
1「隣の家に強盗入ったの!? お前の神経どうなってんだよ!」
2「うるさいなぁ、というかまだいたんですね。早く帰った方が良いですよ」
1「言われなくても帰るよ! こっちも変な奴入ってきて大変だったんだよ!」
2「変な奴……ですか?」
1「おぉ、なんか空き巣が入ってきた」
2「なんだじゃあ仲間じゃないですか」
1「仲間と言えば仲間だけどさぁ」
3「変な奴呼ばわりは流石に心外だな……。というかなんだそっちの人知り合いなのか?」
1「俺が盗み終わって部屋で寛いでたら窓から入ってきたんだよ」
3「窓から!? ここ四階だぞ!?」
1「そうだよ、お前どうやって入ったんだよ。てかさっき言ってたけどいつもの事ってどういうことだ?」
2「企業秘密です」
1「教えてくれたっていいじゃねえかよ! ケチ! 守銭奴! 強盗! 魯山人!」
2「言い過ぎです。最後意味わからないです。というか玄関先で騒ぐのはやめましょう。通報されます」
1「それもそうか、取り敢えず部屋のなかで話すか」
2「ええ……そう、ですね」
3「取り敢えず、お仲間って事でいいんだよな……?よろしくな」
2「えぇ、甚だ遺憾ですがそういうことになりますかね」
3「当たり方きつくない!? 俺なんかしたか!?」
2「いえ、特に何も。強いて言うなら顔でしょうか」
1「お前口わりぃなー」
2「よく言われます」
3「分かってるなら治せよ!」
2「これが私のアイデンティティーなので。そもそも分かっていても治せないものなんてこの世に幾らでも溢れてるでしょう。貴方にも治すべき癖のひとつや二つあるんじゃないですか? それを治す努力はしましたか? 努力は実りましたか? ええ? どうなんですか?」
3「なんか地雷踏んじまったな……。すまん、言い過ぎた、だから落ち着け」
2「落ち着いています。私は落ち着いていますよ。えぇ、非常に落ち着いていますよ。心頭滅却すれば火もまた涼しですよ。え? なんで私がおちついてないって言うんですか? 証拠は? 証拠を出してくださいよ? 私が落ち着いてない証拠! 貴方から見て私が落ち着いてないように見える証拠を!」
3「めんどくせぇ! こいつめんどくせぇ! おいどうにかしてくれよ!」
1「いやぁ、俺も関わりたくない」
2「そもそもですね? そもそも、私はあなた方がこの部屋にいる事自体が非常に、非常に腹立たしいんですよ! え? 盗みにはいる? なんて罰当たりな! カワイイカワイイさゆりちゃんの部屋に盗みに入るなど万死に値する! それでもまだ、それでもまださっさと出ていくなら見逃しました、なのに未だに居座ってさゆりちゃんのクッションを勝手に使っている! さゆりちゃんの温もりが! 匂いが! 中年男の尻の臭いに汚されてしまってるんですよ!」
1「さゆりちゃんて誰?」
3「家主だろ。名前までは知らんかったけど、女が一人で住んでるって分かったから俺盗みに来た訳だし」
1「え、じゃあわかってて俺に強盗だのなんだの言ってたって事?」
3「いや、知らんけど。まぁ、言ってる感じ、家主と知り合いっぽいわな」
1「え、じゃあなに、なんなのこの人?」
2「僕はさゆりちゃんの彼氏です。今はまだ一方的にですがね。さゆりちゃんは恥ずかしがり屋さんだから私の事を仲の良いお隣さんって思い込んでるんですよ。でもそれは違う毎日どんな時でも私はさゆりちゃんを見守ってる片時も離れず慈しんでいる。これを彼氏と言わずして何と言う。そう私はさゆりちゃんの彼氏ボーイフレンド許嫁婚約者運命共同体!! そうだよそうなんだよ私達は運命の赤い糸で結ばれてるんだなのに彼女はさゆりはいつもいつもいつもいつも別の男共に笑顔なんか振り撒いて…………」
1「やばいやばいこわいこわい」
3「やべぇぞこいつなんかトリップし始めたぞ。おい、逃げるぞ」
1「何されるかわかんねえしな」
2「はっ! 待ってください」
1「ひぃ!」
3「な、何だよ!」
2「いえ、あの、すみません。昔から1つの事に集中してしまうと周りが見えなくなってしまう質で。失礼しました。落ち着きました。すみません」
3「そ、そうか。そりゃよかった。じゃあ、俺らは帰るから」
1「お、おう。じゃあな!」
二人立ち上がり帰ろうとする
2「待ってください」
1「な、なんだよ」
2「盗ったもの、置いていって下さい」
1「はぁ!? なんでだよ?」
3「おい、待て。素直に返した方がいいぞ。こいつなにするかわかんねぇし」
1「でも折角盗んだのにさぁ、なんで見ず知らずの奴の言うこと聞かなきゃいけないんだよ」
2「貴方じゃありません。あなたに言ってるんです」
3「え、俺? 俺なんにも取ってないぞ?」
2「誤魔化さないで下さい。そのポケットに入っている指輪の事です」
3「な、なんの事だか」
2「困るんですよ。それに着けた盗聴器高かったんで」
3「はぁ!? 盗聴器? これに!?」
1「まじかよすげぇ!」
2「やっぱり持ってましたね。申し訳無いんですが返して頂けると有り難いです」
3「お、おう。いらねぇわ流石に」
1「つか盗聴器とか仕掛けてるって事はやっぱお前ストーカー的なやつ?」
2「失礼な。あんな低俗な連中と一緒にしないで下さい。先程も言いましたが私は彼氏です。この部屋の主の。ただ少しばかり心配だから盗聴器と隠しカメラで見守っているだけです」
1「イっちゃってんな」
3「そういうこと言うな! なぁ、でもなんでこの部屋に盗みになんか入ったんだ? 今までも幾らでも盗めるチャンスなんてあっただろ? なんで今日なんだ」
1「あ、そうだよ! 別の日にしてくれた方が俺も助かったんだけど!」
2「あぁ、何も盗んでませんよ。回収しただけです」
1「回収?」
2「えぇ、仕掛けたものを。その指輪だけ見付からなかったんでわざわざ回収に来たんですよ」
1「あ、仕掛けたものって、そういうこと? え、そんなに仕掛けてたの?」
2「風呂場に2台、リビングに4台、玄関に一台とキッチンに1台、寝室に3台とベランダに1台ですね」
3「仕掛けすぎだろ! 気付けよ家主!」
1「そんだけあったら俺が来てたのも分かってたんじゃねえの? なんで俺がいる時に来たんだよ」
2「仕掛けた小物類まで持っていかれたら面倒ですから。幸い貴方はあまり量は盗んでいかないようだったので無意味な警戒でしたが」
3「だから指輪の事うるさかったのか」
2「えぇ、カメラでしっかり観てましたし」
1「え、まだ仕掛けてあんの!? どこどこ?」
2「企業秘密です」
1「ケチだなぁ。つか回収するんじゃなかったのか? 今から?」
2「いえ、壁に埋め込んでるタイプは大丈夫なので。今回も見付かる恐れのあるものだけ回収してますから」
1「慎重だねぇ」
2「流石に警察には敵いませんからね」
1「え、警察呼ぶのか!? 自分からわざわざ!?」
2「いや、空き巣に入られたんだからどうあがいても警察は呼ばれるでしょう。そうなったら部屋の中に捜査も入るでしょうし」
3「てかあんた見守ってるだのなんだの言う割りには、空き巣放置したりしてよくわかんねぇな。なに考えてんだ?」
1「そうだよな。カメラで見てたって事は俺の事もさっさと追い出せたよな。なんで回収だけで済ませたんだよ」
2「私は争い事は苦手なので。それに折角のネタを私が彼女から奪うわけにはいきません」
1「ネタ?」
2「ええ、彼女小説家なので」
1「へー、そうなのか。小説家かー、なんか思ったより普通の部屋だな」
3「ネタ……と言っても良いんだろうか……。勿論俺達は有り難いんだが」
2「彼女かなりの出不精で日中の殆どを家で過ごしてるんですよ。お陰で悪い虫も付かなくて私としては安心なんですが。でもいつもいつもネタがないネタがないと唸っているので、もう少し外に出てみてもいいと思いますけどね。そうそう、今日は彼女が珍しく定期的に外に出る日なんですよ。担当との打ち合わせで17時に出掛けて何時もはもう帰ってる時間なんですけどね。一体どこでなにをしているのか。今日つけてる指輪の調子が悪くてうまく音声が拾えないんですよね。彼女天然だから色々心配で。まぁそんな所も可愛いんですが」
1「うわぁ、また始まった、何とかしてくれよ」
3「いや、これは無理だって。それよりそろそろ帰ってくるかもだしいい加減帰ろうぜ」
1「おう、そういえばそうだった。大分長居しちまった」
3「おいあんた、俺らそろそろ帰るぞ。あんたも見付かんないようにな」
2「あ、そうですね。じゃあ私もそろそろ」
ドアが開き女性が帰ってくる。女性男達に気が付かず部屋に入ってきて寛いでスマホいじり始め、ふと男たちを見て、スマホに視線を戻し二度見
女「あんたたち誰!?」
1,3「気付くのおそ!!!」
暗転
女「つまり、悪質なストーカーが一匹とちんけな空き巣が二匹と、そういうことだね?」
3「そのまとめ方はどうかと思うけど、はい、合ってます」
女「はぁー、なんか最近居心地悪いなーと思ったらそういうことだったのね。まぁいいわ。盗んだもん全部置いてカメラと盗聴器外したら帰って良いよ」
1「え、見逃してくれるんですか!?」
女「お陰で一本ネタが浮かんだし。別にこれといって実害ないしねぇ。良いよ別に」
1,3「かっこいい……!!」
1「姐さんと呼ばせてください!」
3「お、俺も!」
女「ま、まぁ勝手にすればいいよ。それより、さっきから黙ってるあんた。あんた確か前に空き巣入った奴だろ。なんでストーカーなんかになってんのさ」
1「惚れちまったのさ、そうだろ?」
男2黙って首を縦にふる
女「はぁ……。好意を持ってくれるのは嬉しいけど度が過ぎたら嫌悪感しか湧かないんだ。覚えときな。これに懲りたら金輪際こんなことするんじゃないよ。いいね?」
男2首を縦にふる
女「よし、それじゃさっさと帰った帰った。あたしは忙しいんだ」
1「おっす! 姐さん! 失礼しました!」
3「それではまた!」
男達退場
少ししてから女スマホを操作して、音声流れ出す
1『それにしてもまじかっけえな姐さんファンになっちまった』
3『あぁ、俺もだ……。なぁ、姐さんって小説家なんだろ? ペンネーム何て言うんだよ』
2『今生小百合』
1『へぇー、因みに本名は?』
2『わからない……』
1『なんだよー、彼女とか言いながら本名すら知らねえのかよ』
2『しょうがないだろ、いくら調べてもわかんないんだから』
3『俺が絶対聞き出してやるぜ!』
1『そうだ、折角だし飲みにでも行こうぜ。これもなんかの縁だ』
3『おぉ、良いぜ、どこ行く?』
2『あ、それならここ一階に居酒屋入ってるからそこオススメです』
1『お、じゃあそこいこーぜ!』
3『いぎなーし!』
女「ネタ、みーつけた」
女ほくそ笑む
暗転