王都炎上
古の火竜がアリス達の前に現れる
「す、すげぇ…ほ、本物のドラゴンだ…」
逃げ惑う市民を避け、俺は猛スピードで王都の城壁を駆け上る。
その先で俺が見たものは、アニメやマンガで見たドラゴン!そのものだった。
[全高30メートル。翼端75メートル。推定重量20t]
ヘビー級サイズじゃねーか。
[脅威レベル 高]
うっほっ!キタコレ!!
ゴワァァァァァァ!!
上空20メートルから火炎を吐く赤きドラゴン。
[脅威レベル 危 に上方修正]
市民街が燃え、逃げ遅れた人々や騎士が業火に焼かれ、黒い炭素へと変わっていく。
市民街に戦陣を引いた騎士団が散発的に魔法や弓で火竜に攻撃しているが、まるで効果がない。
「な!?あ、アレは…聖典に書かれていた…火竜!!」
遅れて姫達が俺の元に駆け込んでくる。
「アレが火竜…見たまんまだな」
「はい、遥か昔…このランバード王国を襲ったとされる竜に似ています」
「ほう、その時、王国はどうやって撃退したんだ?
あんなのに襲撃されて良く王国が滅びなかったな」
「王国の危機に現れた天使様が、雲の上で火竜の翼を斬り落とし墜落死させたと伝えられています」
なかなか消極的な方法だな。
「その時、斬り落とした翼が城の城門に飾られたあの翼なんです」
なるほど、似たような翼の化石が城壁に埋め込まれている。
「ぼ、ボクのシーザーよりも大きい!!」
大怪獣に興奮しているドロシー。
「そ、そうだわ!ドロシーのシーザーならあの火竜を!」
「無理だね。多分、あの炎で溶かされちゃうよ」
姫の提案を一蹴するドロシー。
「俺がやる!」
アイテムボックスからドラゴン殺しを抜き出す。
「む、無理です!!いくらアリス様でも、相手は空を飛ぶ竜ですよ!!倒す手段はありません!!」
「あ?、倒す手段は俺の背中にあるだろ?」
背中にセットした大剣を見せる。
「ドラゴン殺し…」
天使の真似をするつもりではないが、翼を斬り落として地上に落とせばどうとでもなるだろう。
「ちなみにその火竜を倒した天使って言うのは…城の地下にある天使の骸の生前の姿ってわけかい?」
「はい…とうの昔に朽ち果てた天使のご遺体を我々王族は代々利用してきました…」
「なら、アイツをチャチャと倒して天使よりも俺の方が強いと証明してみせようか」
「センセー、私も手伝います!」
「微力ながらご主人様をサポートするよ!」
「いや、必要ない。お前達は姫様を守れ」
しゅんとする二人。
「終わりだ…終わりだ…」
カイン王子とその騎士達は灰に変わりつつある王都を見てショックを受けたようだ。
俺は王子の体内のナノマシンを震わせる。
「ぎゃあ!!」
頭を抑えもんどりをうつ王子。
「惚けてないで、自分の騎士団を集め直せ!まだいるんだろう?」
コクコクと頷く王子。
「なら、チャッチャッと集めて市民の避難誘導して株を上げてこい!!」
「は、はいぃ!!!」
へっぴり腰で駆け出す王子とそのお付きの騎士達。
「ネレイとドロシー、レイチェルは姫のガード。姫は鍛冶屋のギムリの救出を最優先で頼む。他の住民はついでで構わない」
「アリス様は!?」
「俺はドラゴンと遊んでくる」
俺は城壁を飛び降りる。
向かうはこの王国で一番高い場所。
王城の尖塔を目指し疾走する。
城の門前に立派な衣装を着た男女の斬殺死体があった。
火竜の爪でやられたようだ。
「空っぽかよ?逃げ足速いなぁ」
城内に入ると中はもぬけの空だった。
王も家臣も全員逃げ出したようだ。
普段から避難訓練でもしてるのか?
そう思うぐらい見事な逃げ出しぷりだ。
まぁもぬけの空なら、ここを戦場にしても良いだろう。
俺は無人の城内を駆け抜け、尖塔の見張り台に立つ。
今、まさに職人街に向かって炎を吐こうとする火竜
[距離500メートル。有効射程距離内です]
職人街が燃えたら、誰が俺のドラゴン殺しの手入れをするんだ!!
俺はその火竜目掛けて最大出力でストーンバレットを撃ち込む。
火竜の横面に着弾。
ギロリとこちらを見る火竜。
グオオオオオオオオオオン!!!
火竜の金色の眼と俺の視線がぶつかる。
ガンつけ合い
[目標健在。損傷率0%]
「見ればわかるよ」
火竜は俺を敵と認識したようだ。
強敵を前に俺の縮退炉エンジンが唸りを上げる。
俺の身体から光の粒子が舞う。
上空に舞う上がる火竜。
俺はドラゴン殺しを…初めて両手で握る。
そして…ヤツは、上空100メートルから俺目掛けて、猛烈なブレスを吐いた。
◇◇◇◇◇
武器鍛冶屋ギムリ視点
「な、なんじゃアレは…」
空飛ぶ怪物。ドラゴン。アレがドラゴンなのか…
初めて見る食物連鎖の頂点の生命体。
あんなの…神しか勝てん…
ワシは、本物のドラゴンの恐ろしさを知らずにドラゴン殺しなど剣に大層な名前を付けて悦にいっていたのか…
ゴワァァァァァァ!!
鍛冶の炉より高い高熱の炎を吐くドラゴン。
耳をつんざく断末魔の悲鳴があっちこっちであがる。
市民街が紅く染まる。
終わりだ…王国もワシの命も今日で終わる…
今、そのドラゴンと目があった。
ドラゴンの喉の奥に紅蓮の焔が見える。
炎を扱う鍛冶屋が炎に包まれて死ぬか…なんともマヌケな最期じゃ…
じゃが、ドラゴンの炎はいつになっても襲ってこなかった。
それどころかドラゴンは明後日の方を向いている。
そちらの方に目を向ける。
そこには尖塔に立ち、ドラゴン殺しを構えるアリス嬢ちゃんの姿が見えた。
◇◇◇◇
王国騎士団団長カイエン将軍視点
「団長!!王城直上に魔力渦が発生しました!!」
俺は騎士団詰所から飛び出す。
「な、なんて大きさだ…」
天を覆うかのような巨大な魔力渦の球体が浮かんでいた。
グオオオオオオオオオオ!!!
その球体から姿を現わす巨大な竜…
「伝令!!王より謁見の間に来られたしとの事!」
「分かった!すぐ行く。副長!!非番の者も呼び出して全騎、戦闘準備で集合させろ!」
逃げ出す貴族やメイド達をかき分け、謁見の間に入る。
そこには王と第二王子クロード様と魔法省の長スレイン伯と聖堂教会の女司祭マーファがいた。
「非常時ゆえ、儀礼は不要だ!」
「ハッ!」
「カイエン将軍よ!火竜討伐の指揮を任せる!スレイン伯とマーファ司祭と協力し城の外、もしくは市民街でヤツを撃退せよ!」
「勅命拝領します!」
「時間がない。即行動せよ!」
「ハッ!スレイン伯、マーファ卿!魔法とバリスタで火竜を市民街から南門の外に誘いだし、そこで殲滅するぞ!」
ゴカァァァァァン!!!!
激しい地響き。
「ワシと王子は地下の天使の間に避難する!あとは任せたぞ!」
城の奥に向かって駆け出す王族と貴族、そしてその護衛騎士。
王はともかく第二王子は前線に立つ気はないらしい。
「戦える者を南門に集合させろ!」
なんとかヤツを城の外に連れ出さないとならない。
俺達は城から飛び出す。
「な、…んだと…」
目の前に火竜がいた。
「うわぁ!!!」
「ヒィぃ!!!」
悲鳴を上げるスレイン伯とマーファ卿。
ブンっ!!
巨大な前爪で薙ぎ払われる俺達。
その一撃で頭部を粉砕されるスレイン伯。
身体を引き裂かれたマーファ卿。
俺は咄嗟に天使の祝福を受けたガントレットを盾にするが…そのまま城壁に叩きつけられる気絶した。
◇◇◇◇◇
ストームブリガー、ロイ視点
布で包んだアリスの死体を背負い、街を目指す俺達。
こんな小さな子が…こんな惨たらしい最期を迎えるなんて…
「アリスちゃん…」
そんなアリスの背中を優しく撫でるラビィ
「ほんと…2000人の騎士とやり合うなんて…なんて無茶な子…」
涙を流すサラ。
アリスといつも一緒にいたネレイと言う子。
あの子が無事ならアリスの為にも王子の元から助けだしたい。
それになんとしてもアリスの頭も取り戻さなければ!
街が見えてくる。
しかしいつもと様子が違い、かなり騒がしい。
何かあったのか!
街から武装したギルドメンバー達が馬で駆け出してくる。
先頭には筋肉マッチョなギルマスがいた。
「おおお!ロイ!!!生きておったか!!」
「街が騒がしいがどうした?外れの村の魔獣騒ぎならアリスが解決したぞ」
外れの村に偵察に行った俺達が戻ってこない事を心配して騒ぎになったのだろうか?
「何!アリスがいるのか!!それは朗報だ!!!」
ガシと肩を掴まれる。
「王都に!王都に火竜が現れたんだ!!!」
「な!!」
「竜種は500年前に滅んだと聞きましたが」
神官のエトが聞き直す。
「王家からギルドに救援要請が来ておる!アリスがいるなら是が非でも彼女の力を借りたい!!」
俺は背中のアリスを下ろす。
「それは無理だ…」
アリスの死体を包んだ布を丁寧にめくるラビィ。
「バ…カな…あのアリスが…死んだ?」
驚くギルドメンバー。
「アリスは王子に嵌められて…2000人の騎士を道連れにして死んだ…」
「ううぅ…」
泣き出すサラとラビィ。
「泣くのは後だ…王都を目指す…泣くのは火竜を倒してからだ…」
アリスの死体を教会に預け、俺達は王都を目指した。
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