浮かび上がる血の薔薇
工房でドラゴン殺しの鋳造が始まる
ギムリ視点
「うむ、焼きまで入れて約一週間といったところじゃな」
アダマンタイトを無事手に入れ、ようやく儂の工房に戻ってきた
「しかし…アリス嬢ちゃん、あんた何者じゃ?」
見た目こそ見目麗しい幼い少女じゃが人間であるはずがない。
「俺はアリステル・レステル。それ以外何者でもない」
渋く決めたつもりじゃろうが、幼女の姿で言っても微笑ましいだけじゃな。
ともかく正体を明かすつもりはなさそうじゃな。
まぁ良い。おそらく人の意思を宿した古のゴーレムといったところじゃろう。
「ところで、せっかく新造するんじゃ。注文はあるか?」
少し考えるアリス嬢。
「刃渡り230cm 幅65cm 厚み8cm 握りの太さは6cm
重さは可能な限り重くしてくれ」
儂が心の中で見立て通りのサイズを指定してきた!
「サイズはその通り造れるが…重さは儂の力だと120kgが限界じゃな」
重金属であるアダマンタイト鉱は叩いて圧縮するにも限度がある。
「アリス嬢ちゃんがその力で叩いてくれれば、いくらでも重くできるが?」
「オッケー手伝うぜ!目指すは320kgだ!!」
「なっ!?…いや分かった。明日から製作に入る」
前代未聞の重さに度肝を抜かれたが…アリス嬢ちゃんなら問題なく振り回すだろう。
◇◇◇◇◇
次の日
「おりゃあああああ!!」
キンキンキンキンキン!!ジュッ!
キンキンキンキンキン!!ジュッ!
信じられスピードと正確さで大質量のアダマンタイト鉱を叩き潰し、伸ばしていくアリス。
その正確な動きに唖然とするワシと、見学に来たネレイともう一人のどこかで見た事あるような娘さんと女騎士。
指定した寸法通り。1mmの狂いもなく仕上がる。
「おお!もう十分じゃ!!高品質な仕上がりじゃ!」
1メートル四方の巨大なアダマンタイトをここまで見事に圧縮形成するとは…
「あ〜コレ結構ストレス解消になるな」
「なら、儂の弟子になるか?お前さんなら立派な鍛治職人になれるぞい」
「俺より強い奴がいなくなったら、それもありだな」
「いる訳ないだろ!」
世界にに7人しかいないSSS級と言われる冒険者でもヘビモスを単騎で倒せる奴はいない。
「まぁ後の仕上げは儂達がやる。あとはせっかくここまで広い刃なんじゃ何か紋章なりレリーフなり入れるか?」
アダマンタイトの曇りなき漆黒の刃。レリーフがさぞかし映える事だろう。
「そうだな…姫…うっうん!アルフィー、何か良いアイディアあるか?」
良いところのお嬢さんらしき人物に聞くアリス嬢。
「き、貴様!ヒ…呼び捨てにしおって!!」
何故か怒り出す女騎士。
「あ、その模様良いな!」
アルフィーと呼ばれた娘が胸に付けているブローチに目をつけるアリス嬢。
「え…構いませんが…それだと私の所有物だと思われてしまいますよ?」
「え!?そうなの?でもまぁ、金出すのは姫…アルフィーだからいいか」
アルフィーと呼ばれた少女からブローチを借り、儂に見せる。
「こんな感じで頼むわ」
ブローチを受け取る。
ブローチに掘られた薔薇が無数に絡まり、そして散るこの模様は…王女たる者、薔薇のように気高く咲いて薔薇のように美しく散れと言う生き様を表していると言われている王家の紋章…
「おまっ!!これは王女の紋章じゃ!!!」
というか…よく見ればその王女様が目の前にいた!!
そう言えば闘技場でもアリスのそばには王女がいたな…
儂と工房にいた弟子達全員が一斉にひれ伏した!!
「俺とネレイはただの一般人だからかしこまらないでくれよ」
「私も今日はお忍びですので」
「ハハッー!素手で王女様の紋章に触れてしまって申し訳ありません!!!」
「お気になさらずに」
そう言うと、ブローチを受け取り、身バレした王女はお付きの女騎士と共に帰っていった。
「…おま!王女がいるなら先に言え!!!」
アリスに詰め寄る。
「悪りぃ悪りぃ!あとこの紋章にこう言う細工できないか?」
「おぉ、面白いな。やってみよう」
4日後…ワシの生涯最高傑作の新生ドラゴン殺しが完成した。
◇◇◇◇
アリステル視点
4日後…
「おおお!かっけぇ!!」
「どうじゃ?もはや攻城兵器と言っていいくらいの武器になっとるじゃろ」
新生ドラゴン殺しを受け取るため、ギムリの工房に向かった俺とネレイ。
王女アルフレアも一緒に来るはずであったが急な来客で来られなくなった。
早速ドラゴン殺しを手に取る。
スチャ!
「おぉ…いいねぇ。手に馴染む重さだ」
俺に最も合うサイズをアイが算出して出した数字で作ったドラゴン殺しだ。
馴染まないわけがない。
太陽に翳してみる。
光が当たる角度によって王女の紋章である
[気高く咲く薔薇と美しく散る薔薇]のレリーフが刀身に浮かぶ
「さ、320kgを片手で!?」
「ほ、本当に持ち上げた!!」
工房の若手のドワーフ達が俺の腕力にビビる。
ドワーフの職人達はこの重すぎるドラゴン殺しを作るために滑車を使ったらしい。
素振りをする…
ブォン!ブォン!ブォン!!
風圧があたりの草を巻き上げる。
「完璧だぜ!ギムリありがとう!!」
「例の細工も完璧にできておるぞ」
「マジか!楽しみだぜ!」
そして自前で用意したナノマシン特製ベルトで
新生ドラゴン殺しを背負う。
「サンキューギムリ!コレ代金だ」
王女から預かってきた代金を払う。
「うむ。定期的に持ってこいよ。メンテするから」
◇◇◇◇
ギムリと別れ、職人街から貴族街に戻ると…
「これはこれはレステル様!ご機嫌麗しゅうございます」
とやたら金ピカしたゴージャスなお召し物をきた小太りチョビヒゲのテンプレ的な小悪党商人と言った風体の男が話しかけてきた。
ふむ。腰が低いのは気に入った。
「何か御用でしょうか?」
少女らしく問いかける。
俺の後ろに隠れるネレイ。
「私、ワルダー・クーミと申します。実はアリステル様と内密にお話ししたい事がございまして…」
「知らない人と話してはいけないと王女様に言われましたので」
幼女のフリして様子をみる。
「またまたお戯れを。あなた様は見た目通りの方でないのは知っていますよ。」
「だろうな…で?」
まぁ闘技場であれだけ暴れれば顔くらい覚えられるよな。
[壁の向こうに8名。高所に狙撃者4名を確認。ロックオン完了]
「わたくしとある身分の高いお方に従えております。レステル様にもぜひ、そのお方に従えて欲しいと思いまして」
「ふーん。そのお方とは誰だ?」
「それはわたくしのお願いを聞いてくださればお教えします」
「どんな願いだ?」
「アルフレア王女を殺して頂きたい」
まぁ、そんな事だと思ったよ。
「いくら出す?」
お?と言う表情を見せるワルダー
え?と言う声を出すネレイ。
「それはもう…お望みのままに」
「ふふ、今のは王女暗殺の報酬を聞いたんじゃない。お前の命の代金だ」
シュッ!!
背中のドラゴン殺しを抜き、ワルダーの首1ミリと所で寸止めをする。
交渉決裂と判断した狙撃者4人が矢を放つ。
着弾まで3秒。
高所から飛んでくる4本の矢を左手一本で素早くキャッチ。そのまま飛んできた方向に投げ返す。
投げ返した矢はそれぞれの狙撃者の眉間から入り後頭部に突き抜ける。
「っ!」
狙撃失敗と見て、無言で壁を飛び越えカットラスで斬りかかってくる8人の男達。
ブンッ!
男達のカットラスが俺に届くより速くドラゴン殺しを振り抜く。
ズシャシャ!!
あっさりと6人の男が輪切りになる。
残り二人はカットラスで俺のドラゴン殺しを受け止めようとし…カットラスごと輪切りになった。
「あわわ…」
一瞬で12人の襲撃者を撃退した俺の戦闘力に腰を抜かすワルダー。
「誰に頼まれた?」
「し、知らん…ワシは知らん…」
「さっきは身分の高いお方に従えていると…まぁいい…じっくり白状させた方が楽しいからな」
バキッ!
殴って気絶させる。
そのままアイテムボックスからズタ袋を取り出し、ワルダーをその中に入れる。
周りの死体はアイテムボックスに入れ削除する。これで死体はこの世から跡形もなく消えた。
狙撃者4人の死体は放置でいいだろう。
「アイ、目撃者は?」
[いません。全員死んでいます]
事前にコイツらがこの辺り一帯の人払いをしていたのだろう。
お陰で完全犯罪が成立した。
いや正当防衛だから犯罪ではないな。
「せ、先生…剣に…剣に血の薔薇が咲いてます…」
お、さすがネレイ。気がついてくれたか!!
「ふふん。ギムリに頼んで細工して貰ったのさ!」
ドラゴン殺しが血に染まると、薔薇の筋彫りに沿ってその血が流れ込み、まるで紅い薔薇が咲いたようになるのだ!
そして、ブンブンと剣を回転させ血をふきとばすと…
ほら、これで元の黒いドラゴン殺しに戻るんだぜ!
欠点はゴブリンとか緑の血の生物だと緑の薔薇になってしまう所だ。
「はぁ…す、すごい…です」
ネレイは、目の前で起こった一瞬の殺戮に頭の中が付いてきていないようだ。
「ネレイ。これから楽しい拷問の時間だぜ!」
俺はワルダー入りズタ袋を担ぐ。
拷問は命のやり取りに慣れて貰うようにネレイにやらせよう。
俺はウキウキで離宮に帰った。
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