折れたドラゴン殺し
王都に帰還したアリスは王女の食客となる。
「ん〜美味しい!」
王城の離れにある離宮でメイドさん達の接待を受ける俺とネレイ。
現代日本の食品には数段、味は落ちるが美味しい部類に入るだろう。
そうして、小一時間ほど寛いでいると王女アルフレアとお付きの女騎士レイチェル。そして執事のような男性が入ってきた。
「レステル様、お約束の報酬でございます」
アルフレアがそう言うと、執事が白金貨100枚をテーブルに並べ始める。
一枚100万ゴールドだ。
「毎度あり〜」
アイテム収納ボックスにささっと仕舞う。
「レステル様はアイテム収納ボックス持ちだったのですね」
少し驚く姫。
「あぁ、城中の貴重品全部入るぐらいはあるぜ」
驚く王女。
そのジョークに顔をしかめるレイチェル。
「あの、レステル様…」
「ん?」
「もし宜しければ、私の食客になってくださいませんか?」
「ほほぅ、して俺に何を望む?」
「友好」
ん?武力を求められるかと思ったが…友好と来たか。
「貴方が敵になったら私に勝ち目はありません」
まぁ俺を止められる生物などいないだろうな。
「貴方が敵にならないと言う事だけで、計り知れない恩恵になります」
…不戦協定か。
「そのかわり俺はここで食っちゃ寝の贅沢な暮らしができると」
頷く王女。
「そして…気が向いた時で構いません。私が困った時に少しだけそのお力をお貸し頂けたら幸いです」
「例えば…力を貸したら、姫さんを邪魔する貴族が何故か偶然都合よく事故死したりとかして?」
頷く王女。
暗殺はアリステルの仕様内容だ。
「オッケー!とりあえず半年だけ食客として招かれてやるぜ!その後はその時決める。あとネレイも当然俺と同じ待遇でな」
年相応の10代らしい笑顔を見せる王女。
「はい、ネレイさん共々宜しくお願いします!」
◇◇◇◇◇
その日の晩餐で、国王ランバード14世と対面する。
「お初にお目にかかります。流れの旅剣士アリステル・レステルと申します」
アルフレアに用意してもらったドレスを着た俺と神学学生服に着替えたネレイは国王に挨拶をする。
(ちなみに学生服は日本と同じように一級の礼服扱いである。天皇陛下の晩餐会にも着て行けるのだ)
王子達はいないようだ。
「うむ、アルフレアから話は聞いておる。レステル殿はかなりな腕前を持つらいしな」
「はい、あの巨大な竜をたった一撃で倒されました」
と王に説明してくれるアルフレア。
「儂もその竜の首を見たが…あんな巨大な魔獣が出てきた事は今ままでなかったぞ」
実際、この竜の首を見た国王はあまりの大きさに言葉を失った。
もしこの竜が討伐されず、王都を襲っていたら間違いなく半壊、もしくは壊滅していただろう。
しかし…その竜を倒したと言う少女を見る。
まだ子供でないか。しかも少女…いや幼女である。
あり得ない!
だが、もし本当にあの竜を倒したのがこの少女なら…
本当に危険なのはこの少女の方だ!!
もしやこの幼女は魔女か何かで幻覚を見せられているのかも知れん。国王ランバードはそう考えた。
「レステル殿、もし宜しければ我が騎士団随一の男カイエン将軍と模擬戦を交えてくれないだろうか?」
「えぇ、騎士団全てを相手にして構いませんわ」
その返事に驚く王女。
ちょっ、皆殺しはやめてください!!とレステル殿に耳打ちをしているアルフレアの言葉を国王は聞いた。
その声に国王は密かに冷や汗を流すのであった。
次の日。
さっそく模擬試合が組まれた。
◇◇◇◇
カイエン将軍視点
「団長…相手は子供ですが…」
騎士訓練所で武装を整える王国騎士団団長カイエン。
身長2メートルを超える筋骨隆々な彼はランバード王国最強の騎士だ。
「あぁ、聞いた話では少女があの竜をたった一人で倒したらしいな」
果たして自分なら一騎打ちであの竜を倒せるか?
両手に付けた古代アーティファクトであるガントレットを見つめる。
数多の鎧を撃ち抜き、数多の剣をへし折り、数多の命を潰してきたガントレット。
これを両手に嵌め、ただの冒険者からここまで成り上がってきた。
相打ち覚悟で挑めばあの竜は倒せるかも知れない。
しかし…その竜を一刀で倒したと言う少女に勝てるのか?
カイエンはその少女が待つ闘技場に向かう。
◇◇◇◇◇
アリス視点
「アリス様、どうかカイエンを殺さないように、気をつけてください。」
観衆が詰めかけた闘技場の控え室でネレイに腰掛けジュースを飲む俺。
闘技場は、まるで古代ローマのコロセウムのような造りだ。
「相手は王国騎士団団長で大陸最強の男と言われるカイエン将軍です」
セコンドについた王女アルフレアは俺に耳打ちする。
「へぇーそうなの?」
「両手に付けたガントレットは古代アーティファクトでどんな鎧も貫き、どんな攻撃も防ぐと言われてます」
「矛盾してるなw」
「え?」
「あのガントレットでもう片方のガントレットを殴ったらどうなるんだろうね?」
「それは…どうなるんでしょう?」
お、何やら国王が観衆に向かって挨拶してる
「アリス様!どうかカイエンに大怪我させないように気をつけてくださいまし」
「あいよ。全治1ヶ月ぐらいで収めてやるよ」
俺はサッカーグランド程の広さの闘技場の中央に進む。
10メートルほど離れた対面に立つ対戦相手である将軍とやらに挑発アピールとデモンストレーションを兼ねてドラゴン殺しを軽く振り回す。
そのアピールに湧き上がる観衆。
「おおお!あれが竜殺しの少女!!」
「う、噂は本当なのか??」
ふふー良いねぇ。もっと俺を称賛しろ!
◇◇◇◇
カイエン視点
闘技場の中央で対戦相手である少女と対面する。
「嘘だろ…」
自分の身長より長い両手剣を片手で軽々振り回す少女。
10メートルは離れたこの身体に当たる剣風圧は、この両手剣はおもちゃじゃない。当たれば即死だと伝えている。
俺は上半身を包む鎧と兜を脱ぐ。
「おおお!!鎧を捨てた!?」
「さすがカイエン将軍!!」
「小娘の剣など怖くないと言う事か!!」
湧き上がる歓声。
違う!!
あの少女の両手剣の前には鎧など無意味だろう。
むしろ重りでしかない。
だから捨てたのだ。
そして…勝算はある。
俺のこの両手のガントレットこそが勝算。
古の失われた秘術 [金剛不壊の加護]が俺を勝利に導いてくれる!
「始め!!」
国王が高らかに宣言する!
「うおおォォォォ!!」
この少女には手加減は不要!
数多の戦場をくぐり抜けてきた経験が、数多の死線くぐり抜けてきたカンが、この少女を最大最強の敵だと訴えてくる。
目にも止まらない勢いで繰り出すパンチを少女は…
ヒョイヒョイヒョイ
笑顔を見せ、ウィンクとあっかんべーをしながら躱していく。
こいつ!バケモノか!?
シュッ
消えた!?
ドンッ!
と思ったら背後からケツを蹴られた。
「くっ!」
5メートルほど吹っ飛ばされたが素早く受け身を取り立ち上がる。
俺のリカバリーに「おっ?」と驚いた表情を見せる少女。
「余裕だねぇ…お嬢ちゃん?」
チョイチョイと手招きする少女。
その余裕が命取りだぜ!お嬢ちゃん!!
俺は百烈パンチを繰り出す。
ヒョイヒョイヒョイと躱す少女。
しかしこれはフェイトだ!!
俺の狙いは少女の細い身体でなはい!
そのぶっとい両手剣だ!!!
渾身の力を込めて両手剣を殴る!!
バキンッ!!!!
「アリスさま!!!」
王女が悲鳴をあげる
根元から真っ二つに折れるドラゴン殺し。
ゴトンッと鈍い音を立て闘技場の硬い床の上に落ちる折れた刃。
俺は勝利を確信する。
武器を失った少女は背後にジャンプし距離を取る。
唖然とした表情で折れた両手剣を見ている。
みるみる真っ赤になる少女。
泣いてる?
「剣がなければ、もう戦えないだろう?降参し…」
剣を捨て、指をポキポキ鳴らす少女。
「アリスさま!!お、抑えて!!抑えてください!
新しい剣を作らせますから!!」
王女が闘技場下から必死に少女をなだめている。
少女はまだ戦意を失っていない。
いや…むしろ威圧感が増している!!
両手剣を破壊したのは悪手だったか!?
俺は油断なく構えるが…膝が震えている!?
この俺の膝が震えている!?
肩を怒らせ、一歩一歩また一歩と近づいてくる少女。
逃げろ!!
と生存本能が悲鳴をあげている!!
だが…王国5万の騎士団を統率する俺が無様に逃げる事は許されない。
あんな小さな幼女の握りこぶしに何を怯えている!?
「うおおおおおおおお!!」
ウォークライ!!
怯える自身に気合を入れる!!
ファイティングポーズを取る。
殴り合いで俺に勝てる存在はこの世にいな…いた。
目の前にいた。
一瞬でガードをこじ開けられ、腹部に掌底を受けた俺は痛みを感じる事なく気絶した。
良いねブックマありがと^_^




