小向 ひなた の話
初めての投稿になります
お手柔らかにお願いします
突如として現代にダンジョンが出現し、かれこれ100年ほどたったこの世界。
現れた当初は相当な混乱があった
ちょうどそのころ、似たような話のネット小説が流行し、ある程度の知識が一般的だった
「ダンジョンから怪物があふれだし、人に襲い掛かる!」
「入ったが最後、異世界に転移し、帰ってこれなくなる!」
「異世界からの侵略だ!徹底抗戦せよ!」
等々の意見が飛び交った
が、全ての意見を無視し、基本的に安全で利益しかもたらさない存在ということが分かると
寄ってたかって侵入、攻略を目指すのであった
これは、そんな世界の群像劇である
<小向 ひなた>の話
俺の名前は<小向 ひなた>女性みたいな名前だが40代のはげたおっさんである
両親は朗らかに育ってほしいという願いを込めて付けたが、いじられることもしばしばだ。太陽的な。
それ以外は、俺の人生は波風の少ない人生だった。
大学を卒業し、普通の旅行会社に就職、独身貴族をおう歌、結婚をすることなく現在にいたる
ところが、ある感染症が世界的に流行し、感染する要因の一つの無駄な外出であった。
それが禁止されたあおりで、あえなく倒産。今日から晴れて無職である。
どうしてこうなった?
まぁ、何の副業もしてなかったし投資もしていなかったから当然かもしれないが
また再就職を目指すが、旅行業界以外での経験は無いし、働く気もない。
旅行好きの皆様とワイワイするのが楽しいのだ、俺は。
かと言って収入が無いと貯金を崩すことになるし有限もいいところだ。
なので、前々から興味のあったダンジョンに入ることにする。
ダンジョンの内部は階層によって色々な環境があるらしく、岩壁の迷宮もあれば、景色の素晴らしい草原なんかもあるらしい。
そこをツアーしたり出来ないかと考えたのだ。
そんなことを考えていたら、ダンジョンのある駅に到着した。
直結した商店街に出ると違和感がすごい。
何が違うかというと、西洋の騎士の様な服装をした人や、はじめ人間ギャートルズのような人がウロウロしている。
テレビなんかで見たことがあるけど、実際に見ると驚くばかりだ。
これが目当ての観光客が来るのもうなずける。
事前に調べておいた探索者協会の建物はすぐに見つかった
案内板を見て探索者の新規登録受付に向かうと、羽の生えた蛇がプカプカと浮かんでいる。よく分からない生き物がいた
「こんにちわ!僕は新規受付登録係のニワだニョロ!よろしくだニョロ!」
「こ、こんにちわ」
すこし動揺しながら挨拶を返す
この生き物は協会長の召喚したもので、協会の作業を手伝っているらしい。聞くのと見るのでは大違いだな・・
「じゃあ早速受付を始めるニョロ。身分証明書を出すニョロ。」
器用に尻尾で受け取ると、大理石の様な板の上にかざす
すると、水面の様な波紋が広がり、板からクレジットカード位の大きさのカードが浮かび出てきた
「これが小向さんの<探索者カード>になるニョロ。無くしても再発行はすぐに出来るんで気軽にするニョロ」
$小向 ひなた$
レベル 1
スキル 無し
装備品 無し
受け取ったカードにはそう書いてあった。
シンプルでわかりやすいな・・
「これで登録は完了したニョロ。では頑張るニョロ!」
カードを受け取り、建物内の貸装備屋に向かう。
こちらは人間の受付のようだ。
「こんにちは、装備のレンタルをお願いしたいんですが」
「かしこまりました~、カードをお預かりします~」
新規受付登録の時に使った大理石のような板にかざす。これは<確認板>といいカードの情報を確認できるらしい。
ダンジョンの技術を応用したもので、とても便利だ
「小向様はレベル10未満ですので、レンタル料は無料となります~」
目の前で、クリスタル合成を行って手渡してくれた
これもダンジョン内で手に入る物と、スキルらしくファンタジー全開だ
<初心者の防護服>と<初心者のヘルメット>と<初心者の棍棒>を受け取り、早速装備する
「よくお似合いですよ~、それではまた~」
なれない格好で少し照れながら、協会を後にする
「ここか・・」
探索者協会の建物の向かいに併設されたダンジョンに向かうゲートがある。横に<確認板>が設置されていて、これにかざすと入れるようだ
ゲートをくぐると草原に出た
「おぉ・・すごいな」
見渡すと、広さが半径が大体1km位の小山に囲まれた草原か?遠くに岩でできた下に向かう階段がぼんやりと見える
あそこを目指して歩くとする
気分が良い、最近運動不足だったからいい運動になるな・・
何か動くものが見えた、敵だ
とは言っても野球ボールくらいのダンゴ虫だ
棍棒で叩き潰すと光になって消える
「ドロップアイテムは無しと」
ダンゴ虫はたまに回復薬を落とすらしい
歩きながらダンゴ虫を潰していると、階段に到着した。上に「2階へ」と書かれている。
中は暗く、松明がたかれている
降りると、次の階に到着した
次も草原のようだ
同じようにダンゴ虫を潰しながら歩く
ダンジョンは個人によって毎回違う内容らしい。たまに珍しい事が起きるらしいがめったに起きないらしい
同じことを繰り返す
5階に降りると、闘牛場のような装飾のある広場に出た。
振り返るも、今降りてきた階段は消えている
どうやらボス戦のようだ。
ボスは中央に立っており、人型をしていて背丈は150㎝くらいで緑色をしている。
いわゆるゴブリンだ。棍棒を持っている。
気合を入れて戦いを挑む。俺はこんなに好戦的だったっけ?
ダンジョン内では多かれ少なかれこうなるらしい。すくむよりかは良いがな
お互いに空降りを繰り返した後に、俺の棍棒が奴の頭にクリティカルヒットしたようだ
うめいた後、光に変わった
その後にビー玉みたいなのが落ちている
「これがスキル玉か・・」
手に取ると、スゥっと消えていった
闘牛場の真ん中あたりにゲートが現れたので地上に戻った
地上に戻り、装備を返却し、カードを確認してみる
$小向 ひなた$
レベル 4
スキル 大声
装備品 無し
「大声?・・よく分からないのがきたな・・」
スキルは使用を意識し、魔力を込めると使えるらしい
探索者協会の中にある練習部屋で試してみることにする
魔力とは気合のような物らしい
説明を受けて実践してみる
「わ」
小声で言ったつもりが救急車のサイレンばりの大きな音が出た
練習部屋の中にいた他の人が一斉にこちらを見てくる。めっちゃはずかしい
と同時にめまいがした
これが魔力切れか?初めて使ったんでよく分からない
しばらくしゃがんで休憩すると気分が回復してきたんで電車に乗り、家に帰った
あれから半年が過ぎた
感染症はまだ猛威を振るっているので当然、旅行業界に就職先はない
だから探索者を続けている
10階まで探索は進み、探索者のレベルも上がり収入も高校生がフルタイムで働いた位だ
スキルの<大声>だが、あれから色々と使っていくうちに分かったことがある
使用方法としては、
1、普通に大きな声になる
2,とても弱い強制力がある
3、とてもとても弱い物理攻撃力がある
1はまんまの能力だが、
2については相手の意志意向に背かない程度の事がお願い出来る
例えば、全力で逃げている人に「止まれ!」と言っても当然に無視されるし、襲い掛かってくるモンスターに「やめろ!」といっても止めてくれない
使い方としてはフルマラソン中でバテ始めたおっちゃんに「そろそろ止まって休憩しませんか?」というと止まる程度だ
3はサイレンクラスの声で2m先のロウソクの炎が揺れる程度で、全く役に立たない
2~3か月はこの使い方だったが、最近使っていて気づいた事がある
2の対象はモンスターや人物に限らないのだ
こんな事があった
7階を探索中にゴブリンに囲まれて足の骨が折れてしまった。何とか勝てたが、回復薬も切れたので動けなくなってしまった
ダンジョンには他者は入れない仕様なので当然、救助は来ない
ここまでか・・
半分諦めながら、寝転がった
「骨折治らないかな・・」
独り言を言った瞬間に魔力が大量に減った感覚があり、辺りに俺の大声が響き渡った
骨折の痛みが徐々になくなってきた。どうやら折れた骨に治る様にお願いした事になったようだ。
だが、意識が薄れていく。魔力切れで気絶した
その後、大声で寄ってきたゴブリンの熱烈モーニングサービスで目覚めたりしたが、骨折がヒビ程度に治っていたのでなんとか無事に帰ってこれた
この事に気づいた後、いろいろと試した結果、弱い強化も出来ることが分かった
回復と強化が出来るようになるとは・・俺は後衛職だったらしい
ところで、探索者協会ではマッチングサービスがある
それを利用し、PTを組んだりもしてみたが、中々に好評だった
戦闘も安定し、収入も会社員時代と同じくらい稼げるようになった。
ただ、同年代は中々いないので基本ソロだが
ケガもするし、最悪の場合、死ぬかもしれないつらい探索者生活だが、ご褒美も存在する
宝箱だ、。中身はゴミから数億円の価値があるものまで色々である
9階を一人で探索中に発見し、それが目の前にある
「これが噂の・・」
生唾を飲み込みまじまじと見つめる
木材で出来た、おおよそ1mの正方形の箱だ
10階までは罠は仕掛けられていないそうなんで、安心して開けてみる
木製の三角錐に見慣れない文字の目盛りが付いていて、根本あたりに金属の棒が付いている
いわゆるメトロノームだ
手に取って良く観察してみる
金属の棒には移動できる重りが付いておりそれを動かすと、ピッチを変える事が出来るようだ
「何に使うんだこれ?」
ダンジョン製なんで魔法が込められているのは確実だが細かいことは分からない
下手に動かして呪われでもしたら事なんで持ち帰り、鑑定にかけるとする
階段横のゲートから帰り、探索者協会へと向かう
<お天気メトロノーム>
希望する気候のピッチに合わせて魔力を込めて演奏すると、初めて演奏した日から一年後、一日分の気候を確定する
気候の範囲は魔力と演奏時間による。使用後は消滅する
「500万円で買い取りニョロ!これは危険指定されてるんで一般の保持は認められてないニョロ!」
えらいもんだった。
これを数を揃えたら干ばつをおこせちまうじゃねえか。
ちょっと儲かり、装備品のグレードを上げる
気を取り直して翌日、ダンジョンに潜るとする
10階はボス階なんで気合を入れる
薬品を揃えて入念に準備を行い、ボス部屋に侵入する。ボス戦はソロ専用なんで頑張りどころだ
階段を降りると、国技館みたいな建物の西か東かの花道に立っていた
釣り天井と土俵が見える。
中央にはマワシを着けた、太ったゴブリン1体たたずんでいる。
今回は相撲のモチーフらしい
土俵では力士ゴブリンが四股を踏む
そのまま前傾姿勢になるとこちらを睨みつけた。準備完了のようだ
俺も<大声>で強化をかけて土俵に上がる
そうして死闘が始まった
それから1週間後、俺は探索者協会の提携病院で寝ていた
ベットのわきに骨の全身標本が置いてあり、一日に数回それを見ながら<大声>回復を行っている
バッキバキに折れていたので病院のプロ回復師じゃないと完全に治らないのだ
いやぁ、ギリギリの戦いだった。
空振りした棍棒のスキを狙ったもろ手刺しで両肘が骨折し、そのまま投げ飛ばされ、体を捻って壁に着地したときに両脚も骨折。
一か八か自分に「俺の頭突きはエドモンド並み!」と全魔力を込めた<大声>で強化を掛け、ロケット頭突きをお見舞いしたのだ。
ヒットの瞬間に首に激痛が走ったが、力士ゴブリンの頭がはじけ飛んだので俺の勝ちだ
それからヘビのようになりながら魔力回復薬を飲み、動けるようになるまで回復してから、
スキル玉とボスドロップを回収し地上に帰還したのがあらましだ
退院した俺は協会に向かい、アイテムの鑑定をしてもらった
ボスドロップは<ツアー手旗>だ
10階層ごとのボス部屋はその人個人の資質を伸ばしたり、助けになるものが入手できるらしい
<ツアー手旗>
魂武器。片手旗。旗部分に団体名を書くと移動力、その他に低補正
いいのが手に入った。この武器は出し入れが自由で、持ち主とともに成長するんだそうだ
ただ、普通に壊れるんでそこは丁寧な扱いが必要だけどな
<旗使い>は旗状の武器の扱いが上手くなるのと、強化合成や修理合成が出来るようになる
これは協会の人に聞いた話で○○使いだとこうなるらしい
それから一年がたった
世界中で猛威を振るった感染症は収束し、旅行業界も復活の動きを見せていた
探索者を続けるか業界で再就職するか、悩む日々を送っている
そんな中、懐かしい人から電話が掛かってきた。上司の森園さんだ
「よう、ひさしぶり!元気にしてるか?」
「ええ、何とかやってますよ
森園さんもお元気そうでなによりです」
「おうよ!ところで今、どこで働いてるんだ?」
「いや~、旅行会社以外で働く気が起きなくて、探索者をやっています」
「おぉ!そりゃ好都合!
今、新しい旅行会社を立ち上げてな、人を探してるんだよ!
小向君も良かったらどうだ?もちろん、探索者を続けてもいいよ!
何が流行するかわからんしな!ワハハ!」
「是非お願いします!」
俺は二つ返事で飛びついた。森園さんはお客様と一心同体なアホツアー企画を組むプロだ
会社時代も良くしてもらったので考える必要も無かった
それからの俺は週3日を会社員で過ごし、2日を探索者として過ごしている
手に入れた<大声>と<ツアー手旗>は添乗員として嬉しいものだし、給料単価も良くなった
死にかけることも多々あるけど見返りも良いので満足している
さぁ、これからも頑張るぞ!
<お天気メトロノーム>のもっぱらな使い道
これが発見された当初、軍事利用も考えられた。
だが、そこは安心安全なダンジョン産。高レベルで音大出の探索者が1日8時間演奏して使ったところで小学校の校庭位の範囲しか影響がなかった。
学校や成人式場の許可を取ったお金持ちのお父さんが子供のために使ったり、見習い音楽家の収入源になっている
選べる天候は晴れ、曇り、雨、豪雨、雷
気温が関係するものは確定できない