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第7話 お手並み

「実は移動中から気になっていたのですが、お二人の武器はなんというのでしょうか。見慣れないな、とは思っていたのですが・・・」


「ああ、俺も気になってたんだよな。騎士になって随分経つが、見たことがねぇ。刃物ってことは見りゃ分かるけどよ、よく見るとなんというか・・・曲がってねぇか?」


アルヴより行動を共にしてきたユエとソル、アルヴィスの三人にシグルズを加えた一行は歪園内を進み、かれこれ十分ほどが経過している。

アルヴィスは以前とは違い、しっかりと騎士鎧を装備しておりシグルズも同様だ。二人の、一般の騎士とは少し異なるデザインのそれは、元は同じ鎧でありながらそれぞれで随分と印象が違う。各々自分が動きやすいようにと、取ったり付けたりと調整をしているせいだろう。そこにそれぞれ、アルヴィスはやや細身の長剣を腰に下げ、シグルズは大剣を肩から背面に背負う形で装備している。

なおユエとソルの二人はこれまでとほぼ違いは無かった。

違いがあるとすれば、ユエは腰に一振りの刀を佩いており、ソルもまた短刀を腰の背面へと帯刀していたところだろう。

そんな二人の装いに、武に明るい騎士である二人が食いつく。


「む、よくぞ聞いてくれた!これは刀といって、わしのコレは所謂打刀と呼ばれる分類でな。銘を"氷翼"と言って、わしが初めて鍛えた思い出深い一振りじゃな」


「私のものは短刀と呼ばれるそうで、"煉理"と言います。お姉様より頂いた私の宝物です」


「あと曲がっとるんじゃなく、反っておるんじゃよ。刀はこの反りが特徴といえるのぅ」


ユエは自慢するかのようにそう言いながら、氷翼を抜いて見せた。


「これは・・・驚きました。何か神聖な、見ているだけで威圧感のようなものを感じます・・・美しいですね」


「ほぉ・・・こいつは凄ぇ、見入っちまうような、それでいて不思議と落ち着くような・・・」


深い蒼塗りに銀で装飾された鞘からその美しい刀身が現れると、騎士の二人は感嘆の息を漏らした。

これまでにもミムルやバルドルト、そして鍛冶師のルンドから似たような反応を得ていたユエだったが、やはり刀が褒められるのは何度経験しても気持ちがよいもので、ニヤニヤと怪しい笑みを零していた。


「そうじゃろうそうじゃろう!もっと詳しく語りたいところなんじゃが───」


「───敵か。数は・・・一体か」


「折角じゃ、わしがやろうかのぅ。おぬしらはそこで見ておれー」


歪園に入ってから初めての接敵に、ユエが前へと進む。進行方向の木々、その間からゆっくりと現れたのは中型の熊型歪魔であった。この歪園内では一般的とも言える、よく見られる歪魔である。それほど危険な相手でもないが、その丸太のような腕から繰り出される鋭い爪や牙は、まともに食らってよいものではない。

とりあえずの実力を示すにはうってつけといえる相手であった。


「おっ、それじゃあお手並み拝見といこうか。手が必要なら早めに言ってくれよ?」


「この程度、舐めるでないわい」


「あぁ・・・張り切るお姉様もお可愛らしい・・・」


「・・・この二人に団長が加わるといっそう緊張感に欠けますね」


まるで心配する様子もなく、何やら興奮し始めたソルを横目にアルヴィスがつぶやく。歪園から前線まではあらかた掃討が終わっているとはいえ、危険な場所であるということには変わりない筈だが、どうやら気を張っているのは自分だけらしかった。だがアルヴィス自身、平和な道中で二人の実力をみることが叶わなかったこともあって、その実力の程は気になっていた。


「ほーれほれ、まだまだ先は長いんじゃ。さっさとかかってこんか」


ユエは先程抜いた刀をぶらぶらと揺らしつつゆっくりと歩み寄り、そう言って歪魔を挑発してみせる。いくらなんでも油断し過ぎではないかとも思えるその態度とは裏腹に、どこか威圧感を感じるその姿。言葉が通じているわけもないが、低く唸り声を上げ威嚇を続ける歪魔でさえ、すぐには飛びかかってこなかった。


(驚いた。一見ふざけているように見えるが・・・隙が全く見当たらん)


お手並み拝見といった手前、じっくり実力を測ろうとその様子を眺めていたシグルズは驚嘆した。見た目十三~十四程度のように見えるその小さな鬼人族の娘は、騎士団長を務める彼から見てもまるで隙が見当たらなかった。普段の荒っぽい言動からそうは見られない事が多いが、シグルズは何万といる王国の兵士、その頂点ともいえる騎士団長九人のうちの一人だ。その肩書は伊達ではない。

近衛を務める第一騎士団と違い、第二騎士団は街の外で戦うことが主だ。今回のように歪園の解除を行うことも多いし、もちろん幾度も成功させてきた。礼儀作法に疎いのは自覚していたが、戦闘となれば歪魔といえど自分が遅れをとる事などそうないという自信もある。

そんな彼でさえ、この幼いひとりの少女から隙が見つけられないのだ。はっきりいって異様であった。


そうして考えを巡らせているうちに、睨み合いに耐えきれなくなったのか熊型歪魔がユエへと襲いかかろうとしていた。

四足で疾走し、勢いをそのままに片腕を振り上げる。ユエの小ささも相まって、大人と子供どころではない。その光景はまるで森に迷った幼子が、今まさに獣の餌となるその瞬間のようである。そうして勢いを付けた腕をそのままユエへと振り下ろす。


「単調じゃのぅ。所詮は獣、といったところかの」


そこからはまさしく一瞬であった。自らへと迫るその腕に、速度を合わせてそっと刀を添える。顔の寸前まで迫った爪を、興味がなさそうな様子でそのまま脇へと受け流す。まるで空気でも殴ったかのように攻撃をいなされ、振り抜いたまま態勢を崩す歪魔のその腕の勢いを利用し、そのまま腕を巻き取るように刃を返し跳ね上げる。斬り飛ばされ、天高く舞い上がった自らの腕を見上げるようにしてユエの側方へと転倒した歪魔は、返す刀で首を落とされ、断末魔を上げることなくあっさりと絶命する。

力自慢であるとされる鬼人族だが、ユエが他人に見せるその初めての戦闘は、意外にも速度と技によるものだった。


「ま、こんなもんかのぅ!」


「あぁ、自慢気に慎ましいお胸を張るお姉様・・・!ごちそうさまでした」


「やめんかソル、涎が出ておるぞ!」


振り返りどや顔でそう宣言するユエと、恍惚の表情で何かを書き記すソルの二人。

さきほどまでの不思議な威圧感は霧散し、いつもどおり騒がしいやりとりへと戻っていた。一方で、先の戦闘を見物していたアルヴィスとシグルズは真剣な顔で会話をしていた。


「団長、今の見えましたか?」


「ああ、一応な。とはいえハッキリ見えたとは言い難いな」


「私も似たようなものでした。恐らくカウンターの一種だとは思うのですが・・・」


「だな。ほとんど力は使ってないように見えた。・・・だが初見であの速さに対応するのは相当厳しいぞ」


「本人達の様子からすると、まだまだ全力には程遠いように感じます」


「王女殿下のほうも似たような実力だとすると・・・こいつは嬉しい誤算ってやつだな。今日でケリをつけて、早めの帰国と洒落込めそうだ」


当初は賢者と呼ばれるミムルの力を借りようと思っていたところ、代わりとして現れた少女の実力。別段舐めていたというわけではないが、それでも半信半疑だったのは間違いないそれが、自分たちの想像よりもどうやら遥かに高いらしいことが今の一戦で判明した。

驚くと同時に、今回の作戦においては喜ばしい限りであった。シグルズなどはすでに脳内で、ユエとの戦闘を想定したイメージトレーニングを初めていたほどだ。今しがた目にした戦闘がまだまだ余力を残してのものならば、下手をすれば自分よりも───


「おーい!なにしとるんじゃー!さっさとゆくぞー!」


「ああ、悪い。すぐに行く!」


「は、はい!申し訳ありません!」


(あの時私なら、一度躱して───ダメね、その分だけ一手遅れる。なら逆に───)


すでに歩き始め、先へ進んでいたユエの声に、ようやく現実へと戻ってきたシグルズとアルヴィスの二人が小走りで駆け寄っていく。そうして前線へと再び向かい始めた一行だったが、その後もアルヴィスはずっと思案を続けているようだった。



ここまでお読みいただきありがとうございました

宜しければこれからもよろしくお願いします

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