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第51話 脳筋三人

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大変励みになっております

ユエ、アクラ、アルスの三人はフーリアの魔術を見届けた直後、敵の群れへと突撃していた。


多数の敵を相手取る場合、最も厄介なのは敵陣深くからの狙撃である。

今回も同様で、丘の上から一瞥しただけでも敵に芋虫型(ワーム)歪魔の姿が見えていた。

奴らは体内で生成した酸を細く線状にして攻撃してくる、近接型の戦士にとって非常に厄介な相手だった。

故にアルスは魔術で奥から足止めを、あわよくば倒すようにと指示を出した。


そうして現在、思惑通りに敵からの遠距離攻撃を魔術によって封殺できている。

フーリアが放った魔術は威力も十分なニ級魔術、しかもそれを改変したものだった。

彼女が行使したのは風魔術である『静寂の矛先(シュティルランツェ)』を改変したもので、威力や効果範囲を見れば、実質的に一級魔術と称しても過言ではなかった。


とは言え敵歪魔の強さもそこらの有象無象とは比べ物にもならない。ダメージは十分だったが殲滅するには至らない。

歪魔にも強さの目安となるよう深度が振り分けられているが、現在戦っている歪魔はそのどれもが6を超えていると思われた。力のある個体であれば8、あるいは9にまで届いているかも知れない。


当初、仮想深度は8だなどとキィが言っていたが、これのどこが8なのかと文句の一つも言いたくなるような状況だ。

実際に赴いて解る明らかな異常。本来ならばこんな少人数で挑むような案件ではない。

ユエ達が現れてくれて良かったとアルスは心底思っていた。


「オラァ!!」


ユエとアルスの前方では、先陣を切って吶喊するアクラが大盾を振り回している。

彼は大盾を持ちながらも、防御に使うよりも攻撃に使うことのほうが多い。これは彼が敵からの注意を的確に惹き、必要に応じた防御を最小限で行っているおかげだ。指揮する者としては、防御しか出来ない盾役と、決め手とはならずとも攻撃が出来る盾役ならば後者のほうが圧倒的に使いやすい。

アクラが頼りになる要因の一つである。今も盾を叩きつけ、眼前の敵を圧し潰していた。


そしてアルスのやや斜め前方を走るユエだ。

事前に彼女は、自身の連携に不安がある旨を申告していた。だが今、アルスから見ても彼女の動きには注文など一つもつけようがなかった。

恐らく目が良いのだろう。広い視野を持っている上に状況判断も的確だった。

彼女は、アクラが対処の優先度を低く見積もり、後回しにした相手から順に潰しているように見える。

こと攻撃面に関しては問題なく連携出来ている。アクラの援護のため、アルスが手を出そうとした敵をユエが先に処理してくれるおかげでアルスは側面に集中出来ており、随分と楽をさせてもらっていた。彼女の不安は謙遜だったのだろうかと思えるほど。あの信じられないほど取り回し辛そうな武器で、どうすればああも器用に立ち回れるのか。


実際にはユエの不安はどちらかといえば殲滅戦以外の部分にある。

拮抗した力の持ち主と相対した時、恐らく足を引っ張ることになるとユエは自覚していた。

以前の牛頭と馬頭を倒した時もそうだった。よくよく考えればあの時も、自分は攻撃しかしていないことに気がついたのだ。味方を信じることがチームワークだなどと思ってはいたが、守勢に回らざるを得なくなった時、この考えではきっといつか崩壊すると。

とはいえ、現状においては三人の連携は問題なく機能している。


言うまでもなく、どちらかといえば万能タイプであるアルスよりも更に攻撃に特化したユエの攻撃力は凄まじかった。正直に言えば、彼女は下手に味方のことを考えるよりも、何も考えずに攻撃しているほうがよほど持ち味を活かせるだろうと、アルスはこの短い時間で感じていた。


「でかいの!そのまま屈んでおるんじゃぞ!」


「あ!?オイ待て待て何する気だァ!」


「祓の壱、『帳』(とばり)ッ!」


ユエが身体を大きく捻り、踏み込んだその小さな足で大地を抉りながら"宵"を振り抜く。

斜め後方からそれを目の当たりにしたアルスは目を剥いた。

全身の各部を走る力の伝達率が異常だ。恐らくは込められた力をほぼ100%逃がすことなく武器へと伝えている。一見ただ振り回しているだけに見えて、そんな簡単な技ではないことがアルスには一目で解った。あれは自分にはとても真似できないだろうとも感じていた。


そんなユエの一振りは、前方の歪魔を十体近く切り捨てる。

魔術を併用しているわけでもなく、ただの身体能力だけでそれを為していることが異常だった。

彼女は魔術が使えないと言っていたが、これが素で可能ならば魔術など必要ないだろう。


「うぉおおおお危ねぇ!殺す気か!?」


「人聞き悪いのぅ。最悪当たってもおぬしなら死なんじゃろ?」


「死ぬわ!!そんなふざけた威力で死なない訳無ぇだろ!」


「ふむり」


分かっているのか、分かっていないのか。

一人謎の納得をした様子のユエは、会話の途中であっても一体敵を切り捨てていた。


「これは僕も負けていられないな・・・このままだと口だけの男だと思われてしまいそうだ」


そんなユエの様子を間近にみたアルスは一人気合を入れ直す。

別段手を抜いているわけでもなかったが、いっそう奮起せねば彼女に良い所を見せられない。

幸いにも敵の数はまだ多く、歪園までは距離がある。距離の離れていた歪魔達も2人の活躍によってこちらへと注意を向けている。見せ場には困らないだろう。


そう考え、アルスは魔術を使う。件の『神器』ではなく、普段使用している愛剣にだ。

『鋭刃』と呼ばれる、汎用魔術の一種だ。鋭く研ぎ澄ました魔力によって武器を覆い斬撃武器の威力を増す、剣士であればほとんどの者が使用する一般的な魔術。だがそんな汎用魔術は、アルスが使えば必殺となる。さらに『鋭刃』を使用する。そしてさらにもう一度。そうして連続行使し最終的には6回の『鋭刃』を武器へと付与する。

同じ魔術を重ねて行使することでその効果量を上げる技術自体は珍しいものではない。

だが一般的には二回、優れた者でもせいぜい三回が限度だ。六回の重ねがけなど、剣士の中では恐らくアルスにしか出来ないであろう技術である。


アルスは魔力総量がそれほど多くはなかったが、その密度、練度が非常に高い。数えるのも億劫になるほど繰り返された修練によって、一般的な剣士の使うそれとはまるで比べ物にもならない程の効果量を発揮する。魔力操作の腕が飛び抜けているという点に置いてはユエと近しいものがあるといえる。


尤も、ユエのそれは完全に天性のものであり、本人に魔力がほとんど無いため役に立たない技術であるのに対し、アルスのそれは積み重ねた努力によって得られたもので、彼の戦闘力を大きく増強する役割を果たしているという明確な違いがあるのだが。


ともかく、都合6度も重ねがけされた『鋭刃』はただ切れ味を増すだけに留まらない。

武器の強度は当然のように高まり、覆われた魔力によって剣のリーチすらも倍程度にまで伸びている。魔力によって輝く剣は熱を帯び、その刀身はうっすらと黄金の光を放っている。アルスの使用する『鋭刃』はもはや別の魔術とさえ言えるだろう。

そんな様子にユエが気づく。


「なにやら隣で怪しげな儀式が始まったんじゃが!?」


「あはは、怪しくないよ。僕も頑張らなきゃと思ってね・・・アクラ、前を開けてくれ!」


「オウ!俺に当てんなよ!?」


「まさか。当てたこと無いだろ?─────『光輝燦然(こうきさんぜん)』ッ!」


前方を走るアクラが脇へとズレた直後、光の剣とも呼ぶべき輝きを正面へと振り下ろす。

同時に剣から光が溢れ、放たれた剣戟は衝撃を伴って三人の眼前にいた一直線上の敵を斬り捨てた。

およそ50m程だろうか。敵を一撃で葬ったという点で威力面は同程度といえるユエの"帳"と比べ、横の範囲は狭いものの、前方への影響は光輝燦然の方に軍配が上がるだろう。

こちらも十数体の敵を巻き込み、三人の前に道を開いた。


「おお!なんか格好いいのが出おったぞ!これぞ王道といった感じがなかなか悪くないぞ!」


「ふぅ、どうやら少しは格好もついたかな?」


「よし、道が開いたぞ!突っ込むぜ!」


はしゃぐユエの様子に、アルスも一安心といった顔を見せる。

そのまま三人がアクラを先頭に、敵を倒しつつ押し込もうとした時だった。

三人の肌を冷気が伝う。先程までは感じていなかった、まるで霜の降りる冬の朝のような冷たい空気。

冷気は徐々に勢いを増し、ほんの数瞬後には三人の回りの空気を雪山のごとく変えた。


「あ?何だ?急に冷え込んで来やがったぞ」


「可怪しいね。氷精型の歪魔なんて居たかい?僕が上から見たときにはそんな歪魔は居なかったと思うんだけど」


「む・・・むむ!?いかんいかん!おぬしら一旦停止じゃ!縦一列じゃ!でかいの!後ろに盾を構えるんじゃ!」


「あ!?どういうことだよ」


そういいながらもアクラはとりあえずといった様子でユエの言葉に従い、今自分達が進んできた方向、つまりは背後に向かって大盾を構える。細かい説明を受けなくとも、慌てたようなユエの様子を見てすぐさま反応出来る辺りから彼の非凡さが伺える。


「早うせんか馬鹿者!」


「痛ぇ!蹴んな!やってるだろ!」


「アルスも早うこやつの後ろに入るんじゃ!」


「あ、名前・・・」


そうして三人は大盾を構えたアクラの後ろへと身を隠す。

事態を飲み込むことよりもユエから初めて名前を呼ばれたことに喜び、目尻を下げていたアルスの首根っこをユエがを引っ張りこんだ次の瞬間だった。

アクラの構えた大盾を冷気の暴力が襲う。肌を刺す、などといった甘いものではない。

空気すらも凍りつかせるその波動は、細氷(ダイヤモンドダスト)を伴って一気に三人の後方、敵歪魔の集団へと襲いかかった。

ユエ達は大盾の影で襲い来る冷気と衝撃に耐えていた。


「ぬぉおお!ソルのやつ、やっぱりやり過ぎおったなー!」


「アンタの妹の仕業かよ!ぐおおお腕が冷てェえええええ!」


「あはは、信じられない範囲と威力だね。深度11の魔術師は初めてだけど、いやぁこれは凄い」


一瞬で過ぎ去った氷の波動により地面は当然のように凍りつき、氷すらも張っている始末。

三人の側面には歪魔によって作られた氷の彫像が幾つも出来上がり、陽の光を反射して輝いている。

凍りついた大盾から抜け出した三人が前方見てみれば、フーリアの『報復の剣』が突き立った場所を起点として大きな氷の華が咲いていた。


当然歪魔達は、氷像と化して息絶えていた。

単体では効果時間の短さから敵を完全に凍りつかせるまでは至らない筈であった『終焉の始まり』と、同じく単体では効果範囲の足りなかった『報復の剣』。その2つの魔術の相乗効果とでもいうべき現象。

『報復の剣』が撒き散らす暴風が、『終焉の始まり』を撹拌、冷気の嵐となって周囲へと広がった結果だった。


「これ、わしら別に待っててもよかったのでは?」


「ほとんど全滅してるよな。一応何体かはまだ動いてるのもいるみてぇだが」


「まぁまぁそう言わずに。見た感じ、僕らが倒してきた手前の方までは効果が届いていないよ。丁度半分ずつ倒した感じだね」


「無駄足にならんでよかったわい・・・」


「アンタら姉妹は味方を巻き込まずにはいられねぇのか?」


「失礼じゃのう。『これくらいなら死なんじゃろ』という信頼の証じゃろうが」


「死ぬっつってんだろ!」


「よし、じゃあ僕らは残党の処理をしながら待っていようか」


などと緊張感のかけらもない様子で、瀕死となった歪魔を順に処理してゆくユエ、アクラ、アルスの三人。こうして何事もなく歪園周囲の敵を倒した一行であったが、後方で寛いでいたエイルの話によれば出番の特になかったイーナは大層不満そうであったという。


よく見る演出ではありますけど、実際人やら動物が凍るのって何度くらいなんでしょう

-196度とか-273度の気温ってあり得るんですかね?などと考えながら書いておりました



ここまでお読みいただきありがとうございました

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― 新着の感想 ―
[一言] ふぅ最新話までたどり着いた。 温度の件ですが地球上では無理ですが、たしか太陽系内でも外惑星だと-200℃を下回っていたかと。 まぁ地球上でも空間を圧縮して圧縮熱を除外&冷却した上で圧縮状態…
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