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第47話 顔合わせ

「・・・む?待たせてしまったかの?」


一応ユエは昼の少し前に到着したはずであった。

細かい時間は指定されていなかったと記憶しているが、念のために少し早く到着するように出発した筈だ。

しかし部屋に入ってみれば、今回の協力者であろう者たちがすでに勢ぞろいしていた。


(はて、遅刻したじゃろうか・・・?)


そんなユエの心配はキィの言葉によって否定される。


「いや、心配せずとも時間より早いくらいだ。ユエさんに会うのを楽しみにしすぎた彼らが、随分と早くから押しかけて来てね。まるで遠足前の子供のようだ」


キィはそう言って、呆れたように彼らへと視線を向ける。

ユエが現れてからというもの、誰もが声を上げられずにいた。

あまりにも小さく、どうみても強そうには思えなかったこと。

威圧感のかけらも感じられないその態度。その全てが、深度11の探索士だというキィの言葉とは裏腹だった。

そんな中最初に声を上げたのは、意外にもフーリアであった。


大姉様(おおねえさま)!?」


基本的にアルヴに住むエルフ達からはソルの義姉ということでそう呼ばれていたため、ユエをそう呼ぶものは多かった。長寿であるエルフ達からすれば、ユエは殆どの場合年齢的に年下なのだが。


「む?・・・んー?・・・おぉ!おぬしフーリアか!?久しいのぅ!!」


「ご無沙汰しております!」


姿勢を正して挨拶するフーリアの様子は、まるで久々に顔を見せたOGへ見せる後輩の態度のようであった。


「おぬしがアルヴを出る前、ソルの誕生祭で話をした時以来じゃったかのう」


「はい、覚えていて頂けて光栄です」


「やめいやめい。わしがそういうタイプではないのは知っておるじゃろ」


そういって面倒そうにユエが手を振る。

フーリアからすればユエは義理とはいえ王族の姉。畏まった態度を取ってしまうのは無理もないことだった。一方でユエからすれば、自分など何者でもないという考えだった。ただこの世界に生まれた後、ミムルによって拾われ王族であるソルとともに育てられた、ただそれだけ。敬われるようなことは何もしておらず、そうであるならばただ気恥ずかしいだけ、気まずいだけであった。


「ともあれ顔見知りがいるというのは心強いのう。今回は宜しく頼む」


「・・・ということはもしや、支部長の言っていた協力者は・・・」


「わしじゃ!」


腰に手をあて、無い胸を張って無駄に威張って見せるユエと、得心がいったとばかりに微笑むフーリア。

ここで、二人の話から置いて行かれていた他の者達も漸く声を出す。


「こ、このちっこい嬢ちゃんが深度11の探索士・・・?とても強そうには見えねェんだが」


「フーの知り合い・・・?え、何どゆこと?」


聞いていた話と実際のユエとのギャップに、アクラとイーナは目を丸くしている。どうやら困惑が先に来たらしい。

それほどまでに、深度11というのは探索士にとって絶対的な力の象徴であった。

事実、彼らのリーダーであるアルスは圧倒的な戦闘力を持っており、アクラとイーナもまた普段からそれを間近で見ているのだ。目の前の、ともすれば自分達よりもよほど弱そうな小娘がアルスと同等の強さであるなどとすぐには信じられなかった。


そう思ったアクラは、改めてアルスへと視線をやる。

だがその当の本人、圧倒的な戦闘力をもつリーダーのアルスは、すっかり機能停止に陥っていた。


顔を青ざめさせたかと思えば、何かを思い出したかのように頬を赤らめ、かと思えばうっすらと瞳に涙を浮かべ涙ぐむ。池の鯉のように口を開いたり閉じたり。意を決したように何か言葉を発しようとしたかと思えば、喉を鳴らし息を飲む。

はっきりと言ってしまえば、アクラから見た今の彼は大変気持ちが悪かった。


「・・・オイ。キメェからそれ止めろ。何してんだお前。コラ、動けオイ」


ため息と共にアルスの頭を叩き再起動を促すアクラ。


「─────ぇ、あ」


「え、何してんのコレめっちゃキモいんだけど。あはは、えいえい」


言葉にならない音を喉から漏らすアルスの頭を、今度はイーナが叩いた。


「────あ、ぅ?えっと・・・え?」


しかしそれでも、アルスは忘我の境より戻ることはなかった。

焦点が定まっていないような、しかし虚ろというには些か忙しなさすぎる瞳で。

アクラと調子に乗ったイーナからバシバシと頭を連打され続ける。

久々の再開にフーリアとの会話を弾ませていたユエが、そんな彼らのやりとりについに気づいてしまう。


「む、なんじゃなんじゃ。どうしたんじゃそやつは。魂でも引っこ抜かれたような顔しとるぞ。大丈夫か?」


知らぬ者が見れば、否、よく知る者から見ても異様なアルスのその様子に、さしものユエも心配の声をかけることにした。それは社交辞令的なものであったが、しかし声をかけられたアルスは身体をビクつかせながら大げさに反応する。


「あ、いやっ!その、だ、大丈夫!そう、大丈夫だから!えっと、本日はお日柄もよく・・・?いやっ、これは違くて・・・その、ご趣味は!?」


などと挙動不審に訳の分からないことを言い始めたアルス。

当然ユエは訝しむ。


「・・・見合いにでも来たのじゃろうかこやつは」


己の失敗を悟ったアルスはこの世の終わりを見たかのように眼を見開き、そして項垂れた。


「ごめんねー、なんか変な感じになってるみたい。少し前からこんなんでさ、治まったと思ってたんだけどなー」


仲間の怪しい態度をイーナが謝罪する。

謝罪しつつもこの時点で感の鋭いイーナはうっすらと事情を察し始めていた。

アルスは少し前にも似たような症状に陥っていた。それはアクラから聞き出した『アルス一目惚れ事件』の時である。数日が経って治まりを見せていたそれが、ユエをひと目見た今再発した。

つまりは───。


「オイ、いい加減にしろ、失礼だぞ。何だってんだよ」


「───アクラ、彼女」


「あ?」


「あの時、トリグラフ、二人組」


「なんで片言なんだよ壊れた魔術具かテメーは。・・・・あー?」


再度アルスの頭を引っ叩き、言われるがままにユエへと視線を向けるアクラ。

断片的な言葉だったがアルスの言いたいことはアクラへとしっかり伝わっている。

これほどの長い銀髪と小さな背丈。言われてみれば確かに、あの時の二人組の片方に違いなかった。


だがあの時は遠目に横顔を見ただけだったし、アクラはどちらかといえば金髪の女性を注視していた。

ついでに言えばアルスが一目惚れしたと言っていたのはそちら、つまりソルの方だと思っていた。

だがどうやら、あの時アルスが心を奪われたのはこちらの方だったらしい。


一方、大男にじぃと眺められたユエはどうにも居心地が悪かった。

そこで一先ずは場を和ませる冗談でも、と軽口を叩いてみせた。


「なんじゃなんじゃ先程から。さてはわしの美しさに見惚れたか?」


「ぐぅッ!!!」


「なんじゃぁ!?え、わし何かやってしもうた!?」


冗談を言っただけのつもりだったユエ。

だが苦しそうに胸を抑え呻き始めたアルスを見てユエは焦りを覚えた。

じりじりと後退しながら状況の説明を乞うようにキョロキョロと周りの者達を見回す。

そんなユエと眼が会ったアクラも事態をおおよそ掴み始めていた。


「あー・・・やっと解ったぜ。ちょっとおもしろくなってきたから一応聞いてみるか・・・オイ、大丈夫かアルス、どうした?言ってみろ」


「こ、声・・・ッ!綺麗・・・ッ!」


「わははははは!!」


「ぶふっ!あははははは!!」


アルスの必死の主張に大笑いするアクラとイーナ。

どうやら彼はユエの声を聞いただけで胸が苦しくなってしまうらしい。

誰もが認める美青年でありながらも、ニ十五になって初めて恋を知った純真すぎる男の反応は、アクラにとって大変愉快なものだった。先の気持ち悪い動きと合わせ、颯爽と戦う普段のアルスに比較すれば成程、そのギャップは彼らを笑いの渦へと叩き込むのに十分な威力があった。


「なんなのじゃ・・・誰か説明せぃ・・・」


「大姉様、気にしなくて大丈夫です。馬鹿が三人遊んでいるだけです」


「そ、そうなんじゃろうか・・・ならいいんじゃが」


フーリアの呆れたような言葉で、ユエは気にすることを止めた。

どうやら自分が何かをやらかしたという訳では無さそうであるし、気にしても分からないことは考えないのがユエの方針である。


「ところで大姉様がここに居るということは、やはり姫様も?」


「うむり。よう分かったのう。あやつは今エイルと共に馬車の受け渡しに行っておる」


「それはわかりますとも。大姉様の横に姫様が居ないなどという筈はありませんからね。そして姫様の居るところにエイルさんが居るのもまた必然でしょう。となるともう一人の深度11とは姫様のことですか?」


「その通りじゃ。また話をしてやってくれんか、ソルも喜ぶじゃろう」


「姫様、私のこと覚えてますかね?」


「そりゃ当然・・・いや、怪しいじゃろうか?」


エルフの同胞であるフーリアの事をソルが覚えているかどうか、ユエにははっきりと応えられなかった。

フーリアはアルヴ貴族の次女で、ユエやソルとも何度か顔を合わせている。

しかし基本的に真面目でしっかり者ではあるソルだが、彼女の興味は九割九分がユエに向いているといっていい。必然、彼女にとってそれ以外のあらゆることが雑事であった。例外は精々魔術のことくらいだろうか。家族ほど身近な存在であればもちろん覚えているが、特別に親交が深かったたわけではないフーリアの事を記憶しているかどうかは良く見積もっても五分五分であった。

そしてソルが義姉のこと以外に興味がないということはアルヴではそれなりに有名な話だった。


「覚えてくれてるといいですね・・・」


「ウチの義妹が何かすまんの・・・」


こうして支部長室の一角には、この場には居ないエルフの王女を思いしんみりとした雰囲気が広がった。

一方、別の一角では未だにニ人の探索師達が仲間で遊び大笑いを続けている。

顔合わせ兼打ち合わせの場であった筈の支部長室は、すっかり混沌へと変わってしまった。

そんな混沌の中、痛む頭を抑えるように額に手を当てた男が一人。


「・・・頼むから話を進めてくれないか」


忙しい中、自分の仕事を中断してまでこの場を用意したキィのため息が支部長室に響いた。


私自身は休みではないのですが、連休に託けて新しい作品を始めました。

ある意味似たような題材ですが、もしよろしければ更新の合間にでも読んで頂ければと思います。

よろしくお願い致します。


https://ncode.syosetu.com/n0726if/


ここまでお読みいただきありがとうございました

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