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第38話 歪園探索安全確保支援士筆記試験②

「結果発表ー!!」


試験が終わった数時間後、探索士協会グラフィエル支部の一角で、エイルは満面の笑みと共にそう宣言した。

他の受験者達は試験結果を受け、十人十色の反応を見せながらも明日の実技試験へと備えるため、すでにその殆どが協会を後にしていた。そんな人が疎らとなった中、ユエ達はエイルの発案によって食堂隅の机へと集合させられていた。


「さて、二人には結果を見ずにこちらへと来ていただいたッス。何故かと言うとッスね、これから二人の点数を発表しつつ、答案を見ながら反省会を行いたいと思うッス!!」


探索士免許試験の筆記は点数が張り出されると共に、希望者には答案の返却も行っている。これはもしも試験不合格となった際、次の試験へと活かせるように、という協会側の決めたシステムである。

そして点数が一階の依頼受注板へと張り出されたのがつい先程。ユエ達を先に席へと座らせておき、エイルが代わりに答案を受け取ってきたところで発されたのが先の言葉であった。


「じゃからわしらに結果を見せなかったんじゃな・・・待て、反省点など思い当たらぬのじゃが」


「我々に反省点などあるはずもないでしょう。この会は成立しませんよエイル」


怪訝な顔でエイルをじとりと睨みつけるユエと、ぷりぷりと憤慨してみせるソル。

だがエイルは怯まない。先程、試験前に嫌な予感を感じた時から今回の反省会を計画していた彼女は、二人の答案を手にニヤリと口角を挙げ八重歯を見せる。


「それはどうッスかねー?ちなみに今回は特別講師として、暇そうにしていた協会所属の受付嬢、アザトさんにお越し頂いたッス!!」


そうエイルから紹介されたのは、試験前にユエとソルの受付を担当していたとても人気の高そうな、あざとい受付嬢のお姉さんであった。だがそんな紹介を受けたアザトさんから待ったがかかる。


「いえ、別に暇ということは・・・というか私の名前はアザトじゃないです!私にはシル───」


「はい!今日は宜しくお願いしますッス。というわけでまずはさっそく二人の回答を見つつ答え合わせをしていくッスよ!!」


名前を訂正しようとしたアザトさんの言葉は、しかしエイルによって遮られてしまう。頬を膨らませて怒ってみせるアザト(?)さんは、確かにあざとかった。彼女は他の受験者達が帰ってしまい、既存の探索士達が出払っていたために手持ち無沙汰気味となっていたところを、エイルによって捕獲、拉致されていた。試験前に、何かあれば後ほどどうぞなどと言ってしまった手前、断りきれずに席へと付いているのが現在の状況である。


そんな彼女を連れてきた張本人は、さっそく最初のコーナーを始めようと動き始めていた。

いつの間にか作成されていたフリップを片手に、さながら司会か教師といった様子である。


「ではまず問①ッス、歪園探索安全確保支援士免許を所持している者は全ての歪園に入る事ができる。マルかバツか、ッス!まぁコレは簡単ッスね」


「まぁ流石にこのあたりは楽勝じゃな」


「問①ですから、当然ですね」


口々に自信を見せるユエとソル。その様子を確認したエイルはうんうんと頷きながら手元のフリップをめくる。そこに現れた回答は「答 ☓」であった。


「・・・む?」


「では姉様(あねさま)の回答を見てみるッス。はい、"○"と書いてあるッスね・・・ざんねん不正解ッス!!」


「待てぃ!待て待て!どういうことじゃ!!」


自身の正解を疑っていなかったユエは当然納得がいかないとばかりに抗議の声を挙げた。

免許を持っているのだから当然全ての歪園へと入る事ができる筈だ、と机を両手で叩いている。


「ではアザトさん、解説をお願いするッス!!」


「ですから───いえ、もういいです。・・・えっと、この問題が何故バツなのかというとですね、免許を持っていなくても歪園に入ることが可能だから、です」


アザトさんの解説を聞いたユエであったが、しかし意味が理解できなかった。

このあざとい女は何を言っているのだ?とさえ思ったほどである。


「・・・?」


「ふふ、可愛い」


疑問符をたっぷり頭に浮かべたユエと、それを見つめていつも通り愛でるソル。

つまりは「免許を所持していない者」でも歪園へ入ることは可能なので「()()()()()()()()()()()」の部分が否定されるために答えは"☓"となるということらしい。


「なんじゃそれは!!あれか!?これは運転免許か!?」


「うんてん・・・?なんです?」


初めて聞いた言葉に不思議そうな顔を浮かべ、あざとく小首をかしげるアザトさん。だがユエはそれどころではなかった。

ユエには、前世の記憶で思い当たる問題があった。それが自動車運転免許試験である。

車は持っていなかったが運転免許自体は持っていた、所謂ペーパードライバーであったユエは、この手の屁理屈問題を経験したことがあった。思い出すだけでも腸が煮えくり返りそうな巫山戯た問題の数々。今回の試験問題はあの時のものと考えれば考えるほどそっくりであった。

そんなとき、ふとユエはあることに気づいた。


「こんな巫山戯た問題が罷り通って────待て。つまりこれ、わしの回答はこの先・・・」


「ほとんど間違ってるッスね。ちなみにつまんなかったんでもう発表しちゃうッスけど、姫様は満点だったッス」


「ぬおぉ・・・馬鹿な・・・ッ」


あまりの衝撃に力を失い、膝から崩れ落ちるユエ。あの(そび)え立つクソの塊のような問題達が、よもやこの世界でも牙を向くとは。そんなユエに追い打ちをかけるように、エイルがユエの真似をしながら一言。


「───まぁ流石にこのあたりは楽勝じゃな・・・キリッ」


「き、貴様ァ・・・!」


生またての子鹿のように震えながらどうにか立ち上がったユエであったが、憎き畜生と化したエイルを倒すだけの力は未だ失われたままであった。すわ喧嘩か、とアザトさんが狼狽していたが、ソルの「いつものことですから、大丈夫ですよ」との言葉でどうにか落ち着きを取り戻していた。


「ちゃんと覚えてくださいッスよ?では、姉様(あねさま)の次のおもしろ───コホン。次の誤回答いくッスよー」


「・・・のう、あのメイド今おもしろ回答って言おうとせんかった?」


姉様(あねさま)!!ちゃんと聞いてるんスか!姉様(あねさま)のための反省会なんスよ!?」


「え、あ、うむ・・・す、すまぬ・・・」


波に乗り出したエイルに、ついには何故か叱りを受けるユエ。

釈然としない様子でありながら、エイルの勢いに押され気がつけば頷き謝罪までしてしまっていた。

そしてエイルは加速する。


「では次の問題ッス!複数の答えが認められる難度の低い問題、所謂(いわゆる)ボーナス問題ッスね。えー・・・ンフッ!・・・ある探索士が───」


「のう、今あのメイド笑ったように見えたんじゃが?」


「失礼な!なんてこと言うんスか!!」


「あ、う、うむ・・・気の所為じゃったか・・・」


こうして口を挟めば何故か怒られてしまう始末である。

とはいえエイルもきっと、自分のために心を鬼にしてこの反省会を行ってくれているのだろうと思い直すことで、ユエは言葉を飲み込んだ。


「まったく───ある駆け出しの探索士Aが歪園内を探索中・・・ンフッ!・・・獣の足跡を発見した。その足跡から・・・小型の獣の、足跡、だろうと、判断し、歪園の奥へと、進む・・・ことにした」


「・・・」


肩を震わせ俯きながら、途切れ途切れの言葉で問題文を読み上げるエイルに対してじっとりと疑いの目を向けるユエ。


「そして進んだ先で、手に負えないような大型の獣と遭遇して、しま・・・しまった・・・ンフッ!では・・・この、駆け出し探索者の・・・行動を顧みて、悪かった部分を・・・フゴッ!・・・さ、三文字で答えなさい」


「・・・今あのメイド豚鼻まで出とったよな?」


振り返りアザトさんとソルへ同意を求めてみるが、アザトさんは自分は関係ないとでもいわんばかりに顔を背け、ソルはいつものようにニコニコとしているだけである。


「静かにするッス!従者の私が!姉様(あねさま)にそんな失礼な真似!する筈無いッス!私をなんだと思ってるッスか!」


「・・・」


「続けるッス。えー・・・正解は"洞察力"とか"観察力"みたいな感じッスね。"○○力"にすると大体は正解ッス・・・では、姉様(あねさま)の、回答が・・・こちらッス」


そう言って震えながら、どうにかフリップをめくるエイル。


「"頭と目"───ブフッ!!アハハハハハハハハハハハ!!」


「笑うたな駄犬がァ!!そこを動くなよォ!!」


「頭と目!!ぐうッ・・・ぶ、部位の話じゃないんスけど!!ていうか"と"ってなんスか!!三文字ってそういうことじゃないんスけど!!あははははは!!!」


「吐いた唾は飲めんぞ貴様ァ!!」


こうして人気のない探索士協会の中、二人の追いかけっこが始まった。

速度には自信のあるエイルだが、ユエが相手では分が悪いと悟ったのか、ついには協会の外へと逃げてゆく。エイルの阿呆のような笑い声と、それを負うユエの怒声が徐々に遠く聞こえ、後に残されたのは未だ楽しそうにしているソルと、白目のアザトさんだけであった。


「あれ、放っておいていいんですか・・・?」


「ふふ、大丈夫ですよ・・・ふふふ、これはまた姉帳が厚くなりますね・・・」


そうしてその後二人が戻るまで、残されたソルは熱心に何かを書き綴り続けていたのだった。

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