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第20話 旅の途中② 王都

「三日間世話になったの」


「いやいや、こっちも楽しかったよ!トリグラフに寄るなら絶対またウチにきてよ!」


「うむり。食事も美味かったからの、是非そうさせてもらおう。親父さんにも宜しくのう。では達者でのー」


「お世話になりました。また、いつか」


トリグラフへと到着してから四日目の朝。

ユエとソルはマロース亭のチェックアウトを済ませていた。

すっかり仲良くなっていた割にはあっさりとしたクレトとの別れの挨拶だったが、宿屋の受付嬢ともなれば客との別れなど慣れたものなのだろう。

しっかりと次の約束を取り付けるあたりが、商魂逞しい。

恐らくもう一度トリグラフへと立ち寄った際、二人はクレトの思惑通りにここへ足を運ぶことになるだろう。


宿を出た二人はいよいよ王都へと向かうため、トリグラフの中央通りを南へ抜け、南門前乗合馬車の乗り場へとやって来ていた。

とはいえ王都は最終目的地ではない。そこから更に南下した先にあるイサヴェルが目的なのだ。

時間はあれど、明確な目的がある以上いつまでものんびり進むわけにもいかない。


乗り場には既に、二人と同じく王都へと向かうのであろう、多くの人が集まっていた。

どの馬車を選んだところで大差はないだろうが、それでも大きな馬車のほうが多少なりとも快適なのでは、ということで最も大きく、それでいて運賃の高い馬車へと向かう。


数日の移動ともなれば、少しでも快適かどうかは非常に重要だ。

やたらと揺れる馬車では尻が痛くなるし、狭い馬車では旅の疲れも溜まる一方である。

旅をするものにとっては、不足の自体に備え路銀の節約は基本ではあるが、路銀を大量に持ってきている二人は、こういった部分で金に糸目をつけない。

普段の行動からつい忘れがちだが、二人ともいいところの娘なのである。ソルに至っては正当な王女ですらある。

ともかく、そうと決まれば御者台に腰掛け、客が集まるのを待っている御者へと声をかけるユエ。

見るからに『長年御者をやっています』といった雰囲気の初老の男性であった。


「王都まで二人、席は空いとるかの?」


「ああ、もちろん。一人銀貨七枚、二人で十四枚だ。少し高いと思うだろうが、この時期トリグラフから王都までの間は護衛を雇わないと危ないんでね。構わないかい?」


「うむり。問題ない。・・・して、ここから王都までは何があるんじゃ?」


「おや、お嬢さん王都は初めてかい?今みたいに春先になると冬眠から目覚めた獣やらが餌を探して活発になるんだよ。王都までの間にトリスの森って大きな森があってね、森の横を通る時に、そんな獣と遭遇することがあるんだよ」


「ほー、なるほどのぅ・・・うむり、委細承知した」


そう言って御者へ運賃を支払う。

御者台は高い位置にあるため、ユエは精一杯背伸びをしていた。


「ま、護衛には三級探索士を手配してあるからその辺りの心配はいらないよ。安心して乗ってくれ。ウチの馬車は大きいからね。寝転んでいればすぐに王都さ」


「景色を見たいんじゃが、屋根の上は上っても平気じゃろうか?」


「ああ、暴れたりしないなら構わないよ。じゃ、あと一人拾ったら出発するよ」


などというやり取りの後、ユエとソルは早々と後ろの荷台へと滑り込んだ。

中は十分な広さがあり、ゆったり座っても余裕があるほど。

二人を含めて、他の客は一人しか居なかった。あと一人増えてもまだまだスペースには余裕があるだろう。余裕はあるのだがユエの座ったすぐ横へと、当然のようにソルが座る。


「おや、鬼人族とエルフのお嬢さんの組み合わせとはなんとも珍しい。友達かい?」


「いいえ、私たちは姉妹を超えた姉妹。言うなれば魂の姉妹、ソウルシスターです」


そんな二人を見て、先に乗っていた客が二人へと声をかけてくる。

十代後半くらいであろう若い人種族の青年で、その傍らの席には何やら弦楽器を置いていた。恐らく旅芸人か、あるいは詩人といったところだろう。

温和そうな顔に微笑みを浮かべ、ソルの言葉を聞いて申し訳無さそうに続ける。


「おや、これは失礼を・・・僕はブラギ、旅をしながら詩人をやってるんだ。所謂吟遊詩人ってやつだね。王都までの数日、宜しくお願いするよ」


「私はソル───と申します。こちらは私のお姉様で、ユエお姉様です」


「わしじゃ!」


いまだ朝早いからだろうか、つい本名を名乗りそうになり言い淀むソル。

続くユエの紹介もたどたどしいものとなり、おまけにユエの自己紹介はもはや自己紹介でもなんでも無かった。


「あはは、二人は仲がいいんだね。楽しい旅になりそうだよ」


「おや、慧眼でいらっしゃいますね。こちら、飴を差し上げましょう」


「ははは、やっぱり面白いね。ありがとう、いただくよ」


どうやら今回同乗する彼は人の良い青年らしい。二人の独特なペースにも気を悪くする様子は微塵もなかった。ソルから渡された飴を口に入れ、笑顔のまま口内で転がしていた。

そうして談笑していると、最後の一人が乗り込んでくる。

最後の一人は若い十代くらいの、人間種の女性であった。


「あら?珍しい。女の子が多いのね。少し安心したかも」


そう言って乗り込んで来た彼女はエリーという名で、学園生であるらしい。

王都の学園へと通っており、冬季休暇に際して実家のあるトリグラフへと戻っていたとのことだった。


乗客が揃ったことで御者が声をかけてくる。

それとほぼ同時、荷台の後部からは恐らく護衛につく探索士だろう男二人と女一人の三人組が声をかける。


「じゃ、護衛の方達も到着したし、そろそろ出発するよ」


「俺たちが今回の護衛を務めさせてもらうよ。代表のイヴァンだ。こっちがムンとサラ。短い間だけれど宜しくお願いするよ。これでも三級探索士だからね、獣は俺たちに任せて、安心して旅を楽しんでほしい」


軽く自己紹介を兼ねた挨拶を済ませ、護衛の三人はそれぞれ馬車の前後へと移動していった。

馬車はゆっくりと進み始め、いよいよ王都への旅が始まった。

そんな中、ユエはふと気になった事がありブラギへと声をかける。


「のうのう、わしらあまり探索士を知らんのじゃが、探索士とはもっとこう・・・粗暴な荒くれ者の集団とかではないのか?何やらわしのイメージと違うんじゃが」


「あはは、一体どこのイメージさ。探索士は聖国の主導で設立された、れっきとした職業だよ。そんな人物は、全くとは言わないけど、ほとんど居ないよ。正式名称は『歪園(メイズ)探索安全確保支援士』と言って、主に歪園(メイズ)の探索から攻略までを行う人達のことだね」


「なにやら無性に格好いい名前が出てきたのう!」


「そうかい?もう少し詳しく説明すると─────」


初対面の相手にも親切に教えてくれる彼はやはり人が良いのだろう。その話はわかりやすく丁寧であった。


探索士とは、正式名称を『歪園(メイズ)探索安全確保支援士』といい、世界各国に支部を持つ『探索士協会』に所属する職業の通称である。

世界中に現れる歪園(メイズ)は、過去に探索士協会が出来るまでは各国が軍を率いて攻略を行ってきた。

だが、全ての国がそれが可能なだけの軍事力を持っているわけではない。

力の無い小国などでは、自国に現れた歪園(メイズ)を処理できないことが数多く見受けられた。

自国で処理出来ないのであれば他国を頼る外ないだろう。


ところが、隣国や同盟国へと攻略を依頼しようにも、攻略を行うためには軍を派遣しなければならない。当然のことながら国境を超えて、である。

それは侵略行為と紙一重であり、さらには近隣の国をも刺激することとなる。

様々な国家間の問題が絡み合い、こうした理由から各国共に動きたくとも動けない状況に陥ったのだ。

結果、小国では物流が滞り、歪園(メイズ)に巻き込まれた被害者の救出もままならず、国家としての形を保てなくなってゆく。


そうした問題を解決するため、中立国であるスヴェントライト聖国の主導のもと設立されたのが『探索士協会』であり、『歪園(メイズ)探索安全確保支援士』という資格であった。

現在は多くの協賛国に支部を置き、その活躍の場は世界中に広がっているらしい。


彼ら『歪園(メイズ)探索安全確保支援士』は、主に依頼を受け歪園(メイズ)の調査や物資の確保、攻略に至るまでを担う。

とはいえ常に歪園(メイズ)攻略の依頼がある訳ではないため、現在は半ば何でも屋とでもいうように様々な依頼をこなすようになっていた。馬車や商隊の護衛などもその一環であり、主に戦闘を伴う仕事が多い───無論それ以外もあるが───そうだ。


そんな彼らを呼ぶ際にいちいち『歪園(メイズ)探索安全確保支援士』などとは呼んで居られないため、現在では『探索士』と呼ばれているそうだ。それを受け、本来は『歪園(メイズ)探索安全確保支援士協会』と呼ばれていた協会も、『探索士協会』と呼ばれるようになったというのがブラギの説明だった。


「───と、いうわけさ」


「ほー、詳しいのぅ。わざわざ説明させてしまってすまんかった」


「いやいや、気にしないで。僕は吟遊詩人だよ?人に語って聴かせるのが本職さ」


「おお、カッコいいではないか。ちなみに三級探索士というはどのくらい凄いんじゃろうか」


ここで疑問を解消するべく、ついでとばかりに質問を続けるユエ。

傍らのソルも、未知の話題であるためか真面目に聞いていた。

なおエリーは、そのくらい常識だ、とでも言わんばかりに腕を組み頷きながら聴いていた。


「探索士にはその実力と働きで等級が決められていて、下は五級から上は特級までの六段階。一般的には三級探索士になることができれば一人前、と言われているね。二級は一流、一級は超一流ってな具合だよ。ちなみに一級探索士になると世界中で百人もいないらしいよ」


「ふむり・・・では特級探索士はどうなんじゃ?」


「特級探索士はもはや人外扱いさ。世界に六人しかいないんだから無理もないね。かの有名な"渾天九星(ノーナ)"のうちの六人が、この特級探索士さ」


この件に関しては先日、マロース亭の受付嬢クレトが説明をしていたのだが、ほんほん言って聞き流していたためにすっかりユエの記憶にはなかった。


「なるほどのう・・・いやぁ勉強になったわい!」


「お役に立てたのなら良かったよ」


ひとしきり説明を受け、納得したのか席へともたれ掛かるユエ。

そんな様子をみたエリーは呆れたように声を漏らす。


「割りと常識の範疇だったわよ?一体どこの原生林から現れたのよ貴方」


「くふふ・・・あながち間違っておらんのが辛いのぅ」


この後もエリーの学園の話など興味の尽きない話題が続き、退屈する暇もなく時間が過ぎた。

こうして一行を乗せた馬車は王都へと、順調に進みだしたのだった。

色々詰め込んだのでミスがあるかも・・・


ここまでお読みいただきありがとうございました

よかったら評価感想お待ちしております

これからもよろしくお願いします

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