オフ会回
日曜日、今日はお嬢様の御学友が家を訪ねてくるらしい。そのため、今日はいつもの家事に加えて掃除も追加で行う。
それも十時前には終わってしまい、僕はやることがなくなる。そういった時に僕が何をしているかと言うと……
「そっち行きました」
『了解です』
「やりましたやりました」
『ナイスキルです』
「支援物資余ってるんでここ置いときます」
『ありがとうございます』
FPSゲームをやっている。
このゲームに触れたきっかけは、皿を洗っている時にいつも聴いているお笑い芸人さんのラジオで話題に上っていたからだ。
その前もRPGゲームは好きでやっていたけれど、こういうアクションゲームには触れたことがなかったなぁーとか思いながらやってたら大ハマりしてしまって、暇な時間ができるとついついやってしまう。
お給料で買ったデスクトップパソコンと向かい合いながら銃を撃ちまくる訳だ。
一応、週七勤務という超ブラックな仕事ではあるが慣れてしまえば特に不満はない。というか普通に過ごしてるだけっちゃだけなのでね……。ブラック"企業"では無いのでお給料はちゃんと出る、しかもちょっと頬が緩むレベルで。
お嬢様と僕の生活費は僕のポケットからではない。家賃、学費、水道代とかは勝手に払われていて、振り込まれている生活費年三百万をマルッと使える。貯金とかも考えなくて良いので、結構なリッチ生活ができる。
急な出費、例えば昨日の僕の服とかは僕のポケットからだけど、多分経費で落ちる筈。
頼むから落ちてくれ……。
『idetsukiさんって女性の方だったんですか?』
ヘッドホンからsayoyoさんの少し低めの女性の声が聞こえてきた。sayoyoさんは僕が別のゲームをしている時に仲が良くなったゲーマーさんで、お誘いの連絡を入れたら二つ返事で了承してくれ、今日は一緒にゲームをプレイしている。
このゲームは個人やチームで戦い、最後まで生き残ったプレイヤー、もしくはチームが勝利するというもの。その中でも僕はペアという二人でチームを組んで戦う形式に入れ込んでいる。
sayoyoさんと、このゲームを一緒にプレイしたのは初めてだけど、sayoyoさんはとんでもなく上手い。さっきっからバッタバッタと敵を倒してくれるので、何度も勝利を手にすることができている。
idetsukiっていうのが僕のプレイヤーネーム。由来はお察しの通り、三笠の山より出し月かもから来ている。
「いや違いますよ」
『えっ、そうなんですか?とっても可愛らしいお声だったので』
そういえばsayoyoさんと通話をするのは初めてだっけ?今まで別に急な対応力が求められないゲームしかやってなかったから、チャットで会話してたのか。しかも、お互いのことも詳しく知らないなぁ。
こういう関係が構築できるのも現代なのか、と謎の感慨にふける。
「そう言えば、ボイスチャット使うのって初めてですね」
『そうですね、お声聞いたの初めてなのでびっくりしちゃいました』
「ハハッ、そうですか」
『idetsukiさんってお幾つ何ですか?』
「十七ですね、学年で言ったら高一です」
高校には行ってないけれど、こう言った方がわかりやすいのだ。
『えー!同学年だったんですね!』
いつもは大人しい声のsayoyoさんの声が大きくなる。
「あっそうなんですね、文章とかも落ち着いているような気がしたので歳上だと思ってました」
『私も、絶対idetsukiさんって歳上の方だと思ってました。ゲームから抜ける時、ご飯を作るからとか洗濯機回し終わったからって言ってましたし』
「それはですね、僕執事やってるからですね」
『執事?それはあのアニメとか漫画とかに出てくる?』
「そうですそうです」
『ふぇー、ブルジョワですねー』
「いや、そうでもないですけど」
多分、想像しているような感じでは無いだろう。今日の昼ご飯に二割引のパスタソースを使うということを伝えてみようかとも思ったけれど、やめておこうか。
『在住はどこなんですか?』
「都内ですね」
『私もです。idetsukiさん、オフ会しましょうよ二人で』
「二人ですか?僕は良いですけど、僕男ですよ?」
前からオフ会っていうものに憧れていたのだ。小中学校時代、家事を叩き込まれていたので友達と遊ぶ時間というのはあまりなかった。
『なんかidetsukiさんなら大丈夫そうですし、そう聞いてくれる人だってわかってるから安心です』
「そ、そうですか。いつにします?」
僕は意外と暇なのだ、お嬢様が学校に行っている間とか習い事に行っている間、僕は若さを余らせている。
にしてもグイグイくるな、sayoyoさん。
『今日とかいけます?』
「今日ですか、この試合が終わったらちょっと聞いてきます」
最後の二チームまで残り、見事撃ち合いを制したところで僕は席を外してお嬢様の部屋の扉をノックする。多分学校の課題を、やっているのだろう。
「お嬢様、今日の午後って僕いた方が良いですか?」
「間違いなくいない方が良いわ」
「それなら、僕午後予定入ったのでそちらに行ってきますね?」
「わかった」
扉一枚分くぐもった声で答えてくれた。
「一応、今日のためのシフォンケーキは冷蔵庫に入っているので、おやつを食べたくなったら御学友とどうぞ」
「わかったわ、ぃ……ぁ…と」
「すみません、最後の方が聞こえなかったのでもう一度お願いします」
「何でもない!大丈夫だから」
今度は扉一枚のくぐもりを感じさせない程の声の大きさだった。
「すみません。失礼しました」
少し、俯きながら自分の部屋に戻る。
お嬢様、何が言いたかったんだろうな?完全に油断しちゃってた、お嬢様に不便をかけるなんて執事としてまだまだだな僕。
『どうでした?』
「行けそうです」
『そうですか、良かったです』
「待ち合わせはいつにします?」
『そうですね、ここのカラオケってどのくらいで着きそうですか?』
「あー、そうですね近いんで大丈夫です」
ここで具体的なことを言ってしまえば、僕の住所がバレてしまいそうなので意外と距離があるそこを近いと言った。
僕一人が住んでいるならともかくお嬢様もいるし、いくら警備体制がしっかりしているからと言ってもなるべく不安は減らしたい。
『じゃあ、十四時にそこで』
お昼ご飯を食べたらすぐに向かわなければ行けない時間だ。
「わかりました、じゃあまた十四時に」
通話を終えて、十一時半。
パスタ、サラダ、スープと作ってお嬢様にお昼の準備ができたことを伝える。
何か僕、sayoyoさんに間違った情報を伝えた気がするけどなんだろう、少し住んでる場所を濁したそれかな?