ショッピングホッピング
夢。
では無いんだよなー。
今日は土曜日なので、僕の目覚まし時計は7時に設定されている。
上体を起こすと、胸の辺りというか……胸が重力に従って落ちていく。
ホントに、タユンって感じに。
サラシの不快指数は結構高い、どうだろう苺の種が奥歯に挟まった時と接戦を繰り広げられるくらいだろうか。
お嬢様はそれを聞いて、ナイトブラなるものを出してくれた。
洗濯してるこれってナイトブラって言うのかーとか思いながらつけると、はち切れんばかり。
これじゃサラシとそんなに変わらないなー
僕が微妙な表情をしていると、お嬢様は少し悔しそうな表情をした後に僕からナイトブラを脱がせて少し走るように自分の部屋に戻って行った。
「この、ロリ巨乳駄目イド」
という言葉を残して。
いつも通り洗顔から入ったモーニングルーティンを順調にこなしていく。
グラノーラを食べて、歯を磨いて、お風呂の残り湯を使って洗濯機を回して。八時に起きてくる寝坊助お嬢様のために、少し手の込んだ朝食を作る。
今日は鮭の塩焼きに昨日の残り物のお浸し、ご飯とちゃんと鰹節と昆布から出汁をとった茄子と大根のお味噌汁。
お味噌汁は僕の母に教えられた手順通りに出汁をとっていて、栄誉あるお嬢様ポイントを授与した一品である。
出汁をしっかりとることで、味噌をそこまで入れなくても味がつく。結果として減塩が可能になる。
母も祖母から教わったと言っており、健康でいてほしいという使用人の願いが受け継がれているのだ。
「おはよー」
ポヤポヤーというオノマトペを身に纏いながら目を擦るお嬢様。
「おはようございます、よく眠れましたか?」
「あぁー、可愛い子がいるー。抱きしめちゃおー」
そうしてお嬢様は僕を抱きしめると、頭をくしゃくしゃと撫でてきた。
あっ、これお嬢様寝ぼけてるな。
というかお嬢様。寝ぼけてるとはいえロリを急に抱きしめてはいけません。
昨日の経験を乗り越えて、ちょっとやそっとでは動揺しなくなった。
ふっ、これが人間が生き残れた理由の学習ってやつさ。
「ってあ、お嬢様。駄目です」
綺麗な唇を窄めてきたところで、気分はイケメンである僕もストップかけるために、お嬢様の口に手を当てた。
「何よ!ん?」
お嬢様はそこで抱きしめているのが僕であることに気づいたのだろう。顔を真っ赤にして、無言でテーブルの上に出された朝ごはんを食べ始めた。
そんなに恥ずかしがらなくても……。昨日もそうだったけど、お嬢様が恥ずかしがる必要はどこにもないんじゃ?中学生の頃も割と女の子同士でイチャイチャしてる子とかいたし。
歯を磨いているうちに、気持ちが落ち着いてきたのかお嬢様が話を切り出してくる。
「今日、ショッピングモールに行くわよ!」
「僕もですか?」
「当たり前じゃない、というかアンタのために行くんだから」
これに関してはいくつか心当たりがある、今着ている服もお嬢様が昔着ていたネグリジェであり僕のものでは無いし、未だに自分がつけなければならない体になったことを信じたくは無いが、ブラジャー等の下着、普段着やらを買わなければならない。
「私一人で大丈夫です。お嬢様は家でゆっくりお過ごしください」
「いやよ」
即答。
「では、一緒に向かいましょうか」
特に絶対!という用事ではなく、おそらくお嬢様は暇潰しがしたいのだろう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
家事を終わらせてショッピングモールに向かう。
家から最寄り駅まで五分、電車に乗って六駅、あとは真正面に、という距離でありお嬢様はたまにここに一人で行っている。
いくら普通の生活を、とはいえ一人でショッピングモールに行かせるとかはやりすぎなんじゃ、と思うかもしれないが安心して欲しい。
しっかり護衛がついているから。
お嬢様が外出するということがわかれば、五十人程のSPがお嬢様に気が付かれないように尾行を始める。
これはお嬢様が学校に行く時ですら行われているし、この前スーパーに行った時もピッタリと付いて来てくれた。
何人か僕と顔見知りのSPがいるのだが、お嬢様の隣にいる姿が変わってしまった僕を見て少し動揺を見せていた。
一応、夜の業務連絡の際僕の体の変化のことを報告したものの、特にリアクションはなく。
『了解した、引き続き業務に励むよう』という提携文が返って来た。
それだけですか?まぁ、確かに僕は護衛対象じゃあ無いかもだけど一応同僚じゃん!もうちょっと心配してくれてもいいのに!
お嬢様が普通の生活を送るために、普通では無いことが裏では行われている。
ショッピングモールに着いてまず向かったのはランジェリーショップ。
「この子の計測お願いします」
お嬢様は僕に気持ちを落ち着ける時間をくれなかった。
ランジェリーショップはどこにでもある、だが中々単品の店舗としてあるということは少なく、男性陣が見るとしたら今のようにショッピングモールのように多くの店が入っているところで見かけるではないだろうか?
紳士であれと教えられた我々は、ショッピングモールでランジェリーショップが現れた時に少し気まずさを感じるのだ。こうなんと言うか、見てはいけないようなものを見るような。
歩きながら店を見る時に不意に視界に入ってくる女性用下着、ジロジロと他の店のように中を見るわけにはいかず別に何事も無かったかのようにして目を逸らすという高等技術を披露することになる場所、それが我々にとってのランジェリーショップなのだ。
その中に入らなければいけないのだから、僕が動揺しないはずがない。
キラキラとした目で出迎えてくれた店員さんに僕はバストサイズを測ってもらう。
お嬢様が選んだオーバーサイズ気味のパーカーを取ると、サラシが現れる。
「え?」
つい、驚きが口に出てしまった店員さんに僕は何も言わなかった。
「珍しいですね、サラシなんて。何か弓道をやってらっしゃったり、普段はお着物で生活されたりしているのですか?」
「いえ、あっあぁまぁ、あれです。趣味ですよ趣味」
まさか、あさおん(朝起きたら女の子になっていたの略)かましたんで下着がねぇんでさぁ姉御。なんて言える訳がなく、自分でもよくわからない趣味という回答になってしまった。
お互いにギクシャクしながら、店員さんがサラシをゆっくり外してくれる。
そうして現れた僕のアルプス山脈。
店員さんは僕のサラシを見た時よりも確実にびっくりして、口をぱくぱくし始める。
「でっ、では、測らせて頂きます」
流石プロ、直ぐに切り替えた。
カップ数と言うのは、アンダーバストとトップバストの差で決まるらしい。
トップバストは想像がつくだろうが、アンダーバストとはなんぞ?と思った同士諸君よ、僕も説明をされてそこがよくわからなかったのだがやられてみて直ぐにわかった。
「少し触りますね」
店員さんが僕の胸を少し持ち上げて、アバラ骨に当たるようにメジャーを一回りさせて来た。これがアンダーバスト!
「どうでしたか?」
僕は恐る恐る、店員さんに自分のサイズを尋ねる。
「Iです」
「愛、哀、藍、アイ、Iですか。そうですか」
聞いたことないよ、I?いや、思ってたよ?少しは。なんかめちゃくちゃデカイなって。
サラシで潰すようにしてたから他の人はあんまりわからなかっただろうけど……。
僕が、Iカップであるという事実に衝撃を受け、「私だって、十分なサイズあるんだから大丈夫。傑に負けたって別に気にする必要はない。もぐ?もいでみる?」と恐ろしいことを言い出したお嬢様と一緒に、店員さんに案内された売り場は向かう。
「申し訳ありませんが、当店ではこれしか取り扱いがございません」
そうして、店員さんが差し出してきたのはグレーの無地のブラジャー。
これしか無いと言われれば、これを買うしかない。しかない、と言ってはみたが別にこだわりがあるわけでは無いので問題は無い。
これと、メロンでも包むのか?というサイズのナイトブラとパンツ(お嬢様チョイス)をそれぞれ購入してランジェリーショップを後にする。
「絶対にオーダーメイドで作らせるから」
お嬢様の目には確かな情熱が篭っていたのであった。
現実世界〔恋愛〕のランキングの中に、この作品の名前が!
応援、ありがとうございます。